異世界イッセー   作:規律式足

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 なんとかできました。



第八十八話 彼の成した結果。

 

 アーシアが消えてしまった。 

 アーシアがここにいない。

 アーシアがどこにもいない。

 その受け入れることのできない筈の現実に、俺はなぜか納得していた。

 そうなるよな、と。

 今までが幸せだったから、これからもそれが続くなんて道理はない。

 大願叶ったその先に、望まぬ未来があるものだ。

 だって世界は理不尽で、残酷で、救いなんてないのだから。

 いいや、違う。

 救いはあった、幸せはあった。

 ただ救われて、幸せだったから、取り上げられたんだ。

 お前には分不相応だと、取り上げられたのだ。

 納得したよ、受け入れてやるよ。

 でもその上で言おう。

 なんでアーシアなんだと。

 その不幸は血塗られて罪深い俺にこそ、降り注ぐべきなのに。

 なんでアーシアなんだよ。

 

「神滅具で創りし物、神滅具に破られるか。霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」

 

 ぼんやりとした思考で、覚えのない声の主を見る。

 ああ、やっぱりこの方か。

 軽鎧を身に着けて、マントを羽織った悪魔の男性。

 旧魔王派の実質的リーダー。

 名を奪われし正統なる一族が後継、シャルバ・ベルゼブブ。

 現れるなり名乗りを上げたこの事件の首謀者は、助けを求める、顔面を潰され精霊魔法の鎖で固定されたディオドラ・アスタロトを始末しようと、光の一撃を放つ。

 胸に大穴を空けるであろう一閃。

 だがそれを、俺は顕現した光剣で切り捨てた。

 

「え?今、僕は始末されかけて。赤龍帝に守られた?」

 

 死ぬのと生きるのどちらが救いかなんて、俺は知らない。だけど、今コイツが死んだらアーシアと同じ列に並ぶかもしれない。

 それはあまりにも不快が過ぎる。

 

「ほう、庇い立てするか。眷属悪魔とかいう犬ころだけはあるな」

 

 嘲りの言葉をむけてくるシャルバ。

 

「負け犬も犬ころだろうに」

 

 ポツリと呟いた本音に、プライドだけは一丁前の負け犬が反応する。

 

「我ら真の血統を愚弄するか!!」

 

 ああ煩い。

 激情を向けられても、心は凪いだように静かなまま。交わす言葉は波一つとて起こさない。

 そんな俺を、アーシアを失って泣き叫ばない俺を、皆はさぞかし軽蔑してるだろうな。

 そう思って皆に視線を向ければ、リアス部長も朱乃さんも木場も小猫ちゃんもギャスパーも、全員が俺に痛々しいものを見るような目を向けていた。

 ポタリ、ポタリ。

 そこでようやく、両の目から溢れ落ちる液体に気がついた。地面に落ちたソレは赤黒いシミを作る。

 流れていた涙は普段とは違い、赤黒くて熱い、血の涙だったのだ。止まることのない血の涙。ああ、全身の血を全て流し切り、カラッカラになってしまえば良いのに。

 

「英傑たる四大魔王の名を落としめたのは、実力劣る貴方達でしょうが」

 

 それで一番迷惑を受けたのは、強かったばかりにやりたくないことを押し付けられた当代四大魔王様方だ。

 見れば分かる。

 オーフィスの蛇を呑み、禍の団で入手したあらゆる技術を用いようとも、目の前の人物は当代四大魔王様には及ばない。

 嫌がらせに当人以外を狙うことしかできない、臆病者だ。

 

「ほざけ!汚物同然のドラゴンが!忌々しい偽りの魔王の妹と、下劣なる転生悪魔ごと滅ぼしてくれる!真のベルゼブブたるこの私がな!!

 次元の彼方に飛ばされ消えていった娘のようになあ!!」

 

「もう黙れ」

 

 真のベルゼブブ様とやらがいつまでも煩く耳障りだった。だから光剣を振るった。

 適当に振られた精霊の刃は、斬った手応えを感じさせることなく、宙に浮かぶ自称偉大な御方の四肢と翼を斬り飛ばした。

 

「は?」

 

 ドチャリと熟した果実が落ちた時のような音をたてて、シャルバ・ベルゼブブは石造りの床へと落ちる。

 不様なダルマへと成り果てた真のベルゼブブの血を引く者様。

 殺しはしない。

 屈辱を抱えたまま朽ちるまで生き続ければいい。

 それが一番お似合いの末路だ。

 精霊魔法にて、シャルバを凍結封印をする。

 呆けた表情のまま凍り付けにしてやった。

 これで出血多量で死ぬことはなくなるしな。

 

