異世界イッセー   作:規律式足

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 土日は投稿時間がランダムですいません。
 なので一番投稿が大変なのが月曜日早朝だったりします。



第八十六話 最強の限界。

 

 アザゼル先生が調べてくれたディオドラの所業をリアス部長へと伝えた。

 彼女はそれを聞き、溢れる激情をなんとか堪えていた。表にださないようにするのは理由がある。ディオドラの仕出かしたことは、悪魔の駒が創り出されてから冥界で当たり前に行われてきたことだからだ。

 無論、部長達のように眷属と心通わせる主だっていくらでもいる。

 けれど先日知った小猫ちゃんの姉である黒歌のような悲劇も確かに存在するのだ。

 三大勢力による和平、そしてこれから推し進められていく予定の他神話との融和。それにより今まで敵だから、他種族だから許されていた眷属集めにも規制がかかるだろう。

 既に眷属にされている者達にも、もしかしたら救いの手が差し伸べられるかもしれない。冥界政府にしてもはぐれ悪魔になられるより事前に対処できる方が良いのだから。

 

「アーシアには私から言っておくわ」

 

 憤りはしていても、悪魔の法では合法であると納得してしまった俺よりも、リアス部長がアーシアに話した方がいいだろう。

 俺はそんな自分に嫌気がさしながら静かに頷いた。

 

 

 

「そろそろ時間ね」

 

 リアス部長がそう言い、立ち上がる。

 決戦日。俺達は深夜にオカルト研究部の部室に集まっていた。アーシアがシスター服、ゼノヴィアは教会の品性を疑う戦闘服。他の皆は特別製の防護服を兼ねる駒王学園の夏服だ。

 

「兄貴達、ご武運を」

 

 中央の魔法陣に集まる俺達をゼファードル達が見送りに来ていた。彼らもこの後にアザゼル先生の所に転移する予定だ。

 本当はついていきたいと顔に書いてある舎弟達の様子に、つい皆で笑ってしまう。

 最初は嫌悪すらしていた彼らだが、大型犬のような慕い方をしてくるうちにすっかり慣れてしまった。

 

「いくわよ、皆」

 

 緊張がほぐれたところで、魔方陣に光が走り転送が開始された。

 

 

「着いたのか?」

 

 眩い輝きから視力が回復し目を開けると、そこは広いフィールドだった。

 一定間隔で太い石の柱が並び立つ石造りの床。周囲を見渡せば、後方に巨大な神殿の入口があった。

 ギリシャの神殿風景を連想させる建物。ここが本陣となるのだろうか。

 しかし、前回とは違い審判のアナウンスが流れないな。そしてなによりも、

 

「アーシアは何処へ?」

 

 一緒に転移した筈の彼女の姿がどこにも見受けられない。最初はそういったゲーム方式なのかと思ったが、アナウンスが流れないとなると、転移を失敗したのだろうか。

 

「おかしいわね」

 

 部長の言葉に皆が頷き、アーシアを探す。

 何か運営側でトラブルかと呑気に思ったところで、ハッと正気に返る。

 

「部長!!これは!!」

 

 予想していた厄介事に気づき声を上げたところで、神殿とは逆方向にいくつもの魔方陣が出現しだした。

 

「アスタロトの紋様じゃない!」

 

 事前に知らされていた情報から、全員が状況を悟り身構える。

 

「魔方陣すべて共通性はありませんわ」

 

「全部悪魔。しかも記憶が確かなら」

 

 リアス部長もまた紅いオーラを纏いながら、厳しい目線を向ける。

 魔方陣から現れたのは大勢の悪魔達。全員、敵意、悪意を漂わせながら登場してきた。

 千を超える悪魔達。

 それが俺達を取り囲んでいた。

 

「魔方陣から察するに『禍の団』の旧魔王派に傾倒した者達よ」

 

 やはり襲撃してきたか。

 

「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」

 

 囲む悪魔の一人がリアス部長に上から目線でそう告げる。どうやら旧魔王派閥は、魔王の代替わりから台頭してきた一派を見下して、敵視しているようだ。

 

「アーシアをどこにやった!!」

 

 ゼノヴィアが叫ぶ。

 この状況でアーシアだけがいない。それは最悪の事態だ。

 

