異世界イッセー   作:規律式足

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 すいません、短めです。



第四十七話 授業参観

 

「イッセー、アーシアちゃん。あとでお父さんと行くからね」

 

 朝から気合の入っているお母さん。

 今日は駒王学園授業参観日。

 グランバハマルを経験して精神的に擦れている俺と、アーシアの今までの生活を知る両親は、こういったイベントに特に力を入れる。

 そんな二人の優しい想いを察したアーシアは、満面の笑みで「はい!」と頷く。

 一緒に暮らす「家族」の者が来てくれるのが、たまらなく嬉しいらしく、アーシアはこの日を楽しみにしていた。

 今日ばかりは自宅でお留守番になるラッセーがガサゴソとカバンの中に潜りこもうとするのを、抱きかかえることで阻止する。

 

「ガー」

 

『ヌイグルミの振りをする、と言っているぞ』

 

「駄目だからね。今日だけは我慢しなさい。今度狩りに付き合ってあげるから」

 

「ガー」

 

 基本的に一匹で生きるドラゴンだが、人間界での生活ですっかり甘えん坊だ。

 賢いラッセーなら連れていっても問題ないとも思うが甘やかしてばかりもな。

 渋るラッセーも山で狩りに行けるならと引き下がった。

 そんな俺とラッセーのやり取りを、アーシアが「パパみたいですぅ」と悶えながら見ていた。

 そんなこんなで授業参観の日。

 授業参観というが、正確には「公開授業」だ。生徒の身内は勿論、中等部の学生が授業風景を見学していいことになっている。その中学生の保護者も同伴見学可能という、結構フリーダムなスタイルだ。

 自分の親御さんだけではなく、駒王学園中等部の後輩たちも見に来るとあって、見学される側の高等部生徒たちは無駄に緊張してしまう。後輩の前で間違った回答やら恥なんて晒したくないからな。

 

「気乗りしないわね」

 

 部長がため息をつきながら言う。どうにも授業参観が嫌らしい。当主様とサーゼクス様がいらっしゃる予定だけど、やはり授業風景を身内に見られるのは部長でも嫌なのだろう。紅髪の容姿端麗な男性二人が教室を訪れたら絶対に目立つしな、下手したらメイド服姿のグレイフィア様も同伴だし。

 心中お察しします。

 この日常が尊いと頭では理解している俺でも気恥ずかしいのは変わらない。大丈夫ですよとソッと手を握り笑いかけると部長も明るい表情となった。

 

『これを下心なしにやる相棒よ』

 

 なんか言った?

 

『いやなにも』

 

 学校の玄関口で部長と別れた俺とアーシアは教室へ向かう。

 席につくなり、松田と元浜が近づいてきた。

 

「イッセーのところは今年も来るのか?」

 

「ああ、アーシアの件もあって張り切っていた」

 

「あー、わかる。アーシアちゃんみたいな娘ができたら是が非でも観にくるよな」

 

 アーシアは良い娘だし、幸せにしたくなるからね。

 

「私、こういうの初めてなんですごく楽しみです」

 

 教会で聖女暮らしだったからなあ。学校というよりは指導されていたらしいし。

 

「けど大丈夫か?去年、めっちゃ目立ってたよなお前んトコ」

 

「思い出させないでくれ」

 

 去年も授業参観に参加したウチの両親なのだが、その時に涙を溢してしまい目立ってしまったのだ。

 あの時はまだグランバハマルから帰還して一年足らずの頃で、両親は俺のグランバハマルでの記憶や体験やら苦しみを記憶再生でよく見ていた時期だからだ。

 その場に居た人達には交通事故で昏睡状態になってた時期があると伝えて誤魔化したが、それがクラスメイト達が俺を心配する原因の一つなのだ。

 今年はどうなるかね。

 落ち着いてはいるから大丈夫だと思うが。

 そんな心配をする俺だが、自分自身がやらかすことをまだ知らない。

 

 

 授業が始まり、開け放たれたうしろの扉からクラスメイトの親御さん達が入ってくる。

 授業が英語。いつもより気合の入った男性教諭が何やら袋に包まれた長方形の物体とシート、さらには細い木のヘラ(アイスクリームを食べる時に使いようなやつ)まで生徒に配っている。

 なんか嫌な予感がするな。

 英語は悪魔化の恩恵で問題なく話せるようになった。いやグランバハマルでの経験からなるべく言語を体得するようにしてたから不要だったけど。それはともかく授業で恥をかくことはないと高をくくっていたのだが。

 配られた物体をよく見れば紙粘土のようだ。

 

『美術の授業か?』

 

 むしろ図工かと。

 ドライグ共々怪訝に思っていたら、黒板の前で教師は嬉々と言う。

 

「いいですかー、いま渡した紙粘土で好きなものを作ってみてください。動物でもいい、人でもいい、家でもいい。自分がいま脳に思い描いたありのままの表現を作ってください。そういう英会話もある!!」

 

 むちゃくちゃでツッコミどころ満載だけど、否定できないのが困る。

 

