異世界イッセー   作:規律式足

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 シリアス回かなと。
 閲覧注意です。



第六十九話 小猫

 

「はい、そこでターン。駄目ね。キレがないわ。一誠さん、ボケッとしてないで最初からよ」

 

 山籠りを一度切り上げて、奥さまに呼び戻された俺はグレモリー家別館にて、ダンスの練習に励んでいた。

 如何にグランバハマルで冒険者をしていたとはいえ、ダンスの経験は無い。そのため中々上手くいかない、

 ドレス姿の奥さまと密着しながらのダンスレッスン、身体が触れ合う度に意識が遠のくが、これは仕事だからとなんとか耐え抜く。

 心臓よ、止まってくれるなよ。

 

「少し休憩かしら」

 

 奥さまから離れて何度も深呼吸を繰り返す。体内の氣の巡りを正して、回復に専念せねば。

 ダンスレッスンをはじめたということは、近いうちに眷属としてイベントに参加する可能性が高い。木場やギャスパーなら既に身についているだろうが、俺はダンスに関しては女子との密着する恐れから避けていたからな。

 

「貴方は、リアスと共にいずれ社交界にも顔を出さなければならないのですから」

 

 婿修行。

 その言葉が頭をよぎる。ポツリと零した奥さまの表情は本気そのものだった。

 踏み込んだら人生が詰む、そう感じた俺は話を逸らすと共に気になっていたことを尋ねる。

 

「すいません。質問をよろしいでしょうか?」

 

「なんでしょう?」

 

「今朝倒れたと聞いた、小猫ちゃんは無事なのでしょうか?」

 

「ええ。ただのオーバーワークですので、一日二日、ゆっくり休めば回復するでしょう」

 

 それはあくまで、肉体は、だろうな。

 

「彼女は冥界に来る以前から、様子がおかしかったので、すごく心配なんです」

 

「彼女はいま懸命に自分の存在と力に向きあっているのでしょう。難しい問題です。けれど、自分で答えをださねば先には進めません」

 

「存在と、力、ですか」

 

 やはり彼女にも事情はあるのか。

 

「そういえば、貴方はリアスの眷属になってまもなかったわね。知らなくて当然ですね。少しお話をしましょう」

 

 奥さまは俺に対面するように座り、とある話を語りだした。

 それはとある姉妹猫の話だった。

 姉妹の猫はいつも一緒だった。寝る時、食べる時、遊ぶ時、親と死別して帰る家も無く、頼る者もなく、二匹はお互いを頼りに懸命に一日一日を生きていた。

 

「二匹はある日、とある悪魔に拾われました。姉の方が眷属になることで妹も一緒に、悪魔の駒を下賜される程の悪魔の館に住めるようになりました。やっとまともな生活を手に入れた二匹はこれから幸せに過ごせると信じていたのです」

 

 だが、異変は起こる。姉猫は、力を得てから急速なまでに成長を遂げたそうだ。隠れていた才能が転生悪魔となったことで一気に目覚めたそうなのだ。

 なんとなく陽介さんの見世物小屋脱出の話を思い出したが、アレとは違うだろう。

 

「その猫はもともと妖術の類に秀でた種族でした。その上、魔力の才能にも開花し、挙げ句仙人のみが使えるとされる仙術まで会得したのです」

 

 短期間で主を超えてしまった姉猫は力に呑み込まれ、血と戦闘だけを求める邪悪な存在へと変貌していったそうだ。

 

「力の増大が止まらない姉猫は遂に主である悪魔を殺害し、『はぐれ』となり果てました。しかも『はぐれ』の中でも最大級に危険な存在と化したのです。その実力は討伐部隊をことごとく壊滅させるほど」

 

 故に、悪魔達はその姉猫の討伐を一旦取りやめたという。

 

「討伐を失敗した悪魔達は、残された妹猫に責任を追求しました。『この猫もいずれ暴走する。始末すべき』と。処分される予定だったその猫を助けたのがサーゼクスでした。サーゼクスは妹猫に罪はないと、上級悪魔の面々を説得したのです」

 

 そして、サーゼクス様が監視することで彼女はかろうじて命を繋いだのか。

 信頼していた姉の変貌と、周囲から責め立てられた事、それにより妹猫の精神は崩壊寸前だった。

 けれどサーゼクス様から託されたリアス部長が、懸命に面倒をみて名前を与えることで、なんとか立ち直ったというわけだ。

 

