カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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75 最強とはロマンである!

 かくして「モンスター仮装イベント(仮)」の企画が始まった。

 といっても、季節性のイベントではない上に「モンスターに仮装したスタッフが客とファイトする」以上の案はなにもない。

 企画をエレアが練る間、俺は刑事さんや役所の人たちといっしょに、諸々の準備を始めることにした。

 具体的に言うと――説明だ。

 

「と、いうわけで私がファイト工学研究所副所長の麻上クレハよぉーん♪ お会いできて光栄だわ、デュエリスト店長さん?」

「こちらこそ、今日はよろしく頼む。クレハさん」

 

 イベントを開催するうえで、第一に重要なのは住民の理解だ。

 幸いにも、俺の店は定期的にお客が増えては近くの広場を借りている。

 これが実質的なイベントのようなものであり、そこから転じてすでに周囲の住民の理解はある程度得られている。

 なので改めて、そっちは役所の人にまかせておけば問題ない。

 俺が最初に説明を行うべきは――今回のイベントのもう一つの主役。

 エクスチェンジスーツを開発したファイト工学研究所だ。

 

「メカシィは元気でやってるかしらぁん?」

「もちろん。あんなに優秀な店員がうちで働いてくれて、俺も幸運だよ」

 

 今話をしているのは、ファイト工学研究所の副所長。

 麻上クレハさん。

 所長である麻上コウイチさんの奥さんでもあり、俺の店で働いているファイトロボ――メカシィの開発者。

 直接会って話をするのは、前回カードパック生成実験を見学させてもらった時以来だな。

 

 ただでさえ豪快なシズカさんを、更に豪快にしたような女性だ。

 すごいボリュームの赤毛をどでかい三つ編みにして、如何にも大人な女性といった雰囲気。

 なお、年齢は俺の一つ上らしい。

 コウイチさんが更にその一つ上だ。

 

「さて、私は研究者――求めるのは結果よぉ! 早速本題に入りましょうかぁん」

「そうだな。話はすでに聞いてると思うけど……貴方のところのエクスチェンジスーツを使ったイベントを開催したいと思っているんだ」

 

 そう言って俺は、エレアが突貫で作ったイベントの説明資料をクレハさんに渡す。

 本当にまだ何も決まっていない状態で、とりあえずやることだけをはっきりと書いてある。

 具体的には、

 

『モンスターに! 仮装して! ファイトファイトファイト!

 エクスチェンジスーツで、あーんなモンスターやこーんなモンスターに!

 きゃ!(エレアの書き文字)

 天火市でモンスターと握手!』

 

 こんな感じ。

 とりあえず作ってみてくれと言われて理解ったと言ったものの、何も思いつかなかったらしい。

 結果、徹夜明けにできていたのがこれ。

 エレアの書き文字でかかれた「きゃ!」、が不覚にも可愛かったので持ってきてしまった。

 

「……なるほどねぇん」

「どうだろうか」

「…………」

 

 クレハさんは、俺の持ってきた資料を眺めてしばらく黙り込む。

 いや、説明は事前にしてあるし、この資料にそんな考え込むような要素ってあったかな!?

 

「……ねぇ、店長さん? 一つ聞いても、いいかしらぁ?」

 

 おっと。

 何かクレハさんの雰囲気が変わった。

 なんかこう、一言で言えば。

 普段変なテンションの人が、シリアスっぽいことをしようとしているけど別にそこまでシリアスじゃないやつだ。

 いや見ての通りなんだけど。

 そしてそういう人が、シリアスっぽいテンションになったということは――

 

「――貴方にとって、最強ってなぁに?」

 

 十中八九ファイトが始まるということだ。

 多分、今回のイベントに関する俺達の覚悟を問う……という名目で。

 

「最強……か。俺にとって最強とは……憧れだ」

 

 先日、アロマさんとのラストファイトで出した結論をかいつまんで話す。

 最強とは、憧れだ。

 だから人によって、最強ファイターが誰かという問いに対する結論は異なる。

 最も憧れるファイターこそが、その人にとっての最強なのだから……と。

 

「ふふ、良い答えねぇん。メカシィから聞いてた通りの人だわぁ」

「それはどうも」

 

 何だか真面目な雰囲気のクレハさんの足元から、謎のテーブルが生えてくる。

 地面が割れて、台がせり上がってくるアレだ。

 この世界なら割とよくあるギミックだな。

 

「貴方の答えと私達の答えは、少し近い。でも、ちょっとだけ違う」

「……であれば、あなた達にとって最強……とは?」

 

 そのテーブルに載せられたものに視線を向ける。

 そこに置いてあるのは――

 

 

「答えは――ロマンよ!」

 

 

 ……ジェットパック?

