異世界イッセー   作:規律式足

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 オリジナル設定ありです。
 オリジナル神器ありです。



第八十四話 ディオドラ・アスタロト。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに「姉さんを呼び捨てにするなボケ」グフッ」

 

 反応早いよゼファードル。

 爽やかな優男風の悪魔の青年、ディオドラ・アスタロト様は挨拶の途中でアーシアを呼び捨てにしたという理由で、俺の舎弟であるゼファードルに腹部を強打されていた。

 同格であるがゆえに許される振る舞い。

 中級悪魔に昇格したとはいえ、リアス・グレモリー様の一眷属でしかない俺にはできないことだ。

 だからこそゼファードルの行動は正直助かっている、救われているのだ。

 立場的に動けない俺の代わりに彼がやってくれているのだから。

 

「グラシャラボラスの狂犬風情が」

 

 打たれた腹部を押さえながらディオドラ様は憎々しげにゼファードルを睨みつける。

 そこには先程までの落ち着いた優男風の顔はない。剥がれ落ちて一人の悪魔としての顔になっていた。

 

「あん?やんのかコラ」

 

 指をパキリパキリと鳴らして威嚇するゼファードル。普段はここまで好戦的ではないのだが、ディオドラ様はなんとなくだがひどく気に入らない存在だと感じるらしい。だからつい反応してしまうのだとか。

 

「ふん、バアル家の無能風情に倒された負け犬なんぞと関わる気はないね。せいぜい薄汚いドラゴンの使い走りでもしていればいいさ」

 

 凄いなこの人。

 軽く口を開いただけでこの場にいる大半の者達に喧嘩を売ったぞ。リアス部長なんて頬に怒りマークまでつけているくらいだし。

 

「さて、負け犬は放っておいて、取引しませんか。リアスさん」

 

「今すぐ帰ってちょうだい。貴方と話すことなんてないわ」

 

 うん、そうなるよなこの場合は。

 というか、貴族なんてこんなもんだとグランバハマルで慣れている俺と違って皆キレる寸前なんだよね。

 なのによく平然としていられるなあ。

 まあ、貴族の中には貴族以外は生命体だと認識できない人もいたから、彼もそのタイプなんだろう。

 不快そうに顔を歪めたリアス部長は嫌々ながらも話を聞くことにしたようだ。

 

 部室のテーブルに、リアス部長とディオドラ様、顧問としてアザゼル先生も座っていた。

 朱乃さんがディオドラ様にお茶を淹れて(雑巾の搾り汁で淹れようとしていたのは必死に止めた。ストレス発散しようとするOLかな)、リアス部長の傍らに待機する。

 それ以外の者は部室の片隅にて状況を見守ることになる。主と下僕という立場の差があるからだ。

 上級悪魔同士の会談がはじまろうとしている中で、アーシアは困惑したような、不安そうな表情をしていた。少しでもその不安が和らぐようにとアーシアの手を俺は握る。するとアーシアもしっかりと握り返してきた。緊張している彼女の様子がその手から伝わってきた。

 リアス部長がアーシアの嫌がる、悲しむ選択を取らないことは確信している。けど、向こうがそれでも強引に動くならばあらゆる手段でアーシアを守るだけだ。

 そんな覚悟を俺が決めている中で、ディオドラ様は優しげな笑みを浮かべながら話を切り出した。

 

「リアスさん。単刀直入に言います。『僧侶』のトレードをお願いしたいのですが」

 

『トレード』、『王』同士で駒となる眷属を交換できるレーティングゲームのルールだ。同じ駒同士ならば可能だという。

『僧侶』、この場合はグレモリー眷属だとアーシアかギャスパーとなる。

 眷属、仲間を物のように交換するそのシステムに、リアス部長とゼファードルは不快そうに顔を歪めている。

 

「いやん!僕のことですか!?」

 

 ギャスパーがその言葉に反応して、身を守るような仕草をする。うん、引き籠もりからずいぶんとたくましくなったね君。

 どうやら彼も冥界での修行成果が出ているようだ。ちなみにニンニク克服修行も継続している。だからか結構ニンニク臭かったりする。

 場を和ませるボケはさておいて、今までのことからディオドラ様が欲しい『僧侶』はアーシアのことだろう。『僧侶』と耳にした瞬間から、アーシアは俺の手をより強く握ってきた。それが彼女の『嫌だ』という思いを告げている。