「彼女は元妖怪。猫又をご存知?猫の妖怪、そのなかでも強い種族、猫魈の生き残りです。妖術だけではなく、仙術も使いこなす上級妖怪の一種なのです」

 

 塔城小猫という存在の事情を俺は知った。

 その上で朧げながらも実際に何があったのかを悟ってしまった。

 今の話は、悪魔側に伝わる、正しいとされる情報なのだろう。だが、あまりにも悪魔にとって都合の良すぎる話である。力に才能に呑み込まれる。それは確かにあり得る話で、仙術を扱う以上は邪気に染まるのも自然な話だ、何せ仙人にも邪仙となる者もいるのだから。

 でも、身寄りのない姉妹を確保して、片方を人質にして良いように使っていた貴族はグランバハマルにも当たり前に居た。

 今回の話もそうであるように俺は感じるのだ。まあ、問題はそれが悪魔にとって違法でもなんでもないことであるという点だが。

 

(やっぱり居るよな)

 

 他者を都合よく利用する存在。

 嫌悪感を抱く、ある意味で貴族らしい連中はこの冥界にも居るようだ。

 むしろ、今まで遭遇してこなかったことこそが奇跡なんだろう。

 

(割り切るしかないか)

 

 俺はソレを承知で貴族制の悪魔側につくと決めたのだから。

 

「イッセー?」

 

「リアス部長?」

 

 ダンスレッスンが終わり本邸へと移動し、小猫ちゃんについてと悪魔について考えていた俺は、リアス部長に声をかけられた。

 貴族らしくも、悪魔らしくもない、我が主に。

 すると彼女は唐突に抱きしめてきた。

 心臓が止まりますがな。

 

「あの、なにを」

 

「イッセーの匂いを久しぶりに堪能したい、という気持ちも当然あったわ」

 

 あっちゃったかー。

 

「でも、それよりもイッセーが辛そうに見えたから、抱きしめたくなったの」

 

 まったく、かなわないな。

 彼女のこんなところに惹かれてしまう。

 不条理蔓延る悪魔社会も、彼女の存在だけで肯定したくなる。

 こんな眷属を大切にする主ばかりならと、願ってしまうのだ。

 

「小猫ちゃんの過去を聞きました。それで」

 

「そう」

 

 事情を察したリアス部長は、俺の手を引く。

 

「ついてらっしゃい」

 

 

 

 案内された場所は、小猫ちゃんの部屋だった。

 既にリアス部長は小猫ちゃんの中と話を済ませたそうなので、俺だけ入るように言われた。

 広い部屋に入り、寝室の方に足を向けると、朱乃さんがベッド脇で待機しており、そのベッドに小猫ちゃんが横になっていた。

 猫の妖怪か。  

 見れば普段は隠していたのか、頭部に猫耳が生えていた。今は隠すことができないほどに消耗しているのだろう。

 可愛らしいと思うが、元気な時に見たかったと残念に思った。

 

「イッセー君。これは」

 

 朱乃さんが説明しようとする。

 

「事情は奥さまから」   

 

 朱乃さんにそう告げて、ベッド脇に移動して、寝ている彼女の様子を窺う。

 俺の寝ている姿は彼女に散々見ら(ストーキング)れたのに、俺が彼女の寝ている姿を見るのははじめてだな。

 特に怪我の類はないようだが、やはり体力の消耗が原因なんだろう。

 

「やあ、身体は大丈夫?」

 

 俺は笑顔で訊く。すると小猫ちゃんは半眼で呟いた。

 

「何をしに来たんですか?」

 

 不機嫌な声だ。今までにないぐらいの。俺が来たことで不快にさせてしまったか。

 

「心配だから、って言ったら駄目かな?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 ブスッとしたまま彼女は答えない。

 

「小猫ちゃん、聞いたよ。色々とさ、とにかくオーバーワークは駄目だ。アザゼル先生のことだから、そうならないギリギリくらいのトレーニングメニューにしたんだろうし。身体を大切にしないと」

 

「なりたい」

 

 小猫ちゃんが呟く。心から溢れて零れた、自身の本音を。

 

