特別な青春を、キミと   作:おいしいこっぺぱん

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第1章:アビドス高等学校
ep.5 流石に格の違いを感じた。


閑話:追憶1-2

 

「―――――――、―――――――――?」

「……?しかし、先程…」

「―――――――――――――――――――…――!」

「…はぁ……そう…なんですか。」

 

不思議な人物だ。

身元もハッキリしない存在なんかの為に、わざわざルールの穴を突くような真似をしてまで手を差し伸べてくるなんて。

確かに、今の私には住居も何も存在しない。この世界では必需品である銃すら、与えられてはいない。

しかし

 

「気持ちはありがたいですが、平気です。一人でも私は十分やっていけますので。」

「…―――。――――」

「謝罪される様な事でもありませんから。…得体の知れない相手にそこまでやろうと思ってくれているだけ感謝しています。」

 

こちらが、そう素直に言うと驚いた様な表情をして、しかしすぐに「―――。」と嬉しそうに微笑む。

……少し、心が痛む。だが仕方がないだろう。

とりあえずは話を聞くだけ聞けた。もうここに居る意味はない。

そう思って背を向け、その場を去ろうとすると…

 

「―――!…――、――――――――――――。」

「…………」

 

そう呼び止められ、振り返る。

ソレならある。私の愛する、あの人から与えられた唯一のモノが。

 

「―――牧名、スズ。また会う事があれば、好きな様に呼んでください。」

「もっとも、その時は………」

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

ゆっくりと、もう誰も居ない虚空に向けて構えていた銃を降ろす。

一体、彼女はなんだったのだろうか。

エリと名乗る人間。制服しか見えなかったので、生徒かどうかも怪しい所だ。

そもそも何故彼女は私の名前を知っていたのかも、わからない。

牧名スズとはつい2日前に私が思い付いただけの名前なのだから、知っているはずがないのだ。

たまたま、この子が同じ名前だったのか、私が別のスズという子に間違われたのか…

それとも……

 

「…」

 

いいや、わからない。

とりあえずは、先生の所に戻ろう。学校は見つかったのだし……先生なら、エリという生徒を知っているかもしれない。

そんな事を考え、有り得るかもしれない可能性に蓋をしたまま私はその場から逃げる様に離れた。

 

「ん、おはようスズ。何処か行ってたの?」

「おはようございます。少し、散歩に行ってました。ちょうどその時、学校らしい場所を見つけましたよ。」

「おぉ〜、お手柄だね、スズ。」

 

先生の元に戻ると、既に起きていた先生がストレッチをしながら私の事を待っていた。

学校の事を伝えると、安心した様な表情を見せてこちらの頭を撫でてくる。

役に立てた、と思い顔を綻ばせていると「でも、」と聞こえ

 

「急に居なくなってると心配になるから、今度からは起こしてもいいから教えてね。」

「う……すみませんでした…」

 

黙って何処かへ行っていた件についての注意が入る。

言われれば確かにそうだ。朝目が覚めて同行者が何処かに消えていたら当然不安にもなる。

出来るだけ体を休めてほしいという気持ちばかりで、肝心な所を失念していた。

 

「……わかったならそれでよし。学校に向かおうか。」

「あ、その……」

「ん?」

「すみません、1つ聞いておきたい事が…」

 

言いたい事は言い終わったと、満足そうな様子で話を終わらせた先生が向かおうとするのを引き留める。

学校へ向かう前に、1つ聞いておきたい事があるのだ。

 

「先生は…その、エリという名前の生徒は聞いた事がありますか?」

「エリ…?苗字はわかったりする?」

「いや、下の名前だけしか…すみません。」

「…うーん。」

 

先生は顎に手を当てて、考えている。すぐに思い当ったりする名前ではないらしい。

パっと出てこないという事は、少なくとも印象に残っている人物ではない事がわかる。

それならば、と更に謎が深まっていく。彼女がなぜ私に接触してきたのか、私の名前を知っていたのか……

 

「ごめん、やっぱりわからないや。」

「いや、大丈夫です。すみません、こんな事聞いちゃって。」

「どうしたの?エリって名前の知り合いが居たとか?」

「……」

 

質問を返されてしまい、今度はこちらが黙ってしまう。

逆に「エリ」の事でこちらが質問されることを一切考えていなかった。どうしよう。

先生にさっきの事を話す?いや、無い。

それだけは絶対にない。

ならば誤魔化すしかないだろうが…どうやって誤魔化せばいいのだろうか。

私がここに来てからまだ4日しか経っていない上、ほとんどの活動は先生に把握されているというのに他で出会ったというにはあまりにも嘘が下手過ぎる。

 

「えぇと…そんな名前の知り合いが居たような……そんな気がしたんです。なんでかは全くわからないんですけどね、ははは……」

「……そっか。一応、そんな名前の子が居たら教えるね。」

 

結局、かなり苦しいながらも絞り出した言い訳に、先生は納得してくれる。

上手く切り抜けられたようだ…一安心、ほっと一息を吐く。

 