「イッセーさん!」

 

 その声に反応して空を見上げれば、そこにはアーシアを抱えたディオドラの姿があった。

 

「やあ、リアス・グレモリー。そして赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただくよ」

 

 ふざけたことを爽やかに言いやがる。

 

「転移魔方陣に細工をしやがったな」

 

 転移後に直接攫おうとすれば反応できた。だが魔方陣に手を加えられれば対処はできない。

 

「本当は僕がされたように全員バラバラに辺境に飛ばしてやりたかったんだ。でもそこまでしたらいくら間抜けな君達にもバレちゃうからね。アーシアだけ確保させて貰ったよ」

 

 醜悪な笑みに恨みを込めてディオドラは告げる。

 

「アスタロト家でありながら『禍の団』に通じるなんて、さらには私の大切なアーシアを奪うなんて万死に値するわ!!」

 

 リアス部長のオーラがより高まる。情愛の悪魔たるグレモリーらしい姿だ。

 

「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きにできそうだと思ったからね。ま、旧魔王派の上級・中級悪魔達を相手に最後の悪足掻きをしていてくれ。僕はそれを眺めながらアーシアを堪能させてもらうよ」

 

 テロの最中に性行為優先とか変態極めているなコイツ。旧魔王派の皆さんもそれを聞いてドン引きしてるぞ。

 

「アーシアは私の友達だ!お前の好きにはさせん!」

 

 ゼノヴィアの瞳が怒りで燃え上り、取り出したデュランダルを握り締め斬りかかる。だが、ヤツも上級悪魔の端くれ。魔力弾を放ちゼノヴィアの態勢を崩し、同時に聖剣のオーラから距離を取る。

 

「ゼノヴィアッ!?」

 

 空中にて体勢の崩れたゼノヴィアに旧魔王派による魔力弾が襲いかかる。

 アーシアを救うために同時に飛び出していた俺は、ゼノヴィアを受け止め光剣でその魔力弾全てを斬り払う。

 

「イッセーさん!ゼノヴィアさん!イッ」

 

 助けを請うアーシア。必死に伸ばされた手を俺は掴むことが出来ず、空間の歪みと共にその姿が掻き消えていく。

 

「アーシアァァァ!!」

 

 こんな風に誰かの名を叫ぶのはいつ以来だ。

 こんな風に無力を感じるのはいつ以来だ。

 

「クソッタレがぁぁぁ!!」

 

「イッセー君!冷静に!今は目の前の敵を薙ぎ払うのが先だ!その後にアーシアさんを助けに行こう!」

 

 叫ぶ俺に、木場が檄を入れてくれる。

 

「当然だ。純血悪魔だからと配慮せずに殲滅し尽くしてやる」

 

 少しばかり冷静になれた俺はゼノヴィアを下ろしてから精霊力を込める。

 流石に今回ばかりは上層部の皆様とて文句は言わないだろう。仮に言われても敵対する覚悟で殺ってやる!!

 

「転生悪魔風情がほざくなあ!!」

 

 プライドを刺激されて飛びかかってきた上級悪魔を光剣で真っ二つにして、精霊魔法を発動する。

 

「炎凰殲滅」

 

 この世において最も純粋たる精霊の炎による一撃。巨大な凰が紅蓮の翼を広げて羽ばたき駆ける。

 

「な、なんだコレは」

 

「魔力壁が一瞬で破れ」

 

「「「「グアァァァァ!!」」」」

 

 コレを喰らって生存できるのは、炎耐性がありかつ不死身なフェニックスくらいのもんだ。

 教会の聖なる属性なんてついちゃいないが、火力だけでも七十二柱ですらない上級・中級悪魔に防げる代物じゃないよ。

 

「うーむ。実に興味深い魔法じゃ。でもグランバハマルの魔法なのがなんとものう」

 

 その声は俺達の後方から聞こえてきた。

 この気配と声は。

 

「オーディン様!なぜこちらに?!」

 

 シトリー眷属とのレーティングゲーム後にお会いした。北欧神話の主神様じゃないか。

 皆が注目すれば、ローブ姿の隻眼の老神は、あごの長い白ヒゲをさすりながら言う。

 

