異世界イッセー   作:規律式足

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 話が進まない。
 でも少しずつでも進むことが大切ですよね!



第六十三話 若手悪魔会合前。

 

 冥界に到着して人生の墓場へと引きずり込まれつつある翌日。

 グレモリー邸にて、俺は奥さまに命じられた悪魔、貴族、グレモリー家について勉強を行っていた。

 命に関わるくせに、ドライグ以外誰も教えてなんてくれないグランバハマル時代とは違って、教育して頂けるのはありがたい。

 隣の席にミリキャス様も居られて、共に勉強されているのだから、だらしない姿は見せられないとよりいっそう思うのであった。

 ちなみに、他の眷属の皆はグレモリー領の観光をしているそうだ。アーシアとゼノヴィアは自分達も勉強すると申し出たのだが、日頃から勤勉なあの二人はもっと楽しんだ方が良いと思う。

 

「若様、悪魔の文字はご存知でしょうか?」

 

「はい大丈夫です。転化してから学びましたので」

 

 グランバハマル帰還後の趣味が語学勉強だったからな。悪魔の転化によって、会話はできても文字は習得できないのでリアス部長に教材を貰って勉強したんだ。

 

「素晴らしい。流石は若様。では、次はグレモリーの歴史について」

 

 ところで、教育係の皆さん?

 若様呼びとか、少しは本音を隠してください。

 奥さまがリアス部長の帰宅を告げにくるまで俺の勉強は続くのだった。

 

 

 

 リアス部長達がグレモリー領観光ツアーから帰ってきてすぐに俺達は例の列車で魔王様がいらっしゃる領土へ移動した。広大な領地も、宙に浮かぶ巨大な長距離転移用魔法陣を潜り抜けることでショートカットできる。

 目的は、若手悪魔達の顔合わせ。

 上級悪魔の恒例行事で、リアス部長と同世代の悪魔達が一同に会する。名門、旧家といった由緒ある上級悪魔の跡取りが魔王や上層部の方々の元に集まり、挨拶をしながらお互いを意識し合うとのことだ。

 リアス部長とソーナ会長の参加する行事。果たしてどうなることか。

 しかし、上層部の方々か。

 ミルたん関係で、顔こそ見てないが連絡を取り合っているが、どのような方々なのか。

 先日の襲撃事件でもカテレア様の捕縛についてで、感謝の言葉と特別報酬を与えられた。そのためきちんと評価してくれる存在だとこちらは認識しているが。

 ちなみにカテレア様だが、現在上層部にて説得及び懐柔を行われているとのこと。セラフォルー様への愚痴大会になりつつあるらしいが、彼女を引き入れられれば旧魔王派を切り崩せるきっかけになるそうだ。なにせ、中心人物の一人がカテレア様の恋人とのことなので。

 そんな思考に耽っていると、ついに魔王領の都市ルシファードについた。

 旧魔王ルシファー様がおられたと言われている冥界の旧首都だ。

 こちらはグレモリー領とは異なり、近代的な発展を遂げていた。

 並ぶ建物群も日本の最先端を模しており、自動販売機まで設置してあった。

 冥界でのクーデターの戦場になったことから、都市の再建と共にこのような様式になったのだろう。

 

「このまま地下鉄に乗り換えるよ。表から行くと騒ぎになるからね」

 

 木場がそう教えてくれる。随分と冥界は人間界の技術を取り入れているようだ。

 

「キャーッ!リアス姫様ぁぁぁっ!」

 

 突然、黄色い歓声が聞こえてくる。見れば駅のホームにいた悪魔の方々が俺達、リアス部長を憧れの眼差しで見ていた。どうやら部長は人気者らしい。

 

「部長は魔王の妹。しかも美しいものですから、下級・中級悪魔達の憧れの的なのですよ」

 

 朱乃さんがそう説明してくれた。駒王学園でも御姉様として人気だったが、冥界ではさらに魔王の妹という点も加わるからより人気があるのだろう。

 

「ヒィィィ、悪魔がいっぱい」

 

 俺の背中に張り付いたギャスパーが悪魔の多さと声に反応して慌てふためいていた。元引き篭もりに外の世界が辛いのはわかるが、頬を擦り付けたり、匂いを嗅ぐのはやめろ。いい加減振り落とそうかなこの男の娘。