「よし、それじゃあ行きましょうか!」

 

だから、油断した私は気付かなかった。

 

「…」

 

安心した様子で前を進む私の背中を見て、先程の私の嘘にどんな意図があったのかを考える先生の姿を。

 

 

「『アビドス高等学校』…うん、多分ここだね。」

「よかった~…これで違う学校だったらどう詫びようかと…」

「はは、別にその時はその時ってだけで、怒ったりはしないよ。ひとまず誰か居るか確認してみようか。」

「了解です!」

 

ぴしっ!と気合を入れて先行して校門を通過する。

アビドス高等学校。確かにここは私が良く知っている『捨てられた夢』と同じ校舎…だと思う。

本来ならばここに来るまでに大量の傭兵が居て、学校の中には特殊な武器を持ったボス傭兵が居たのだが、これだけ静かである程度綺麗ならその傭兵も居ないだろう。

制圧出来た時の物資やお金は格別なのだが、当然私と先生だけの戦力じゃ100回やって1回勝てるか、といったレベルなのでひとまずは安心だ。

それにしても…なんというか。私のよく知るこの校舎は危険な場所だったので、こう…静かで何処も壊れていない所を見ると…

 

「綺麗だな…。」

「そうかなぁ。皆がいつも掃除してくれてるけど、他の学校と比べたらお世辞にもよく整備された場所だとは言えないんじゃないかな。」

「!?」

 

一言、なんてことはない呟き

返事が来るとは思っていなかった…が、それ以上に驚いたのは、返事をしたのは女性と言う所だ。つまり、先生と私以外の誰かが居る。

声のした方向へと体を向ければ、物置の上で座り込んだ女性が私達を見下ろしていた。

 

「おはよう、かな?2人はこんな場所で何をしに…」

「先生!逃げてくださいっ!」

「……え!?スズ!?」

 

即座に「ファースト・マキナ」を手に持ち、先生の手を引いて校門の方へと向かう。

不味い、不味い不味い不味い!!!

その場に居たのはただの女の子だ。少し背丈が小さく、片手にショットガンを携えた。

その特徴だけなら良かった。その特徴だけならまだ会話しようと思えた。

もう片方の手で握っている、あの”盾”さえ無ければ―――!

 

「ハァ…ハァ…ッ!」

「ちょ、ちょっとスズ!?急にどうしたの!?」

「話は後です!今は、とにかく……っ!」

 

逃走しながら相手の位置を確認しようと思った私は、既に彼女が物置の上に居ない事を確認する。

それならどこに…!と左右を確認する。居ない。じゃあ、上…!

 

「ちょっとちょっと〜。人の顔を見るなりいきなり逃げようなんてのは、流石に酷いんじゃない?」

 

そう思い頭上を見上げた瞬間、見当違いの方向から先程の声が聞こえた。

それは、正面。今まさに逃げようと思っていた校門という出口を塞ぐように立っている彼女は、朗らかな笑みを浮かべながらもこちらを待ち受ける。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

先程と同じか、それ以上の恐怖を感じ、銃を相手の方へ向ける。

考え無しの突撃。当然、そんな雑なやり方が通用する相手じゃないのは理解している。

でも、もう自分じゃ止められない。

対して私からの明確な「攻撃の意思」を確認した彼女からは笑顔が崩れて、銃を構えて戦闘態勢に入ったのを確認する。

そうして盾の向こうから見える鋭い視線が私を敵とみなして、激突する…

しそうになった、その瞬間。

 

「ちょーーーっと、待った!!!」

 

先生が私に抱き着いて、その戦闘に待ったをかける。

突然の抱擁を受けた私は「はひゃ!?」というマヌケな声を出しながら、思考が完全に停止する。

何もかも真っ白になった思考は、変な体勢のまま体を硬直させる。

あまりにも戦闘を始められるような姿ではない私と、何か言いたげな表情の先生に向こうは困惑した表情を見せて銃を一度降ろす。

 

「……質問、良い?」

「………え、あ、うん…大丈夫、だけど……」

「キミって、アビドスの生徒?」

「…うん、そう…だけど……」

 

そこまで聞いた所で、一つ頷いてから先生が腕を外し、こちらの顔を見る。

「大丈夫だよ」と言われ、少しずつ戻ってきた思考が、ゆっくりと硬直を解いて

力が抜けた体がヘナヘナと倒れ込むように沈む。

その様子を見て本当に状況が飲み込めずに困惑したままの彼女に、先生が言う。

 

「私達は救援要請を受けてここに来た、シャーレの人間だよ。」

 

 

 

 

「あはは~。助けに来てくれたんだったら最初からそう言ってくれればよかったのに~。」

「ご、ごめんなさい…その、本当、別の人と勘違いしてて…」

 

アビドス校舎内。とりあえず助けに来た人間だという事を理解した彼女は、アビドス校舎に私達を案内して、食料や水をわけてくれた。

先程の私の狂乱に関しては、「誰かと見間違えて、それに怯えてしまった」という事になり、こちらの謝罪には先程の様に笑いながら「いいよ~。」と言って貰えた。

 