「レッツトライ!」

 

 グランバハマルで言語が通じない時には、身振り手振りなどのボディランゲージで意思疎通をした(現地民から六割方襲いかかられたが)。だから表現するということは、対話では存外大事なことなのだ。

 ニホンバハマルの外国にしても、日本人からしたらオーバーリアクションな挙動で意思疎通してるし。

 

「む、難しいです」

 

 順応の早いアーシアは既に取り掛かっていた。まあ普通に授業するより面白いか。

 

「アーシアちゃん、ファイトよ!」

 

「イッセーも、頑張れ!」

 

 授業を観にくるのは良いけど応援はやめてください。多分リアス部長もこんな目にあってんだろうな。

 ビデオカメラで撮影する父さん(許可は得ています)達の姿にアーシアは嬉しそうにしていた。いやまあ俺も嬉しくはあるけど。

 周囲の皆も、まあ英会話やるより良いかと、アーシアちゃんが喜んでるしなと、渋々ながら紙粘土をこねくりだしていた。

 さて、俺は何を作るか。

 ラッセーが辺りが無難だと思うが、ドライグが最近ハマっている昔のアニメの邪神英雄伝カタルの龍刃丸でも作るかね。

 

『赤龍帝バージョンで頼む』

 

 ねえよ、そんなオリ形態。

 しかし先生は脳内で思い描いたものでいいと言った。俺は紙粘土をいじりながら目を閉じ、心の底から浮き出る、一番最初に思い描くもの。

 

【いつもそんなにボロボロになるまでウルフに挑んで、仕方ないなーキミは】

 

 陽介さんに挑んでは返り討ちにあう俺をいつも介抱してくれた、氷の妖精のようなあの人。

 あの地獄で俺を俺として見てくれて、無邪気な笑みで打算なく笑いかけてくれたあの人。

 働きたがらない怠け者のダメ人間。

 けどそんなことが気にならないくらい、俺は彼女との時間が好きだった。

 安らぎという言葉の真の意味を、彼女と過ごす時間で俺は初めて知ったんだ。

 最終的に心は折れた(帰還一月前)。俺は別れと引き換えにこの世界に帰ることを選んだ。二度と会えないあの人。そこに後悔は無くとも、別離の悲しみはあったのだ。

 俺は閉じた両目から涙を流す。メイベルの姿を脳内で再現していた。目を瞑りながら、ただただ脳内のイメージのもとに手を動かしていく。

 あの姿が、声が、笑みが、ダメ具合が、すべて鮮明に思い出せる。

 

『なにしてんだっ?!相棒っ!!』

 

 ドライグの叫びにハッと目を開けると紙粘土はメイベルの姿を忠実に再げ『フンッ!!』、なにしてんだドライグーっ?!

 完成したメイベル像は、左手を操作したドライグによってすぐさま握り潰されていた。

 

『トラブルにしかならんだろうが阿呆』

 

 いや、たしかにそうだけどさあっ!!

 振り返れば、メイベルの姿を記憶再生で知る両親までもが顔を引き攣らせていた。

 

「ひ、兵藤君?」

 

 先生がどうしたのかと訊ねてきたので、なんと言うか悩んでいると、

 

「『タイトルは失恋です』」

 

 またもやドライグが俺の身体を操作して代わりに答えていた。

 グハァ、と精神的に血反吐を撒き散らす勢いで多大なダメージを負った俺に気づかず、先生もぷるぷると震えていた。

 

「す、素晴らしい。想い人の姿を創り上げ、それを自らの手で壊す。このあふれる思い、一連の流れ、これ即ち表現。そうだ、これだ、この表現力こそが英語なんだ」

 

 なんか先生が涙で目元を濡らして感動してますけど。俺は普段とは違う形で死にそうなんですが。

 失恋、失恋て、ドライグてめえ。

 

『事実だろ』

 

 それでも直視したくない現実がある。

 コチラをチラチラと窺っているアーシアの様子に後でなんと説明するかと悩みながら、英語の授業は終えた。

 はあ、いい加減吹っ切らないといけないのはわかるんだけどさあ。

 





 補足・説明
 英語だけで一話をやってしまいました。 
 いや魔王少女まで書いたら二倍になるし、紙粘土インパクトが薄れるので。
 
 去年の授業参観
 グランバハマル帰りの息子が生きて高校に通えた事実に兵藤ご夫妻は大泣きしてしまった。
 交通事故が学園内に広まった最大の原因。

 邪神英雄伝カタル→魔神英雄伝ワタル
 龍刃丸→龍神丸
 ドライグがハマっている昔のアニメ。こんな世界で冒険したかったなとイッセーと語り合いながら視聴している。一緒に見たラッセーもロボに成りたいと言っているとか。

 メイベル
 イッセーの想いを知っていた人物。
 その心境や如何に。
 なお現在グランバハマルで行方不明らしい。

 メイベル像
 残ったのは足のみ。
 ドライグは気遣いできるドラゴンです。
 リアス達が知ったら一騒動になってた。

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