カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「お聞きしましたわ! この街で開かれる大きなイベントを、この店が主催するんですのね!」
ばばーん、とアロマさんが店に飛び込んできた。
人も多い土日の昼下がり、視線がアロマさんに集中する。
そんな中をアロマさんはずんずんと俺の元に進んできた。
「しかも! エクスチェンジスーツを使用すると聞きましたの! 親近感ですわ!」
「あ、ああ。いやまだ、正式に開催すると決まったわけじゃないけどな」
「失礼しましたわ。でも、聞いてしまったらいても立ってもいられなかったんですの!」
まぁ、わざわざ店に直接やってくるくらいだから、よっぽど気になっているんだろう。
アロマさんはこの街の住人ではない。
だから、店にやってくる機会は月に二回ショップ大会に顔を出しに来る程度だ。
そんなアロマさんが、この勢いで店にやってくるあたり……ってことだな。
「イベント! ああ、なんて素敵な響きなのでしょう! わたくし、イベントごとは大好きな性分ですわ」
「お祭り女ってところか?」
「わっしょーいですわー!」
何でも、幼い頃は病弱だった影響で、元気になってからはイベントとあると事あるごとに顔を突っ込みたがるのだとか。
と言っても、アロマさんはこれまでファイトに対して忌避感があった。
そのせいで裏方しかできなかったが、今はそうではない。
今回のイベントは、モンスターに仮装したファイターが参加者とファイトするというもの。
その点、エクスチェンジスーツを所有していてファイターとしての実力も確かなアロマさんはイベントスタッフとして誰が見ても適格だ。
「わたくしも、エクスチェンジスーツは所有しておりますわ」
「まぁ、そうだね」
「思うに、このイベント……エクスチェンジスーツの数を揃えるのが大変だと思うんですの」
「よく理解ったな、その通りだよ」
何故って?
高いんスよ、このスーツ……一つ買うのにレアカードと同じくらいの値段かかるし。
あれ、それくらいなら普通に手が出るな?
こほん。
そもそも、エクスチェンジスーツはまだまだ開発途中の商品だ。
機能的にはほぼほぼ出来上がっているが、コスト面で一般販売はまだまだ厳しい……みたいな感じ。
「わたくし、お手伝いできますわ!」
「ううむ……なんてスマートな売り込みなんだ」
ここまで言われると、手を借りないのが失礼な気がしてくる。
実際、アロマさんは成長して優秀なファイターになった。
こっちからスタッフを頼みたいくらいだ。
何より、いずれプロになるために、こういった経験は本人にとっても有益だろう。
というわけで、開催するならばスタッフとして雇いたい……わけだが。
「まぁ、まずは開催が決定しないことには……って話なんだよな」
「そうなんですの?」
「ああ、……簡単に言うと、そもそも企画を練り込む段階で足踏みしてるんだよ」
そういいながら、俺はバックヤードへと入っていく。
アロマさんも促して、扉を開けるとそこには――
「すごいですよぉ! もう企画書を一枚完成させるなんて! 私はなんて企画者なんですか!」
エレアがヤバそうな笑みを浮かべながら叫んでいた!
企画はどうやらうまくいっていないようだ。
イグニスボードを使って、「帝国」デッキとは関係ない可愛い動物系モンスターをサモンして遊んでいる。
ソリッドヴィジョンのような投影技術でモンスターを投影しているタイプのカードゲームって、こうやってファイトをせずともモンスターを投影する遊び方もあるよな。
なんてことを思いつつ。
エレアの台詞、どこかで聞いたことあるな?
「希望を与えられ、それを奪われる! その瞬間こそ人間は一番美しい顔をします!」
なんかめっちゃ聞いたことあるな!?
「それが私のファンサービスです! あははははは!」
Ⅳさんだー!?
この世界に遊戯王は存在しない、エレアは一体どこでこの台詞を!?
同時に、可愛らしい動物系モンスターの姿が変化する。
おどろおどろしい、ホラーな動物モンスターである。
これはあれか? ファーニマルがデストーイになるようなものか?
