カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
夜、カードショップ「デュエリスト」二階のリビングで。
俺はデッキを弄っていた。
自分のデッキを、色々と調整していたのだ。
もともと俺のデッキは、主に他人の空似シリーズのおかげで拡張性が高い。
他のデッキとの混ぜものも、比較的成立しやすい下地があるのだ。
もちろん、基本的には純正デッキを組むのがこの世界だと一番強いのだけど。
ちょっとした味変を楽しみやすいのが、混ぜものし易いデッキのこの世界での利点だな。
んで、俺は基本的にそういったデッキの調整を店で行う。
バックヤードでやるか、二階のリビングでやるかはその時の気分次第だが。
今回は二階のリビングで作業をしていた。
イヤホンを付けて、適当に作業用BGMを垂れ流しながら、だ。
しかしそれにも、少しばかり問題があって――
「うわぁ、店長まだ起きてたんですか?」
ふと、声がする。
俺は手を止めるとイヤホンを外して振り返る。
寝間着姿のエレアが、眠そうに目をこすっていた。
「あ、悪い。起こしたか?」
「いえ、飲み物を飲もうと降りてきただけですが……」
「なら、このまま寝るか?」
「……まぁ、それでもいいですけど」
いいながら、エレアは冷蔵庫から作り置きしている麦茶を取り出すとコップに一杯入れてごくごく飲み干す。
夜は乾燥しやすいからな、喉を痛めるのは配信者にとってはよろしくないことだ。
「というか、店長。今もう深夜二時過ぎてますよ? 確か、今日の八時には調整始めてたと思うんですけど」
「それなんだがなぁ、困ったことにもうすぐ終わるだろうってタイミングでうっかり忘れてたカードが見つかって。全部やり直しになった」
「わぁ、楽しそうですけど大変ですねぇ」
「ほんとにな」
言いながら、エレアは俺の方へと歩み寄って来た。
多分、隣で調整を見学するつもりなのだろう。
俺はエレアを起こさないよう身につけていたイヤホンの片方を渡す。
ヘッドホンで作業してないのは、これを想定して……というのも多少あった。
「相変わらず、デッキの調整はどうしてもうちでやりたがるんですねぇ」
「そりゃあ、余ってる私物のカードはこっちに保管してるし」
「めっちゃ数ありますし、店長のお家に保管しておくわけにも行きませんしね」
エレアが受け取った有線イヤホンの片方を耳に付けつつ隣に座る。
有線だから、当然隣り合わないとイヤホンは共有できない。
エレアからプレゼントされたものなんだけど、狙ってやったよな?
「あっ、私の好きなアニメのOPです」
「前に見たよ、面白かった」
「女の子かわいいし、雰囲気いいですよね」
「日常系アニメだけど、雰囲気の良さでストーリーに引き込まれるんだよな」
なんて、エレアが隣りに座ったことで話は脱線を始めていく。
その間にもデッキの調整は進めるのだが、自然とエレアとの会話に意識が持っていかれる。
少し根を詰めすぎていたからかな、集中力が途切れかけているようだ。
「店長は本当にストーリーのいいアニメが好きですねぇ」
「ストーリーが良ければなんでもいいけど……ハッピーエンドならなおいいかな」
「それは同意です」
「たとえビターでも、救いはほしい」
単純に、救いがある方が最後の満足感が強いんだよな。
長く付き合ったストーリーとキャラクターには、それ相応の報いが欲しい。
いい意味で、だけど。
「そういう意味でも、俺はこの世界のファイターが世界を揺るがす事件に出くわした時……その事件の終わりになにか得るものがあってほしいんだよな」
「店長らしい台詞ですねぇ」
そうこうしていると、一時的に削がれていた集中が、気を抜いたことで逆に気分転換となった結果戻って来る。
エレアも邪魔はしたくないのか、段々と口数が少なくなっていった。
というか、半分くらい寝ているな。
寝ると決めたエレアは起きない。
だが、例外もある。
俺が同じ建物にいる時だ。
