キタサンの誕生会が実家で行われるそうなのでトレーナーがキタサンの実家に行くらしいです。

(3日遅れでごめんなさい)

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【キタサンブラック生誕祭2024】トレーナーさんが一緒に祝ってくれる誕生日が何よりも特別です!

「トレーナーさん!私の実家に来ませんか?」

 いつどおり、キタサンがトレーナー室にやってくる。そして扉を開けるなり元気な声を出す。

 

「……はい?実家?」

 俺は自分の耳を疑った。

「はい!実家です!」

 元気いっぱいに言うキタサン。どうやら空耳ではなかったようだ。……むしろ空耳であってほしかったな。

「……それは、またなんで?」

 突拍子なことを言う娘であるが、少なくともそこまでのきっかけは何かあるはずだと考え、慎重に尋ねる。

「それは、あたしの両親にトレーナーさんを合わせたいからです!」

 なるほど、どうやら今日のキタサンのコンディションは掛かり気味のようだ。両親を合わせるのは、それはもう外堀を埋めすぎにも程がある。いままでそんなことはしなかった筈だが?

「あ、あと……その……」

 どうやらまだ他にも理由があるらしい。

「その、明日はあたしの誕生日じゃないですか……」

「うん、そうだね」

 俺が忘れる筈がない。自信満々に相槌する。

「それで、実家であたしの誕生日会みたいなのがありまして、いつもお世話になっているトレーナーさんを招待したくて……」

 少し気恥ずかしそうに、目線を逸らしながら言うキタサン。

 むしろ両親に合わせたいと言ったときに恥ずかしい表情をしてほしかったと思ったが、それは口には出さなかった。

「うーん、キタサンの実家かあ……」

眉間に手をやりながら頭を抱える。

 

 元来、トレーナーとウマ娘の関係は、あくまでも教師と生徒の関係と変わらない。人によっては確かに、そういう関係を超えて旅行に行ったり、実家に行ったりするトレーナーもいるらしいのだが(なお、担当ウマ娘とのショッピングは当たり前であるものとする)……流石に実家を訪問するのは駄目なのではないだろうか。いや、それでも本人の厚意を無題にするのもそれはそれで失礼か……?深く悩む。それを見たキタサンは少し不安そうな顔になる。

 

「……もしかして来れませんか?」

「いや、そういうわけじゃないよ。行きたいのは行きたいけど……」

 本人がゴーサインを出しているなら問題ないかと思ったが、その次にキタサンのお父さんの顔が浮かぶ。

 一度電話越しだが、会ったことがある。なんというか……凄い緊張したのを覚えている。テレビで見る大御所さんというのもあったが、何よりも圧が凄かった。ちょっぴり会うのが億劫になる……

「(ジー)」

 キタサンが少し悲しい表情をしながらこちらを見る。

「だめ……ですか?」

「……いや、行けると思う」

「ホントですか!?やったー!」

 とりあえず、胃薬を飲んでから行くことを俺は決意した。

─────

日曜日。普段であればこの日は、自分のために仕事したり仕事したり仕事をする日だが、今日は違う。トレセン学園の校門前にキタサンと合流する。

「それで、ここからどうやって行くの?バス?電車?」

「いえ、お迎えの車です。……そろそろ到着する筈ですよ」

 校門前に、黒塗りのセダンが停まる。映画とかでよく見る、一般人では手を出すことすら叶わない高級車である。俺は内心ビビっていたが、表には出さないようにした。

「これです。乗りましょう」

 2人で車に乗り込む。

 中身もやっぱり高級車で、革でできたシーツはありえないくらいふかふかである。

「本当に、トレーナーさんも一緒に来られて良かったです!」

「うん、そうだね……」

 

車で約1時間ほどかけて、キタサンの実家に到着する。家の外観は、「お屋敷」の言葉そのもので、家を囲む塀は端がどこまであるのか、肉眼で確認することができない。

 正面の門が重々しく開けられる。

 

「「押忍!!おかえりなさいませお嬢!!」」

 

 整列した男性が、野太い声を出しながらキタサンを出迎える。メイドカフェと言っているセリフは一緒なのに、ここまで印象は変わるものかと思った。

 

