カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
すったもんだの大繁盛も、ようやく一段落が見えてきた。
土日を二人で回せるくらいになってきて、借りていた広場スペースも引き払った。
しばらくすれば今回のバズも終わりを迎え、元のカードショップ「デュエリスト」が戻ってくるだろう。
そんなある日のことだ。
刑事さんが店にやってきたのは。
「よう店長、元気そうだな」
「そう見えるか? まぁ確かに充実はしてたけど、疲れはあるよ」
「はは、挨拶だ。お前さん達が今回、えらい頑張ってたのは俺だって解ってる」
「刑事さんこそ、駐車場の整理に人を出してくれてありがとな」
ネオカードポリスはあくまでカード犯罪に対処するための警察機構だが、時にはイベントの警備なんかに人を出してくれたりもする。
もちろん、それはイグニッションファイトに関わるイベントに限られるが、そもそもこの世界にイグニッションファイトの絡まないイベントは殆どなかった。
小さな商店街のお祭りですら、小規模なファイト大会が開かれることがほとんどだ。
「それで、今日はどうしたんだ? 人の出入りが増えて、ダークファイト事件も増えてるとか?」
「いいや、むしろ人が増えたことでダークファイターは表に出づらくなってる。事件自体は減ってるさ」
「それはよかった。いや、それこそ何の用事だ?」
雰囲気からして、人に聞かせられない話ではないようだが、かといってカウンター越しで済むほど短い話でもないらしい。
メカシィに店を任せて、俺は刑事さんとバックヤードに引っ込んだ。
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「うちの店主体で、町興しのイベントができないか……ですか?」
なんとなく二階から降りてきた、今日は休みのエレアがそんな事をつぶやく。
刑事さんの持ってきた話の概要を端的に一言でまとめているな。
「ああそうだ。役所の連中が、今回の件に目をつけてな」
「それで刑事さんが話を持ってくるのか……お役所仕事も大変だな」
「単純に、それを言い出した奴と顔なじみなんだよ。まぁ、パイプ役としてちょうどいいってこったな」
町興し、町興しねぇ……。
俺達の住む地方都市……「天火市」なんていう如何にもホビーアニメの主人公が住んでる街っぽい名前のついたこの街は、実のところ観光資源に乏しい。
交通の便がよく、それなりに人口もいるので賑わってはいるのだが。
主な観光資源がファイト工学研究所くらいだって言ったら、なんとなく乏しさが理解ってもらえるだろうか。
あそこ、割と毎日観光客でごった返してるんだよな。
んで、俺の店はそんな住むにはいいけど地味な街であるこの街の新たなムーブメントとして注目されているらしい。
……というのは、以前から聞いている。
まぁ、こういうバズによる大繁盛はこれが初めてじゃない。
それを利用したいと思うのは不思議なことじゃないだろう。
ただ、これまでは開店からまだ二年しか経っておらず、積極的に観光施設としてPRするつもりが行政にはなかったそうで。
運営が落ち着いて、余裕ができてからでいいだろう……と。
そして今回、バズによる大繁盛を捌き切ったことで、そろそろいいんじゃないかっていう空気になったんだそうな。
「そういうことなら、少し俺も何かしら考えたいな」
「ですねぇ、せっかく皆さん盛り上がってくれてるわけですし」
俺の店は仮にもこの街一番のカードショップだ。
ある程度この街の顔になることは、店が繁盛し始めた頃から想定している。
そもそもカードショップというのは、その街のイグニッションファイトの中心である。
だからこそ、その店長は多くの人々から尊敬を集めると同時に、その尊敬を裏切らないという責務を持つ。
なので、街の要請を受けて俺達が乗り気になるのは、自然な流れだった。
「しかしなぁ……何かしらイベントをやろうにも、大抵は手垢がついてて集客には繋がらないだろう」
「ま、アイデアがあったらわざわざ役所の連中もお前さんに相談したりはしねぇやな」
バッサリ、刑事さんは切り捨てた。
「じゃあそうですね……同人誌即売会!」
「エレアがやりたいだけだろ!」
そういうイベントが無いとは言わないけど、カードショップ主宰でやることではない!
「大食い大会!」
「とりあえずやりたいこと上げてけばいいと思ってないか?」
「店長を信仰する会!」
「流石にそれは止めるわ!」
エレアが欲望のままに案を上げていき、俺がバッサリと否定する。
刑事さんがまた始まったよ、みたいな顔をしているが、のろけてるわけじゃないからな?