「なあドライグ。次元を透過することとか、できないよな」

 

『無理だな。俺は異界渡りに秀でた種ではない』

 

 首謀者を捕えた。

 だから無駄とわかっているできることを探す。

 

「覇龍になって空間を砕く」

 

『砕いた先にアルジェントがいる保障がないし、いたとしても砕いた衝撃で、この場の仲間達諸共死ぬ』

 

「光剣か闇剣で次元を斬る」

 

『精霊魔法は応用が効かないことが最大の欠点だ。精霊は自らの司ることしかできない』

 

「空隙の精霊と対話」

 

『それは陽介にしかできん』

 

「陽介さんに変身」

 

『精霊魔法でも神に授けられた異能は再現できん』

 

「次元の狭間に行ける方に頼む」

 

『一番現実的だが手遅れだ』

 

 そっか。

 無理なのか。

 無駄とわかっていたことは、やはり無駄だったんだ。

 アーシアはもう。

 どうあっても助けられない。

 アーシアとはもう。

 二度と会うことはできないのか。

 途切れることなく流れる血の涙。

 泣けば楽になれる筈なのに、泣き喚けば痛みが和らぐ機能が人類にある筈なのに。

 ちっとも楽になれないな。

 

「何が史上最強の赤龍帝か、強いだけじゃ、なにもできやしなかった」

 

 最強にできることは自分を守ることだけ。他に何一つとしてできやしない。

 

「俺には何もできない。無駄に無意味に強いだけだ」

 

「そうではないだろう」

 

 嘆く俺に、そんな俺を辛そうな目を向ける仲間達に別の誰かの声がした。

 

「白龍皇・ヴァーリか。

 そういやお前もルシファーだから旧魔王派か」

 

 三大勢力会談以来となる宿命のライバルとの再会か。

 正直、やりあう気分ではないが。

 

「敵を見逃す気にならないよな」

 

 生かして返せば、また別の仲間がやられる。だったらここでコイツも殺るべきか。

 今度こそ、確実に。

 

「心地良い殺気だ。

 なんだ兵藤一誠。今の姿でも充分強いじゃないか。これは楽しめそうだ」

 

「悪いが、アザゼル先生の不興を買ってでも始末させてもらうぞ」

 

 シャルバなんかよりよっぽど強いしな、白龍皇ヴァーリ・ルシファーは。

 

「待て待て待て待てーい!!

 なんでそんなに血気盛んなんだよお前ら!!ヴァーリも目的を忘れんな!!」

 

 光剣を構える俺と楽しげに笑うヴァーリの間に割って入る。古代中国の鎧を着た男、確か美猴だったか。

 

「そうですよ、しかしその光の剣。私の聖王剣コールブランドより強そうですね、魔法なのに」

 

 背広を着た男性も黒歌の時に居たな。そうか剣士で聖剣使いか。

 中々強そうだがなんとかはなるな。

 

「それでなにしにきた」

 

 戦う気がないならなんのために来たのやら。

 

「拾い物を持ち主に届けにきただけだ」

 

「ほらよ、お前らの仲間だろ、この癒しの姉ちゃん」

 

 美猴が渡してきたのは、気絶している少女。

 

「え?」

 

 先程失ったと思った、アーシアだった。

 息もしている、温もりもある、生きている。

 

「どうして」

 

「私達がちょうど次元の狭間を探索してましてね。そうしたらこの少女が転移してきたんですよ。せっかくだから届けて差し上げようと連れてきたんです」

 

 そんな偶然があるなんて。

 

『アルジェントにはドラゴンを惹きつける才があるのかもな。だから白龍皇の元へ辿り着けた』

 

 そっか。  

 良かった、本当に良かった。

 

「うわぁぁぁあん!」

 

 ゼノヴィアも安堵したせいか、その場に座り込んで泣き出した。俺もそうしたい気分だ。

 

「なんか複雑だが、アーシアを助けてありが」

 

「何のことだ?彼女を救ったのは兵藤一誠、お前だろうが」

 

「何を言っている、俺は強いだけで何も」

 

 俺がアーシアを救ったなんてそんなことは。

 

