拝啓、大恩ある先生様。
私、牧名スズ…今日から無所属ではありつつも正式に名前も決めて、生徒としての第一歩を踏み出し
先生様の「今日はお休みだから自由にしてていいよ。散歩でもして立地に慣れるといいかもね」というアドバイスに従いお散歩をしていたところでしたが……
「はぁ…はぁ…っ!」
「待ちやがれェーーーーーッ!」
「逃がすかーー!!」
私の旅はここまでかもしれません。
こうなったワケは海よりも深い理由…があるとかじゃなくて、単純にカツアゲ2人から逃げているだけです。
学園都市キヴォトス、当たり前の様に誰もが銃を持ち、銃撃や爆発が起こるのは日常茶飯事、というトンデモ世界。
当然治安は終わっている。治安維持が行き届いていない場所ではこうしてカツアゲに遭遇したり戦闘に巻き込まれたりが当たり前になる事が多いのだ。
「はぁ……はぁ……ひぃ…」
「ハァ…ハァ…!無駄に逃げ回りやがって……!」
そんなこんなで必死に走って逃げてはいたが、いくら普通の人間よりも強靭なキヴォトス人の体と言えど限界は必ず来る。先に限界が来た私は壁にもたれこみ、
視界の端、息を整えカツアゲがこちらに迫ってくるのを確認する。
こうなってしまえば、もう逃げられない。向こうは銃を持っている。
取れる選択は3つ。
1つ目は大声で助けを呼ぶ。もしも近くに友好的な人が居れば助けてくれるかもしれない。居なかったら即蜂の巣。
2つ目は戦う。幸い彼女達の姿には見覚えがある。ゲームにも居た主人公に喧嘩を吹っ掛けてきたりする一般生徒達だ。記憶が正しければそんなに強い訳じゃない。主人公が初期に貰えるハンドガンで一蹴出来るレベルだ。まぁ私はそんなハンドガンすら持ってないんですけどね?
……良し、決めた。大きく深呼吸してから、動く。
「うおっ!?コイツまだなに、か……?」
―――土下座だ。
「お金どころか銃も持ってないんです!見逃してくださいっ!!」
3つ目の選択、本気の命乞い。
いくらトンデモ世界と言えど、流石に何も持たずに必死に許しを乞う人間にダメ押しをする程血も涙もない訳ではないはずでしょ!
どうだ!可哀想だろ!私自身後悔と情けなさで一杯です!
だからどうか許してくれませんか!ここ見逃してもらったらすぐに銃を見繕いに行きますから!
「はぁ?…うわ、本当に何も持ってねぇじゃんコイツ…」
「…どうするよ?」
「うーん……」
向こうもいくらカツアゲを行う様な奴と言えど人間。
こちらがここまで可哀想な奴だとは思わず正直ドン引きしてる。
良いぞ。凄く悲しい気持ちになってるけどその調子だ…
「しょうがないから見逃してやるか」とさえ言ってもらえれば……
「ハァ…しょうがないな…」
「……!」
「騒がれても困るし一旦気絶させるぞ。」
「はぇ」
しかし、そんな私の考えは甘すぎたようです。
キヴォトス、力を持たぬ存在が生きるにはあまりにも酷な世界過ぎる―――
カチャリと音を立て、銃口が向けられる。
座り込んだ姿勢では回避なんて出来る訳もなく、
ダダダダッ!
「…っ!」
出来る事なんて目を閉じて痛みを覚悟するだけしか…
……あれ…
なんでか来ない…?…今目ぇ開けても大丈夫かな…
「………?」
おそるおそる瞼を上げる。
目の前には、私を守る様にその場に立つ3人組。
「なっ、にしやがんだテメェ…!」
「ここはアタシ達の縄張りだ。そっちこそ、こっちでなにしてんだ?」
「な……」
「これ以上何かやるってんなら……相手になってやるよ。」
「…チッ!ズラかるぞ!」
先程の生徒達は流石に私に対する労力に見合わない相手にその場を早々に去っていく。
た、助かった…?いやでも縄張りって言ったし、普通に見た目スケバンだし…これ結局何も変わってない…?
