異世界イッセー   作:規律式足

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第五十五話 駒王協定

 

 駆け寄ってきた仲間達を受け止めて、抱きつかれたままサーゼクス様、セラフォルー様、ミカエルの元へと行く。

 そこでは、ギャスパーの時間停止の効果が解かれ、駆けつけてきた三大勢力の軍勢が、戦闘後の処理をおこなっていた。

 倒した魔術師の死体を運搬したり、破壊された校舎の後片付けなどが必要だからだ。

 俺が旧校舎から新校舎をブチ抜いてしまったため、校舎に大穴を空けてしまったし、申し訳無い気持ちになる。

 グランバハマルでの最後の姿。即ち二十六となった俺の身体に離さないとばかりにピタリとリアス部長が抱きついている。

 どうやらこの姿になったせいで、俺の中にあった兵士の駒を一切感じなくなったらしい。

 主としての繋がりを感じない不安が、リアス部長のこの行動になっているのだろう。

 まあ俺にしても、気絶や寒気や吐き気なく女性に抱きつかれているので役得ではあるが。実に久しぶりの感覚である。

 女性恐怖症、その体質はこの世界に帰還したことで発生したものであることは間違いないようだ。

 

「お疲れ様、イッセー君」

 

 近寄るとサーゼクス様から労いの言葉を賜った。グランバハマルを知っている彼は俺のこの姿にさして反応はしない。

 ミカエルは驚愕に僅かな畏れを乗せた視線を向け、セラフォルー様は何故か口の端から涎を垂らしながら俺を見ていた。

 

「色々聞きてえが、すまなかった兵藤一誠」

 

 トップ陣が集結したところで、アザゼルがそう言った。

 

「お前の両親は、あの馬鹿が抜かしたような事には絶対に合わせない。その為に手を尽くすことをここに誓う」

 

 胸に手を当てながらアザゼルは誓った。

 それが彼の父親としてのケジメなんだろう。

 

「その上で、ありがとう。アイツを、俺の息子を、ヴァーリを殺さないでくれて」

 

 一勢力の頂点が頭を下げる。

 その意味が分からない人ではないだろう。

 だが、それでも彼は頭を下げた。

 馬鹿をやらかした息子の為に。

 

「その裏切り者を捕らえろ。

 白龍皇の光翼を失うな。

 神滅具所有者を他所に流すわけにいかない。というような言葉だったら殺していたよ」

 

 あの瞬間、アザゼルは父親だった。

 だからその心を汲んだのだ。

 

「ま、感謝するなら、協力の際に色を付けてくれたら良いさ」

 

 親指と人差し指で丸をつくり、対価を要求する。現金な発言だと思うが、それで楽になることもあるのだ。

 

「おう、たっぷりサービスさせて貰うぜ」

 

 その意図を正確に理解したアザゼルは、張り詰めた表情をようやく悪ガキのようないつもの顔に戻せたのだ。

 

「白龍皇は裏切ったのか」

 

「もともと、力にのみ興味を注いでいた奴だ。この結果にも、奴の行動にも納得している自分がいる。だが、それを未然に防げなかったのは俺の過失だ」

 

 寂しげなアザゼルの言葉に、その場の誰もがそれ以上に咎める気にはならなったようだ。

 従来であれば、既に暴れまくり甚大な被害をだしていたであろう白龍皇が、ここまで静かに過ごしていたのはアザゼルが保護していたからなのだから。

 

「さて、私は一度天界に戻り、和平の件と「禍の団」についての対策を講じようと思います。

 ですが、その前に」

 

 天使長ミカエルは俺を見据える。

 作業しながらも警戒、好奇、興味、畏怖、興奮、しながらこちらをチラチラ見る三大勢力の軍勢の中でだ。

 さらに朱乃さんなどのグレモリー眷属などは反応する余裕もなく、呆然とした表情で硬直していた。ちなみにソーナ会長は姉のように口の端から涎が。

 

「赤龍帝・兵藤一誠。貴方のその姿は一体?

 いや、貴方は何者なのですか?」

 

 ミカエルの問いは、事情を知るサーゼクス様とギャスパー以外全員の疑問だろう。

 というかさっきからずっと背中にしがみついて、頬をスリスリとしているギャスパーはいい加減離れろ。野郎のハグはノーセンキュー。

 

「この姿はかつての俺。

 グランバハマルという異世界で十年過ごした時のものだ」

 

「年齢が合わねえが、何か理由でもあるのか?」

 

 ぶっちゃけ鍛え過ぎて、外見からイマイチ年齢を察しづらいよな。

 

「中学の時にトラックに轢かれて、それから異世界に転移しちまったんだよ」

 

『正確には、グランバハマルの神に魂だけ拉致された形だな。向こうでの肉体はヤツが創造したモノだった』

 