「また惚気けてるのか、お二人さん」
「口に出したな!?」
言ってはならないことを!
そしてエレアは、構わず続けた。
「じゃあそうですね……コスプレ大会!」
「それもエレアがやりたいだけ――――ん?」
何も考えてなさそうな顔のエレアからこぼれた単語を、俺は切って捨てようとして……少し考える。
コスプレ……コスプレ…………
…………行けるんじゃないか?
「それ……ありかも知れないぞ、エレア」
「え!? コスプレ大会がですか!?」
自分で言っといて無茶だろ、みたいな反応をするんじゃない。
「考えてもみろ、エレア。今回店のファイト動画がバズった理由は何だ?」
「ええと……アロマさんと店長のファイト……それからヤトちゃんとハクさんの……」
俺の出したヒントに、エレアは少し考え込む。
刑事さんも同じように考え込んで……答えが出たのはほぼ同時だ。
「……そっか、エクスチェンジスーツですね!」
「正解だ。アレが注目を集めた結果、俺の店のファイトも注目されたわけだからな」
「なるほどなぁ、それなら上手く“使える”かもしれねぇ」
うむ、と頷く刑事さん。
つまり、俺達が思いついたことは簡単だ。
「エクスチェンジスーツを使ってスタッフが仮装して、客を出迎えるんだ」
「モンスターに仮装しませんか? それで、仮装したモンスターのデッキを使ってお客さんとファイトするんです」
エレアの提案は的確だ。
俺もなんとなく、仮装するならモンスターがいいかなと漠然と考えたが、それに対する非常に具体的な肉付けである。
「エクスチェンジスーツが、ファイト工学研究所の産物ってのがいいな。地元の発明品で地元で随一のカードショップがイベントを開催する。字面としては悪くねぇ」
なんか、思った以上に行けそうなアイデアだぞ。
コンセプトが明確、使うアイテムも町興しってお題目にこれ以上ない代物だ。
多分、話を振った役所の人もここまでいい感じのアイデアが出てくるとは思ってもみなかっただろう。
「そういうことなら……エレア」
「はい、なんですか?」
「イベントの企画――エレアがやってみないか?」
「んえっ!?」
思ってもみなかったことを俺が言い出した、といった様子でエレアが驚愕する。
まぁ無理もない、俺が今までエレアにこういう提案をしたことはほとんどなかったのだから。
でも、そろそろこういうアプローチは必要じゃないだろうか。
「エレア」
「は、はいっ?」
「エレアはもう、一流のカードショップ店員だ。何だったら俺の店から独立して、一人でやっていくことだって十分できる」
「それは絶対にしませんよぉ」
「あくまでたとえばの話だよ」
エレアは尻込みしている。
今まで、そういった経験がなかったから。
「だからこそ、いい機会なんじゃないかと思うんだよ」
「そう、ですか……?」
「もちろん、俺や周りの人間もエレアを助ける。もしも上手く行かないようなら、頼もしい助っ人に連絡するさ」
こういう企画モノのイベントに強い知り合いがひとりいる。
彼女の助けを得られれば、イベントは成功したも同然……なわけだが。
「そのうえで、エレアには自分ができると思ったことはガンガンやってもらいたい」
「うう……自信ないですよぉ」
「その自信をつけるための経験だよ、これは」
やはりエレアとしては、自分で考えて行動することに対する緊張が強い。
その行動が他人に影響を及ぼすことを警戒しているのがエレアである。
こればっかりは、幼い頃から叩き込まれてきた性分が原因だろう。
だから俺ができることは……
「エレア、君ならできる。俺が保証する」
そう、エレアに伝えることだけだ。
エレアは、少しだけ気恥ずかしそうに顔をうつむかせる。
しばらく、沈黙が流れた。
そして……
「……わかり、ました。やります」
エレアは、未だに顔を少しだけ恥ずかしそうに赤らめながら、そういった。
かくして方針は定まった。
正直、企画に関しては今すぐやらなければならないものではない。
話を振った刑事さんの友人も、具体案が出てくるとは思ってもみなかったはずだ。
ん……刑事さん?
「あー、こほん」
「ひょあっ!?」
エレアが、咳払いに驚いて思わす視線をそちらに向ける。
刑事さんが、気まずそうに頭を掻いていた。
「……いや、お二人さんが二人きりのときに、どれだけそういう空気を醸し出したっていいんだけどよ」
「……ああ」
「…………俺もいるんだが?」
……ごめん!
というわけで、現代時間軸ではモンスター仮装イベントが開催されるらしいです。