「お前がアザゼルの想いを汲んで俺を殺さなかった。

 だから俺は今回の探索を行うことができ、アーシア・アルジェントを拾った」

 

 それは、そうだろうが。

 

「お前がしたことだ。

 お前が選んだ道だ。

 だからアーシア・アルジェントは救われたんだ。それを間違えるな兵藤一誠」

 

 そうか。

 そうなのか。

 

「俺のしたことで、救えたんだなあ」

 

 気がつけば血の涙は、透明な涙へと変わっていた。悲しみの涙から喜びの涙へと。

 自分のしたことで救えた命。

 大切なソレを抱きしめた。

 もう離さない、そう誓って。

 

「あれ?イッセーさん?」

 

「おはよう、アーシア」

 

 目を覚ましたアーシアに一言挨拶をして、飛びついてきたゼノヴィアに彼女を託す。

 抱き合う親友二人の姿にこの光景がいつまでも続くように守りたいと思う。

 とりあえずこれで一件落着だ。

 拘束したままのディオドラから閃光と暗黒の龍絶剣を回収する。アザゼル先生が封印するほどの強力な人工神器を捨て置くことなんてできないからな。

 

「ありがとうなヴァーリ」

 

「ま、たまにはいいだろう。それよりそろそろだ。空中を見てみろ」

 

「?」

 

 ヴァーリの言葉に従い、何も無いフィールドの白い空を見上げる。

 すると、バチリバチリと音がなり、空中に巨大な穴が開いていく。そして、そこから何かが姿を現した。

 

「あれは」

 

 穴から出現したものを見て、その場の全員が驚いた。

 そこにいる巨大なドラゴンに。

 ヴァーリは口元をゆるくにやけさせながら言う。

 

「よく見ておけ、兵藤一誠。あれが俺が見たかったものだ」

 

 空中を雄大に泳ぐ真紅のドラゴン。

 あのタンニーン様よりも遥かに大きなドラゴン。グランバハマルのクラウドドラゴンくらいあるんじゃないか?

 

「『赤い龍』と呼ばれるドラゴンは二種類いる。一つは君に宿るウェールズの古のドラゴン、ウェルシュドラゴン・赤龍帝。白龍皇もその伝承に出てくる同じ出自のもの。だが、もう一体だけ『赤い龍』がいる。それが黙示録に記されし、赤いドラゴンだ」

 

「黙示録の」

 

「『真なる赤龍神帝』グレートレッド。『真龍』と称される偉大なドラゴンだ。次元の狭間を永遠に飛び続けている。今回、俺達はアレを確認するためにここに来た。レーティングゲームのフィールドは次元の狭間の一角に異空間を創造するからな。アザゼルの所にいるオーフィスの目的もアレを確認することだ」

 

 本当に旧魔王派とヴァーリ達は無関係だったというわけか。

 しかし、オーフィス。

 そうか、元凶がここに居るのか。

 ヴァーリの言葉に胸の内に湧き上がる感情がある。不味いな我慢ができそうにない。

 

「次元の狭間を飛び回る最強のドラゴンか」

 

「アレこそがオーフィスの目的であり、俺が倒したい目標だ。もっとも今はお前を一度は打ち負かして天龍の座に戻ることが先だがな」

 

 まあ、もう二天龍とは言えないからなあ。

 この時のヴァーリは真っ直ぐな瞳で言った。

 

「俺の最も戦いたい相手、『D✕D』と呼ばれし『真なる赤龍神帝』グレートレッド。俺はな『真なる白龍神皇』になりたいんだ。赤の最上位がいるのに、白だけ一歩手前止まりなんて格好がつかないだろう?ましてや当代の赤龍帝は赤龍神帝に匹敵しかねない存在なんだからな」

 

 うーん、どうだろうか。

 なあドライグ、アレに勝てるか?