「「「魂の拉致」」」

 

『相棒の肉体は、意識不明として入院していた。案外、意識不明者の何割かはグランバハマル行きなんじゃないか?』

 

 でも生存していた転移者は陽介さん以外見たことないよな。マガツコトノヌシは陽介さんが討伐したし。

 

「それでなんとか帰還したと思ったら、こっちでは数日程度。夢かと思ったぜ、記憶だけだったらな。

 けど、ドライグも同じ記憶を持ってたし、魔法は使えるし、収納魔法にはグランバハマルのアイテムがどっさりあるし、と証拠がいっぱいだ」

 

 夢であれば、とは何度も思ったがな。

 

「信じがたい話ですが、今の貴方の姿を見て、否定することはできませんね」

 

「うん、素敵な筋肉ね☆触って良い?」

 

「なら私も」

 

「シトリー姉妹は置いとくとして。その異常な魔法にも納得だ。神の権能レベルで精霊を使役している、とんでもないぞ」

 

 一部変なのが居たが、アザゼルは改めて精霊魔法のヤバさを言う。一勢力のトップが言うと重みが違うな。

 

「俺や陽介さんレベルで色んな魔法を使えるヤツはそう居なかったが、グランバハマルでは普通の魔法なんだけど」

 

 呪符が有れば誰でも使えるし。

 

「魔境だな。人間が強過ぎる世界だ」

 

 グランバハマルでは、天使や悪魔とて一種族になってしまうだろう。

 いや教会があるから、悪魔は無理か。

 

「しかし、グランバハマル、ですか。そういえば主が生前に一度口にされたことがありました」

 

「え?んなことあったか」

 

「ええ、酷く不快そうにその名を吐き捨てながら、むしずが走ったような表情をされました」

 

「あー、あの変顔の時か。確かに虫唾ダッシュな顔だったな」

 

 なるほど、この世界でもグランバハマルを認知している存在は居たのか。

 

「先代ルシファーなら知っていたのかもね」

 

「私達は知らないね☆」

 

 魔王様方は、引き継いだ経緯が経緯だから知らないか。悪魔として世代が違うからな。

 

「もっと詳しく知りたくもありますが、納得しました。ありがとうございます赤龍帝・兵藤一誠」

 

「いえ、もう隠すのも限界でしたし」

 

 ミカエルでこれだから他神話の主神とか見たらわかるよな。

 

「けどよ、そこで気になるんだが」

 

 するとアザゼルが、ある意味この場の誰もが一番気にしていたことを訊ねた。

 

「なんで、それだけの力があるのにお前はリアス・グレモリーに従うのを良しとする。

 今のお前が覇龍まで発動したら、世界最強の一角に食い込めるだろ」

 

 世界最強の存在。

 それを上位十名として選出したとしたら、その中に入るくらいには俺は強いらしい。

 それも、最強のドラゴン二種、インド神話の三神に次ぐレベルだ。

 そこまでかよ、と思わなくはない。

 ドライグから聞いてはいたが、それでも実感は無かったのだ。

 だが、

 

「百七十四回」

 

「ん?」

 

「俺がとある人物に負けた回数だ」

 

『イィィィヤァァァ!!思い出させないで相棒』

 

「その人は、俺と同じ転移者で、ただの人間で、セガユーザーで、神器なんて所有してなくて、特別な血筋でもない。グランバハマルで生き抜いただけのただの一般人なんだ」

 

『その時点でバケモノ』

 

「「「「は?」」」」

 

 信じがたい事実に、呆気にとられる一同。

 うん、本当に何なんだろあの人。

 

「強者として驕る?強者として振る舞う?できるかよ、そんなこと。

 確かにグランバハマルでも上位の強者にはなったが、勝てる気がしない人も、まだ何人もいるんだよ」

 

 エルフさんとか、アリシアさん(勇者極めた)とか、最強種の魔獣とか。

 

「今のお前が勝てないとか、正直信じられないが。ドライグの様子を見るとな」

 

『あー、光がパーッとなっている。彗星かな?いや彗星はもっとギュラダラグラして、アバロバンが構造的に、マウスアートな展開で』

 

「「「伝説の赤龍帝が壊れてる」」」

 

「百七十四回の戦いで九割くらい傷一つつけられなかったから」

 

 俺以上にドライグの精神的負荷がやばかったんだよなあ。

 

「カウンセラーを用意してやるから」

 

「良い医者を手配しよう」

 

「哀れな赤龍帝に救いを」

 

 ドラゴンのカウンセラーとか医者って居るのか。というか怨敵な筈なのに、天使にまで同情されてるよ。

 

「ではイッセー君についてはここまでにしておこう、色々気になるが、ドライグ君が限界みたいだしね」

 

