異世界イッセー   作:規律式足

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第六十六話 修行

 

 アザゼル先生、木場、ギャスパーと裸の付き合い(温泉)した次の日。俺達はグレモリー本邸の広い庭の一角に集まっていた。

 服装は全員ジャージ。堕天使総督アザゼルのジャージ姿はレアなのでは、と思ったが普段着が浴衣の人だから堕天使本部ではありふれた姿なのかもしれない。

 庭に置かれているテーブルと椅子に皆で座って修行開始前のミーティングを始めた。

 アザゼル先生が用意した資料とデータを広げる。それを見せながら説明するようだ。

 

「先に言っておく。今から俺が言うものは将来を見据えてのトレーニングメニューだ。すぐに効果が出る者もいるが、長期的に見なければならない者もいる。ただ、勘違いするな、お前らは成長中の若手だ。方向性を誤らなければ良い成長をするだろう。さて、まずはリアス。お前からだ」

 

「はい」

 

 最初に呼ばれたのはリアス部長だった。

 アザゼル先生が告げた内容は、リアス部長が悪魔として高スペックな存在で、特別なトレーニングを課さずとも、成人する頃には最上級悪魔候補になれるだろうということ。

 だが、部長はそれでは満足ができなかった。現在の世界情勢からしても、最上級悪魔候補では足りないと感じたのだろう。

 

「なら、この紙に記してあるトレーニングを、決戦日直前までこなせ」

 

 アザゼル先生から渡されたトレーニングメニューを見て、リアス部長は首を傾げた。そこには期待していたような特別なトレーニングではなかったからだ。

 

「それで強くなれるのか、って疑問は最もだ。だがな、お前は自身が前線で戦う必要のないくらい眷属が充実している。ならばその眷属を指揮する『王』としての能力を高めた方が良い。駒を活かすも殺すも指し手次第だからな」

 

 元より秀でた基礎能力を伸ばしつつ、伸びしろのある点を向上させる。それがリアス部長の育成方針というのか。

 ドライグも同感らしいから、アザゼル先生の見立ては正しいんだろうな。

 

「次に朱乃」

 

「・・・・・・はい」

 

 先生に呼ばれたが、朱乃さんは不機嫌というか苦手そうな反応をしている。会談前に教えてもらった彼女の過去が堕天使という種族、そのリーダーに反感を抱かせているのだろう。

 

「お前は、バラキエルから雷光の使い方を習え」

 

「ッ?!」

 

 その能力向上だけを見れば最善な方法に、事情を知る者たちは激昂しそうになる。

 

「ってのは将来的な話だな。今の情勢では武闘派筆頭のアイツを連れてくることなんてできねえし。雷光を使いだしたからといっても、バラキエルとの件を納得したからではないんだろ?」

 

「すいません。私も、愛する人ができたから両親のことも理解しようとしているのですが」

 

 何かに耐えるように頭を下げる朱乃さん。

 だが、朱乃さんよりも辛そうに表情を歪めたアザゼル先生は頭をガシガシと掻きながら言う。

 

「忌み嫌っていた雷光を、主の、友のために使ったお前は凄くて偉いよ。だから、バラキエルとの件はゆっくりと折り合いをつけていけばいいさ。雷光の操作については似たような能力やら神器持ちを探したが見つからなくてな、だからフェニックス戦でイッセーから渡された剣があるだろ?そっちを伸ばす」

 

「はい、私の宝物です」

 

 ギュッとトレーニングだからと持ってきていた古代魔導具の剣を抱きしめる朱乃さん。

 しかし、この血統固有の能力こそが指導する上で厄介なんだよな。似たような能力はあっても本質は違うから指導しきれない、必然的に親など親族しか指導ができなくなるんだ。

 悪魔が純血悪魔を増やそうと躍起になっている理由の一つでもあるんだ。

 

「つーかイッセー、この剣って何なんだ?教会の装備でも、悪魔の鍛えた武具でもないよな。聖剣やら魔剣は教会が回収独占してるから、悪魔や堕天使に流れたりしないんだが。神器でもねえし」

 

 聖剣や魔剣の担い手は基本的に人間みたいだからな。魔力で物質生成できる悪魔は武具を生み出さないし、堕天使と天使は光力による光の槍が主武器だ。

 だから悪魔が神器に匹敵する武具を所持しているのはかなり珍しいんだ。

 

「グランバハマルの遺跡で入手した、古代魔導具の一つです」

 

「一個売ってくださいお願いします」

 

 あまりにも早い購入希望。俺じゃなければ見逃しちゃうね。

 

「まだありますから、一個くらいなら。普段つかわないですし」

 

『駄目、コレ俺の』

 

 後でカタルのアクションフィギュア買ってあげるから。

 

『五個な』

 

 ドラゴンらしいお宝収集欲を発揮しやがって。

 

「というか異世界オーパーツを簡単に売り渡すなよ」

 

 欲しがっといてなんだがとアザゼル先生が言う。

 

「聖剣レベルの武器ですけど、結界魔導具ほど希少ではないので」

 

