星に導かれし者 ~戦闘狂の外部協力者は、転生した探偵見習い?~   作:伊達 翼

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第五話『エンカウント』

 パーズの冒険者ギルドに戻った俺は、ブルースライム三体分の核を提出し、報酬を貰い受けた。

 ついでにどこかよさげな宿屋がないかと聞いたところ、『精霊歌亭』という宿屋をお勧めされた。

 駆け出し冒険者の懐にも優しく、料理も美味いとのことだったので、早速向かうことにした。

 

 

 

 時間的な感覚で言えば、昼間と夕方の境くらいだろうか。

 まだ空は明るめだ。

 部屋が空いているといいんだが…。

 

 そうして俺は教えてもらった道を歩き、看板を見つける。

 『精霊歌亭』。

 ここで間違いないようだ。

 

 しかし…気のせいかな?

 妙に宿屋の中が盛り上がってるような気が…?

 

 首を傾げながらも俺は精霊歌亭の入り口から中へと入る。

 

「おや、いらっしゃい。初めて見る顔だけど、パーズには来たばかりかい?」

 

 テーブル席の方にいた大柄なおばさん…あの貫禄、この宿の女将だろうか?…が俺を見て声をかけてきた。

 

「はい。このパーズには来たばかりで、さっき冒険者登録とブルースライムの討伐を終えて報酬を貰ったばかりの新人です。あ、名前は『シノブ』って言います」

 

「おやおや、これはご丁寧に。あたしゃ『クレア』って言うんだ。よろしくね」

 

「こちらこそ。ところで、妙に盛り上がってるようですが…何かの祝い事ですか?」

 

 精霊歌亭に入る前に感じたことを、そのまま疑問としてクレアさんにぶつけてみた。

 

「おや、外まで聞こえてたのかい?」

 

「そこまでではないですけど、なんとなく盛り上がった空気なようなものを感じたので」

 

「へぇ~。そんなもんかい?」

 

「さぁ? 俺もそこまで敏感な訳じゃないので。それで、何かの祝い事で?」

 

 結局答えは返ってこなかったので、再度問いかけてみた。

 

「あぁ、そうだった。ここにいる冒険者の『ケルちゃん』が新居を構えたってんでね。私からのちょっとしたお祝いさね」

 

 冒険者ということは俺よりも先輩なんだろうな。

 しかし、新居ということは家を買ったのだろうか?

 この宿を拠点にしてたが、新居に移るのでその報告か何かをして、クレアさんにお祝いを受けたというところか?

 それとは別に…

 

「ケルちゃん?」

 

 クレアさんなりの愛称だろうか?

 

 俺が首を傾げていると…

 

「クレアさん。新人の前でケルちゃんはやめてくださいよ」

 

 テーブル席の方からそんな声が聞こえてきた。

 そちらの方を見ると、黒コーデの魔導士風な男性、黒い騎士甲冑で身を固めた大柄な人物、ワンピースを着たエルフっぽい少女、チャイナドレス風の衣装を着た赤髪の女性と、これまたバラエティーに富んだ一団だった。

 そして、テーブルに置かれているのは…あと一口分だろうパンと、なんか見覚えのある煮込み風の料理。

 つか、この匂いって…

 

「カレー?」

 

 思わず呟いてしまった言葉に…。

 

「っ!」

 

 一団の黒コーデの魔導士風の男性…おそらくはこの人がケルちゃんなのだろう…が目を見開いて俺を凝視してきて…

 

「おや、あたしのとっておきを知ってるとは…どこで知ったんだい?」

 

 クレアさんもケルちゃんという人とは別の意味で驚いた表情を見せて尋ねてきた。

 

「え? あ、あ~…昔、知人がこんな料理もあるんだよって、教えてくれたんですよ。その時はどんなもんか知らなかったんですが、不思議とその料理を見てたら、思い出したというか…」

 

 物凄く適当な嘘を吐いてしまった。

 

 やべぇ。まさか、このファンタジーな世界に慣れ親しんだ料理があるとは、不意打ち過ぎて素で反応してしまった。

 

「へぇ~。その知人もなかなかの通だね」

 

 クレアさんはそう言って笑っていたが…

 

「………………」

 

 ケルちゃんという人は、ずっと俺を凝視している。

 俺、何かやらかしたか?