「うむ。話すと長くなるがのぅ。『禍の団』にゲームを乗っ取られたんじゃよ」

 

 レーティングゲーム自体をか。連中の手は何処まで長いんだ。

 

「いま、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。ディオドラ・アスタロトを内通者としてマークしとったんじゃが、ここまでの規模とは想定外じゃった」

 

 確かに現魔王の身内を始末するにしてはあまりにも多すぎる。

 

「フィールドを覆う結界も強力でのぅ。魔術、魔力、術式に詳しいワシでなければ侵入も厳しかったわい」

 

 続けて助けは不要だったようだが、とオーディン様は言う。

 俺からしてみれば仕留めて良いのなら数は問題じゃないからな。

 しかし、殲滅し尽くしたと思ったら、再度魔方陣が展開し旧魔王派の増援が現れる。

 

「しかしワシにも打ち破れん結界とは大した使い手がやったようじゃな。あとこれをアザゼルの小僧から渡すように言われておったわ」

 

 オーディン様はアザゼル先生から預かった小型通信機を渡してくれた。

 

「ここはワシに任せておけい。大した手間でなくとも急いでおるんじゃろ?」

 

「ありがとうございます。オーディン様」

 

 感謝を込めて頭を下げる。

 礼とはできる時にしておかないと、できなくなってしまうからな。

 

「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るのでな。さーてテロリストの悪魔共、我がグングニルを受ける栄誉を授けてやろう」

 

 オーディン様の手に握られた一本の槍。聖書の神が創造した神器ではない、神の専属武具たる神器。それは禁手した神器すら上回るだろう。

 

『それに匹敵するグランバハマルの武具とは一体?』

 

 素材が神の奇跡と血と絶望に溢れてる世界だから仕方ないだろう。

 

「すみません!ここをお願いします!」

 

 部長はオーディン様に一礼してから、俺達を引き連れて神殿まで走った。

 

 襲撃がされると予想しても、何もできずにアーシアを攫われた事実を噛み締めながら。

 これが旧魔王派を誘い出す作戦であるとは知っている。だがオーディン様すら破れない結界の存在、攫われたアーシア。禍の団もこちらの想定を超えている。

 

「無事でいてくれアーシア」

 

 俺はそう呟きながら神殿へと侵入した。

 

 

 

 

「へぇ、強いじゃないか赤龍帝。けど大規模な魔法はアーシアが側にいれば撃てやしない」

 

 ディオドラ・アスタロトはアーシア・アルジェントを堪能することを我慢して、とある装置へと彼女を繋ぐ。旧魔王派が作戦を強行した理由である装置へと。繋ぎながら彼女へ真実を教えていたが、アーシアは嘆きも悲しみもしないで強い眼差しで睨みつけていた。

 愉しみにしていた反応ではないことと、その生意気な眼差しに腹がたったディオドラは、パンッとアーシアの頬を張る。

 玩具風情が何様のつもりだと思ったのだ。

 

「ふん、目の前で頼りにしている赤龍帝を殺せば少しはマシな表情になるかな」

 

 たかが元人間の神器持ち転生悪魔風情を強者と思うことは、純血悪魔たるディオドラのプライドが許さなかった。

 どうせ赤龍帝の功績にしても、成り上がりを推奨する現政府によるでっち上げだと解釈していた。

 

「オーフィスの蛇による強化。そして切り札もある僕が負けるわけなんてないさ」

  

 それどころか此処まで辿り着けるかも分からない。そう思いながら、その切り札を撫でる。

 堕天使の組織に潜り込んだままの内通者達が『反転』の術式と共に盗み出した人工神器。

 アザゼルの工房の一番奥深くに誰にも触れないように厳重に封印されていた珠玉の一品。

 

「相応しい使い手に渡り、創造主も喜んでくれてるだろうね」

 

 それは剣であった。

 閃光と暗黒の異なる、相反する属性を宿した剣型の人工神器。

 それが盗み出され、各陣営のトップ達に存在を晒されたと知った時、創造主たるアザゼルは尋常ではない叫びを上げることだろう。

 





 補足・説明。
  
 キリが良いのでここまでです。
 原作通りの展開で申し訳ありません。
 ディオドラがイキっていた理由が判明、そう彼の手には伝説の剣があったのです。
 
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