「オイ。」
「は、はいっ!!」
とにかく相手を刺激して撃たれるような事は出来るだけ避けたい。
最悪先程と同じ様に土下座でもなんでもしてどうにか……
「怪我はないか?」
「え…?あ、は、はい。おかげで全く…」
「そうか。良かったなぁ姉ちゃん。アタシらがその場をたまたま通りがかってなぁ?」
「は、ははは…いや本当に、ありがとうございます…」
向こうはニコニコと笑いながら、こちらの肩に手を回す。
相手が相手なだけに、「ここから感謝の印を要求されたらどうしよう…」「逃がさないように肩掴んでる…?」と言った考えが浮かび上がり、生きた心地がしない。
でも何もしてきそうな感じはしないし…優しいタイプのスケバンさんだったりするのかな
「いいんだよ、困った時はお互い様だってなぁ。なんだっけ、野村とオムライスってヤツ。」
「それちょっと意味違くねぇ?」
あ、やっぱり優しいタイプの人っぽい。
野村とオムライスは全然わかんないけど…
とりあえず助かったみたいでよかった~。
「だから姉ちゃんがしっかり持ってる時にアタシ達は
「困った時はお互い様だもんな!」
「はははは!」
見逃しては貰えてるけど良い人ではなかったや。
それならもうこうして3人に囲まれてる状態が凄く怖いです。めっちゃ笑ってるけど、これ後々私またカツアゲされるって事だもんな……
己の運命が決まった瞬間に涙と笑いしか出てこないが、受け入れるしかなさそうだ……
その後、「ジョーダンだよ!はははは!」なんて事を言われつつ開放され
本当に冗談だったのかどうかを考えながら、トボトボとした足取りでシャーレオフィスに戻った…
「ただいま戻りました…」
「おかえり。どうだった?」
「いやー、それが…」
こんな事があったんですよ~、と言葉を続けようとするが
それは部屋の奥から出てきた彼女によって一時的に中断される。
「先生、コーヒーを入れてきまし…あら?」
「…!」
菫色の髪色。
特徴的なツーサイドアップの髪型にネームド生徒の中では比較的シンプルな見た目のヘイロー。
そして胸に付けられた名札に大きく印刷されたミレニアムの校章
間違いない。ブルーアーカイブの1番と言っていい良心枠、早瀬ユウカさん…!!!!
「先生が先程仰っていた子…ですかね?」
「うん、そう。」
「初めまして!牧名スズって言います!」
「あ、ご丁寧にありがとうね…私は早瀬ユウカ。気軽にユウカって呼んでくれて大丈夫だからね、スズちゃん。」
「はい!よろしくおねがいします!」
力強くお辞儀をすると、「元気一杯な子ですね」なんて言いながら笑ってくれる。
しかし彼女相手ならそうなってしまうのも仕方がないだろう。
早瀬ユウカ。ミレニアムで『セミナー』という名前の生徒会で会計を任されている人物。
そんな彼女がブルーアーカイブで大人気な理由は、その性格や見た目も勿論だが、どんな時でも頼れる相手だからだろう。
ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムのどの学園に在籍していたとしても学園の重役であるにも関わらず特に面倒な条件も無く接触が可能であり、彼女と会えない日の方が珍しい、と言われるほどに交流が容易なのだ。
そのうえ彼女と交流するメリットはいくらでも存在する。まずミレニアムで購入する商品の値段が下がったりするし、ミレニアムで交流出来る相手の殆どは彼女経由で簡単に接触出来るようになる。
とにかく攻略サイトでも「攻略で行き詰まる事があるならとりあえずミレニアムで早瀬ユウカを探そう。交流済みならゲヘナで銀鏡イオリを探そう(トリニティ以外)」と書かれる程だ。
私も当然お世話になったし、ちゃんと大好きだ。
「コーヒー、スズちゃんの分も入れてくるわね。ブラックで大丈夫?」
「あっ、いや、自分で…」
「いいのいいの。外から帰ってきたばかりで疲れてるでしょ?」
「……ありがとうございます!それじゃあミルクたっぷりで!」
「…ふふっ。わかったわ。すぐに入れてくるわね。」
そう言ってユウカさんは机にコーヒーを置いてそのまま奥の方に戻っていく。
こんな世界だとしても、彼女の優しさは不変…先程が先程だったために、あの笑顔が凄く染みるぜ…。