 

「ケルちゃん、どうかしたのかい?」

 

 ケルちゃんという人の様子がおかしいのに気付いたのか、クレアさんが聞く。

 

「いえ、なんでもないですよ」

 

 そう言ってからケルちゃんという人が立ち上がり、俺に右手を差し出してきて握手を求めてきた。

 

「A級冒険者の『ケルヴィン』だ。よろしく」

 

 なるほど。

 だから『ケルちゃん』だったのか。

 

 クレアさんの言った愛称に納得しながらも…

 

「あ、これはどうも。シノブです」

 

 俺もケルヴィンさんの右手を握り、握手に応じる。

 

「ボソッ(随分と不用心だな…)」

 

 握手をしながらもケルヴィンさんが小さく口を動かすのが見えた。

 

「? 何か?」

 

 不用心?

 はて、何がだろうが?

 

 親父の探偵稼業の手伝いの中で身に着けてしまった読唇術からケルヴィンさんの言葉を拾ってしまった。

 一応、首を傾げるという動作をしてはみたが…。

 

「いや、気にしないでくれ」

 

 すぐに表情を変えて愛想笑いを浮かべたケルヴィンさんはそう言ってくる。

 

「それにしても珍しい響きの名前じゃのう。トラージの出身かの?」

 

 すると、黒い騎士甲冑で身を固めた大柄な人物からの疑問に対して…

 

「トラージ?」

 

 初めて聞く言葉に俺もまた素で反応してしまい、聞き返してしまった。

 

「この東大陸の南側にある水国トラージのことさね。そっちの人じゃないのかい?」

 

「え? あ~…辺境の田舎から来たもんで、外のことはあんまり知らないんですよ」

 

 クレアさんからもツッコミが入り、俺は咄嗟に嘘を重ねてしまう。

 

 こ、これは結構な地雷原だ…!

 

「そ、そういえば、クレアさん。宿の空き部屋ってありますか? ギルドから勧められてこちらに来たんですけど…」

 

「おっと、すまないね。ついつい話し込んじゃって。泊まるならちょうどケルちゃん達が引き払う部屋が空くからそこを掃除してからになるけど、それでもいいかい?」

 

「はい。問題ありません!」

 

「そいじゃあ、それまでは適当に街の中でも見てくるといいよ。ケルちゃん、なんだったらアンタが案内してあげな」

 

 そんな会話の流れからケルヴィンさんに話が振られる。

 

「そうですね…」

 

 ちょっと考えた素振りを見せた後…

 

「いいですよ。俺も最初はシノブみたいなもんでしたし」

 

 まさかの了承の言葉に俺は妙に嫌な予感を感じてしまう。

 

「で、でも引っ越しの途中なのでは? なんだか悪いですよ」

 

 一応、これまでの会話から聞き取れた情報を元にそう言ってみるが…

 

「気にするなよ。同じ冒険者なんだし、これから長い付き合い(・・・・・・)になるかもしれないしさ」

 

 と、ケルヴィンさんが言ったので、断るに断れない状況になった。

 

 なんだろう。

 マジで嫌な予感がしてきた…。

 

「じゃあ、そういうことで頼むよ。夜までには掃除しておくからさ」

 

 そう言ってクレアさんが退席した後、ほぼほぼ食べ終わっていたケルヴィンさん達が宿の部屋へと向かった。

 

 宿の部屋にある荷物を整理して持ってくるのかな?

 騎士風の人は行かなかったが、理由でもあるのだろうか?

 

 そこからちょっと待って、ケルヴィンさん達が戻ってきた。

 

「お待たせ。じゃあ、ちょっと案内してあげよう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 親切な人なんだろうが、俺の中の警鐘は鳴りっぱなしだ。

 いったい、この人の何に危険信号を感じているのだろうか?

 

 ケルヴィンさん達と一緒に精霊歌亭を出てから、少しして…

 

「さて…」

 

 微妙に人気のない道でケルヴィンさんが立ち止まり、他の三人も俺を取り囲むような立ち位置で立ち止まる。

 

 うっ…嫌な予感的中…。

 クレアさんの対応やら反応からして根は良い人なんだろうけど…。

 とは言え、下手に動けば拘束される可能性もあるので、大人しくしてるが…。

 

「どういう経緯でこの世界に来たのか知らないけど…君、ちょっと不用心が過ぎるんだよな」

 

 俺に背を向けたまま、ケルヴィンさんはそんなことを言ってくる。

 

「それにメルフィーナからも特にそういうのは聞いてなかったってのもあるが、何が目的なんだ?」

 

 目的?

 

「えっと…言ってる意味がよくわからないんですけど…?」

 

「白を切るのか? なぁ、ご同輩(・・・)?」

 

 振り返ったケルヴィンさんが、微妙に剣呑な表情でそう言ってきた。

 

 え…ご同輩…?

 

 

 

 こうして俺はA級冒険者『ケルヴィン』との邂逅を果たしたのだった。

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