異世界イッセー   作:規律式足

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第四十話 死合

 

 聖剣に憧れた少年の夢から始まった、数え切れないくらいの絶望と悲劇。

 けれどその先に、泥中に咲く蓮のように、奇跡は花開いた。

 木場祐斗に握られた光。

 それこそが絶望の中、誰かの幸せを願いつづけた少年少女の想いの結晶。

 

「そうだ、それでいい」

 

 その奇跡に誰よりも感動していた青年は叫ぶ。

 

「最っっ高、だあっ!!」

 

 神に祈ることはない、神に感謝することもない。だがそれでもナニカにありがとうと叫びたいと彼は思う。

 罪深き己を裁くにはあまりにも過ぎた、その奇跡と巡り会わせてくれたことに。

 

「フリード!!」

 

 振り下ろされたエクスカリバーを握りしめた光で受け止める。

 すると、手元からパキリと散るような固まるような不思議な音が聞こえた。

 同志達の想いが掻き消されているのかと木場祐斗は焦燥するが、二度、三度と刃を交わすうちにそうでないことが分かった。

 打ち合う度に形が定まっていく。

 打ち合う度に完成していく。

 聖剣との打ち合いが光を研ぎ、鍛造しているのだ。

 

「へへ」

 

 フリードもまたその現象を理解した。

 ゆえに子供のように笑って、エクスカリバーを振りかぶる。

 ぶつかり合う異形の聖剣と奇跡の光。

 火花散る剣戟は止むことをしらず、幾十、幾百と続けられた。

 その刃の交わし合いの中、木場祐斗は自身の剣の師である、魔王サーゼクスの騎士沖田総司との会話を思い出していた。

 元新選組一番隊組頭にして天然理心流免許皆伝の、幕末の世を生きた天才剣士。多くの剣に生きた者達を知る男は言った。

 死合こそが何よりも雄弁な語り合いである。

 真の剣士とは命ぶつけ合う一時で互いの全てを理解し合うのだと。

 木場祐斗はその言葉の意味が理解できなかった。

 積み重ねた生涯の奪い合いである死合で、なんで語り合えるのか意味がわからなかった。

 そう、今日この日までは。

 

(分かるよフリード。君の想いが)

 

 刃をぶつけ合う度に想いが伝わる。

 その動き一つ一つが彼の歩みを示す。

 死合、命のやり取りがその心を剥き出しにする。

 己の終わりをもって、世界を変えたいというフリードの願いを。

 彼と戦いたくないと木場祐斗は思う。

 彼と戦わねばならないと木場祐斗は悟る。

 

(そうだよね、同志達よ)

 

「祐斗、やりなさい。貴方はこのリアス・グレモリーの眷属なのだから。仲間達の想いに応えてみせなさい」

 

「祐斗君、信じてますわよ」

 

「祐斗先輩」

 

「ファイトです」

 

「見せてくれ木場。お前の握りしめた奇跡を」

 

 仲間達からの言葉が木場祐斗の心の最後の後押しとなる。

 同志達から託された想いを受け、フリードとの死合で研がれ鍛えられ、仲間達の言葉がその先へと到達させる。

 

「僕は剣になる。

 部長、仲間達の剣となる!

 今こそ僕の想いに応えてくれっ!

 魔剣創造ッッ!!」

 

 この神器が聖剣であればと思ったこともある。こんな神器が宿っていなければ、こんな目に合わなかったと憎んだこともある。

 虫の良い話だろう、自分勝手な願いだろう。

 それでも応えて欲しいと、木場祐斗は全身全霊を込めて祈る。

 結晶体となった聖剣因子と神器が混じり合う。同調し、カタチを成していく。

 一際大きく鳴り響いた衝突音と輝きの中、その剣は、一つの奇跡は誕生していた。

 神々しい輝きと禍々しいオーラを放つ一振りの剣。

 

「禁手・双覇の聖魔剣。聖と魔を有する剣だ」

 

 それはあり得ざる剣。

 未だにかつて無い、聖と魔の融合。

 混じり合う筈の無い二つの力は今一つとなった。

 

「カッケェじゃん」

 

 フリード・セルゼンはグレートヘルムの中でそう呟き笑った。

 

「フリード」

 

「あん?」

 

 木場祐斗は語りかける。  

 最後となる言葉をもう一人の同胞へと告げる。

 

「君に会えて良かった」

 

 この剣をもって終わらせると決意を込めて。

 