「あー、グランバハマルの道具とかメッチャ気になるが話が逸れて終わんなくなりそうだ。とりあえず話を元に戻すぞ」

 

 自身の欲求をなんとか抑えてアザゼル先生は、トレーニングへと話を戻す。

 

「その古代魔導具は、雷光を収束できる。それだけで下手な聖剣以上の攻撃を出来るようになるから使いこなせるように剣術を学べ。遠距離タイプの弱点を克服できるようになるだろ」

 

「はい!!」

 

 俺のせいだけど、グレモリー眷属に剣士タイプが増えちゃいそう。

 あと大事にしてる剣を使えるからか、朱乃さんも嬉しそうだ。

 

「次は木場だ」

 

「はい」

 

「まずは神器の禁手状態を一日持たせられるようにしろ。お前の禁手は通常状態の完全な上位互換。もはや魔剣創造を使う利点なんて消耗の低さだけだからな」

 

 魔剣創造の様々な属性の魔剣を、全て聖魔剣で創り出せれば強力だよな。

 

「剣術の方は、師匠にもう一度習う予定だったな?」

 

「はい、僕の三段突きの話を聞いたようで、久方ぶりに稽古をつけてやると」

 

 天然理心流の沖田総司と稽古か。伝説の三段突きの打ち合いとか見れるかな?

 

「次、ゼノヴィア。お前はデュランダルを使いこなせるようにすることと、もう一本の聖剣に慣れてもらう」

 

「もう一本の聖剣?」

 

 アスカロンを貸し出すのかな?

 

「ああ、ちょいと特別な剣だ。デュランダルを完全に使いこなすのは当分無理だろうしな(ボソッ)」

 

 さらっと厳しい本音溢れたよね。

 フリードに普通に負けたからなあ(アレは当人の覚悟が異常だったのもあるけど)。

 

「次にギャスパー」

 

「はいぃぃぃぃ?!」

 

 元引き篭もりで対人恐怖症なところに堕天使総督に声をかけられて既に涙目だ。

 

「ビビるな、とって食いやしない。俺は男の娘よりもTS派だ(性癖暴露)。お前の最大の壁はその恐怖心だ。実力あってもビビったら本来の力を発揮できないからな。スペックはグレモリー眷属随一なんだから、それを活かせるように精神を鍛えるつもりだ」

 

 なんかいらん情報もあったけど、ギャスパーは勿体ない存在の筆頭だからな。心構えが身についたらそれだけで最強になれるだろう。

 

「はいぃぃぃぃっ!当たって砕けろの精神でやってみますぅぅぅぅ!」

 

 吸血鬼だし、砕けても蝙蝠になれば平気だよな、うん。

 

「同じく『僧侶』のアーシアと、使い魔のラッセー」

 

「は、はい!」

 

「ガー!」

 

 アーシアも気合が入っているか。自分は皆の役に立ってないと日頃から気にしているからな。兵藤家はフェニックスの涙の在庫もあるし。うん、俺のせいじゃん。

 

「お前も基本的なトレーニングで、身体と魔力の向上。メインは神器の強化だな。ラッセーはたくさん食べて早く大きくなりなさい」

  

 回復役としての役割は今でも果たしているから、能力が向上するだけで充分過ぎるからな。そして、ラッセーの扱い。

 

「通常の神器の使い方は極めているようなもんだからな。神器を使った経験はイッセーに次ぐレベルだ。だからこそ、それを発展させるんだ。回復のオーラを飛ばす、リンクの繋がっているラッセーで回復させるとかな」

 

 神器の解釈拡大か。

 禁手自体が所有者の意思に左右されるから可能性はあるだろう。また使い魔は主と視力のリンクが可能、神器の力を使用できるかもしれない。

 グリゴリの理論上でも範囲の拡大が可能とでているらしいしな。

 

「だが発展は自力あればこそ。基本トレーニングを、ちゃんとこなしておけよ?」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

「ガー!」

 

 アザゼル先生の言葉にアーシアとラッセーは深く頭を下げた。

 

「次は小猫」

 

「・・・・・・はい」

 

 小猫ちゃんは、相当気合が入っているな。なんだろうな、ここ最近は調子が悪そうだったのに、妙に張り切っている。

 

『最近はストーキングも控え目だったしな』

 

 控え目なだけでしてるんかいっ!!

 彼女の気配は妙に察知しにくいんだよな。

 

「お前は申し分のないほど、オフェンス、ディフェンス、『戦車』としての素養を持っている。身体能力も問題ない。だが、リアスの眷属には『戦車』のお前よりもオフェンスが上の奴が多い」

 

「・・・・・・・・・・・・わかっています」

 

 バ火力な奴ばかりだからな。

 というか悪魔特攻が四人いるおかしな眷属集団です。

 ハッキリ言う先生に小猫ちゃんは悔しそう表情を浮かべていた。

 自分の役割が無くなる。それを気にしているのか。今までは、小猫ちゃんが最前線で受け止め、木場が遊撃、朱乃さんとリアス部長が遠距離火力で仕留めるだったけど、俺とゼノヴィアがその役をできるからな。

 というか最近は、はぐれ悪魔討伐の仕事が一切無くなっているらしい。間違いなく原因は、魔法少女と使い魔だな。

 

「新たな役割の模索がお前には必要だ。基礎の向上に合わせて、リアスとフォーメーションをよく話し合え。 

 そして、お前が自ら封じているものを晒け出すことも考えろ。自分を受け入れなければ大きな成長なんて出来やしないのさ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 その言葉に小猫ちゃんは俯いてしまった。先程の気合も「晒けだせ」の一言で一気に消失してしまった。

 小猫ちゃんの秘めた力か。ドライグは、なにか知らないか?

