異世界イッセー   作:規律式足

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 ギャグとして始めた作品がシリアス展開になって作者も驚いております。
 


第十三話 聖女は竜を導く

 

 なんで生きているんだろうな。

 なんであんな辛い日々を耐えてきたんだろう。

 なんで強くなって。

 なんで戦って。

 どうしてここに居るんだろう。

 誰よりも強い筈なのに。

 史上最強の赤龍帝なのに。

 悪魔である自分を庇った、

 優しい女の子一人救えない。

 

『重症だな』

 

 リアス部長に魔法陣の発動によりオカルト研究部へと帰還させられてから俺は項垂れていた。

 考えることは後悔ばかり、なんでこうなったという思いが心を支配していた。

 部長は悪魔祓いについて説明してくれている。俺を襲ったフリード・セルゼンははぐれ悪魔祓い、殺戮に快楽を感じ血に酔った結果、教会より排斥され堕天使の傘下についた存在だと。

 果たしてそうかな。

 俺にはそう見えなかった。

 アレは、そうならないと生きていけなくなった者ではないかと思う。

 グランバハマルでもそうだったが、お綺麗に見える教会は裏では真っ黒なんだろう。

 そうならないといけないくらい悪魔という存在が人々に脅威だっただけかもしれないが。

 

「イッセー」

 

 心配そうに部長が声をかけてくれる。

 

「兵藤君」

 

 落ち込む俺を朱乃さんが気遣ってくれる。

 

「とりあえず休みなよ」

 

 イケメンだから苦手な木場もそう言って。

 

「お菓子を食べて笑うのです」

 

 小猫ちゃんがグイグイと顔にお菓子を押し付けてくる。

 優しい人達だ。

 本当に彼らは悪魔なんだろうか。

 悪魔祓いから殺意を向けられて当然の存在なんだろうか。

 

 

 

「はあ、どうしたら良かったんだろうな俺は」

 

 児童公園のベンチに座りこみため息をつく。

 力だけはあるのに何もできない無力感が全身を虚脱状態とする。

 

『好きに力を振るえば良かった、とは言えんな。そんなことをしたらどうなるかを相棒はよく理解している』

 

 強い力はより強い力に打ち倒される。

 その真理が力を振りかざすことに恐怖という歯止めをかけている。

 俺という存在は思うがままに振る舞うことが怖くて仕方ない。

 

「何がしたかったのかな」

 

 グランバハマルから帰還してからしばらくは良かった。十年ぶりの現代社会を楽しむだけで時間が過ぎていったからだ。

 けど一年以上も経てば冷静になる。

 この手にある力をどうするかと悩んでしまう。

 周りが酷い環境なら形振り構わず好き放題できただろう、手段を選ばなかっただろう。

 でも両親からしたら数日だけの昏睡状態でも窶れるくらい心配してくれて抱きしめてくれた、学校の連中も良い奴ばかりだった。

 そしてそんな生活にグランバハマルで得た力は必要なかった。ドライグとの対話くらいだろう、あって良かった力は。

 だからこそ、

 堕天使襲撃からの悪魔への転生はまさに渡りに船な状況だったのだ。

 力を使う先が出来たのだから。

 

「陽介さんは今頃どうしているんだろう」

 

 あの人は目的を果たせたのかな。

 共に必ず叶えると誓った、彼がグランバハマルで生き抜けた目的を。俺は果たせなかったけどさ。

 

『(高校中退三十代職歴無しで現代日本社会に放り出されて最悪野垂れ死んでいるのでは?と言えんなあ)』

 

 本当にどうしたいのだろう。

 俯いてばかりの自分は。

 

「イッセーさん?」

 

「アーシア?」

 

 聞きたくて聞きたくない声がして、顔を上げればそこには見知った金髪の少女が立っていた。

 彼女は俺を見つけて駆け寄ってきた。

 二度と会えないと思う少女と俺は何度目かの再会を果たした。

 

 某ハンバーガーチェーン。

 此処は俺の聖地だ。

 ここに比べれば教会の総本部も神社の神域も某ランドも足元にも及ばない。

 ジャンクフードと悪し様に言われることもある食べ物ではある。けどな、塩ぐらいしかマトモに調味料無い生活を経験してしまえば此処は正にパラダイス。

 奇跡の再会を果たした俺達は言葉よりも先に空腹による腹の虫が挨拶をしだして、お互い笑いながらとりあえず食事にしようと此処にきた。

 