『アパラパー』

 

 もう駄目かもしれない。

 

「納得できない配下もでるだろうが、脅威が明確となった以上は団結するしかねえ」

 

「長年の憎み合いもこれから分かり合うしかありませんね。それは戦い合うより、困難な道でしょう。ですが少しずつでも変わっていかないと」

 

「「禍の団」、彼らについては連携をとって話し合おう」

 

 サーゼクス様の言葉に、トップ陣全員が頷いた。

 

「ミカエル様、例の件、お願いします」

 

 すると木場がミカエルへと頭を下げていた。

 

「貴方から進言のあった、教会内の件、信徒のみではなく熾天使自ら対処に当たりましょう。システムにかまけ、あまりにも不介入が過ぎました。貴方から頂いた聖魔剣に誓います」

 

 教会内の研究か。

 詳細まで知る余裕がないのもあって野放しだったようだからな。

 

「フリード、これで少しは」

 

 教会内も変わるきっかけになれば良いけどな。

 

「ミカエル、ヴァルハラの連中への説明はお前がしておけよ。下手にオーディンに動かれたら困るからな。あと須弥山にも今回のことを伝えとかないと煩そうだ」

 

「ええ、堕天使総督と魔王が説明しても説得力に欠けますからね、私が伝えておきます。『神』への報告は慣れてますから」

 

 その言葉を最後に、ミカエルは大勢の部下を連れて、天へ飛んでいった。

 アザゼルがそれを見届けた後、自身の配下達の前に言い放つ。

 

「俺は和平を選ぶ。堕天使は今後一切天使と悪魔とは争わない。不服な奴は去ってもいい。ついてきたい者だけ俺についてこい!!」

 

「「「我らが命、滅ぶその時までアザゼル総督の為にッッ!!」」」

 

 やはりカリスマもとんでもないよなアザゼル。

 それからは撤収作業だ。

 堕天使と悪魔は魔法陣を展開して帰還していく。俺が放り捨てて植木に突き刺さっていたガテレア様も、精霊魔法を解除してから運ばれていった。

 あれほどの軍勢がひしめき合っていた校庭も、もはや俺達だけとなる。

 堕天使で唯一残ったアザゼルは、大きく息を吐くと校門の方へと去っていく。

 

「後始末は、サーゼクスに任せる。俺は疲れた、帰るぞ」

 

 駒王町で滞在した住居へだろうか?

 

「そうだ兵藤一誠。お前の仲間の神器について色々見てやるよ。詫びにはまだ足りないがな」

 

「ありがとうございます」

 

 その申し出に俺は頭を下げる。

 

「白は力を、赤は日常を。どちらも純粋で単純なもんだ」

 

 そう至った経緯はエゲツないがな。とアザゼルは呟いて去っていった。

 

 西暦二〇✕✕年七月。

 天界代表天使長ミカエル、堕天使中枢組織「神の子を見張る者」総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファー、三大勢力確実代表のもと、和平協定が調印された。

 以降、三大勢力の争いは禁止事項とされ、協調体制へ。

 この和平協定は舞台になった俺達の学園から名をとって『駒王協定』と称されることになった。

 

 

 

「しかし、いつまでその姿なんだいイッセー君?」

 

「戻そうと思えば戻せますが、エイ」

 

「ヒャンッ?!」

 

 サーゼクス様の問いかけに俺は抱きついたままのリアス部長の胸を揉んだ。

 

「「「「あーー!!」」」」

 

「いつもの体質になる前に堪能しておこうかと」

 

 ぐへへへ、久しぶりの女だ。

 

『メイベルに恋してからは娼館通いを止めた癖に』

 

 おやお帰りドライグ。

 

『え?何のこと?ボクワカンナイ』

 

 うん。それでいいや。

 

「さあ、しっぽり楽しもうぜリアス」

 

「は、はい」

 

 頬を赤らめるリアスとこれからチョメチョメしようと自室に連れ込もうとしたところで。

 

【駄目だよ】

 

 その声は響いた。

 

『「えっ??」』

 

 聞こえたのは俺とドライグ。

 すると俺の身体は高校生2年生の転生悪魔の状態に戻り、リアス部長だけでなく、私もと抱きついてきた、朱乃さん、アーシア、ゼノヴィア、ギャスパーは離れろ、の感触と匂いを感じて。

 俺の心臓が止まった。

 

『もしや、あの体質は神だけではなく、精霊によるものか?年齢制限が厳しいのだろうか?』

 

 この度の騒動もいつものオチで幕を閉じた。

 

 





 補足・説明
  
 ドライグが壊れましたが、昔から実は頻繁にこうなっていました。言葉に意味はありません。

 二天龍については、公的には変わってません。
 ただドライグ達からしたらライバル認識ではありません。
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