そういう時は今回みたいに、不意に目を覚まして飲み物を呑みに来たりする。
そう考えると、信頼されているな……と少し気恥ずかしくなるのだが。
「……店長は」
ふと、寝ぼけた様子のエレアがそんな事を問いかけてくる。
すでにデッキの調整はほとんど終わっていて、後はこれを少し一人回しでもして感触を確かめようかというところ。
流石に、今の状態のエレアに相手してもらうわけには行かないな。
「デッキを弄くる時、すごく楽しそう……ですよね」
「そりゃあ、デッキを調整するのは楽しいだろ。イグニッションファイトで特に楽しい部分だろ?」
イグニッションファイトの楽しみは、ファイトそのもの、デッキの構築、それからカードパックを剥くこと。
他にも色々とあるけれど、主な楽しみはその三つだろうか。
「……でも、そうだな。確かにその三つだと、俺が一番好きなのはデッキ構築かもしれない」
「それは……ふふ、やっぱり少し変わってますよ」
「そうかなぁ」
眠そうだが、笑みを浮かべるエレアは楽しそうだ。
まぁでも、別に悪く言っているわけではないのなら、エレアが楽しそうだしそれでいいんだろう。
「デッキを組んでる時、とても落ち着くんだ。ファイトは楽しいし、パックを開けるのも楽しい」
「そうですねぇ」
「でも、ファイトは体力を使うし、パックは沼ると最悪だ」
「……うぐぅ」
エレアは、<極大天使ミチル>関係の爆死を思い出したのだろう。
苦しそうに呻く。
寝付きが悪くならなければいいんだが。
「でも、デッキ構築だけはそれだけに没頭できる。そういう意味では、俺にとって一番これが手に馴染むのかもな」
「……私は」
そう、エレアがこぼしてから、しばらくの間言葉は続かなかった。
見れば、エレアはもう殆ど眠りについていて、いつ睡魔に負けてもおかしくない。
言葉を続けられたのは、結構な幸運によるものだろう。
「そうやって……店長が楽しそうにしてるのが……嬉しい、んです」
「また、随分とはっきり言ってくれるな」
もう殆ど意識もはっきりしていないから、普段なら恥ずかしがって言わないようなことも口に出している。
そう考えると、起きた時にエレアが今のことを覚えているか。
もし覚えていたら、しばらくエレアは部屋から出てこないかもな……なんてことも思う。
「だって、店長は普段、こっちのことを見守ってくれるばかりで……自分の楽しいを見せてくれないから」
「そうかな? いろんなことを自然体で楽しんでるつもりだけど」
「自然体過ぎて……楽しんでない時と楽しんでる時の違いが解らない……ですから」
確かに、反応が薄いというか……落ち着きすぎているきらいはあるかも知れない。
それでも俺は、いろんなことを楽しんでいるつもりなんだけどな。
「……多分だけど、俺はそもそも楽しんでない時は、そうそうないぞ?」
「そう、なんですか?」
「ああ、だってこの世界には楽しいことばかりだ。ファイトも、それ以外のことも」
前世の、無味乾燥な生き方がもはや嘘みたいに。
今の俺は、とても充実している。
店長として、ファイターとして、こんなに幸せなことはない。
「違いが解らないのは、楽しんでない時がないからかもな」
「それは……羨ましすぎかも、です」
「ははは……でも、しょうがないだろ?」
エレアの方を、ちらりと見る。
「この世界にはファイトがあって、ファイターがいて。それから……色々なものがあって」
「……はい」
「何より……」
俺は、視線をデッキとエレアを交互させる。
それらはどちらも、大事なものだ。
だから……
「……エレアが、いる」
俺は、ぽつりとそうこぼす。
対してエレアは――
「……すぅ」
すでに、眠りについていた。
我ながら、ヘタレなことだ。
そう苦笑して……デッキに視線を戻す。
もうほとんど組み上がっているデッキを、改めて眺めて。
「だから俺は……ずっと待ってるからな。エレアが――」
それ以上先は、言葉にすることなく。
俺も、意識を睡魔に委ねるのだった。
次回から回想回です