異世界イッセー   作:規律式足

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 オリジナル設定ありです。
 キャラブレイク、原作改変もあるので閲覧注意です。今回の話は受け付けない方がいるかもとかなり不安ですね。




第七十二話 真実

 

 異世界グランバハマルに転移した俺はひたすら故郷に帰りたかった。両親の元に帰りたかったんだ。

 転移した直後の山奥でのサバイバル生活。

 人間の村を見つけてからの冒険者生活。

 帰還法を探すための貴族の子飼い生活。

 その果てに同じ転移者である陽介さんと出会い、ようやく希望を見つけられた。

 メイベルという初恋の、俺を差別しない人とも出会えた。

 そんなグランバハマル生活で最悪だった期間は、貴族の子飼い時代だろう。

 グランバハマル生活の三分の一を占める三年ぐらいの期間。俺は人間という生き物の醜さを見せつけられ、そんな連中に取り入るために手を汚した。

 全ては大都市や王宮に秘蔵されている蔵書、知識を得るために。俺は悪趣味な貴族共の命じるままにあらゆることをした。

 それこそ、元の世界ではフィクションだと思っていた実際にはありえないと思っていた悪事を。

 雇われた貴族の政敵を暗殺した。

 雇われた貴族が欲しがった女を攫った。

 雇われた貴族に襲いかかる復讐者を始末した。

 雇われた貴族へ宝物を献上した。

 雇われた貴族を裏切った。

 禍の団、この世界のテロリストに引けを取らない悪事を俺は為していたのだ。

 抵抗が無かったと言えば嘘になる。

 最初に手を汚した時には胃の中が空になっても吐き続けた。

 けど、貴族の子飼いになる以前の冒険者生活の時点で、陽介さんのようにオーク扱いこそされてないが、異国人としてグランバハマルの住人達から差別・迫害を受けていた俺は、自分でも驚くくらい早く割り切れてしまった。

 だから、陽介さんと出会うまでグランバハマルで親しい人間など一人として存在しなかったんだ。

 まあ、覗きとかもしていたよ。

 でもそれは性欲を満たすため、というよりは昔の自分を忘れないため。転移する前の自分だったらするであろう行動をなぞっていただけだ。

 でも、

 割り切ったとはいえ、悪事に手を染めていた記憶は、貴族の欲望を満たすために為した悪行を忘れることはできない。何気なく見た自身の両手に、ドロリとした泥のような血の塊が纏わりついて見える時もある。殺した相手の最後の表情を夢に見てしまう。

 精霊魔法で記憶を消してしまおうかと思う時だってある。でも、いつも額に手を当てる段階で思いとどまってやめてしまう。

 それだけはするな、と自身の中のナニカが告げるからだ。

 

 まあ、そんな訳で。

 俺・兵藤一誠が、冥界指名手配中のSS級はぐれ悪魔・主殺しの猫魈『黒歌』を生かして捕えたのは、彼女に同情してしまったからなのだ。

 彼女のように、行く当てなく辿り着いた先で、唯一の家族を守るために必死になり、その果てに耐えきれずに裏切った存在を、何回も見たことがあるのだ。

 始末する側として、だが。

 まだ予想に過ぎないため、これから確認するわけだが、その予想が当たることを祈っている。

 グランバハマルで見た、最悪の姉妹の別れを繰り返したくはないのだから。

 

 グレモリー家本邸。

 俺が借りている部屋に(将来は俺の自室にするらしい)、リアス・グレモリー眷属全員と魔王サーゼクス・ルシファー様、その妻にして女王のグレイフィア様、さらには堕天使総督アザゼル様が集まっている。

 その目的は捕らえた存在、現在はテロリストグループ禍の団の独立特殊部隊『ヴァーリチーム』の一人である猫魈『黒歌』の尋問のため。

 俺は過去を、真実を知らしめて、小猫ちゃんと和解して欲しいだけなんだがな。

 彼女の黒歌の知りうる情報は三大勢力にとって喉から手が出るほどに欲しいものなのだ。

 ましてや、ヴァーリの養父たるアザゼル先生は立場関係なく、義息子の近況を知りたいだろう。

 ぶっちゃけ死んでてもおかしくなかったのだから。

 

「情報を教える気はないのか?」

 

「赤龍帝ちんと子作りさせてくれたら考えるにゃん」

 

「イッセーが死ぬから駄目だ」

 

「死ぬのにゃっ!?」

 