 これより木場祐斗が繰り出す技。

 それは剣の師である沖田総司の代名詞。

 三段突きである。

 

「俺もだよ」

 

 もう少しだけ付き合ってくれとフリードは自らに取り込んだ聖剣因子へと語りかける。

 その想いに応えるように、高まる力を右手となったエクスカリバーの刀身へと注ぎ込む。

 全身が聖剣となった今であれば、悪魔である木場祐斗に触れるだけでダメージになるだろう。

 だが今の木場祐斗にそんな動きは通じない。

 だから真正面から、叩き潰す。

 破壊の聖剣と天閃の聖剣の力に全てを込めて木場祐斗へと振り下ろす。

 

 

 唐突であるが語ろう。

 沖田総司の代名詞といえる技「三段突き」とは如何なる技であったのか、詳細は一切不明である。

 一度の踏み込みで頭、喉、鳩尾の三箇所を突いた。こう説明されたこともある。

 だが、人間同士の死合でそこまでやる必要はない。また天才剣士・沖田総司であれば一撃で勝負を決することができるだろう。

 では、「三段突き」とは相手との力量の差が大きい時のみ機能する「魅せ技」だったのか。

 無論、真実は異なる。

 

 

「チェェイヤァ!!」

 

 フリードの全力の一刀を木場祐斗はカウンターで突く。

 

「一段目」

 

 同士達から託された聖なる力を全開にして、エクスカリバーと双覇の聖魔剣はぶつかり合う。

 ビキリとエクスカリバーにひびの入る音がした。

 

「まだ、だあっ!!」

 

 技の後に大きな隙を生んでしまう「突き」は外せば自ら死を招く超危険技。

 至近距離まで近づいた木場へとフリードはエクスカリバーを薙ぐ。

 

「二段目」

 

 しかしそれは凡百の剣士の話。

 幕末という剣客達の大舞台が生み出した天才剣士・沖田総司と、その弟子である木場祐斗は違う。

 尋常ならざる引き手の速さが二度目の突きを、命を救ってくれた悪魔の魔の力を全開にして放つ。

 

「く、そがぁっ!!」

 

 それすらも背の剣翼を盾にすることでフリードは凌いだ。

 

「三段目」

 

 そしてそんな足掻きを、至近距離から超至近距離まで詰めた、聖と魔の両方の力を解き放った突きが打ち破る。

 それはひび割れたエクスカリバーをへし折り、フリードへと深く突き刺さった。 

 

「ガフッ」

 

 エクスカリバーを砕かれた衝撃と身体を貫かれたことでフリードは血を吐き出す。

 

 木場祐斗が放った「三段突き」とは、

 相手の反撃から後ろに退かずに距離を詰め続け、一撃一撃が必殺の威力を込めて突き続ける技。

 まさに凌ぐ程に苦しみが続く刃の無限地獄。

 尋常ならざる切り返しの速さと、相手への柔軟な対応力があって初めて成立する、沖田総司とその弟子の木場祐斗だから出来た神業。

 さらに木場祐斗は、そこへ自身の神器の特性たる属性の付与を上乗せし、己の必殺技まで昇華させた。

 

「フリード、皆、見ていてくれたかい?これが僕の積み重ねた全てだ。僕らの力はエクスカリバーを超えたんだ」

 

 木場祐斗の瞳から溢れる涙。

 仰向けとなり地面に大の字に倒れたフリードは、頬にかかるその雫を温かい雨だなと思った。

 

「教会の全部が嫌いだった。

 けど聖歌だけは別だった。

 混じって歌ってる時だけは、自分を人間だと、仲間に入れたと思えたんだ。

 ああ、良い歌だったぜ。御同輩」

 

 だからそんな、自分が自分でいれた理由をフリードは口にしていた。

 

「これからも歌えるよ。君だって」

 

 木場祐斗がそう言って手を差し伸べるが、

 

「悪いな」

 

 フリードの視線は、動揺するバルパー・ガリレイへと向いていた。

 

「聖魔剣だと、あり得ない!!

 反発し合う二つの要素が混じり合うなんてことはあるはずがない!!」

 

 狂ったように叫ぶバルパー。

 だが、その無駄に優れた知性は一つの真実へと至ってしまう。

 

「そうか、わかったぞ!!

 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとすれば説明はつく!