 

「僕が望むリアスさんの眷属は、『僧侶』アーシア・アルジェント」

 

 躊躇いのないその言葉。アーシアに向けられる視線は、爽やかな笑みを浮かべつつも強い執着を感じさせていた。

 しかし、求婚の返事がお断りだから、『交換』して手に入れようとするのは、あまりにも形振り構わなくて、良い印象は抱けないな。

 

「こちらが用意するのは」

 

 自分の眷属悪魔が載っているだろう、紹介文というよりはカタログのようなものを出そうとしたディオドラ様へ部長は間髪入れずに言う。

 

「だと思ったわ。けれどごめんなさい。そのカタログみたいなものを見る前に言っておくわ。私はトレードする気がないの。それは貴方の『僧侶』が釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。私の大事な眷属悪魔だもの」

 

 真正面からディオドラ様の取引を拒絶するリアス部長。これこそが我が主であると誇らしく思う。

 カタログを見ようともしないのは、眷属悪魔を見比べるという行為自体をしたくないからだろう。

 

「それは能力?それとも彼女自身が魅力だから?」

 

 しかし諦めようとせずにディオドラ様は淡々と訊いてくる。そこを糸口にして交渉しようと言わんばかりの態度だ。

 

「両方であり、どちらでもないわ。全てをひっくるめてアーシア・アルジェントであり、私は彼女を妹のように思っているからよ」

 

「部長さんっ!」

 

 アーシアが口元に手をやり、グリーンの瞳を潤ませていた。リアス部長が『妹』と言ってくれたことが本当に嬉しかったのだろう。

 

「一緒に暮らしてる仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由は、そんなにおかしいかしら?私は充分だと思うわ。それに求婚した女性を主を介した取引『交換』で手に入れようとするのは解せないし、不快だわ。ディオドラ、貴方、求婚の意味を理解しているのかしら」

 

 迫力ある笑顔で問い返す部長。ライザー師匠を嫌っていた理由も、眷属達・女性達をコレクションのように扱っていると誤解していたからだしな。リアス部長の言にウチの女性陣はウンウンと頷いた。

 木場とギャスパーよ、お前らも頷いたが女性じゃないからな。

 その侮蔑の言葉を受けてなお、ディオドラ様は笑みを浮かべたまま、不気味ではあるが、面の厚さは(悪徳)貴族の必須スキルだしな。

 

「わかりました。今日はこれで帰ります。けれど僕は諦めません」

 

 ディオドラ様は立ち上がり、俺達、アーシアの元へ近寄ってくる。

 当惑しているアーシアの前に立つと、その場に跪き、手を取ろうとした。

 

「アーシア。僕は君を愛しているよ。大丈夫、運命は僕たちを裏切らない。この世の全てが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

 背筋が寒くなる告白だな。

 言葉並びとしては良さげなのに、ただひたすらに強い執着だけを感じさせる内容だった。

 その告白をして、アーシアの手を取り、手の甲にキスをしようとしたところで。

 ガチンッ。

 伸ばしたその手はアーシアに触れる前にトラバサミに挟まれていた。

 

「「「「なんでっ?!」」」」

 

 誰っ?アーシアの周りにトラップを仕掛けた人。

 

「姉さんに薄汚え手で触れようとするんじゃねえ」

 

 ウン。やっぱり君だよね。

 虚空から現れたトラバサミはギチギチとディオドラ様の手を挟みこんで痛みを与えていた。

 これはゼファードルの眷属の神器『罠罠』の効果だ。罠自体を自分で用意しなければいけないけど、発動に関してはどんな状況環境ですら設定できる。

 今回はそれをアーシアを守るために仕掛けておいたのだろう。

 限られた枠をアーシアのために使うとか、良い舎弟達だよ。

 

「よくもやってくれたね?グラシャラボラスの負け犬」

 

「こんな状況で発情こいて告白するテメェに言われたくねえな。アスタロトの下半身」

 