 

『妖怪っぽいから、その力じゃないか?俺も日本の妖怪には詳しくないんだ。この国の妖怪って小さい島なのに多種多様過ぎるし』

 

 日本ってやっぱりおかしいよ。

 それはさておき、ほってはおけないよな。

 

「小猫ちゃん。お菓子食って笑え」

 

 俯いたその顔に、収納空間から取り出したお菓子を押し付ける。

 

「兵藤先輩」

 

 呆然とこちらを見上げる彼女。

 でもこれは君がしてくれた事だよ。と俺は笑いかけた。

 

「はい」

 

 小猫ちゃんは頷いてから、もそりもそりとお菓子を食べはじめる。

 まだ全然だけど、さっきよりはマシだな。

 

「さて最後にイッセーだが。自分より強いヤツを鍛えるとかふざけんなバカヤロー」

 

「初っ端からぶっちゃけ過ぎでは?」

 

 その通りではあるけど。

 時計をチラ見したアザゼル先生の本音に、その場の全員が苦笑した。

 

「もうグレモリー家で婿教育されてろよと思うが。とりあえず修行内容は効果あるか微妙だが考えた」

 

 微妙なんかい。

 ん?なんか懐かしい気配が接近してくる。

 

『龍王クラスのドラゴンか。この気配は、アイツだな』

 

 グランバハマルで頻繁に狩ったため、ドラゴンの気配には敏感だ。だから上を見上げたら。

 

「その内容だが。

 龍王と山籠りだ」

 

 アザゼル先生の言葉と同時に、飛んできたドラゴンは轟音と共に着地した。

 巨体の怪獣のような姿。

 四足に翼のある、いわゆる西洋のドラゴンだ。

 

「龍王、ですか」

 

「そうだ、イッセー。こいつは」

 

 先生が紹介しようとするが、その前に自身で名乗りだす。

 

「俺の名はタンニーン。

 元六大龍王の一角で、現在は転生悪魔となり、冥界悪魔領のドラゴンを取りまとめている」

 

「転生悪魔のなかでも最強クラス。最上級悪魔だ」

 

 なるほど、強いな。

 禁手状態のヴァーリよりも上かな?

 

「『魔龍聖』タンニーン。その息吹は隕石の衝撃に匹敵するとさえ称される。現役で活動している数少ない伝説のドラゴンだよ。悪いがタンニーン、この赤龍帝の修行に付き合ってやってくれ」

 

「ふざけるなよアザゼル!!殺す気か貴様!!

 史上最強と名乗るからどんな大言野郎と思っていたが、自称よりも遥かにバケモノだろうが!!」

 

 あー、わかる人にはわかるんですね。

 

『タンニーンはドラゴンの中でも長老格の古き強き龍だからな』

 

 キャリアが半端ないタイプか。

 

「じゃあ、イッセーにはタンニーンへの攻撃を禁止させるから」

 

「それで修行になるかっ!!」

 

「山籠りは修行の定番だしよ」

 

 アザゼル先生とタンニーン様の言い合う中、俺はそっと手を上げた。

 

「あー、試したいことがあるので。山籠りはしますから、その監督をお願いできますか、タンニーン様」 

 

 一人でやっても良いけど。

 呼ばれて何もしないのも駄目だろうからな。

 

「まあ、それなら良いが」

 

「何をするんだイッセー?」

 

「ドライグの思いつきをちょっと」

 

 本邸や都市部で試すのは周囲に被害がでないか、心配だしね。

 

「期間は人間界の時間で二十日間ほど。頼んだぞ」

 

「仕方あるまい」

 

 そう言い残すと、先生は手を振って去っていく。売ってくれと言われた剣型の古代魔導具を渡したからウキウキとしていた。

 

「さて、各自各々に修行 メニューをこなすこと。いいわね」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

 部長の言葉に全員で頷いた。

 

「じゃあ行きますか。タンニーン様」

 

「リアス嬢。あそこに見える山を貸してもらえるか?そこでやろう」

 

 身一つでサバイバルか。懐かしいや。

 

「ええ。お願いするわ」

 

「なに、見ているだけだ」

 

 羽ばたくタンニーン様に合わせて、俺も悪魔の翼を広げる。そういえば、思い切り翼で飛ぶのもはじめてかもな。

 

「いってきまーす!」

 

 タンニーン様を追いかけながら、俺は手を振って飛んでゆく。

 高二の夏。

 大事な青春の一ページ。

 冥界で龍王と山籠りか。

 そんな夏休みもありだよな。

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