時系列はアニメ10話(ユキの中の思い出)後、11話(山に潜む、巨大生物)前になります。
私にとって大事な人は二人いる。飼い主であるまゆ、そしてその親戚の男の子である辰輝。人間不信だった私が初めて気を許したのはこの二人だった。私の名前はユキ、とある理由で少し前から人間の言葉を発することができるようになり人の姿にもなれるようになった。それと同時に私は理解してしまった。
喋れるようになったのを引き換えに・・・人間になれる代償として黒い化け物と戦うことになった。本当はまゆや辰輝とこの姿で話したり人の姿になって話したいという気持ちが強い。けどそんなことをしたらまゆたちを巻き込んでしまう。それだけはなんとしても避けないといけないと思ったのに片方・・・辰輝はとっくの昔に巻き込まれていたのを私は知った。
そうっ、あの日。私の家にやってきたこむぎという犬。あの犬は人間の言葉を喋ることができ、なおかつ人間の姿になることが出来るのを知った。辰輝とこむぎの二人が話していた時は何かの冗談だと思ってはいたけどすぐにそうでないことをこむぎという犬は私に教えてくれた。
叶わないはずの恋心、そしてまゆと辰輝はお似合いだと思って私なりにさりげなく二人をくっつけるようにしたりしたけどそれとは別に自分のこともたまには構ってほしいところがあった。
彼は・・・竜崎 辰輝は歳不相応なくらいしっかりしている。4年前の出会ったあの日から。動物に懐かれにくい体質ということもあり彼は私から距離を取ってくれていた。人間は私を見るなり近づこうとしたけど彼は違う。自分が動物を好きな上で過去の経験と私のこと、自分の体質のこともあってあえて距離を置いてくれた。その距離感はある意味私にとって心地よかった。自分のことを理解してくれる人なんてこの世にいない。だから人間が嫌いだった・・・はずなのに気が付いたら私はまゆと辰輝に心を許していて・・・もし願うなら私も人間に・・・
そしてその望みは叶った。でも結局、あんなことになるのならこの二人は絶対に巻き込んではいけない。そしてもし二人に何か害することがあるなら私が・・・
「ユキ〜、いる?今日これから辰輝くんが家に来るんだって」
「ニャア〜」
「辰輝くんが私たちに見せたいものがあるんだって。なんだろうね」
「ニャア?」
「楽しみだね〜」
私は喋れるようになってもなお喋れないふりをしている。辰輝は仕方ないとしてもまゆは・・・ウチのご主人だけは絶対巻き込まないようにする。そのためには何も知らない無垢な猫を演じなければ。まゆを巻き込みたくない気持ちは辰輝も同じはず。
話がズレたわね。私たちってことはそれはまゆだけじゃなくて私のことも含まれてる。辰輝は何を見せてくれるのだろうか。辰輝は・・・彼はグルーミングが上手い。というより動物に接するのがとても上手い。それだけの上手さがあって矛盾するくらい動物に嫌われている。全然動物に懐かれないとこの前本人はまゆと私に愚痴っていた。私や例の人になれる犬みたいに懐いてくれてる方が珍しいとか。もしそうだとしたらこの世の動物たちは辰輝の魅力を知らないバカしかいないことになる。それならそれで辰輝の魅力は私が知ってればいいんだけどあの犬も・・・こむぎも知ってるのよね。私の目の前でベタベタといちゃついてるから思わず爪で引っ掻いてやろうかと思ったがなんとか怒りを抑えて猫パンチで勘弁してあげた。本当は容赦なく爪を立てたかったけど流石に辰輝に嫌われたら生きていけなくなるからやめたけど。
「辰輝くんが来たよ」
「よっ、まゆ。ユキもいるな」
「ニャア」
「ははっ、相変わらずユキはかわいいな。ほーらっ」
そう言って辰輝は私の頭を優しく包み込むように撫でてくれる。まゆのなでなでは嫌いではないが少々鬱陶しいところがある。たまに毛がボサボサになったりストレスで引っ掻くこともあるけど辰輝はそのバランスが絶妙なくらい上手だ。だから必要以上に接してこずに適度な距離を保ち続けている。
本当は辰輝にも吸ったり抱きついたり頬擦りしてほしいのだけどまゆのせいで辰輝は全然そんなことしないのよね。辰輝ならむしろ私はウェルカムなんだけど。まゆのバカ・・・
「それで私とユキに見せたいものってなに?」
「前に喫茶ドラコネットで新メニューを作る時期だって話したの覚えてるか?」
「そういえば前にそんなこと言ってたよね。季節が変わるたびに新メニューを考案してるって」
辰輝のお家は喫茶店をやってるらしい。私は当たり前だけど行ったことはない、けどまゆ曰く辰輝の作る料理はすごく美味しいとか。どうせ私には縁のない話だと思ってたけどこの前お花見をやった時に猫の私でも食べられるものを用意してくれてこれが辰輝の作る料理なんだと感動した。できれば人間の姿になって食べたいのが本音だ。
「それでついに完成したんだよ。今回の新作はこれだ」