「あんなに怖がられちゃったのはちょっと傷付いたけど…一体誰と見間違えたの?あんな風になっちゃうなんて、相当じゃない?」

「……えっと…」

「…もしかして、言いたくなかった?ごめんね、嫌なら嫌で平気だからさ。」

 

こちらが縮こまっているのを見て、気まずそうに笑いながら彼女…小鳥遊ホシノは私に無理はしなくていいと伝える。

「ありがとうございます…」と返事はするが、実際は見間違えじゃないだろう。

傭兵『隼』それが、私の知る彼女だ。

本来であれば、夜中は砂漠地帯の広大なマップを歩き回り、日中はある場所に留まり続けるボスなのだが…そんな彼女こそが、ブルアカというゲームの中で2番目に強いボスキャラだ。

その姿の殆どはローブに包まれ確認することは出来ないが、それでも特徴はかなりある。

1つはヘイローを持っている事。

それはつまり、彼女は他の傭兵達と違い、女性、ないし生徒だった可能性すらあるという事だ。

そして2つ目…は、その特徴的な盾。

別にブルアカの生徒に盾を持つ生徒が彼女しか居ない、という訳ではない。しかし…

割と作中のキャラ達が持っている盾はモブだとしてもデザインにある程度の個性が出ている。故に遠目で見ても大体の判別がつくぐらいはわかりやすい。

だからこそ、私は彼女を『隼』と断定し、即座に逃走の判断をした。

隼はゲーム内ではあまり語られることはなく、彼女の実力は実際の戦闘でしか判断できないが…その戦闘がTOPレベルの難易度だと言われるのだから、当然最強レベルだろう。

先程話した本来ここに居るはずの傭兵には、100回やれば1回は、と言ったが

彼女に関しては恐らく100万回やっても1回も勝てないだろう。私程度の人間じゃ動きがわかれば対処出来るとかの次元に居ないのだから。

 

「スズ、大丈夫?」

「…これは、おじさん少し出てた方がいいかな~?」

「い、いや…大丈夫です……さっきは本当にすみませんでした……」

 

だからと言って、あの判断は最悪だった。

結果的には「救援要請を受けて助けに来た人間なのに、挨拶されただけで突然発狂し始めて銃を向けた」なんて悪印象を持たれて当然である。

第一、隼にはヘイローがあったという事と、ローブで隠されていないその姿には制服がしっかりとあるのだから…もう少し考えれば、アビドスの生徒だった可能性を見つけられたかもしれない。

なんだかさっきから、先生に注意される様な事ばかりしているな……とどんどん自分が嫌になってくる。

 

「……スズ。」

「…はい…」

 

先生が「ふぅ」と息を吐き、正面に立つ。

前に居る先生がどんな顔をしているのかはわからない。私が顔を伏せているから。

これから、またお叱りを受ける事だろう。今度は、さっきよりも更に悪いことだったので、きっともっと怒られる。

……でも、全部私が悪いのだから、甘んじて受け入れるべきだろう。

そうして、顔を伏せたままではあるが、ある程度姿勢は正し、聞き入れる体勢に入る。

 

「確かに、急に逃げ出したり、ホシノを撃とうとしたことは悪いことだ。」

「はい…」

「…でも、それは私を心配しての事でしょ?」

「………」

「確かにそれでやった行動はあんまり良いことじゃなかったかもしれない…でも、私を逃がそうと…誰かの為に必死になった事を私は決して怒ったりはしないよ。」

「だから、次は相談してくれると嬉しいな。そしたら力になれる様に、私も頑張るから。」

 

先生からの思ってもいなかった言葉に、涙が出てくる。

なんというか…2回ビビッて、2回迷惑掛けて…そして泣いて、激動の数時間だなぁ。

そんな、自分を小馬鹿にしたような考えが出てくる。そうしないと、ワンワン泣いてしまいそうだから。

先生は何時だってそうだ。生徒に甘く、優しく、そして厳しい。

決して腐らせるような事はしない。何時だって生徒の可能性を信じて、その手助けをする。

……そんな先生が居てくれたからこそ、今私はここに居るんだろうな。

ぐしぐしと腕で涙を拭い、先生の顔を見る。

 

「…うん、もう大丈夫そうだね。」

「はい!…小鳥遊さん、改めて…ごめんなさい!」

「………うん。スズちゃんの謝罪、しっかり受けとりました、うへへ。」

「…………!」

 

……ブワッ!

 

「スズ!?」

「スズちゃん!?」

 

先生からの励ましのおかげで、しっかりと前を見て…眼を見て謝罪出来た事、そして小鳥遊さんにちゃんと許してもらえたこと。

そうした前進を改めて感じた私は、キリっとした表情のまま、涙を噴き出した。

結局、この涙が止まるのは、もう少しあと……小鳥遊さん以外のアビドスの生徒達が登校するまで続いたのだった……………

 

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