 つまり、魔王だけでなく、神も、」

 

 その言葉を言わせまいとばかりにコカビエルの光の槍がバルパーを貫こうとするが。

 

「待ってくれ、コカビエルの旦那」

 

 残骸となったエクスカリバーの最後の力を振り絞ったフリードがその一撃を防いだ。

 

「ホウ」

 

 自らの攻撃を防いだフリードに、コカビエルが感心したように息を吐く。

 

「おおフリード、よく助けてくれた!

 そうだお前という成功作があれば私はいくらでも」

 

「あのさ、クソカス変態ジジイ。

 俺様はさ」

 

 ゼノヴィアにそうしたように、あるだけの銃弾をバルパーに射つ。

 

「え?」

 

「剣より銃派なんだわ」

 

 伝説の聖銃とかねーの?と、嘲るようにフリードは笑った。

 コカビエルの攻撃からバルパーを庇ったのは、助けるためじゃない。

 討つべき者に止めを刺させるためだ。

 

「御同輩!!」

 

 フリードはバルパーの胸ぐらを掴んで木場へと投げつける。

 

「ま、待て。私はアアアッ」

 

「報いを受けろっ!!」

 

 フリードにより致命傷であったバルパーを木場は聖魔剣で正中線から真っ二つにした。

 聖剣計画。

 その因果は此処に絶たれたのだ。

 

「さあてと」 

 

 ポタリポタリと血の雫を垂らしながらフリードは足を動かす。

 

「フリードさん!!」

 

 咄嗟にアーシアが駆け寄ろうとするも残った左手でそれを押し止める。

 

「最後にこれだけはしなくちゃな」

 

 フリードはかろうじて動く聖剣を使い自身の体内から聖剣因子の結晶体を抉り出す。

 これでもうフリードは聖剣を使えない。

 ズルリとエクスカリバーが身体から剥がれながらその因子結晶を木場祐斗へと投げ渡した。

 

「仲間外れはダメだぜぃ」

 

 ニヒルに笑いながらそう言った。

 そうしてやるべきことを全て終えたフリードはゆっくりと歩をすすめた。

 

「どこへ行く気だフリード?

 貴様は捨て置くには惜しい存在だ」

 

「悪いなコカビエルの旦那。

 俺はもう天使に利用されるのも、堕天使に使われるのも、悪魔に慈悲をかけられるのも御免なんだわ。最後はどこぞで野垂れ死ぬよ」

 

 木場祐斗に斬り殺されることが理想ではあった。だが命が残ったのだから、最後の瞬間までは自分の自由で在りたかった。

 

「アーシアたん。今、幸せかい?」

 

「はい!!」

 

「御同輩、ありがとうな」

 

「こちらこそ」

 

 すれ違いながら声をかけるフリード。

 しかしリアス・グレモリーの側を通った時に小声で話す。

 

「リアス・グレモリーさん、ご迷惑をおかけしました」

 

「どうせなら私の騎士に勧誘したいのだけど?」

 

「すんません、それはあちらの嬢ちゃんに頼みます」

 

「ゼノヴィアを?なぜかしら」

 

「教会のやり口を知ってるからわかるんすよ。あの娘はこれからロクな目に合わねえって」

 

「そう。分かったわ、今回の礼として引き受けるわ」

 

「はんじゃま、さらばです」

 

「ソーナ、私よ。これから満身創痍のフリード・セルゼンが通るけど、何もしないで行かせてあげて。お願いね」

 

 ヒラヒラと残った手を振るフリード・セルゼンをその場の全員が見送った。

 そこには命を燃やして戦い抜いた彼への敬意の感情があった。

 

「さあて、いよいよこのコカビエルが相手だ悪魔共」

 

 フリードの姿が見えなくなった後、空から地に立った堕天使幹部が気迫を込めてそう宣言した。

 

『この状況と空気でさらに戦うとか、どんな精神してんだコイツ』

 

 いつもの赤龍帝ドライグのツッコミにその場の全員が頷いた。





 補足・説明。
 
 三段突き
 ツワモノガタリという漫画の三段突きを採用しました。なお沖田総司は一瞬で三度同時に突く三段突きも使用できます。人間相手には必要なくても魔獣や悪魔には効果的なので。
 原作木場祐斗が沖田総司の弟子なのに天然理心流の流派名すらでてないので出しました。
 木場祐斗の三段突きは属性付与により対応できる幅がかなり広がります。

 フリード・セルゼン
 去っていった彼の今後はのちほど。
 
 次回、赤龍帝VSコカビエル
 作者はそろそろギャグが書きたいです。

 
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