そう言って彼が取り出したのは板の形をしたもの・・・確かクッキーだったわよね。まゆのお母さんもよく作ってた記憶がある。辰輝が取り出したのは細長くてキラキラしたものだった。
「辰輝くん・・・このクッキーは?」
「ラング・ド・シャと呼ばれるフランス伝統の焼き菓子の一つだ。日本だとこんなやつなんだけど・・・」
「あっ、えっとお店で見たことある。確か北海道のお土産でも有名なやつだよね」
「ああっ、日本のラング・ド・シャは正方形なのが特徴なんだけど本来はこう言った細長いのが特長なんだよ。ちなみにラング・ド・シャってどういう意味か知ってるか?」
「ううん・・・ユキは知ってる・・・わけないよね」
「なんでユキに聞くんだよ」
と辰輝は呆れて言っていた。当たり前だけど私が知ってるわけないじゃない。そして辰輝は話した。このクッキー・・・ラング・ド・シャはフランス語で猫の舌らしい。小麦粉や卵白、砂糖、バターを混ぜて作る生地を薄くのばして焼いた、軽い食感のクッキーで辰輝なりにアレンジしたものがこれなんだとか。
「それでこのクッキー、一応商品名も考えてあるんだ」
「商品名?」
「ラネージュにしようと思ってるんだ」
「ラネージュ?」
「フランス語で雪という意味で『雪の結晶のように輝く美しさ』がコンセプトなんだ。どうだ?ユキにピッタリだろ?前にユキと出会った頃の話になってお前がユキのことを洗ってたときに思い出したらそういうコンセプトなら若い人たちも喜んでなおかつキュアスタ映えもするんじゃないかって思ってな」
見た目を重視したのは初めてだと辰輝は付け加えたけど私をモチーフにしてこのクッキーを作ってくれたらしい。
「できれば
「だからこれを私に?」
「そういうことだ」
その気になれば今の私ならあれを食べることはできる。ただ、今この場で人間の姿に変身するわけにないかない。変身したらきっとあの犬の飼い主のように巻き込んでしまう。もし私の正体を知られたらまゆもきっと・・・
私はグッと我慢する。私はただの飼い猫、これでいいと自分に言い聞かせながら。
「すごく甘くて美味しい。優しい味がする、ユキすごく美味しいよ」
「ニャッ」
「そっか。それはよかった。それはそうとまゆ。最近どうだ?」
「どうって?」
「学校だよ。新しい学校・・・わんにゃん中にはもう慣れたか?」
「うんっ・・・そうだねっ。少なくとも前の学校にいた頃よりは楽しいよ」
「・・・そうか。まあでも気疲れしたら言えよな。俺も人間関係にはかなり悩んだところはあるからな」
「辰輝くんも?」
「『むしろ俺は』の方が的確だぞ。動物に懐かれにくい体質以前に俺はこの顔のせいで敬遠される。今は悟や勝、女子だったらいろはの友達の大熊や蟹江とも話すようになったけどさ」
「うんっ・・・」
「こういう容姿だから彼女出来ないんだろうな。ハハハ・・・」
「辰輝くん、元気出して。人は見た目より中身だから。それに辰輝くんは優しいから大丈夫だよ。あとっそのっ・・・いろはちゃんがいるし」
「ん?なんでそこでいろはが出てくるんだよ・・・」
そう言って辰輝は彼女欲しいなぁとぼやいていた。辰輝もそういうところがあるんだ。いろはって言ったらあのこむぎの飼い主よね。確かあの子は・・・
「いろはちゃんとは幼なじみで付き合い長いんだよね。だったらお似合いじゃないかなーなんて」
と口ではそんなこと言ってるけどまゆも大概辰輝のことが好きなのよね。本人は自覚してないけどまゆの場合は自分が辰輝のことを怖がって緊張してると思い込んでるけど実際は辰輝のことが好きすぎて心拍数が上がってるだけなのを。
まゆがコミュ障なおかげなのかせいなのか分からないけどそれがカモフラージュになっているのも事実だった。あの犬の飼い主がくっつくくらいならまゆと辰輝がくっついてほしい。そうしてくれれば望んだ形が違っても辰輝とずっと一緒にいられるから。
「少なくともそれはねぇよ。聞くがまゆ、とある恋愛漫画があったとして転校生が実は知ってたヒロインと幼なじみでずっと一緒にいるヒロインって物語の結末だとどっちが勝つのが多いと思う?」
「うーんっ・・・転校生?」
「そうっ。幼なじみは距離が近すぎる故に恋愛対象になりにくいんだよ。もし俺といろはが中学の時に出会ってたらその道もあったのかもしれないけどな」
幼なじみでなければ辰輝はあの犬の飼い主に告白してもおかしくなかったと言ってるので本当に幼なじみという関係でよかったと思う。
「けど待って・・・さっきの話をまとめたらいろはちゃんは恋愛対象として好きにならないけどこむぎちゃんは好きになるってことに!?」
「いや待てなんでそうなるんだよ!」
「だってこむぎちゃんは転校生でなおかつ辰輝くんはこむぎちゃんのことをしってるしこむぎちゃんはすごく
「いやそもそもあいつは・・・」
「あいつは・・・?」
