ミカエルについては、アザゼルの兄弟みたいなもんだからという事実がかなり影響しています。
次の日の休日、俺はとある場所へと向かっていた。
町の外れにある古びた神社。先代の神主が亡くなり、現在は朱乃さんが住んでいるその場所で、とある人物と会うことになった。
ちなみに本来は神社などの他宗教の領域に悪魔が立ち入るとダメージを受けてしまうのだが、裏で特別な約定が執り行われていて問題ないとのこと。
巫女服姿で出迎えてくれた朱乃さんに案内されて、古さを感じさせるがきちんと手入れされている本殿前にその人物は居た。
「彼が赤龍帝ですか?」
豪華な白ローブに身を包んだ端整な顔立ちの青年。頭部の上に金色の輪っかを漂わせ、聖なるオーラを放つ存在。
聖書の神が創り出した最高の被造物が一体。
「私はミカエル。天使の長をしております。
初めまして当代の赤龍帝・兵藤一誠くん」
金色の十二枚の翼を展開しながら彼はそう名乗った。
「(なんか腹黒そう)」
しかし、美形と教会に良いイメージの無い俺は、聖人のような笑みを浮かべる、そのように創られた存在に対して警戒より胡散臭いと感じてしまった。
『(清廉潔白な組織の長なんてこの世にいるわけないだろう)』
サーゼクス様だってお人好しだけど黙殺することとかあるしね。
朱乃さんの先導のもと、俺とミカエルは神社の本殿へと入る。
しかし敵対組織の長やら幹部に敬称をつけるか悩むところ、年長者だから付けることに抵抗はないが、悪魔的にどうなんだろうか。
『普通は自分より強い存在には敬意を払って敬称をつけるが、アザゼルとミカエルは相棒より弱いからな。敵対組織でもあるし、敬う道理がない』
元日本人としては縁のある、仏様や八百万の神様を崇めることに抵抗はないけどな。
『やっぱりおかしいよ日本人』
オカルト業界に関わってから本当にそう思いました。
かなり広めの本殿内は大きな柱が建物を支えている。そしてその中央から、先日感じた波動に近いものを感じて、肌をピリピリと刺激していた。
(聖剣か?それよりも刺さるような感覚だけど)
『流石だな相棒、殆ど当たりだ』
ドライグの言葉に首を傾げていると、
「実は、あなたにこれを授けようと思いましてね」
ミカエルが紹介するように、オーラを発する物を指差した。そこには一本の剣が宙に浮いていた。
「これはゲオルギウス、聖ジョージといえば伝わりやすいでしょうか?彼の所持していた竜殺しの聖剣『アスカロン』です」
教会の至宝ではないのですか?
『エクスカリバーもデュランダルもそうだから今更だぞ』
そうだった、教会ってあっさりデュランダルを手放せる組織でした。
「特殊儀礼を施してあるので、悪魔のあなたでもドラゴンの力があれば扱える筈です。所持ではなく赤龍帝の籠手と同化させることもできますよ」
同化は嫌だなあ。
どんな仕掛けをされてるか分かったもんじゃないし。
『思考がグランバハマルだぞ相棒』
だって、こういったプレゼントに発信機か罠を仕掛けるのは基本だろ?敵対行動したら爆発するとか、聖剣に身体を乗っ取られるとか。
『否定できないのがなあ』
だろ。
「なぜこれを?」
竜殺しの聖剣という、悪魔化した赤龍帝に対するメタ的な武器を、切り札として用いずに授けようとする天使長に俺はそう訊ねた。
渡したところでどうとでもなる存在だとでも認識されているのか?戦歴からしてそう判断されてもおかしくはないが。
「私は今度の会談を、三大勢力が手を取り合う大きな機会だと思っているのですよ」
手を取り合う、か。
『戦力的に悪魔が突き抜けてるがな』
「既に知っているそうですから話しますが、我らが創造主・神は先の大戦でお亡くなりになりました。敵対していた旧魔王達も戦死。堕天使も総督であるアザゼルが、戦争を起こしたくないと建前上は口にしています」
争いはじめた張本人達が居ないなら続ける理由もないのか。もうやる気のないアザゼルはどうして戦争はじめたんだろう?