「店長ーー!、またあのお客様です!」

 

「うちは普通のチェーン店で泣くほど美味くはないのにー!!」

 

 裏で店員さんが大混乱してるけど。

 

「あうぅ」

 

 そしてコチラはコチラで困っています。

 この手のお店が初めてな箱入りシスターがレジでどうすることも出来ずにオロオロしてるのです。

 一人でなんとかして見ますと彼女は言った。だがそもそも言葉が通じなかった。

 彼女の意志と頑張りを尊重していたが、ここまでにしておくか。

 

『知らんことを知らんと言えずに見栄を張る陽介みたいな娘だな』

 

 陽介さんは知らないと言った時に失望の目を向けられるのが嫌なタイプだから。結局いつもバレるけど。

 

「すみません、俺と同じメニューで」

 

「わかりました、サービスでハンカチをお付けしますね」

 

 聞いたことねえよそんなサービス。

 

『相棒が食う度に泣くからだろ』

 

 いやいや誰だってグランバハマルへ行ってから帰還したらそうなるって。

 

『そもそも普通は帰ってこれないからな』

 

「あうぅ、情けないです。ハンバーガー一つ買えないなんて」

 

「日本語を使えないのになんで買えると思ったの」

 

 落ち込む彼女にツッコミを入れつつ空いてる席へ向かう。移動するだけで俺達は客の視線を集めてしまった。まあシスターは珍しいしアーシアは美少女だからな。

 

『いや噂の泣き男である相棒にじゃね?』

 

 席についてハンバーガーを一口齧る。

 口内に広がるパンズとケチャップとミートとピクルスの夢の共演。

 まさにこの味こそニホンバハマルだ。

 

『やっぱり泣くんかい、そして日本食ではないという』

 

 自分が味わいつつも食べ方が分からない様子のアーシアに包み紙を剥がして齧り付くよう促す。

 共にこの至高の一時に溺れようではないか。

 

『ハンバーガー食う時の相棒のテンションはいつもよりさらにおかしい』

 

「美味しいです、ハンバーガーって美味しいんですね!!」

 

「左様、正に究極の味なり」

 

「うちは只のチェーン店ですぅーー!!」

 

 至福の一時を楽しみながらアーシアから話を聞く。テレビで見たことのあるハンバーガーを初めて食べたこと、教会の食事のことなど。

 彼女は本当に楽しそうに語る。

 まるでずっとやりたかったことがようやく出来たかのように。

 公園での予想外の再会。 

 そしてこの反応からして、まるで、

 いや良いか。

 事情を知ったところで、どうせ俺は何も出来ないのだから。

 

「時間があるなら遊ばないか」

 

「え?」

 

 それでも今は楽しい一時を過ごして欲しいと俺は思ったんだ。

 

 なおこのハンバーガー屋さん、後に美少女シスターも絶賛とさらに評判を高めることとなる。

 

 

 

 それからは色々な事をした。

 ゲーセンに行ってレーシングゲームをやったり、クレーンゲームで人形をとってあげたり、目についたお店を案内してキラキラした目のアーシアに一つ一つ説明してあげたりした。

 

「疲れたかい?」

 

「いいえ、とっても楽しくて疲れなんて感じないです!!」

 

 そうはいってもあれだけはしゃいだらクタクタだろうに。街路樹に設けられたベンチを見つけ、そこに彼女を座らせる。

 

「優しいですね、イッセーさんは」

 

 自販機で購入したジュースを渡した所でアーシアはポツリと呟いた。

 

「何があったんだ?」

 

「え?」

 

「君がどうして此処にいるのか?どんな風に過ごしてきたのかを知りたい。君の強さを俺は知りたいんだ」

 

 自身が無力であるに関わらず、悪魔である俺を庇うことが出来た理由を俺は知りたかった。

 記憶再生の魔法か記憶走査の魔法を使えば手っ取り早いが、それでもアーシアの口から聞きたかった。

 

 

 