 

「困ったわね。騒ぎになる前に急いで地下の列車に乗りましょう。専用の列車は用意してあるのよね?」

 

 リアス部長は連れ添いの黒服男性の一人に訊く。ボディガードらしき彼らは、グレモリー家から警備としてついてきてくれた。

 

「はい。こちらです」

  

 こうして俺達黒服さん達に先導され、地下鉄へと移動した。

 

「リアス様ぁぁぁっ!」

 

 男性悪魔の声もした。リアス部長はどこでも大人気なんだな。彼女は苦笑しながらもファンサービスするかのように男性の群れに手を振っていた。

 

 

 地下鉄から乗り換え、さらに揺られること五分ほど。

 着いたのは、都市で一番大きい建物の地下ホームだった。

 若手悪魔、旧家、上級悪魔の皆様が集まる会場がこの建物にあるのだ。ボディガードの方達はエレベーター前までしか随行できず、ここからは職員以外は、招かれた当人とその眷属のみだ。

 

「皆、確認するわ。何が起こっても平常心でいること。何を言われても手を出さないこと。上に居るのは将来の私達のライバル達よ。無様な姿は見せられない」

 

 いつも以上に気合の入った言葉。ここから先は次代の悪魔としての戦場の一つだからだ。立ち振る舞い一つが将来を左右する。

 仕える主に恥をかかさない。

 眷属悪魔として、それを第一としなければ。

 エレベーターが止まる。

 この先に冥界の次代を担う者達がいるのか。

 一歩踏み出すとそこは広いホール。使用人達がこちらに会釈をしてきた。

 

「ようこそ、グレモリー様。こちらへどうぞ」

 

 使用人のあとに続く俺達。通路を進んでいくと、一角に複数の人影があった。

 

「サイラオーグ!」

 

 部長がその人影に気づいて声をかける。

 その人物も、声に気づき近づいてきた。

 黒髪短髪の野性的なイケメン。細身になりがちな悪魔には珍しく、体格が良く、筋肉質な鍛えられた肉体だ。戦士か武闘家を思わせる、今まで見たことないタイプの悪魔だ。

 その瞳は紫色で、顔の作りはリアス部長、いやサーゼクス様に似ているような気がする。

 

「久しぶりだな、リアス」

 

 部長とにこやかに握手を交わしている。若手悪魔の一人なのは間違いないか。魔力自体はそれほどでもないようだが、実力はヴァーリに匹敵するくらいか。連れている眷属もライザー師匠の眷属達よりは強いな。

 

「ええ、懐かしいわ。変わりないようで何よりよ。初めての者もいるわね。彼はサイラオーグ。私の母方の従兄弟でもあるの」

 

 なるほど、だから面識があるのか。

 

「俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

 

 バアル。魔王に次ぐ役職である『大王』か。

 確かリアス部長の破滅の魔力も元はバアル一族由来のものだったな。

 

「それで、こんな通路で何をしていたの?」

 

「ああ、くだらんから出てきただけだ」

 

「くだらない?他のメンバーも来ているの?」

 

「アガレスもアスタロトも既に来ている。挙げ句ゼファードルだ。着いた早々ゼファードルとアガレスがやり合い始めてな」

 

 心底嫌そうな表情だ。

 しかし、ゼファードルという人物だけ家名ではないあたり、サイラオーグ様としては一段低く見ているのだろうな。どうやら既に問題は起きているのか。

 ドオオオオッ!

 建物が大きく揺れ、巨大な破砕音が聞こえてきた。どうやら伝統ある若手悪魔の顔合わせの行事に、場を弁えるセンスの無い者が混じっているようだ。

 原因が気になった部長が、音のした大きな扉の先へと向かった。

 

「まったく、だから開始前の会合などいらないと進言したんだ」

 