「はるばるお疲れ様でした。お嬢とそのトレーナーさん、いや【若】!」

「ちょっとまってください俺は若頭になった覚えはありませんが?」

「それは失礼しました!ささ、こちらへどうぞ!」

 少し雲行きが怪しくなりながら屋敷に案内される。

 

「すごいね……」

「えへへ、お弟子さん、今日はいつも以上に気合が入っているようです」

「そ、そうなんだ……」

廊下を二人で歩く。お屋敷は廊下を正方形の周りのように作られていて、中庭が真ん中にある作りになっている。お弟子さんの一人が「案内しましょうかァ!?」と提案してきたが、キタサンが自分で案内したいらしく、代わりに断っていた。

「すごいな……この絵とかどれくらいするんだろう?」

廊下に飾ってある絵に目を向ける。何処かの田園風景を写した油絵だ。素人目でも価値が有りそうなのが分かる。もう少し良く見ようと、絵に顔を近づける。するとガコン!と音を立てて何かが絵の裏から落ちた。

 

黒光りした、三角形の形をした物体。引き金とシリンダー、撃鉄がついている。

「え?」

「ああ!すいまっせん!俺たちが【稽古につかった模型】を片付けるのを忘れていましたぁ!」

 どこからともなくお弟子さんが現れ、その【拳銃のようなもの】が回収される。

 

「あれ、偽物だよね?」

「もちろんですよ。フフ、本物なんて映画の世界じゃないんですから」

 俺にはここがもうすでに映画の世界なんだよな。

 

 このお屋敷ならあってもおかしくないよなと、密かに思った。

─────

 一番奥の部屋にたどり着く。

「ここが、父さんと母さんの部屋です」

「な、なるほど……」

 他の部屋と変わりがない、ただの襖なのに、オーラを感じる。

「緊張していますか?」

「そうだね……」

「大丈夫ですよ!ふたりとも優しいので!……それにもし不安だったら、あたしの話に相槌してくれれば大丈夫ですから」

 中学生にフォローされる自分にプライドはないのかと言いたくなるが、こればかりはしょうがない。

 俺は覚悟を決めて、襖を開けた─────

─────

「君が、キタサンのトレーナーさんか?」

 着物姿のキタサンのお父さんの向かい側に座る。めっちゃ怖い。圧という圧がかかる。

「は、はい。そうです」

「娘がいつもお世話になっているね……娘がなにかトレーナーさんに迷惑はかけていないかい?」

「いえ、大丈夫です!」

「そうか、ならばいいのが……」

「父さん!トレーナーさんはすごいいい人なんですよ!」

「ほう、やはりキタサンが見込んでいたほどの男だったかい」

 ヤメて!そういう事言われるとハードルが高くなる!

「もちろん!いつもは(トレーニングが)激しくて大変だけど、ちゃんとあたしのことを考えてペースを合わせてくれるし、なにより精神的に不安なときは朝まで(相談に)付き合ってくれたこともあるんです!体調やコンディションに合わせて(練習を)やる回数を減らしてくれたり、一緒に汗を流して切磋琢磨しているんですよ!」

「キタサン!?」

「!?」

 ほら、親御さんもめちゃくちゃ驚いている。頼むからさっさと訂正をいれてくれ!

 

「あ、そういえばトレーナーさん、このあいだ一緒に(遠征先の)ホテルに泊まった時、あたしがうっかりトレーナーさんの部屋で寝てしまったときもしっかりと部屋まで運んでくれましたよね!?」

 そうだけども、なんか良い方に語弊があるな……

「おっけ、キタサン。ここからは俺が懇切丁寧に事情を話すから、少し静かにしてくれるかな?」

 キタサンのご両親に対して小一時間ほど必死で話して誤解を解いた。

─────

「おっ、お嬢のトレーナーさんじゃないですか。なにかご用事でも?」

 あの後、「家族だけで話がしたい」とキタサンのお父さんに言われたので俺は席を外した。多分軽くキタサンにお叱りが入るんだろうなあ……

 それはそれとして暇だったのでお弟子さんの居る稽古場に訪れてみた。

「いえ、キタサンが親と話してくるらしいので、しばらくこの辺を見ていようかと」

「なるほど、でしたらご一緒してもよろしいですかい?」

「いいですけど……」

 

