異世界イッセー   作:規律式足

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 ちなみに赤竜帝の戦鎚ですが、球体ではなく金槌のように円柱を横にしたものを付ける案もありました。結局使いにくいのでやめましたが。



第七十六話 匙元士郎。

 

「匙の言いたいことは予想がつくよ」

 

 神器の進化。

 それも悪魔の駒の特性を加えての進化を偶然ではなく引き起こしたのだから、それはある意味で偉業とも言える。なにせ、他の神器持ち悪魔達も同じことができる可能性が生まれたからだ。

 そんな画期的な赤竜帝の戦鎚なのだが、どうやら見た目が見た目だからか不評らしい。

 

「まるで左拳をスイカに突き刺しているみたいだと」

 

「誰もそんな珍妙な発想してねえよ」

 

 匙はそう言うけど、端から見たらそんな感じなんだよなあ。使いやすさを追求したフォルムだけど。

 ま、とりあえず気を取り直して。

 

「やろうか」

 

 重量の増した左腕を俺は匙へと叩き込んだ。

 その攻撃を両腕を交差させることで防ぐが、そのガードごと吹き飛ばす。

 赤龍帝の戦鎚に変化させたことで重量が偏り、体幹バランスは崩れる。だけど俺は身体を中心に回転することでその偏りを活かす。

 

「ハーンマー!!」

 

 遠心力の乗った重量のある一撃、それは必死に回避した匙から外れ、ぶち当たった床にクレーターを作り出す。匙は果たしてどこまで耐えられるかな?

 今はつかわないけど、ここに赤龍帝の能力である倍加を使用すれば、重量・サイズ・硬度・回転などを強化することができる。

 自身の最強の姿ではあるが、人間であるが故にレーティングゲームでは使用できない二十六歳状態。それに代わる新たな力をこの場で試す。

 

「これならどうだ!!」

 

 距離をとった匙による生命力を変換した魔力弾が放たれる。この赤龍帝の戦鎚ならば叩き潰すことで無力化もできるが、それ以外の方法で対処しよう。

 

「モードチェンジ、赤龍帝の僧砲」

 

 悪魔の駒のプロモーションに似た意識の切り替え、すると赤龍帝の戦鎚の特徴である球体が消え、ガシャリと音を立てて赤龍帝の籠手は大砲のような形状となる。

 

「ファイヤ」

 

 そこなら発射される赤き魔力弾。

 それは僧侶の駒の特性による魔力適正の強化もあり、匙の放った魔力弾に命中し相殺しきった。

 

「?!」

 

 自身の生命力を込めた魔力弾があっさりと相殺された。その事実は匙を驚愕させる。

 

「まだだよ。モードチェンジ、赤龍帝の騎剣」

 

 今度は騎士。

 赤龍帝の籠手がジャマダハルに似た、手甲と剣が一体化したような形態となる。

 それを振るい、匙が苦しまぎれに俺に向けて伸ばしてきたラインを全て切り刻む。

 

「畜生、通じねえのかよ」

 

 血を吐くような呟き。

 今日のために費やしてきた全てが通じない現実が、匙の心を焼いているのだろう。

 その後も匙と俺の攻防は続く。

 赤龍帝の戦鎚で格闘戦を圧倒し、

 赤龍帝の僧砲で魔力弾を相殺し、

 赤龍帝の騎剣でラインを断つ。

 俺の戦い方はこのようなことができるという観客へのお披露目に、実戦による試運転も兼ねている。この三つの形態は殺傷力が高すぎて使いどころの限られてしまう精霊魔法に代わる力として創り出した。

 赤龍帝の騎剣の役割はアスカロンでも良いのだが、アレもまた他に劣るだけで悪魔の天敵であるまごうこと無き伝説の聖剣。レーティングゲームのリタイア機能があっても殺傷しかねない、やり過ぎとなる力なのだ。