そうこうしている間に手早く入れてきてくれたコーヒーが私に手渡される。
美味い。コーヒーは苦味渋みが苦手であまり飲まないのだが、ミルクたっぷりのおかげもあって優しく暖かい味に心が落ち着く。
「そういえばスズちゃんは、さっきまで何処に行ってたの?」
「あ、いや…先生のアドバイスもあって、まずは迷わない様にと周りを散歩してきただけで…」
「でも、思ったより早かったね。何かあったの?」
「それがですね…カツアゲに会いまして…」
「えぇ!?大丈夫だったの!?」
「なんとかですかね…お金も銃も何も持ってなかったので、結局はなにもされず…あはは」
なにも持っていなかった、という発言に二人が反応する。
ユウカさんは信じられない物を見る様な表情でこちらを
先生は「失念していた…」と呟いて頭を抱えている。
そりゃそうですよね。この超銃社会において銃を持たないのなんて論外ですよね。
でも言い訳させてください。ここら辺なら銃持たなくても平気だと思ったんです「そんな訳ないでしょ!」はい、すみませんでした。
「はぁ……とにかく、無事で良かったけれど…銃を持ってないのは駄目!すぐにでも買いに行かないと!」
「はい…仰る通りです…それで、急を要する物だと思ったので、ご相談に戻ってきました…」
「…うん、そうだね。ユウカ、お願いしてもいい?代金はシャーレに請求してくれれば大丈夫だから。」
「わかりました。それじゃあスズちゃん、さっそく行きましょうか。」
「はい…ありがとうございます……」
いくら大恩ある先生に何も返せていない状態で更にお世話になってしまうのは申し訳ないが、今回ばかりは流石に仕方がない。
これから、これから…絶対にしっかりと返していこう…特に今回、銃の代金は絶対に返します…!
そういった決意を固めながら、私はユウカさんに案内されてガンショップへと向かうのだった…
「いらっしゃい。」
「…うわ…凄い…」
ガンショップ内。
まるで楽器の様に並べられた銃たち、私が居た国じゃ絶対に見られない様な光景だ。
しかもそれが至って普通の街中にドンと構えられているんだから、やはりキヴォトスは元の世界とは全然違うんだなぁと実感させられる。
え、どの武器使おうかな…!!!ゲームでも楽しかったからな、武器のビルド…!!
「好きなのを選んでも大丈夫だからね。気になるのがあれば射撃場が向こうにあるから、試し打ちも出来るわ。」
「はい!」
ゲームの方だと、主人公が持てる武器の限界は最大6コスト、4丁だった。
MとSを2丁ずつや、LとMとSをそれぞれ1丁、LにS3丁と割と自由度は高い。
まぁ、4丁も武器を持っている姿の所為でプレイヤーからは
こうして基本Lサイズにされてたスナイパーライフルを持ったとしても、片手で簡単に持ちあげられるのを見るとキヴォトス人ならば主人公のアレも不可能ではないのだろう。
しかし流石に4丁購入は有り得ないから、出来るだけ扱いやすい1丁を購入するべきだな…。
「オススメとかって、ありますか?」
「…一度触ってみればわかるさ。お世話して、世話になる相棒だ。そういうのは人の感性より自分の直感を信じな、お嬢ちゃん。」
「そうね。とにかく気になった物は1回でもいいから触ってみるといいわよ!」
うーん…まぁ、やっぱりそういう返答になってしまうか…
仕方ない。いくらでも試射はしてもいいって言われてるんだし、好きなのを探してみよう。
「それはそうと…そうだな。反動が素直なヤツならその辺のだな。」
あ、それはそれとしてちゃんと教えてくれた…ありがとうございます。この辺の銃も試射してみます…
ダダダダッ!
「…なるほど…」
「どう?」
「……悩みます……」
「あはは、まぁ時間は沢山あるから、ゆっくり考えてね。」
とりあえず選んだ10丁程を試射してみたが…正直な話、めちゃめちゃ楽しい。
最初は反動が怖かったが、そこはキヴォトス人パワー。慣れれば片手で撃つことも出来る。まぁ今のレベルじゃブレブレでまともに狙えてないんだけどね。
スナイパーも少し体に響く感じがするが、特にこれといった問題はない。使いたいと思えば、どの武器でも扱えるだろう。
それがわかったのなら…最後に、ブルーアーカイブの世界だとわかってからずっと気になっていたアレを確認したい……!