 

『最強状態でも難しいぞ。だが最強状態を超える形に成長できればあるいはだな』

 

 可能性はあるのか。

 正直気乗りはしないが。

 ヴァーリの夢。恩人であるアザゼルの元を飛び出してまで追いかける夢は、テロリスト集団に身をおいている事実があれど真っ直ぐだなと思った。

 グレートレッドに挑むこと。

 それは真っ当な組織に属していては許されない行為なのだから。

 そうヴァーリについて考えていると、その声は聞こえた。

 

「グレートレッド、久しい」

 

 俺達のすぐ近くに黒髪黒ワンピースの少女が立っていた。それが外見だけなのは気配から伝わってくる、今まで見た中で、空中のグレートレッドに次ぐ存在。

 

「アイツが」

 

「そう、オーフィス。ウロボロスだ。『禍の団』のトップでもある」 

 

 そうか。

 そうなのか。

 少女、オーフィスはグレートレッドに指鉄砲の構えでパンっと打ち出す格好をした。

 

「我はいつか静寂を手にする」

 

「その前にここで滅べボケ」

 

 だから俺は元凶の腹に全力で拳を叩き込んだ。

 

「やるぞドライグ」

 

『正気か相棒』

 

 ああ、コイツが無垢な存在なのは見て分かる。グランバハマルの魔獣のように悪意から人々を襲う存在でないと理解できる。

 だがコイツの願いは皆を殺す。

 ならばここで、無垢なる心に怒りを刻んでやる。

 

『我目覚める、覇の理を神より奪いし二天龍なり、無限を嗤い、夢幻を憂う』 

 

「そこまでだイッセー君」

 

 覇龍を発動し、精霊魔法で強化し、右手を魔炎竜、左手を魔毒竜に変化させようとしたところで、上司たる四大魔王サーゼクス・ルシファー様からの静止の声がかかった。

 

「サーゼクス様」

 

「オーフィスとの戦闘は今はまだ許可できない。この空間は君の本気に耐えられる強度はないからね」

 

「ですが!!」

 

「それに、ね」

 

 サーゼクス様はその温和な顔を無表情に変え。

 

「滅ぼすなら、私も一緒にだよ」

 

 その膨大な魔力を感情のまま吹き出していた。

 そう、この方だって怒っているのだ、だが立場ゆえに飲み込んでいただけなのだ。

 

「浅慮が過ぎました。申し訳ございません」

 

「良いよ、気持ちは一緒だ」

 

 同じ気持ちの存在がいる。

 それはなんとも救われることか。

 

「さて、オーフィス。各地で暴れて回った旧魔王派の連中は退却及び降伏した。事実上、壊滅だな」

 

 サーゼクス様と共に来たアザゼル先生が代表するようにオーフィスへと告げる。

 俺の一撃を食らったオーフィスは、軽く揺らいだものの殆どダメージはないようだ。

 クソ、最強の姿なら穴くらい空けれたのに。

 

「痛い、ドライグ、アルビオンより強い。

 旧魔王派、それもまた一つの結末」

 

 まるで気にしていないオーフィス。

 これは組織の長とは言えないな。

 

「お前らの中でヴァーリ以外に大きな勢力は人間の英雄や勇者の末裔、神器所有者で集まった『英雄派』だけか」

 

 あの結界を張った奴の所属する集団か。

 

「イッセー、殺気をおさめろ。さーて、オーフィス。この面子相手にやるか?」

 

 いいねえ、ソレ。

 空間保ちそうにないのが問題だけど。

 

「我は帰る」

 

 そう告げてオーフィスは消え去った。

 なぜか俺が殴った腹部を気にしたように撫でながら。

 空間転移か、今後はその対策も必須だな。

 

「俺達も退散する」

 

「逃がすか縛動拘「勘弁してやれイッセー」ウス」

 

 ヴァーリも聖王剣で切り裂いた次元の裂け目にイソイソと入ろうとしていたので、拘束しようとしたが、アザゼル先生に止められる。

 しばらく息子の家出を認めるのか。

 挨拶やら自己紹介をしながら去っていくヴァーリを見送りながら、ようやく、ようやく、今回の件の終わりを実感できた。

 

「帰ろうかアーシア。俺達の家に」

 

「はい。お父さんとお母さんが待つ家に帰ります」

 

 この手に彼女の存在がある。  

 その幸せを噛み締めながら。

 

 

 

 その後、顔面潰されて拘束されたままのディオドラやらダルマになって氷漬けになったシャルバの姿に回収に来た悪魔の皆さんがドン引きし。

 閃光と暗黒の龍絶剣を渡したアザゼル先生がとんでもない叫びを再び上げることになる。





 補足・説明。
 
 なんとか終わりました。
 こんな決着ですが終了です。
 戦えれば勝てるイッセーを無力感を与えるお話でした。
 手段を選ばないテロリスト、それに抗うことは本当に大変なのだなと書いてて思いました。
 この話はイッセーがヴァーリを見逃したことに巡ったことを書きたかった感じですね。
 最強でもできたことはあったと。


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