 サイラオーグ様は嘆息しながら眷属を引き連れて部長の後に続いた。

 最悪の場合は俺が鎮圧するか。

 予想されるくだらない諍いで、次期当主同士がやり合うよりは、上層部に伝手のある自分がやったほうがマシだろう。

 とりあえず、事前に伝えられた連絡先に報告と。上層部の皆さんは明らかにこうなることを予測してたな。

 開かれた大きな扉の先には、破壊され尽くした大広間があった。テーブル、椅子、装飾品も全部破壊されている。

 中央には二つに分かれた悪魔達が睨み合っていた。武器まで取り出して、一触即発の様相だ。

 片方は邪悪そうな格好の魔物と悪魔たち。もう片方は比較的普通そうな格好の悪魔一行。殺意に満ちたオーラを放っているようだが。

 だがフリード、コカビエル、ヴァーリ、に比べたら雑魚が威嚇しあっているに過ぎない。会談に護衛として集結した軍勢にすら劣るだろう。

 さらにはそんな連中を見ながら、優雅にしている悪魔達もいる。優しげな表情の悪魔だが、グランバハマルの貴族を連想させる者だな。なんか懐かしい気分だ。

 

「ゼファードル、こんなところで戦いを始めても仕方なくてはなくて?死ぬの?死にたいの?殺しても上に咎められないかしら?」

 

 先に口を開いたのは片方の女悪魔。

 あちらがアガレスの次期当主か。眼鏡をかけた鋭い眼差しの美少女。青色の露出のすくないローブを着ている。

 

「ハ、言ってろよ、クソアマァッ!俺がせっかくそっちの個室で一発しけこんでやるってんのによ!」

 

 なんで次期当主の集まりにこんなの来るんですかね?続けられた聞くに耐えない言葉を聞き流して、俺はそう思った。

 でも、やっぱり傲慢な馬鹿貴族の餓鬼ってこんなのが普通だよね!!

 

『なんで懐かしみながら癒やされてんだ相棒』

 

 だって知り合った悪魔貴族の人達が良い人ばかりで辛かったんだし。

 

『まあ同じ貴族なのにグランバハマルと差が激しかったからな』

 

「だからこそ、俺が開通式をしてやろうって言ってんのによ!」

 

 そうそうメイドを手籠めにするのはこんな感じのクズだったなあ(ほっこり)。

 顔に魔術的なタトゥーを入れている、パンクファッションのような姿をした男悪魔。

 悪魔、というか冥界の文化はどうなっているのか気になるなあ。もしやアレが最先端?

 で、騒動の理由は、ゼファードルがアガレス様(仮)に発情し絡んで、アガレス様(仮)がキレたと。

 馬鹿かな?

 ぶっちゃけどっちも。

 品性がないゼファードルは論外だが、アガレス様(仮)も対処法間違えてるよ。それでも貴族令嬢かい。

 仕方ないと呟き、騒動を収めようとサイラオーグ様が両陣営に割り込もうとしたが、上層部から「スキニヤッテイーヨ(意訳)」と返事を受けた俺が対処すべきだろう。

 

「皆様、落ち着いてください」

 

 威圧。

 言葉と共にそれを放つ。

 強者としての威を込めた気配の開放は、全盛期の俺なら龍種の群れとて逃げ出した(その後ろから打って狩った)。

 まだそこまでではないが、この場の連中程度なら生存本能を刺激させ、恐怖で動けなくするくらい余裕でできる。

 それはライザー師匠ほどのハーレム王としての自負と、ヴァーリ程度の実力が無ければ耐えられない。

 

「ッ!?」 

 

「ヒ、ヒェェッ?!」

 

 アガレス様(仮)は硬直し、ゼファードルは情けなく腰までついていた。

 やり過ぎたかな?

 イマイチ加減が難しい。

 

「上層部の皆様がお待ちです。此度の騒動には目を瞑るから姿勢を正して会合に臨むように、とのことです」

 

 両陣営の前にでて携帯機器を見せる。上層部の意思であると示しながら能面のように張り付けた笑顔でそう告げた。

 その俺の言葉に、両陣営全員がコクリコクリと必死に頷いていた。

 が、

 

「カッケェ」

 

 怯えて腰を抜かしていたゼファードルだけは何やら妙な視線を向けだしていた。

 

「これが、白龍皇を一蹴した「史上最強の赤龍帝」か」

 

 俺の威圧に耐えきった唯一の人物、サイラオーグ様は戦慄しながらそう呟いていた。

 

「何事かしら?」

 

 イソイソと動きだした現場の中、遅れてきたソーナ会長はそう言いながら眷属を連れて現れた。

 

 まだ、お披露目まで時間はある。

 先が思いやられるよ。

 




 
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