カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
全部正確に回想しているわけではないので……
その帝国には、皇帝がいた。
その帝国の皇帝は、最強だった。
誰も彼の呼び出すモンスターに勝つことはできない。
誰も彼のモンスターを倒すことはできない。
故に、最強。
それこそが、皇帝カイザスの在り方だった。
エクレルールは生まれた時から、皇帝によって支配され続けてきた。
彼女は帝国の所有物であり、帝国の人々は彼の道具として生きてきた。
誰も彼に勝てないから。
人々は彼の物になるしかない。
それを当たり前と思い続けてきたのだ。
そんな、世界を支配してきた皇帝は。
「現われろ! <帝国の破壊者>!」
多くの人々の生きる意志を破壊し続けながら、傍若無人に勝者を謳歌してきた皇帝はその日――
「カウンターエフェクト、<ゴッド・デクラレイション>」
「無駄だ! <帝国の破壊者>はあらゆる効果を受けず、戦闘では破壊されず、エフェクトを無効化されない! 絶対無敵の存在だ!」
「――だが、そのサモン自体は防ぐことができる」
「…………は?」
――その象徴を呼び出すことすらできなかった。
「俺は、お前にこの地を踏むことすら、許さない」
皇帝は停止する。
あの傲慢にして破壊の象徴たる皇帝が、思考を停止し呆然とする姿を、エクレルールは初めて見た。
「――――」
「……どうした? プレイを続けないなら、俺がターンをもらうが」
「―――――――――ま、まだだ」
だが、それでもまだ皇帝は諦めていない。
<帝国の破壊者>を、再びサモンする用意を整える。
腐っても、皇帝。
その手腕は、決して弱者のそれではない。
だが、それでも
「再び現われろ、<帝国の――――>」
「だから、何度も言わせるな」
ファイトを見守るエクレルールの眼の前で。
「この地を踏むことを、許さない。そういったはずだ」
――<ゴッド・デクラレイション>。
皇帝は、何もできずに、敗北した。
□□□□□
――ファイトは瞬く間に決着した。
どうやら、エースをサモンしてしまえば絶対に負けない代わりに、エースをサモンできなければ何もできないデッキだったようだ。
そういう意味では欠陥の多い敵だが……奴の立ち振舞はそれを支えるものだった。
簡単に言えば、奴は威圧感が強い。
その威圧感に気圧されると、精神面でデバフがかかる。
そのデバフはダイレクトにドローへ影響を与える。
恐怖で有効な妨害札が引けなくなるのだ。
「バカな……ありえない! 嘘だ! 俺が負けるなど! 負けるなど!!」
男の後ろの空間がひずみ、男がそれに引きずり込まれていく。
元いた世界に送り返される……ということだろうか。
エクレルール……エレアさんは負けても送り返されることはなかったが。
この男は、見た感じ彼女より上の立場のようだ。
支配階級ってエレアさんは言ってたか? そんな立場の人間かもしれないな。
「い、嫌だ……ここで帰ったら俺は……俺は! ――た、助けてくれ!」
「無茶言うなよ!?」
もうほとんど次元の穴に引きずり込まれてるじゃないか。
こっからどう手を伸ばしても、助けるのは間に合わないよ。
せめて間に合う段階で言ってくれ。
「嫌だ! 嫌だあああああああああっ!」
――断末魔を残して、男は消えていった。
男が消えると、穴も消える。
静寂が、辺りに満ちた。
「っと、エレアさん。大丈夫か?」
「え、あ……」
「悪いな、気づくのが遅れて。無茶をさせるところだった」
見ているだけでも、帝国の偉いやつがトラウマだってことがわかるのに。
俺が遅れたせいで、彼女には随分と負担をかけてしまった。
「でも大丈夫だ、さっきの奴は俺が倒した。まぁ、最後の感じだとあいつも小物みたいだし、今後の帝国とやらの動向は気をつけなきゃいけないと思うけどな」
「え――」
「どうした?」
俺の言葉に、何やらエレアさんはポカンとしている。
しばらく何かを言おうか迷っている様子を見せて……最終的に諦めたようだ。
「なんでも、ありません」
「そうか。まぁ何にしても……」
俺は、彼女に手を差し伸べた。
「――もう安心だ。君を脅かす連中は、どこにもいないよ」
そのまま、少しの沈黙が流れる。
エレアさんは口を閉じたまま、戸惑った様子で俺の手と顔を交互に見ていた。
手を取るべきか、迷っているのだろう。
「なに、もう一度連中がやってきても、君のことは俺が守る」
その言葉に、一瞬だけエレアさんの手が伸びた。
思わず、反射的に伸ばしてしまったのだろう。