「これは無駄な争いを無くす好機なのですよ。このまま小規模ないがみ合いが続き弱体化すれば、他の神話から攻められ、いずれ三大勢力は滅ぶ。それを防ぐために三大勢力から聖書の神話へと、一つの勢力になるべきだと私は考えているのです」
時代の転換期ってとこか。
世代交代した魔王はともかくとして、紙粘土の被造物である天使がそれを決断できたもんだ。
『さり気なく、聖書の神話と名乗ることで自分らを中心に据えてないか天使共』
言われてみれば確かに。
「そのアスカロンは私から悪魔サイドへのプレゼントです。もちろん、堕天使側にも贈り物をしました。悪魔側からも噂の聖魔剣を数本いただきましたし、こちらとしてもありがたい限りなのですよ」
木場が魔王様に呼び出されたのはそれが理由か。本人がよく納得したもんだ。
『だからこそ取引になったんだろうな』
しかし、他の神話か。
攻められる心当たりしかないのがなあ。
『教会の宗教侵略、堕天使の神器収集、悪魔の眷属集め。暗黙とも言える不戦の約定に触れないギリギリでやりたい放題だったからな』
戦争してないだけで喧嘩を売りまくりでは?
というか宗教侵略は戦争でしょうが。
『人間の信徒がやったことだから、グレーゾーンをかなりアウト寄りにギリギリセーフ』
駄目じゃね?
「過去、我々と敵対した「赤い龍」が悪魔になったことを知りましてね。ご挨拶と共に悪魔側へ私達からのプレゼントとして、あなたにその剣をお渡しするのです。あなたはこれから龍王クラスのドラゴンや「白い龍」に狙われるでしょう。『普通』の赤龍帝と噂のあなたにとって、補助武器になるのではないかと思いましてね」
ねえ、ドライグ?この聖剣だけどさ。
布団叩きと漬物石のどっちにする?
『ラッセーが居るから自宅に置いときたくねえよな。博物館に寄贈か、仲間に貸したらどうだ?』
いいねソレ。
精霊魔法の光剣と闇剣に勝る剣なんて存在しないし。古代魔導具とアレがあるから剣はいらない。
というか陽介さんの持っていたナイフとアスカロンのどっちが凄いのかな?
『あっち』
ドライグが嫌がるから俺は手に入れてないんだよね。
「わかりました、受け取らせて頂きます」
「三大勢力が唯一手を取り合った、二天龍との決戦。あのときのように再び手を取り合うことを願って、あなたに赤龍帝に願をかけたのです」
皮肉にしか聞こえないっての。
やっぱり腹黒だろ、この天使長。
アスカロンを手に取り軽く振るう。
悪くないけど、赤龍帝の爪の方が使いやすいかな?本気を出す時は無手なんだよなあ俺。
鞘がついてないので、収納空間から適当な布を取り出してぐるぐる巻いてからしまう。
聖剣であっても精霊由来の空間だから不具合もなしだな。
俺の精霊魔法に目を見開いて驚いたミカエルだが、気を取り直して、手をポンと叩いて、
「時間ですね。そろそろ私は行かねばなりません」
会談前の準備かな?