 お弟子さんと廊下を歩く。

「お嬢は、昔から元気で明るい娘でしてね。俺たち弟子はいつもお嬢から元気を貰っていましたよ」

「昔からそうなんですね……」

 今も昔も変わらないのはキタサンらしいな。もしかして、彼女がレースで走る理由もそういうところがあるのかもしれないな。

「トレーナーさんは、お嬢をどういう人物だと思っています?」

 少し難しい質問をされる。どういう人物と言われても、最高のウマ娘としか答えようがないが、ここは具体的に答えることにした。

「そうですね……自分なんかには勿体ないくらいのいい子ですよ。他にも山のように優秀なトレーナーが居る中で何故か俺を選んだのは少し意外でしたね。やっぱりたまに『俺じゃなければ彼女はもっと高みを目指せていたんじゃないか』って思ってしまいますけどね。それでもトレーナーとして彼女には最大限の仕事はできたと思っています……」

 お弟子さんがなんとも言えない苦い顔をする。

「(ここまで鈍感とは……こりゃお嬢も大変そうだな……)」

 ぼそっと何かを言っていたが聞き取れなかった。

「はい?」

「あ、何でもないです……トレーナーさんにはヒントを上げたほうが良いかもしれませんな、こりゃ」

「ヒント?」

「そうです。お嬢─────キタサンブラックは昔から【好きなものは一目惚れ】なところがあるんですぜ」

「一目惚れ?」

「そうです。まあ、後はがんばってくだせえ」

「?」

 色々疑問が残った。

─────

 夕方になり、キタサンの家族とお弟子さん達は宴会の広間に集められる。

 そして息を合わせたお弟子さんの声で誕生日会が始まる。

「お誕生日、おめでとうございます!お嬢!」

 パン!パパン!とクラッカーが鼓膜をつんざく。

「皆さん本日はありがとうございます!」

 壇上に、マイクを持ったキタサンが登場する。彼女の今の服装は落ち着いた紅色の着物に、「今日の主役」とデカデカと書かれたたすきをかけている。

「それでは今日は存分に楽しんでいってください!」

 音楽が流れ始める。たしかキタサンのお父さんの代表曲だったな。

「はあ~〜〜」

 目一杯のこぶしから歌い始める。親譲りのいい声だ。

俺は出された食事に手をつけながらキタサンの歌を聞く。

ふと視線を壇上とは反対側の方に向けると、

「うりゃおい!うりゃおい!お嬢!お嬢!」

 野太い声の親衛隊がいた。お弟子さんたちが張り切っているというのは、【こういう意味】だったのかと納得した。

 

「ささ、父さんも一緒に!」

 ここでキタサンのお父さんも壇上に上がってくる。最初は戸惑っていたようだけど、さすがはプロというべきか、すぐに良い歌声を出し始める。

 

 どんどんと会場は盛り上がってくる。

「サア、トレーナーさんも一緒に!」

「俺!?」

 キタサンに腕を引かれながら壇上にあがる。カラオケは得意ではないが、精一杯歌った。

 

 途中でキタサンのお父さんの目がありえないくらい険しかったのはここだけの話だ。

 

 主役のミニライブが終わった後、お弟子さん達が一発芸を次々に披露していく。

「斜め方向右旋回後方宙返りやります!」

「ショートコント!『一生話しかけてくる床屋さん』」

「YO!これから届けるお嬢へのラップバトル!俺がいつも使っているバスタオル!」

 もちろん俺もやった。

 

「俺の愛バが!ずっきゅんどきゅん─────」

 

「あははっ!」

 キタサンはお腹を抱えながら笑っている。これにはお弟子さん達も感激だろうな。

 

最後に、全員でキタサンのお父さんの曲を合唱して誕生日会は最高の形で終わった。

 

そして、終わったと同時に

 

「「お嬢!こちら誕生日プレゼントです!」」

 お弟子さん達によるプレゼントを渡す行列ができていた。

これでは流石に【アレ】だったので、一度広間から離れることにした。

─────

 

  あたしの誕生日会は無事に終了した。みんなあたしのために祝ってくれて本当に嬉しかった。あたしは世界一の幸せ者です!