「いやっ、なんでもない」
私は知ってるけどまゆからしたらこむぎは犬のこむぎと人間のこむぎがいるってことになるのよね。辰輝からしたらどっちも同じこむぎだからそれを話したいけどバラすわけにはいかないから黙ってるわけで・・・
というよりさっきの話ならあなたもそれに該当する・・・ってまずあの犬、学校に通ってるの!?えっ?どうやって・・・
「とにかくまゆが学校に馴染めてるならそれでいいんだ。最近は楽しそうにしてるけどまだ無理してるように見えてな・・・」
「そういうわけじゃないんだけど・・・今まで友達いなかったからどういう風に振る舞ったらいいか分からなくて」
「・・・少なくともお前はもう少し自分を見せてもいいがまあなんにしても何かあったら相談くらい乗るからな。自分のペースで頑張れ。困ったら俺といろはがフォローしてやるから」
「もしかしてクッキーの件は建前で本当は私のことを心配してくれて・・・」
「まあとにかくこれで問題ないならじいちゃんにも見せるからな。少なくともお前の意見はいろはやこむぎよりは参考になるからな」
『美味しいしか言わないからあまり参考にならないんだよ、あいつらは』とぼやいていた。悟という男の子は参考になるけどこういう見た目にこだわったものだと女の子の方が参考になるってのもあるから裁縫や化粧の得意なまゆに見てもらったらしい。こういうところを辰輝はよく見てるなぁと私は思う。
「それですっかり暗くなったけど大丈夫?」
「心配すんなって。女の子じゃないんだから大丈夫だ。まあじいちゃんも心配するだろうからもう帰るけどな。じゃあな、そのうちまた遊びに行くからたまにはドラコネットにも来いよ」
そう言って辰輝は帰っていった。横を向くとまゆは嬉しそうに顔をにやつかせてクッキーを食べていた。まゆのお母さんと違うベクトルで彼も大概こういうのは得意なのよね・・・この気配はまさか!?
「ニャッ・・・」
「ユキ、どうかしたの?」
「まゆ〜、先にお風呂入っちゃいなさい」
「はーいっ、ユキ。お風呂入ってくるからね」
私はまゆの視界から外れたのを見計らって外に出る。私はにゃあと言って姿を変えて人間の姿になる。近くに例のあれがいる。私はこの前あの化け物に襲われそうになってた辰輝を窓の外から見てた。このままだと辰輝が危ない!マイエボリューションと言って私は気配を感じた場所に向かう。私よりもずっと体が大きい黒い化け物。ガルガルといってたわよね。この前追い払ったのに懲りない子・・・仕方ないわね。
「ガールガルゥゥゥゥウウウウ」
あの二人がもし気が付いたらこっちに来るかもしれない。でもあの二人では正直頼りにならない。この前も辰輝が怪我をするんじゃないかって思ったくらいだ。なら私がなんとかするしかないっ!そして私は自分の何倍も大きい体をしたガルガルを殴って蹴り飛ばして額を思いっきり引っ掻いた。そしてそのまま山の方へ逃げていった。
私の名前はユキ、大切な二人を守るために私は戦うと決めたから。追撃を考えたけどあまり家から離れるとまゆが心配するので戻ることにした。流石のあのガルガルもあれだけダメージを与えたから当分は動かないはず。
そして後日、見晴山に謎の巨大生物が出るという噂が後に登山部を通してわんにゃん中に出回るのだった。
この作品で辰輝にはっきりと恋愛感情抱いてるのが現状いろはとユキの二人のせいでアニメ本編以上にギクシャクしそうで怖い部分がある。少なくともガルガルと同等でいろはを危険視してる部分があるが恋愛感情を自覚した体で考えるとこむぎが一番危険なのはユキといろはの共通認識な部分がある。ここからアニメ11話に話をつなげていきます。
久しぶりの人物紹介
竜崎 辰輝
主人公、忘れられがちだが彼女出来なくて色々拗らせてる人。実はまゆが髪を切ってあげたり服装いじったらかなり化けるくらいのスペックの持ち主。見た目は怖いが実はどうとでもなるという事実
犬飼 こむぎ
スキンシップの脳筋。恋愛感情の自覚は全くないが既にかなり距離感が恋人もしくは犬とスキンシップしてる感覚で周りから見られてる。
犬飼 いろは
こむぎがライバルにならない限り大丈夫だと思い込んでるが既に割とやばい状況に立たされてることに気がついてない。幼なじみという恋愛で圧倒的に不利なポジションに立たされてる。
猫屋敷 ユキ
辰輝のことが好きすぎる猫。種族が違うという理由で諦めてはいたが人間になれるようになったことにより状況が一変するのかと思ったら二人を守ることを最優先にするために正体を隠すことにした。
猫屋敷 まゆ
辰輝のことが好きなのだが全く自覚がない。ドキドキしてるのは未だに辰輝から恐怖心がある、全然そんなことないのにと思い込んでるが実際は好きという感情を自覚してないだけである。
仕事は忙しいですが更新はなるべく早いペースで頑張ります。