Ⅳさんと素良くんとか、めんどくさい悪役の典型みたいな連中が二人……来るぞアロマさん!
「私の企画は素晴らしかったです! だけど、しかし、まるで全然! 他の人にお見せするには程遠いんですよおおおおお!」
そしてエレアは崩れ落ちた。
ああ、なるほど。
いい感じだと思った企画書が、なんか冷静に考えたら全然ダメだったんだな。
それを見たアロマさんが、まぁ……と口に手を当てている。
「エレア、相変わらず進捗は?」
「ダメです! あああ! 一度は言ってみたかった台詞が、こんなにも憎いとは思わなかったです!」
現在、エレアは思いっきり企画作成につまずいていた。
ぶっちゃけ、開催に関しては正直いつでもいい案件である。
企画が纏まってから、具体的な予定を立てても問題ないくらい。
むしろ、ある程度企画を煮詰めて寝かせたほうがいい可能性もある。
技術革新でエクスチェンジスーツのコストが劇的にやすくなるかも知れないからだ。
「私の場合、ある程度締め切りがあったほうがよかったかもしれません。今はまだやらなくても大丈夫という感情が、私を怠惰へと誘うんです……!」
「まぁ、無理そうなら実際、今はそこまで根を詰めないほうがいいと思うぞ? あの人の予定が取れてからじゃないと進むもんも進まないだろう」
エレアに企画を任せた時、俺や周囲の人間にできることならやる……といったものの。
正直、俺達がエレアの助けになったかと言えば、答えは否だ。
なにせ、全員素人だからな。
動画配信とかで、色々と活動しているエレアが俺達の中で一番経験があると言ってもいいのだ。
そんなエレアが考えをつまらせてしまった以上、これ以上は専門家のアドバイスがいるだろう。
「というか……さっきのは一体?」
「今の台詞ですか? 店長の寝言ですよ」
「いや何に行き詰まってるのかなと……俺の寝言!?」
え、嘘だろ!?
寝言でファンサービスしてたの俺!?
正直、もう前世の記憶は二十年以上前のものだから、覚えているのは大まかな話の流れだけ。
Ⅳさんのファンサービス回の完コピとか無理だと思うんだけど!?
いやまぁ、できてしまったものは仕方がない。
本題はそっちではないので、一旦置いておこう。
置いておいていいのかは知らないが。
「いやぁ、そもそものコンセプトがモンスターに仮装してファイトする……でしたよね」
「ああ、そうだな」
「エクスチェンジスーツで再現できるモンスターのコスプレって、案外少ないんですよ……!」
なんでも、エクスチェンジスーツはあくまで衣装をチェンジする機能がメイン。
モンスターになりきったりすることはできないらしい。
そうすると、エクスチェンジスーツで変身できるモンスターは、人型のものに限られる。
それこそ<帝国の尖兵エクレルール>のようなカードに限られるわけだ。
たしかにそれは、色々と企画の根底から台無しになりかねない問題だな。
「あのぉ、エレア様」
「あ、アロマさん、こんにちは。どうしたんですか?」
「一つ思ったのですが……」
だが、それに関しては一つ解決策が存在する。
俺も聞いていて思いついた解決策だが、アロマさんもそれは同様のようだ。
「……イグニスボードの投影機能を併用することはできませんの?」
じゃあ、モンスター系はイグニスボードの投影機能でいいじゃんという話。
それだとエクスチェンジスーツを利用した町興しというコンセプトから少しズレる。
しかしそもそもこの企画は「俺の店が主体となってイベントを企画」するのが主。
「エクスチェンジスーツを利用する」のが目的ではない。
おそらくエレアは――
「あっ」
その大前提を忘れていたのだろう。
「とりあえず……あまり根を詰めてもしょうがない。一旦休憩にしないか?」
「……はい」
とりあえず、エレアに飲み物の一つでも渡そうと、二階のリビングへ足を向けるのだった。
もちろん、アロマさんの分も忘れないぞ。
だけど! まるで全然! 企画の完成には程遠いんだよねぇ!