 ……でも、もし……ほんの少しだけわがままを言えるなら、トレーナーさんから「あの言葉」が少し欲しかったな、なんて思ってしまいます。

 

……ってダメダメ!トレーナーさんだって全力であたしの誕生日をお祝いしてくれたんだし、むしろ感謝しないと!

 

  頭に浮かぶ雑念を取り払うように、中庭に出る。先程のにぎやかさとは違って、虫の声のみが聞こえる。昔はすごく大きく感じた岩の裏を通る。すると見慣れた人影が視界に入ってきた。

「あれ?トレーナーさん?」

「あ、キタサン」

「どうしてここに?」

「え?あー……ちょっと風に当たりたくてね」

 トレーナーさんは少し気まずそうに答える。

「そうですか。……ここなら確かにちょうど良いですよね」

「うん」

 

 しばらくの静寂が訪れる。お互いに何故か目を合わせることができない。

 

「……キタサン」

 トレーナーさんがあたしに向き直る。さっきとは違う雰囲気だ。

「なんですか?トレーナーさん?」

 

「誕生日、おめでとう」

「!……」

 その言葉を言われた瞬間、全身がなにかあたたかいもので包まれたような感覚になる。目頭が熱くなる。他の人にも言われた言葉なのに、トレーナーさんの言葉だと、なにか別の感情が湧き上がってくる。

「……ホントはもっと早く言うべきだったんだろうけど、なんかもっとしっかりとした雰囲気のときに言いたくてね……」

 トレーナーさんは少し恥ずかしそうに言う。

「フフッ、お気遣いありがとうございます。トレーナーさん」

 

そしてトレーナーさんが今度はポケットから何かをを取り出す。

「そして、これは俺から君へのプレゼント」

 

 両手で収まるくらいの大きさの、立方体の箱をもらう。

「ありがとうございます!開けてみてもいいですか?」

「もちろん」

 

 丁寧に包装をはがして、箱を開ける。

 

 中にはワインレッドを基調とした腕時計が入っていた。中央の文字盤には、紅白縄の「あわじ結び」が刻印されている

 

「ありがとうございます!こんなに良いプレゼントを貰ってもいいんですか?」

「もちろん」

 

 ここで、あたしはプレゼントを貰ってきになったことを質問してみる

「ちなみに……その、このプレゼントに【意味】とかって込めたんですか?」

 特に時計を異性に贈っているし、さらには「あわじ結び」って「ああいう」意味もあったような……?

 

「……それは、好きに解釈してくれて構わないよ」

 照れながらトレーナーさんが言う。

 

「ありがとうございます!トレーナーさんっ!」

「ちょっ……」

 あたしは、感激のあまり思わずトレーナーさんに抱きついてしまった。

 私には一生忘れられない誕生日となった

─────

 

 後日、あたしはダイヤちゃんと一緒にショッピングモールにお出かけをしていた。

「あれ?キタちゃん。いつの間に腕時計をつけるようになったの?」

「これのこと?……実はねあたしの大切な人から貰った時計なんだ!」

「そっか。いい時計だね」

「でしょ?」

 フフンと自慢気に言ってみる。……あたしが選んだわけじゃないけど。

「それで、キタちゃん。これからどうするの?」

 

 あたしは「待っていました!」と言わんばかりの勢いで答える。

 

「じつはね、今度とある人の誕生日だから、プレゼントを選びたいんだ」




〜解説〜

またもやプレゼントに伏線をつけました。許してください。
時計を贈る:同じ時間を共に過ごしたい。
あわじ結び(あわび結び):末永く途切れないお付き合いをこれからもよろしくお願いします。という意味があるらしい(ネット調べ)

なぜトレーナーは鈍感だったのか?
A.すでにキタサンの虜だったから。

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