異世界イッセー   作:規律式足

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第十一話 ある日町の中シスターと出会った

 

 ミルたんという陽介さんに並ぶ人類のバグと遭遇してから数日。

 日常に悪魔の契約という仕事が加わり充実した日々を過ごしていた。

 悪魔との契約だからもっと欲望とか恐怖を煽る仕事かと思ったが、愚痴を聞いてほしい、オタクトークを楽しみたい、とりあえず慰めて、一晩子供の面倒を見ていて、そこにスクリーントーン貼って、など様々だった。

 

『一部は普通にバイトでは?』

 

 人の魂は変換効率の良いエネルギー源らしいが、どうしても数が限られているし、取りすぎると他勢力と揉めることになる。

 幸いなことに悪魔は欲望をエネルギー変換できるため生かしたまま何度も繰り返し回収した方がコスパが良いらしい。魂一つ当たりの予算は決まっているし、人間にしても魂と引き換えとなると限界までこちらに要求してくるからだ。

 さて、次の契約に備えてベタ塗りの練習をしておかないとな。

 契約者を満足させるのが悪魔の努めだ。

 

『アシスタント雇えよ漫画家』

 

 ちなみにこの街の依頼人は3人に1人は変態らしい。変態相手の依頼は部員全員の共通の悩みで、部室には変態対策マニュアルまで用意されていた。皆苦労しているんだな、茶菓子でも買っていこう。

 

『異形種が町中で普通に暮らせる理由がよく分かった』

 

「はわう!」

 

 と仕事に思い馳せていたら、路面に転がる音と声が聞こえた。

 見ればそこにはシスターが転がっていた。

 シスターが転がる悪魔の領地とは一体? 

 種族的・宗教的に敵である存在なのでグランバハマルお馴染みの近寄ったら攻撃されるを警戒する。

 このパターンで何度刺されたことか。

 けれど、手を大きく広げ顔面から路面に突っ伏すという間抜けな転び姿だから罠ではないか。

 

「大丈夫ですか?」

 

 無視するのも気が咎めるので起こそうと手を差し伸べる。無論、いつ襲われても対応できるくらいの警戒は解いたりしないが。

 

「あうぅ。なんで転んでしまうんでしょうか。すみませんありがとうございますぅぅ」

 

 声からして若いな、同い年くらいか。

 起き上がらせると頭のヴェールが取れ、その姿が明らかとなる。

 金髪碧眼の美少女。

 グランバハマルで美形は嫌になるくらい見飽きたがそれでも見惚れるほどの容姿だ。

 

『体質が反応しないのは臨戦態勢だからなんだよなあ。日頃からしていれば良いのにな』

 

 グランバハマルじゃないのに常時臨戦態勢なんかでいてたまるか、疲れるだろ。

 

「あの、どうしましたか?」

 

 反応が無い俺に訝しげな表情でシスターが覗き込んできたので思ったまま話す。

 

「君に見惚れてただけだよ」

 

「はうわぁっ?!突然なんですかっ?!」

 

「?」

 

 突然叫んだのは自分だろうに、なんだコイツ。

 

『そういえば相棒はグランバハマルに馴染んでからは常にこんな感じだったな。懐かしい』

 

「綺麗だったからつい見てしまってね」

 

 不快だったらすまないと告げると、

 

「あうぅ」

 

 と顔を赤くして俯いていた。

 病気かね?

 

『お前がな』

 

 しかしこのままだと立ち尽くすのもなんだ。とりあえず話を聞いてみるか。この街にシスター、というか教会関係者なんて下手したら幼馴染一家以来だ。いささか気になるしな。

 

「この街には旅行でしょうか?」

 

 まあこの街で観光するものなんて出没する変態ぐらいなものだが(最近は魔法少女も出る)。

 

「いえ、違うんです。実はこの街の教会に今日赴任することになりまして。これからよろしくお願いします」

 

 そう言ってペコリと頭を下げる。

 アリシアさんの養母の方みたいな立場か。

 あの魔獣や亜人の襲撃が珍しくない世界では教養があり神聖魔法の使える司祭の存在は一つの村において極めて重要ものだった。どの村でも基本的に村長の次くらいの立場ではある。まあ、教師と孤児院長と癒し手と薬師と医者と冠婚葬祭の取り仕切りと戦場指揮官を兼任してたら当たり前だよな。

 

「この町に来てから困っていたんです。その私って日本語うまく喋れないので道に迷っても皆さんと話しができなくて」

 

 教会にブラック企業疑惑。

 言語通じぬ少女を案内もなく一人で現地に放り出すとか、日本の企業でもしないぞ、しないよな? しないと誰か言ってくれ。

 

『ちなみに相棒が会話できるのは悪魔になった特典ではなく、自力で異国語を身につけているから。言葉が通じない不便さはグランバハマルで身に染みているからだ』

 

 それに悪魔の特典も音声言語限定。便利ではあるが当てにする気にはならねえよ。

 

「場所は知っていますけど」

 

 幼馴染の引っ越し後、誰か住んでいたか?