 対話でのやり取りはさっきからこんな調子だ。精霊魔法の鎖で拘束されて取り囲まれていても開き直ったような態度。小猫ちゃんの縋り付くような眼差しには気まずそうにするが、アザゼル先生とサーゼクス様からの禍の団についての質問はあっさりと流している。

 

「ねえ、赤龍帝ちん?お姉さんはそんなに魅力ないかなー?」

 

 グラマラスなスタイル過ぎて着物が着崩れている、黒髪猫耳美女。男として魅力的に感じるが、

 

「手を出したら死んじゃうから」

 

 正直、その立派な谷間を見てるだけで心臓がヤバいのです。

 

「当代の二天龍って、二人ともおかしいにゃん」

 

「「「「それは言えてる」」」」

 

『二天龍関係ないだろ』

 

 全員の頷きに、とばっちりをくらったドライグが抗議の声をあげた。

 

「あの、姉さま。

 イッセー先輩が始末しないってことは、なにかあるんですよね?あの日、主を殺して、私を置いてった時になにがあったんですか?」

 

「白音」

 

 しかし、黒歌とて妹からの問いは流すことも誤魔化すこともできないようだ。だが、言ってどうなるという諦めの気持ちが彼女の口を閉ざすのだ。

 

「すまない、黒歌さん。

 予想される貴女の状況から、話す気にならないのは理解できる。けどそれでも、真実は明らかにさせてもらう」

 

 貴女達が、再び姉妹で笑いあえるように。

 

「俺は記憶再生という魔法が使える。全ての虚実を白日のもとに晒す、精霊魔法だ。これで貴女の真実を信頼できるこの場の皆さんにお伝えするんだ」

 

「ふん、そんなものが信用できるもんですか」

 

「いや、そんな便利な魔法は早く教えろよイッセー」

 

 黒歌さんとアザゼル先生の言葉に、とりあえず俺はやってみせることにした。

 サーゼクス様とギャスパーは見たことあるけど、他の皆も疑っているしね。

 

「記憶再生」

 

 内容は適当でいいか。

 別に貴族の子飼い時代以外はいつの記憶でも見られて大して問題はないし。

 

 

〈ひっかかったわね〉

 

〈な、なんで?〉

 

 ヤベ。

 浮かび上がった画面には、顔がぼかされた冒険者らしき女性と、今と同じくらいの年齢の俺。

 

「え?」

 

「これって」

 

 驚愕し、悲鳴を上げそうになる皆。

 だって、

 

〈異国人のアンタに惚れる女なんているわけないじゃない。二人きりと言われて期待しちゃった?バーカ〉

 

 その女の手には血塗られたナイフと、強奪した荷物があり。

 驚きと戸惑いと痛みから腰が抜けて地べたにすわりこんだ当時の俺は腹部からおびただしい血を流していたのだから。

 ブツリッ。

 

「とまあ、こんな感じで記憶を映像化できるんだよ」

 

「「「「「何があったっ?!」」」」」

 

「ま、まあ、なんだっていいじゃないですか。どうせ昔の話ですから」

 

 よくあることだったけどあんまり思い出したくないエピソードだからね。

 

『グランバハマル生活二年目、冒険者として慣れてきた頃だな。チームを組んだ女に裏切られて刺されて荷物を奪われたんだ』

 

 当時は収納魔法を覚えてなかったからなあ。エルフさんの利用していた銀行の利用も俺は容姿が理由で無理だったし。

 

『こんなことが何回もあったから相棒は仮面をつけたりして素顔を隠すようになったんだよな』

 

 だったなあ。

 

「レイナーレの件だが、改めて謝罪させてくれ。すまなかったイッセー」

 

「辛いことばかりだったんだねイッセー君」

 

 アザゼル先生の謝罪とサーゼクス様の慰めの言葉が身に沁みるよ。まあこんなことがあったからレイナーレの件を引き摺らなくてすんでるんだけどね。

 

「じゃ、黒歌さんもやりますよー」

 

 アーシアなどが涙目の中でいよいよ本命だ。

 

「いや、ちょ、待って、赤龍帝ちん」

 

「記憶再生」

 

 

〈なんと完食!ヴァーリ選手、二十杯目のおかわりだー〉

 

〈まだだ、まだイケる〉

 

〈ラーメン大食い選手権。一般参加のヴァーリ選手の進撃はどこまで続くのかー!!〉

 

 記憶の精霊さん、わざとやってんのかな?