 本気で用いれば強者にも通じる、手加減もできる形態。その成果は充分だ。

 そしてそんな俺達の横では小猫ちゃんと、匙の後輩による戦いが始まっていた。

 小猫ちゃんは、戦車の駒によるパワーを活かした格闘技の使い手。だがそんな彼女に相手の娘、生徒会の一年生も上手く食い下がっており、戦いは激化していた。

 だが、小猫ちゃんの拳が相手の頬を掠めた後、変化は起きた。今までなんとか食い下がっていた身体が揺らぎはじめ、視線も泳ぎだす。顎に直撃を受けたわけでもないのにふらついている。

 その隙を逃さず、小猫ちゃんは拳に白いオーラを纏わせ、相手の胸に打ち込んだ。

 よく見れば相手の気の流れがめちゃくちゃになっている。これが仙術による効果なのか。

 

「これで終わりです」

 

 内部破壊の拳打を操る、猫の如きしなやかな動きの怪力戦車。ここに塔城小猫という眷属のスタイルは確立されたのだ。

 

「匙先輩、ごめんなさい」

 

 その一言を残し、匙の後輩はリタイアとなった。

 

【ソーナ・シトリー様の「兵士」一名リタイア】

 

 ようやく一人か。

 短期決戦だというのに大分かかったな。

 

「私は冥界猫になるんです。負けません!」

 

 小猫ちゃんの宣言。

 ここからが彼女の新たなスタートだ。

 

「さて、じゃあこっちもそろそろ終わりにするか」

 

「ハァハァ、ハァハァ」

 

 荒い呼吸の匙。

 激しい攻防だけではなく、生命力を放出するような戦い方をしたんだ、普通に戦うよりも遥かに疲弊して当然だ。そこに精神的に追い詰められ続ければさらに。

 

「加勢します」

 

「大丈夫だよ」

 

 小猫ちゃんの提案を俺は断る。

 窮鼠猫を噛む。ここで小猫ちゃんが加われば、その言葉通りになりかねない。

 

「匙は強いよ。だからこそ、油断せずに徹底的に叩き潰す」

 

 ここまで丁寧に打ち破るにはわけがある。言動が不快だったからだとか、その方がこの先で都合が良いだとかの理由ではない。

 命を賭けておいて次がある。

 そんな恵まれた状況の戦いであるうちに、匙は完全な敗北をしておいた方が良い。

 実戦では有り得ないこの機会にこそ経験しておくべきなのだ。

 また、生命力を寿命を使うなんて戦い方を成功体験と認識してしまうのは、あまりにも危険だ。一万年あるから少しぐらいと使い続ければ、あっという間に枯渇してしまうだろう。

 一万年とされる悪魔の寿命。だが、悪魔という種がこの世界に誕生して以来、天寿を全うした個体は、唯一人として存在しない。だから一万年という事前情報はそこまであてにできないのだ。

 なのでこんなものもう使用しないように、取り返しの効く今回でその戦い方は駄目だと悟らせようと俺は思っていた。

 

「ハッ、俺が強いなんてよく言えたもんだ。

 制限されてない禁手すらつかわないくせに!!使わせられないくらい弱い俺に対して!!よくもそんな事を言えたもんだ!!」

 

 匙の叫び。

 魂からの熱い叫び。

 今の俺にはない激情。

 叫びながらも匙は突っ込み、自身のできる攻撃をしてくる。

 通じないとわかっていても、拳を振るい、魔力を放ち、ラインを繋ごうとする。

 その全てを俺は適切に対処する。 

 

「勝ちたかったんだ!俺は赤龍帝に兵藤一誠に勝ちたかったんだ!