 いや、だからこそ後任なのかもな。

 教会の都合を推察するには情報が足らん。

 

「ほ、本当ですか!ありがとうございますぅぅ!これも主のお導きのおかげですね!」

 

 まあ放っておくのもなんだし。

 悪魔がシスター連れて教会とか色々駄目な気もするけれど。

 教会へ向かう途中に公園の前を横切る。  

 子供の泣き声が聞こえたので目を向ければ、膝を擦りむいた男の子とあやす母親がいた。

 グランバハマルで神聖魔法を体得していれば治せたんだが、当時は覚えようとする余裕がなかったからな。

 まあ男の子は転けて怪我してなんぼだと思うことにしよう。

 しかし、俺は動かなかったが彼女は動いていた。

 泣いている子供に近寄り頭を撫でると、やさしい表情で声をかけそしてシスターは自分の掌を怪我のある膝へと当てた。

 淡い緑の光が発せられる、その光は神の慈愛の力で傷を癒やす。

 

「(神聖魔法か?)」

 

『違うな、聖書の神には信徒に神聖魔法を使わせられる程の力はない。恐らく神器だろう、こっちの世界での聖人、聖女はそれら系統の神器保有者を言うからな』

 

「(神器は全て神の創作物。区分する意味があるのか?)」

 

 むしろ全て教会が回収しないとおかしいだろうに。グランバハマルでも似たような理由で力ある武具を徴収していたぐらいだ。

 この思考は今はいいか、後で調べておこう。

 それより問題は目の前の光景。

 シスターの純粋な優しさによる治療はとてもとても尊い行為だ。泣いてる子供も感謝するだろう。

 だが、信じがたい現象が目の前で起こっている社会経験があり一般的な感覚を持つ母親は別だ。

 箱入り娘。

 良い娘なのは見れば分かるが危ういな。

 

「はい、傷はなくなりましたよ。もう大丈夫」

 

 シスターはもう一度子供の頭を撫でてからこちらへと向かってきた。

 状況を理解した母親は、頭を垂れてから子供を連れてそそくさと去っていく。その目に優しいシスターに向けるべきではない、普通の人らしい当たり前の感情を浮かべて。

 

(はあ、仕方ないか)

 

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

 素直に感謝する子供には悪いけどな。

 

「だってさ」

 

 日本語がわからないシスターに子供の感謝の言葉を伝えてから、俺は精霊魔法で加速し逃げ去る母親と子供に追いつきその頭に掌を当ててから魔法を発動する。

 

「記憶忘却」

 

 陽介さんの得意とする魔法。

 彼のその使用頻度の多さには見るたびにドン引きしたものだ。

 だが今回ばかりは必要だろう。

 たとえそれが善意からの行為でも只人に神の御業と悪魔の外法の違いなど分かる筈がないのだから。

 今日より赴任する彼女に悪評が付いて回るのはあまり良い気分ではない。

 

「どうしましたか?」

 

 処置を済ませてから戻り、首を傾げるシスターに貼り付けた笑みでなんでもないと返す。

 知られたら軽蔑されるかな。

 いや悪魔なのだから今更だろう。

 

「さっきのは」

 

「はい、この治癒の力は神様から頂いた素敵なものなんですよ」

 

 微笑みを浮かべる彼女、しかし寂しげな表情から自身がどう思われるのかは理解しているようだ。

 ただ優しい箱入り娘ではないのか。

 それでもなおその力を他者の為に使うその心がひどく尊く眩しく見えた。

 

「強いな君は」

 

「え?」

 

 俺はそう言って優しい光宿す手を握り、教会へと案内した。

 

「はわわわ」

 

 なぜかシスターが挙動不審になっていたが。

 

『女性恐怖症か無自覚女誑しのどちらかなのか相棒』

 

 

 ようやく辿り着いた教会。なんだか随分と久しぶりに来たがすっかり古びているな。人が住める状態なのかコレ。一応は灯りが付いているが。

 悪魔という種族であるから敷地に近寄ると嫌な悪寒を感じるが、アリシアさんの浄化に比べたらそよ風みたいなもんだから余裕で無視できる。

 

『コイツ神聖耐性ついてやがる』

 

「あ、ここです!良かったぁ」

 

 地図の書かれたメモと照らし合わせながらシスターが安堵の息をつく。

 ここまでだな。

 先程の記憶忘却も含めてリアス部長に連絡は必要。それにやはり違和感は拭えない。

 

「じゃあこれで」

 

「待ってください!」

 

 お礼をしたいとシスターは告げるが、今はそれどころではない。

 そう、画材屋が閉まってしまう。

 

『アシスタントの件も忘れてないんかい』

 

「私はアーシア・アルジェントといいます!アーシアと呼んでください!」

 

「俺は兵藤一誠。周りからイッセーと呼ばれているから機会があるならそう呼んでくれ」

 

 その機会があるのは疑問だけどな。

 なにせ悪魔とシスターなんだから。

 

「はい、イッセーさん、必ずまたお会いしましょう!」

 

 俺が見えなくなるまで外で見守る彼女。

 アリシアさんを思い出す、優しい娘だった。

 いやあの人って結構な頻度で幼馴染二人をボコり倒すから似てはいないなうん。





 補足、説明

 一誠は臨戦態勢だと異性に触れても反応しません。ぶっちゃけアーシアにそこまで警戒する頭おかしいヤツです。
 
 母子に記憶忘却。
 ママさんネットワーク怖いしね。
 異世界おじさんでもやる。


 
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