「…その、ユウカさん。」
「?どうかしたの?」
「その、参考の為に…ユウカさんの銃って…触らせてもらえたり…しませんか…?」
「ん、いいわよ。撃ち方も教えましょうか?」
「え、本当ですか。それだったら是非……」
そうしてユウカさんからロジック&リーズンを見せてもらう。
生徒の愛銃。見た目こそキャラの個性が出ているが、本来であればショップにある様な銃とは基本性能が大きく変わる事はないはずだ。
しかし、ユウカさんから渡された2丁のサブマシンガンに触れた瞬間、私は理解する。
違う。
先程まで触っていた銃とは明らかに違う感覚。銃の中に、何かを感じるのだ。
「そう、腕は伸ばしきらないで、腰はそう……それで撃ってみましょうか。」
とりあえずは、ユウカさんの指示に従って射撃する。
それでも上手く的に当てきる事は出来ないが、命中率は先程よりも大幅に上がっている。
「うん、上手よ!」
「…ありがとうございます!」
ユウカさんの教えが良いのもそうだが、ロジック&リーズンがゲームでの評価通り、反動が少なく初心者にもオススメの良武器だからなのも大きいだろう。
やはり、撃っているだけで先程の銃たちとは違う事が実感できる。
…ここまでが同じならば、私に出来るのだろうか。
主人公には、主人公たる所以…そして、考察から早々に投げ出される理由が存在している。
それが彼女の持つ神秘だ。
「…」
感覚としては、ロジック&リーズンの中に有る何かを引っ張り出す様な感覚。
上手く言語化は出来ないが、そうすると”出来そう”という直感があった。
そうして、出現したのは私を守る様に展開された六角形と五角形で構築された半透明のシールド。
早瀬ユウカがゲーム内でも交流優先度が高い1番の理由である初心者から割と中級者までお世話になるスキル
普通ならこれはユウカさんのスキルであり、他の誰も同じ事は出来ない、はずだ。
「…スズちゃん…それ……」
「……出来ちゃった…」
―――模倣する神秘
主人公は他の生徒達の神秘、戦い方の一部を彼女達の武器から出力する形で模倣することが出来た。
故にその神秘が認知されたゲーム内では彼女達と交流し、好感度が最大まで行けば武器の設計図を貰い、そこから生徒から力を貸してもらった彼女が様々な武器を用いてキヴォトスに存在する問題を解決していったのだが……
それが出来たという事は、私が主人公なのだろうか。
しかし、なんというか…違和感が…
「…す、凄いわね!?え、どうやってるの!?」
「な、なんでしょう…説明がちょっと難しいといいますか…」
ユウカさんは不可思議な光景に驚愕し、しかしすぐに興味の方が勝るのはミレニアムの生徒だからなのだろうか。
いや、確認したかったとは言えいくらなんでもタイミングが悪すぎただろうか…?でも流石に武器を本人から盗ったり、借りてる最中に離れる訳にも行かなかったし…
パリン、と発動時間が切れたシールドが割れる。
「…あれ?」
「あ、割れちゃったわね。」
あれ、確かユウカさんのスキルの効果時間は15秒はあったはず…それなのに10秒ちょっとで切れた?
もう一度確認を…と思った所で気が付いた。”ない”のだ。
ロジック&リーズンの中にあったはずの何かが、消えている?
え、不味い事しちゃった…!?