 それは【聖女】の物語。

 【魔女】になった【聖女】の物語。

 聖書の神に与えられた神器に翻弄され、自分の意志で生きていけなかった少女の顛末。

 祀り上げる教会。

 癒やしだけを求める人々。

 誰も彼女を人とは見ない、人を治療できる生物で、教会に信仰を集める道具。

 だが、そんな運命すら受け入れてしまう少女の優しさが彼女自身に牙を剥く。

 彼女の力は悪魔すら癒やしてしまったのだ。

 キズついた悪魔を見捨てられなかった優しさが、彼女を【魔女】としてしまった。

 教会という組織に不都合な【魔女】に。

 彼女は一度も神への祈りを忘れたことはない。感謝も忘れたことはない。なのに彼女は捨てられて。その手を引く者は無く。神は助けてはくれなかった。

 

「きっと祈りが足りなかったんです。ほら、私、抜けてるところがありますから。ハンバーガーだって一人で買えないくらいバカな子ですから」

 

 笑いながら涙を溢れさす彼女。

 それでも理不尽な世界を恨まず、己が至らぬせいだと強がる彼女に何を言えるのか。

 隣の少女のようにこの世には美しいモノがある。だが美しいモノに群がるモノは決して綺麗なモノばかりではない。

 そう、これはただそれだけの話。

 飽きる程に見た悲劇の一つだ。

 

「気に入らないな」

 

 それでも胸くそ悪いと思う。

 教会が所詮人間の運営する利権集団の一つに過ぎないから突っ込むのも馬鹿らしいが、神は別だろ。

 実在するのだから助けてみせろ。

 祈りに応えてこその神だろうが。

 

『(そういえば神器になってから聖書の神を見てないような?四大魔王は死んで代替わりしたらしいが神はどうなんだ?いやもしやまさかね、でもあの時かなり焼いたしなあ)』

 

「(どうしたドライグ?)」

 

『ナンデモナイヨ(汗)』

 

 ドライグがなぜか挙動不審だがまあいいか。

 

「ありがとう、アーシア」

 

 辛い話だった。

 それでも聞けて良かった話だった。

 彼女の強さ、その優しさに触れられた気がした。

 俺には無い、彼女だけの強さを。

 

「なあアーシア?」

 

 だからつい言ってしまった。

 

「俺と友達になってくれないか?」

 

「え?」

 

「悪魔の契約じゃない、君の力が目当てじゃない、君に同情したんじゃない。ただ君が君だから友達になりたいんだ」

 

「私は世間知らずですよ?」

 

「大丈夫、俺も異世界呆けだ」

 

『大丈夫じゃないだろ』

 

「日本語もしゃべれません、文化もわかりませんよ?」

 

「いくらでも教えてあげるさ、それに言葉の通じない変態はこの街にいくらでもいる。文化?それはもう魔境だから」

 

『それはフォローなのか?』

 

「友達と何をしゃべっていいかもわかりません」

 

「今日みたいので良いんだ、一緒に過ごせば自然と話せるよ」

 

「私と友達になってくれるんですか?」

 

「頼んだのはこっちだろ?」

 

 一言一言噛み締めながら話す。

 自分の気持ちが伝わるように、アーシアの気持ちが明るくなるように。

 彼女にそうしたいと、俺は思ったんだ。

 だから、

 

「失せろよ、堕天使共」

 

 なぜアーシアが自由に行動していたのか?その理由に心当たりがあった。

 それは悪趣味な慈悲気取り。

 命を奪う前にせめて一時だけ自由にしてやろうという、上位者気取りのクソ共のお情けだ。

 

「ほう気づいたか」

 

「けれど下級悪魔風情が生意気な」

 

「アーシアは回収させて貰うっす」

 

 堕天使が三匹。 

 さてどうするか。

 

「良いのか我らと揉めても?」

 

「貴様は我らと争わぬために悪魔の下についたのだろう」

 

「アーシアの神器を上に渡してレイナーレ様を開放するっす」

 

「?!!」

 

 コイツラはあの堕天使の部下だったのか。

 トラブルを回避したい一心の手抜かりがこんな形で仇となるなんて。

 

「ああそれとも」

 

「我らとやるか?」

 