でも、彼女のことだ。
すぐに引っ込めてしまうに違いない。
彼女が、自分を幸せになってはいけない存在だと思ってることくらい、俺にも解ってる。
だからこそ、少しずつ彼女に幸せになってもいいと思ってもらわなきゃいけない。
そのための最初の一歩は、少しくらい強引でも構わないだろう。
何より、俺がそうしたいと思ったのだ。
俺は、彼女の伸びた手を掴む。
「あっ――」
思わず、彼女がその手を離そうとしてしまうが、俺は強く彼女の手を握った。
「……それは、私が貴方の所有物だから、でしょうか」
「違う」
即答した。
何度でも言う。
「エレアさん、君はモノじゃない」
彼女を引き上げて、
「君は俺の店の店員だ」
そう、宣言する。
「――――」
手を引っ張られて立ち上がった彼女の視線は、沈んでいた。
表情は読めない。
もともと、あまり表情を見せる人ではないけれど。
「――――エレア」
「……え?」
ぽつり、と。
そんな彼女が視線を落としたまま告げる。
「あの時。言ってくださいました」
「……?」
「私はエレアだ、モノじゃない……と。その時みたいに」
そして、顔を上げた。
「エレアが……いいです。エレアって、呼んで欲しい、です」
どこか、泣きそうな。
どこか、嬉しそうな。
どこか、
そんな、よく観察しなければわからないくらいの笑顔で。
そういった。
「……解った」
俺も穏やかな笑みを浮かべて。
「これから、よろしくな。エレア」
そう、答えたのだ。
□□□□□
「――というのが、皇帝カイザスとの戦いの結末です」
「むぅーーーー甘い!」
エレアの回想を聞き終えて、レンが一言そう告げた。
「甘すぎる! 誰だコーヒーに砂糖を入れたのは!」
「いや、自分で角砂糖入れてましたよね? 十個くらい」
「我は甘党なのだ!」
エレアが入れたコーヒーに、たらふく砂糖を入れて呑んだレン。
まぁ、その“甘い”という言葉がコーヒーだけにかけられた言葉でないのは言わずもがな、であるが。
「しかしアレだな……まさか天の民にもここまで英雄らしい
「え、英雄って……」
「過言ではないぞ、この世界の強者たるファイターには、常に英雄譚が付き物だ!」
それこそ店長に言わせれば「主人公」のような。
そういう活躍を見せる強者はこの世界にありふれている。
ただ、店長にそういった機会が今まで訪れることがなかっただけで。
「だがしかし、そう考えると不思議よな」
「お菓子だけに?」
「馬鹿者!」
先ほどから、話のつまみにレンがほおばりまくっているお菓子をエレアは指さしつつ。
「天の民は神の使いだ。故にこの世界の運命を見守る立場である」
「事件に深く関われないってやつですね」
「だが……瞳の民の件は、この世界の運命にだいぶ食い込んでるだろう」
「そうですか? いつも通りだと思いますけど」
店長は、この世界の事件に深く関われない。
だが同時に、「悪魔のカード」が関わらない事件を事前に”潰す”特性がある。
故に、エレアの一件もその一例……といえばそこまでなのだが。
「……そういった類の事件で、二度も天の民がファイトをしたことがあったか?」
「え? ……言われてみると、ないですね」
だが、エレアの一件だけは例外が多い。
基本的に店長が事前に事件を潰す場合は、一度のファイトで全てを終わらせる事が多い。
エレアの件だけなのだ。
店長が二度もファイトをしたのは。
「そういえば、一戦目……というか私とのファイトは……」
「どうしたのだ?」
「あ、いえ、なんでもないです」
思わず口に出そうとして、“それ”が秘密であることを思い出しエレアは口を噤む。
そもそも、一戦目。
エクレルールとのファイトで店長は――封殺戦法をつかわなかった。
だからエクレルールは全力でファイトし――武装形態を店長にさらしたのだ。
それは、なぜだ?
それを口に出そうとして、封殺戦法のことはレンには秘密だったのだと思い直したのだ。
隠している理由は、自分だけがこの秘密を知っているという特別感故だが。
それはそれとして、レンさんは店長の本気ファイトをすごいファイトだと誤解しているフシがあるので話してはいけない。
実際のファイトとの落差が……ね!
「たしかにそう言われると……謎が多いですね」
「ま、気になるなら天の民に直接聞いてみるしかないな」
「で、できるわけないじゃないですか!」
恥ずかしい! とエレアは叫ぶ。
ジトーーっとしたレンの視線が、エレアに突き刺さるのだった。
カイザス戦、決着――――みたいな。
なお1話出落ち。
次回からまた通常回に戻ります。