 顔に青筋をたてて右手にトラバサミをつけたディオドラ様はゼファードルを睨みつける。

 あー、でも確かに情勢的にはそうだよね。

 禍の団が出現してまだ何も対処できてないのに、求婚とか交換とか、普通におかしいか。

 

「流石は、薄汚いドラゴンくんの使い走りだね。品性がない」

 

 ディオドラ様が下半身呼びにキレてなぜか俺をディスりだす。

 

「(なあドライグ?さっきから一度も会話してないのに、なんであんなに悪く言われてんだろうな俺)」

 

『(どっかで恨みでも買ったんじゃね?)』

 

「(特に覚えとかないけど、ドライグは?)」

 

『(先祖やら一族を大量に葬った)』

 

「(それじゃね?)」

 

 全悪魔から恨まれて当然だわ。

 嫌われる理由に納得していると、ゼファードルが拳を振るうより先に意外な人物が動いていた。

 なお、仲間達はそれぞれ聖魔剣だしたり、デュランダル出したり、雷光をバチバチさせたり、仙術発動寸前だったり、蝙蝠化しつつあったり、滅びの魔力漂わせたりしている模様。

 殺意高過ぎぃぃ!?

 

『愛されてる証だな』

 

 そんな中、誰よりも早く動いたアーシアは、ディオドラ様にビンタをしていた。

 人を傷つけることを望まない、彼女らしからぬ行動だ。

 

「そんなことを言わないでください!」

 

 アーシアは俺に抱きつきながら叫ぶ。そんな彼女の想いに、彼女に想われている事実に胸が熱くなるのを感じていた。

 ビンタされたディオドラ様は、頬を赤くしながらも笑みを止めない。ここまでくるとすごいな。

 

「なるほど。わかったよ。では、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。そうしたらアーシアは僕の愛に応えて欲し」

 

「頭大丈夫ですか?」

 

 今まで我慢してきたがこちらも限界だ。

 

「そんなことは愛の証明にならないでしょう」

 

 彼風情が俺に勝てないなんて当たり前のことに反応したのではない。

 次から次へと手段を変えてアーシアを手に入れようとするその執着がひたすらに悍ましかった。

 グランバハマルの貴族のようだ。女(玩具)一つのために村を焼いたあの連中を思い出す。

 

「赤龍帝・兵藤一誠。次のゲームで僕はキミを倒すよ」

 

「ディオドラ・アスタロト様。寝言はせめてヴァーリ・ルシファー程度の実力を身につけてから吐いてください」

 

 何やらディオドラ様から不自然な強大なエネルギーを感じるが、それでもタンニーン様に遥かに及ばない程度だよな。

 エネルギー総量ではなぜか若手悪魔から突き抜けたが、実戦となればゼファードルが勝つだろうな。ゼファードルは強者との戦いに慣れているから。

 ディオドラ様と睨み合う。実際に会話して理解した、コイツは俺が嫌悪する貴族そのもの。アーシアを渡すなんて認められない。

 その時にタイミングよくアザゼル先生の携帯電話がなった。いくつかの応答のあと、先生は俺達に告げる。

 

「リアス、ディオドラ、丁度いい。ゲームの日取りが決まったぞ。五日後だ」

 

 その日はそれで終わり、ディオドラ様は帰還された。その後転移魔法陣は、リアス部長とゼファードルによりディオドラ様不可設定を加えられていた。

 俺は新たな決意のもと、ゲームへの気合を入れだした。

 魔王様からの正式なゲーム通知は、後日俺達のもとに届いたのだった。





 補足・説明。
 
 オリジナル神器
『罠罠』 トラップトラップ。
 ゼファードルの眷属、兵士フリーデイの神器。
 罠の発動を設定できる神器。
 条件を満たせばオートで仕掛けた罠が発動する便利な神器だが、罠を創造することはできず、自前で用意する必要がある。
 そのため悪魔や魔獣に通じる罠を用意するのは困難であり、もっぱら時間稼ぎに使われる。
 また設定できる数も最大で五個までと少ない。
 ただ成長の余地がある神器のため、アザゼルが目をかけて鍛えている。
 今回の件で、身辺警護に有効だと証明された。
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