「三大勢力の一つ、堕天使総督アザゼル率いる【神の子を見張る者】と!!」

 

 クソ、どうすれば良い。

 目の前の堕天使共は先日のレイナーレ以下、倒すのは容易い。

 だが、それがきっかけで一つの勢力と争うのか。リアス・グレモリーの眷属という立場でありながらそんな決断をとるのか。

 脅すように向けられる光の槍。

 動けない俺を嘲る堕天使共。

 なんでだ。

 なんで決められない。

 戦えば勝てるくらい俺は強いのに。

 

「いいんですイッセーさん。私はそちらに戻ります」

 

「待ってくれ」

 

「今日一日ありがとうございました。本当に楽しかったです」

 

 やめてくれ。そんな受け入れたような笑顔はしないでくれ。

 

「夢が叶いました。生まれて初めてお友達と過ごせました。だからそれだけで充分です」

 

 クレーンゲームで取ってあげたヌイグルミを俺に託してアーシアは笑う。

【魔女】なんて絶対に思えない【聖女】らしい笑顔で。

 

「さようなら」

 

 別れの言葉が俺の何かをぶち破った。

 

 

 

 アーシアが堕天使に連れ去られた。

 俺はその後、何もする気がおきず、河川敷に寝転がった。草が制服について汚れるが気にもならない。

 

「なあドライグ?」

 

『どうした相棒?』

 

「陽介さんはなんであんなに強いんだろうな」

 

『(バグだからじゃねえの?ではなく)勝つまで殺るから強いんだろ。陽介が退いた所なんて見たことないだろ』

 

「伝説の魔獣相手でも古の魔人相手でも遺跡の守護神にもあの人は立ち向かいいつも勝つまで殺って勝った」

 

『そうだな』

 

「俺にもできるかな?」

 

『相棒』

 

「勝つまで諦めないで戦い続けることを。

 グランバハマルにはそこまでして守りたいものなんてなかった。だから勝てなきゃ逃げた。

 でもさ、此処に退けない理由が守りたいものがある」

 

『それでどうする?』

 

「堕天使と戦争?上等だ、やるからには三大勢力を二大勢力にしてやる。

 どんな最強も陽介さんのように勝つまで挑み続けてやる!!」

 

『それでこそ二天龍、赤龍帝だ』

 

「俺はアーシアを助けたい。戦争を起こして堕天使滅ぼしてでも助けたい。あの娘は報われて幸せになるべきだ。俺がそう決めたからそうする。

 なあドライグ、お前は地獄までついてきてくれるか?」

 

『グランバハマル(地獄)まで付き合ったんだ、最後まで見届けてやるよ相棒』

 

 

 

 赤龍帝・兵藤一誠は強い。

 史上最強の赤龍帝と謳われるほどに強い。

 だがそんな彼を倒す存在が側に居続けたことにより、自身の強さが誰かに倒される程度のモノだと認識してしまった。だから最強にして謙虚だった。

 また、無理をしてまで戦う理由が彼には今まで無かった。

 だが今は違う。

 神に見捨てられた彼女を救うために、たとえ神が相手でも挑むだろう。

 彼女との最後の会話がさようならなんて認めたくないから。

 

 

「まずは部長に連絡からだ。そうしたらアーシアを救いにいこう」

 

 主の説得は必要だ。

 なんとしてもやり遂げる。

 もう、その思いに揺らぎはない。

 





 補足、説明。
 
 グランバハマルでの兵藤一誠に大切な存在は自分と友人だけでした。
 しかし異世界おじさんからの付き合いである友人達は皆一誠より強く、心配する必要がありません。
 だからこそ今回の件で、守りたい存在がいると理解したのです。
 どんな強敵にも勝つしか無い状況があると。

 赤龍帝・兵藤一誠
 覚悟完了
 
 赤龍帝ドライグ
 やばめな事実に気づく
 君のように勘の良いドラゴンは嫌いだよ

 異世界おじさん
 ドラゴンから見ても人生詰んでた

 堕天使総督アザゼル
 なんか嫌な予感がする

 ミルたん
 悪魔さんが助けを呼んでる気がするにょ

 フリード・セルゼン
 既に夜逃げ準備中
 
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