「わ、わぁ!?ユ、ユウカさん…!」
「えっ!?えっなに?どうかしたの?」
「ちょ、ちょっとロジック&リーズンを見てもらえませんか!?何かおかしくなってたりは…!?」
「え、あぁ!そうね、スズちゃんのアレで何か変化が起きてる可能性は確かに…」
そうだがそうではない。
これでもし壊してしまった、とかなら土下座だけじゃ済まない。
ハラキリ…は流石に不味いけど、えぇと…でも…どうすれば…
「……うん、特に問題はないわ。」
「…ほ、本当ですか!?」
「大丈夫。スズちゃんのアレで何かおかしな事になってたりとかはないわよ。」
そういってユウカさんは「ほら」とこちらにロジック&リーズンを渡して見せてくれる。
―――有る。先程まで消えていたはずの何かが。さっきほどではないが、半分ぐらいはある様に感じる。
…もしかして…
「ユ、ユウカさん。この銃を少し持ってから渡してくれませんか?」
「…?え、えぇ。わかったわ。」
こちらの言った通り、先程試射したアサルトライフルを持ち、数秒待ってからこちらに手渡してもらう。
しかし、結果は何も感じない。ユウカさんが触れただけじゃ駄目…。
「…?スズちゃんって、こういうのが出来るってわかってたの?」
「い、いや…出来ないかな~、出来そうかな~…みたいな感覚はあったんですけど、いざ出来ちゃうとそれはそれで今凄くびっくりしちゃってて…」
「そ、そんなもんなの…?」
でも、これはかなりの収穫だ。
これはあの主人公の神秘とはまた別だろう。
多分、愛銃に残った生徒達の神秘を活用出来る類の物なのだろうが…私の中に比較対象が居るからだろうか、だいぶ不便な力に感じる。
しかし、特殊な力である事には代わりはないし、決して弱い訳ではない。
なにせ主人公の様に多数の
ふふふ…こういう頭を使わなきゃいけない力ってのに、ロマンを感じてしまうのは男の子だから*1だろうか…
「…それで、銃はどうしましょうか?」
「…………………」
さっきまでの驚きの連続で頭から抜けてました。
結局、ユウカさんに指南してもらえるとの事で今回はSMGを1丁購入させてもらった。
まぁ長距離射撃や2丁持ちは今の私には難易度が高いので、まずはこの子をしっかり扱えるように練習しなきゃな…!
「…っていう事があったんです。」
「なるほどね、あの子にそんな力が…そのスズは?」
「流石に疲れちゃったみたいで、居住区の方に連れて行きました。」
「そっか。ユウカもお疲れ様。ありがとうね。」
夕方、ガンショップから帰ってきたユウカからの報告を聞く。
ユウカにしか出来ないはずの
「…先生は、どう思いますか?スズちゃんの事…」
「不思議な子だとは思うよ。そもそも、あの子に関してはその一切の情報が掴めていないからね。」
彼女については現在調査中。
まだ1日も経っていない状態で結果が出るとは思えないが、それでも今現在でも一切の情報が出ていない。彼女に関しては何故かゴミ捨て場から出てきた事、それ以降の行動までの本人から一応聞いていた程度の情報しか掴めていないのだ。
「…でも、悪い子じゃないんだろうな、と思うよ。」
ユウカの方は「それはわかっています。」と答える。どうやらスズはユウカと仲良くなれたみたいだ。嬉しくてふふっと思わず笑みがこぼれる。
おふざけはやめて、話を戻そう。ユウカの言いたい事はわかる。他の生徒とは明らかに違う特殊な力を持っているのに、初めて出会った時には持ち物どころか、名前すら持っていなかった無所属の子だ。
何かに巻き込まれている生徒、だと考えるのが妥当だろう。
「しばらくはシャーレで保護するつもりだから、スズが安全に生活出来る様にこちらも最大限サポートするよ。」
「…まぁ、先生が見ていてくれるなら、安心…ですかね…。」
「…気にかけてくれてありがとうね。ユウカみたいな子が近くに居てくれれば、きっとスズも気が楽だと思う。」
「別に、私が好きでやってる事ですから…」
一先ず、スズとの買い物等でユウカも疲れただろうしもう大丈夫だよと伝えて(仕事の進捗は平気なのか聞かれたが笑って誤魔化し)帰ってもらった。
「…ふぅ。」
椅子に深く腰掛け、パソコンの画面を見る。
『救援要請』
先程、シャーレに届けられた一通のメール。
この救援要請を受け、そのまま明日には向かおうと考えていたのだが…
さっきの話を聞いた状態では、スズを置いて向かうのは流石に不味いだろう。
だからと言って、シャーレの手伝い初日にいきなりオフィスを離れ学園のお手伝いをするのは、大丈夫だろうか。
……
「…明日にでも、聞いてみるかぁ。」
駄目だったら、あんなこと言った直後で申し訳ないが、ユウカの方に一度預かってもらおう。
『先生?大丈夫ですか?』
「大丈夫。アロナはそのままスズについての調査をお願い。」
『…はいっ!わかりました!』
さて…。
ここから少し、忙しくなるかもしれないな。