 俺達の夢は本気だ。学校を建てたい、差別の無い学校を冥界につくる。そして俺は先生になるって。冥界全土に放送されるこの場で、同じ兵士である赤龍帝・兵藤一誠に勝って堂々と言いたかったんだ!!」

 

 まったく、その姿は俺の目が焼けてしまいそうになるくらい眩しいね。

 熱い、感情の思いののったそんな攻撃。

 

「なのに、強いだなんて」

 

 けれども俺には届かない。

 圧倒的な実力差、否、経験の差がそこには立ちはだかっているのだから。

 力尽き、膝をつく匙に俺は言う。

 

「使わない、じゃなくて、使えない。だよ」

 

 禁手には一度発動したら再使用まで時間がかかるというリスクがある。だから使うべきタイミングを選ぶ。

 さらに言葉を続ける匙へと告げる。

 

「これからソーナ・シトリー様を倒すのに。神器を使用できなくなるリスクは犯せないからね」

 

 そもそも俺の禁手の使用は、相手の強さではなく、相手の攻撃タイプで決めてるんだ。

 接近戦の使い手にはそうそう使用したりはしない。

 ウィザードタイプの放射攻撃、ライザー様の炎、ソーナ様の水、朱乃さんの雷光のような、そんな避けても完全に防ぎきれない範囲攻撃対策として禁手の全身鎧を装着している感覚だ。

 多分だけど、若手悪魔最強とされるサイラオーグ様相手にも禁手は使わないと思う。格闘戦において全身鎧は視野が狭まるし、動きにくいからだ。

 

「下に見てたんじゃ、ないのかよ」

 

 格下だからという理由で禁手を使用しないなら、そもそも赤龍帝の籠手の状態だけでやっている。

 

「お前は確かに実力的には明確に下だけど、舐めてかかれる相手じゃないよ」

 

「へっ」

 

 フラリと近寄ってきた匙が拳を突き出した、力の入っていない拳がポスリと俺の胸に当たる。

 

「今の俺は、ここまでか」

 

 最後の力を振り絞ったような負けを受け入れるための挙動。

 本心からだろうが、それだけが目的ではないと俺にはわかる。そんな抜け目の無さが匙にはあるから。

 けどその思惑に問題無いからあえて乗っておく。思惑に乗ることも戦略の一つだ。

 

「そうだね。だから、これからがある。

 なあ、匙。

 今は力が足りない、それは事実だ。

 けど、お前の主への想いと、夢へのひたむきさと、見る者を奮い立たせる熱さは、これからの冥界の導べになると、俺は思うよ」

 

 だから今回は負けておけ。

 間合いに入っている無防備な匙を、俺はトドメとばかりに赤龍帝の騎剣の刃で袈裟斬りした。

 リタイアシステムにより光に包まれて消えていく匙の姿。そこから目を逸らす気にはなぜかならなかった。

 

【ソーナ・シトリー様の「兵士」一名、リタイア】

 

 匙元士郎に勝利した。

 ただそれだけなのに、何か胸に込み上げてくるものがある。

 グランバハマルでは感じなかった勝ちの感覚。これをなんと表現すれば良いのか。

 向こうでは、勝ちと生き残るがイコールだったから(陽介さんとの戦いを除く)、こんな風になるのは初めてだ。

 

「イッセー先輩」

 

 労るような小猫ちゃんの言葉。

 そうだ、まだ終わりではない。

 この繋がっているラインの先に居る、ソーナ・シトリー様を倒して勝利してから、この気持ちには浸るとしよう。





 補足・説明。
 
 赤龍帝の僧砲
 ロッ○バスターかサイ○ガンみたいな感じ。魔力弾の打ち出し特化。普通に魔力弾を放つより連射もきき、威力も高い。

 赤龍帝の騎剣
 ロックマンエ○ゼのソードのような形状。
 刀身の鋭さが調整可能で便利。刀身の形状も自在である。

 赤龍帝の戦鎚も含めて、基本的に手加減用の形態。赤龍帝の籠手より強く、精霊魔法より殺傷力が低い状態はレーティングゲーム参加には必須なため。なおアスカロンは同化してないため調整がイマイチできない。というか並みの悪魔なら触れたら消し飛ぶ代物をゲームで使う気にならない。
 
 匙に対して
 兵藤一誠が自分にできないことをできると期待している。だからこそ、色々知って欲しいとも思っている。
 
 スイカに腕を突き刺す人
 作者の好きなアニメの人物。
 作中屈指の万能の体現者。
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