「・・・・・・」

 

 彼女は沈黙する俺を真っ直ぐ見つめ、目に涙を溜めながら、ハッキリとした口調で言う。

 

「強くなりたいんです。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん、そしてイッセー先輩のように心と体を強くしていきたいんです。ギャー君も出てきてから強くなってます。アーシア先輩のように回復の力もありません。このままだと私は役立たずになってしまいます。『戦車』なのに、皆の盾になることすらできない。私が一番弱いから。お役に立てないのはイヤです」

 

「小猫ちゃん」

 

 やはりソレだよな。

 悪魔特攻の聖剣と、禁手の聖魔剣、雷光。素質なら随一のギャスパーに、回復ならば並ぶ者ないアーシア。そして桁外れの実力である赤龍帝の俺。

 彼女はボロボロと涙を溢しながらも続ける。

 

「けれど、内に眠る力を、猫又の力を使いたくない。使えば私は、姉さまのように。もうイヤです。もうあんなのはイヤ」

 

 彼女の泣き顔ははじめて見るな。

 今まで感情を表に出さない子だったから、その様は衝撃的だ。

 自身の姉のやってしまった事。その姿を見た彼女は、自身もそうなるのでないかと恐怖している。大切な仲間を傷つけるのではないかと。

 だが、力は欲しい。

 このまま役立たずになるのもイヤだから強くなりたい。手の届く位置にある力が、暴走の危険があるという事実が彼女を苦しめているのだ。

 あー、クソ。

 なんで俺は、俺が強いだけなんだ。

 誰かを強くしてやれるなら、彼女の悩みと苦しみをなんとかしてやれるのに。

 強いだけで何もできない、そんな自分に反吐が出る。

 

「イッセー君、あとは私達に任せてください」

 

「はい」

 

「貴方は優しい人です。けれど距離を置くことも大切ですわ。それに私も小猫ちゃんと同じだったからよく分かるの。自分の全てを肯定できなくても、理解しなくては先に進めないことを小猫ちゃんも頭ではわかっているのです。ただ、勇気が少しまだ足りないのです。一歩踏み出すきっかけが」

 

 朱乃さんは忌み嫌う堕天使の力を使えるようになった。けど、それは完全に解決したわけではない。父であるバラキエルとの蟠りはまだある。

 だからこそ理解が出来るのだろう。

 でも、俺にも伝えたい気持ちはある。

 

「君は役立たずなんかじゃない」

 

「!?」

 

「君が居ることで俺は救われている」

 

「イッセー、先輩」

 

「君が暴走しても、主を殺したり、仲間を傷つけたりはしない。最強の俺が守ってみせる。皆を、君を」

 

「わ、私は」

 

「君は色んなことが連続で畳み掛けてきて、心がいっぱいになってしまったんだ。だったら一つずつ解決していこう。纏めてだとどうにもならないことでも、一つずつなら乗り越えていけるから。もちろん手助けはするしね」

 

 彼女の頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫だよ。君は一人じゃない」 

 

 一人ぼっちで暗闇を歩くのはとても辛い。泣き出して、潰れて、倒れてしまうほどに。

 だから思い出して欲しい。

 手を伸ばせば掴んでくれる仲間がいることに。

 

「イッセー先輩は、優しいですよね」

 

「そうかな?自分じゃ分からない。君だって仲間を傷つけたくないと苦しむ、自身の優しさに気づいてないでしょ」

 

「はい」

 

 根本的な解決には至らない。

 けど、優しい彼女が少しでも楽になれたらと願い、俺は彼女の頭を撫でる。

 

 用事を済ませた俺は山へと戻る。

 先日よりもやる気を出しながら。

 





 補足・説明。

 イッセーは猫姉妹の裏事情をほぼ正確に予想していますが、その件では動きません。悪魔社会では合法の範囲だからです。ただ、三大勢力の和平をきっかけに眷属集めに関しては徐々に規制されていきます。レーティングゲームをこれからはじめる人は大変ですね。 
 ドライグさんはダンマリです。
 根本的に理解できない話ですからね。口には出しませんが弱いから悪いとは思っています。
 強いだけで何もできない。
 サーゼクスも同様の苦しみと悩みを抱えているため、できる限り救おうと手を差し伸べています。
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