 

「何をしてんだあの馬鹿」

 

 ラーメン食ってますね。

 テロリストの自覚あんのかなアイツ。

 

 再度やり直せば、今度こそ大丈夫だった。

 内容はアウトだったけど。 

 途中までは前に奥さまに聞いた通りの内容だった。行く宛のない姉妹猫が上級悪魔に拾われる話。

 だけど、

 

「姉さま」

 

 姉猫はその希少さと才能ゆえに、冥界でも非合法とされる強化実験の被検体にされた。

 妹猫を守るために。

 彼女が仙術に目覚めたのは、その才能によるものではない。強引に目覚めさせられた能力を妹を想う心で耐えれたのだ。

 彼女が主殺しをしたのは力と狂気に呑まれたからではない。姉猫が耐えられたからと、上級悪魔が約束を破り、妹猫まで被検体にしようとしたからだ。

 そこで俺は納得をした。

 はぐれ悪魔は、契約を破ることで異形に転じるという。しかし黒歌はそうはならなかった。契約を破ったのは上級悪魔の方だったからだ。

 

「こんなことが」

 

 サーゼクス様が歯を食いしばっていた。自身の預かり知らぬ所で起きた悲劇。

 異種族の眷属は無理矢理でも強引な手段でも、冥界のルールでは罪とならない。

 だが、この実験は許されてないものなのだ。

 

「あーあ、バレちゃったか」

 

 観念するように黒歌は言う。

 隠していた真実は、あまりにも救いがなかった。彼女がはぐれ悪魔にされたのは、実験と研究が表沙汰にならないように上層部が隠蔽するためだったのだから。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい姉さま」

 

 大好きな姉に小猫ちゃんは抱きついていた。

 今までの離れ離れの時間を埋めるように、もう離さないとばかりに。

 

「いいのよ白音。心配だったけど、お人好しなサーゼクス・ルシファーが手を回してくれたし、リアス・グレモリーも悪い主じゃなかったからね」

 

 抱きつく大切な妹を黒歌は撫でる。

 ずっとこうしてあげたかった、そんな想いが見ているこちらにも伝わってきた。

 

「ただ、レーティングゲームが決まった途端に白音が倒れたって知って、やっぱりリアス・グレモリーも同じなんだと思ったね。だから私は迎えにきたの」

 

 それがパーティ会場に潜入した目的。

 彼女はただ大切な妹を想っていた。

 

「でも、違うんです。倒れたのは自分が原因で、指示された以上の訓練をしたからで、部長のせいじゃないんです」

 

「ごめんなさい黒歌さん。小猫、白音がそこまで思い詰めてしまったのは主である私の責任よ」

 

 リアス部長は、自分で名付けた名前ではなく、黒歌さんが呼ぶかつての名で小猫ちゃんを呼んだ。もう彼女に過去との決別は不要なのだと示すように。

 

「そうだったね、早合点しちゃったにゃん。けど来てよかった、白音が無茶するくらい大切な仲間が居ると知れたのだから」

 

 黒歌さんは、安心したように笑う。妹は大丈夫なのだと理解して。

 

「さーて、後は私を上層部に引き渡すかにゃん?悪魔の醜聞、同盟締結すぐには表沙汰にはできないでしょう?実験の主導者、元主の実家は、私を許さないでしょうから」

 

「嫌です、姉さま!!」

 

「いいのよ白音。ヴァーリと組んだことで悪魔と関わることは覚悟してたから」

 

 サーゼクス様へと視線を向ける黒歌さん。部長をはじめとした皆はなんとかならないかと縋るような目で魔王様を見つめている。

 

「サーゼクス様、上層部の皆様方の説得には俺を取引材料に」

 

 俺がそう申し出るも、サーゼクス様はそれを手で制する。

 

「黒歌さん、貴女が望むならはぐれ認定は撤回しようと私は思っている」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「嘘ね、そんなことできる筈がない」

 

 その通りだ。

 サーゼクス様が魔王とはいえ、上層部の皆様と研究を行う貴族を黙らせることなど不可能だ。だからこそ、魔王達より、上層部が権力者幅をきかせているのだから。

 

「すでに、この研究機関は上層部達によって潰されている。君の主である上級悪魔の一族も立場を剥奪されているんだ」

 

「そんな」

 

「後ろ黒いことを隠蔽したのか、始末したのかは分からない。けど、君を咎める一族はもういないんだ」

 

 これってもしやミルたんがきっかけかな?