しかし、アーシア達について言っておくべきだな。あの二人が祈る度に頭痛になるのは見てられないからな。
「すいませんが、お話しがありまして」
「会談の席か、会談後に聞きましょう。必ず聞くのでご安心を」
そう言うと、ミカエルは全身を光が包み込んで転移した。
「お茶ですわ」
「ありがとうございます」
ミカエルがいなくなった神社。朱乃さんから話があるというので、彼女が生活している境内の家でお茶を頂いていた。
うん、相変わらず美味い。
「朱乃さんはミカエルとここであの剣を?」
「はい、この神社でアスカロンの仕様変更術式をおこなっていたのです」
むう。死蔵予定のアスカロンだが、朱乃さんがやってくれたとなると躊躇われるな。悪魔側も手を組むつもり(仲良くする気はない)だし、友好アピールとして使った方が良いな。なんか仕掛けられてたら腕ごと切り落せば良いや。
「それで、話しとは?」
「私の出自について」
表情を曇らせながら朱乃さんは語りだす。
堕天使幹部と巫女の恋物語、そしてその先にあった悲劇を。
種族が違っても愛は生まれ、家族となれる。けれど周囲はそれを認めなかった。
だからこそ朱乃さんは堕天使の血を恨み、自らの翼を嫌悪したのだ。
両親に恵まれた俺が、彼女になんと言えるのか。
「なぜ、この話を」
「知って欲しかったの、貴方には。
堕天使の血なんて気にしない人だとは理解しているけど、それでも自分の口から言いたかった」
知れて良かったとは思う。
今後堕天使と関係が変わった時に、朱乃さんの親であるバラキエルと関わる機会があるかも知れない。
それでも打ち明ける必要はないだろうに。嫌われるかもしれないと震えながら言うことじゃないだろうに。
いや、そこまで知って欲しいと想われてることを喜ぶべきなんだろう。
全く、こんな体質にならなければ抱きしめてたよ。
「ありがとうございます。
俺も貴女のことが知れて良かったです。
そんな嫌悪する力を親友のために使った朱乃さんは、とても素敵な人なんだと思います」
「イッセー君」
「嫌いませんよ俺は。実は俺、貴女が淹れてくれたお茶が一番好きなんです」
あ、でもレイヴェル様の紅『それ以上はいけない』。
すると朱乃さんは、顔を真っ赤にして俯き、それから必死に息を整えていた。
「ねえ、イッセー君?」
「はい」
真剣な表情となった朱乃さんが言う。
「ハーレム王になるために頑張ってください。私もライザー様の眷属の皆さんから、しっかりと学んでおきますから」
その言葉の意味することは、うん。
『普通に告白だな。失恋野郎』
表でろ、赤蜥蜴。
『出れるなら出たいわ。俺だってカタルを自分の目で見たいんだよ』
ドラゴンライフよりアニオタライフかい!!
『いいよ、もうドラゴンは。どうせ狩られるだけだから』
悲しいことを言うなお前。
「その、頑張ります」
ドライグは置いといて、俺はなんか無性に恥ずかしくなり、正座で真っ赤になり縮こまるのであった。
「うふふ」
そんな俺の姿を朱乃さんは幸せそうに見つめていた。
まるでお見合いみたいな空気はしばらく続くことになった。
『しかし、障子の向こうのリアス・グレモリーと天井裏の塔城小猫に触れなくて良いのかね?
どうでもいいか。
はあ、生身でカタルを視聴してえ』
まもなく、三大勢力会談。
世界はどう変わるのだろうか。
補足・説明。
アスカロン。
今話最大の被害者。
敵がプレゼントした武器を使うなんて有り得ないというのがイッセーの本音です。
ジャッ○ルさんという例もありますし。
ちなみに武器としてもイッセーの所持品よりかなり劣ってます。使われそうで朱乃さんに感謝してるでしょう。
ミカエル
教会、天界のトップを善人認定は無理。
正確には善か悪か決める側だから、信用することは未来永劫ありません。
ある意味で彼こそが神の人形から脱却した、真の堕天使。
朱乃さん。
イッセー帰宅後ユーベルーナさんに鬼電する予定。日頃からイッセーがハーレム王になると言っているためこんなことに。
ちなみに、イッセーの認識では人生で二番目に告白してくれた人。その事実を知ったら一番目(レイナーレ)を無かったことにすると思われる。
天井裏
ネズミを探していたと当人は証言しております。