 あ、クレハさんがそれを背負った。

 

「これこそは、私達の開発した新たなマッスィーン! その名もジェットパック型イグニスボード(仮)!」

「仮なんだ……」

 

 まぁ、どういう代物かは見れば一発でわかる。

 空を飛ぶジェットパックの形をしたイグニスボードってことは、空を飛びながらファイトするためのガジェットなんだろう。

 そしてそれを背負った時点で、この後の流れは明白である。

 

「さぁ、これこそが私達のロマン! 新時代の空を飛ぶファイターよぉん!」

「理解ってはいたけれど……やっぱりファイトする流れか!」

「ええ、貴方の覚悟を試すついでに、ジェットパック型ボード(仮)のテストをさせてもらうんだから!」

 

 一応テストがついでなんだ!?

 ともあれ、俺もイグニスボードを構える。

 

 

「イグニッション!」

「イグニッションよぉん!」

 

 

 かくして、いい感じの流れで単発回みたいなファイトが始まった。

 

 

 □□□□□

 

 

 そして勝った。

 流石はファイト工学研究所の副所長。

 その実力は並のプロファイターなら相手にならないほどである。

 とはいえ、俺だって「デュエリスト」の店長として負けていられない。

 激戦の末、何とか俺は勝利したわけだ……が。

 

「見事ねぇん、流石店長さん。貴方の覚悟みせてもらったわぁん!」

「ああ、うん。ありがとうクレハさん。それでええと……」

 

 俺は少しだけ言い淀んでから、続ける。

 

 

「頭が天井に突き刺さってるけど……大丈夫?」

 

 

 ぷらーん。

 クレハさんの頭が天井に突き刺さっていた。

 いい感じに天井をぶち抜いている。

 あんないい感じに天井をぶち抜く人は、流石にこの世界でも珍しい。

 

「モーマンタイよぉ!」

 

 あ、モーマンタイだった。

 ずぼっ、とクレハさんは頭を引っこ抜いて、ジェットパックを操作して地面に着地する。

 怪我はまったくしていないようだ。

 

「ふふ……負けてしまったわ」

「天井に頭が突き刺さった件は触れないでいくんだな……」

 

 まぁ、深く触れることではないけども。

 とにかく、こうして俺が勝利したことで、クレハさんも俺の覚悟を納得してくれたようだ。

 イベントに覚悟……? と思わなくもないが。

 何事も、とりあえず覚悟を問いかけてファイトしておけば、その後がいい感じになるのである。

 

「とはいえ、イベントはとってもいい考えだとおもうわぁん。ただ問題があって……」

「問題?」

「エクスチェンジスーツの数を揃えるのがねぇ、大変なのよ」

 

 ああうん。

 お高いですものね、エクスチェンジスーツ。

 

「そ、れ、に。私達はこの企画をお手伝いするけれど、主役はあくまであなた達よ――店長さん」

「ああ、それはもちろん。俺は理解ってるさ」

 

 だからこそ、企画をエレアに任せたのだからな。

 俺もそれを支えて、イベント成功のために頑張らないと。

 

「ふふ……エクスチェンジスーツをエレアちゃんに渡した人間として、私も成功を願ってるわぁん」

「クレハさん……ああ、よろしく頼む」

 

 かくして、俺達は固い握手をしてお互いの意思を確かめ合うのだった。

 ――なお、エレアが用意した説明資料は回収され、徹夜明けテンションのエレアによって焼却処分された。

 書き文字……可愛かったんだけどなぁ。




丸っこい書き文字でした。
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