 こんな事を知ったら冥界を襲撃してきそうだと思われたとか。だから知られる前に後始末したのだろうか。

 

「君の後ろ盾を私がすれば、上層部の説得とはぐれ認定の取り消しも可能だろう。そうすればキミはこれから妹さんと一緒に居られるんだ」

 

 その提案は黒歌さんが何よりも望んだものだろう。深く悩むように彼女は俯いた。

 頷いて欲しい、信じてくれ、と皆が思う中、悩み抜いた彼女は答えをだした。

 

「お断りするにゃん」

 

 ある意味で納得の答えを。

 

「信じて、もらえないよね」

 

 信じられる道理はない。彼女はそれだけのことを悪魔にされたのだから。

 

「いいえ」

 

 だが彼女は首を振る。そうじゃないと否定する、

 

「ヴァーリ達と馬鹿やるのも結構気に入っているんだにゃん。というか、私がいないとアイツラ心配なんだにゃん」

 

 断わった理由は、彼女の今の仲間を思ってのこと。妹を守るために孤独だった彼女にできた居場所。そこにも思い入れはあるのだから。

 

「そうか。なら仕方ない」

 

 救いなのは、仲間がヴァーリ達であること。連中なら無意味な虐殺などしないだろうから(多分)。

 

「姉さま、でも私は」

 

「大丈夫よ、白音。貴女にはこんなに良い仲間がいるんだから」

 

 惜しむようにもう一度強く抱きしめてから、小猫ちゃんをリアス部長へと押しやる(拘束は解除済み)。

 

「ま、ヴァーリ達も上手く誘導するから安心してにゃ」

 

「正規の手続きしない時点で迷惑だっての」

 

 テロリストの元に戻るという黒歌。できれば止めたいが、約束は約束なのだ。

 

「ありがとうね、赤龍帝ちん。

 なんでそこまで気にかけてくれるかは分からないけど、それでも私は妹と和解できたにゃん。お礼に子作りしちゃう?」   

 

「魅力的な提案ですが、死んでしまうので勘弁してください」

 

「ふーん?えいっ」

 

「「「「『あっ』」」」」

 

 俺の言葉を疑った黒歌さんは。すれ違い様に俺に抱きついて、ディープなキスをした。

 

「お礼にゃん」

 

 光る糸がお互いの口を繋ぎ、笑顔のまま彼女は窓から飛び出した。着地したそこには美猴とメガネをかけた背広姿の青年がいた。

 

「おかえり黒歌」

 

「良いことでもありましたか?」

 

「とってもね」

 

 剣士らしき青年が手に持つ剣を振るうと、空間の裂け目ができ、彼らはそこに飛び込んだ。

 

「かなりの聖剣と、エクスカリバーか。たくヴァーリめ厄介な連中を仲間にしたみてえだな」

 

「ああ、強いだけでなく仲間を率いる器も彼にはあるようだね」

 

「ま、イッセーにはまだ及ばないけどな。なあ、イッセー。イッセー?」

 

 とはいえ、俺はこの時にそこまで知覚してなかった。なにせ、

 

「し、死んでる」

 

「だろうなあ」

 

「早く治療しないと!!」

 

「やはり、儚い」

 

『なんかもう、お前らも慣れてきたよな』

 

 

 冥界SS級はぐれ悪魔・主殺しの猫魈『黒歌』。

 テロリストグループ『禍の団』独立特殊部隊『ヴァーリチーム』にその存在を確認。

 

 そして罪状に赤龍帝・兵藤一誠の殺害未遂を追加されることになる。





 補足・説明。

 シリアス気味な話でした。
 かなり暗黒なイッセーの過去を明かしました。なので書くの大変でした。
 なお、パーティ中止後のシェムハザやオーディンは終わっています。オーディンはイッセーを気にしてる様子でした。
 黒歌とわかりあえたことで、小猫ちゃんはだいぶ楽になりました。上層部へ反感は多少ありますが、研究機関と黒歌の元主の一族への対応から一応収まってます。
 リゼヴィムも関与してるらしい研究機関でしたが、ミルたんの脅威とは比べられないので上層部に潰されました。研究内容は全てではありませんが伝えられ、サーゼクス達にも潰した事後報告はしてありました。

 これ、猫姉妹がイッセーに惚れるかな?弱いけど優しくて立ち上がるイッセーに彼女達は惚れたわけですし。

 そしてイッセーは贖罪の気持ちもあって今回の動きになりました。普段ならはぐれ悪魔は即殺です。
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