異世界イッセー   作:規律式足

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 書けました。



第九十七話 前哨戦

 

「先手必勝だと思ったのだがね」

 

 聖なる波動が湧き上がるデュランダルを振り切った姿勢でゼノヴィアは言う。

 剣士という枠組みには一応当てられてはいるけれど、彼女の戦闘スタイルは剣士というよりは砲撃手に近い。聖剣の中でも最大のエネルギー量を誇るデュランダルを力一杯振るって、相手にその膨大な聖なる波動をぶつけるのだ。

 レーティングゲームにおいて、雷光操る魔術師タイプである朱乃さんより彼女に壊し過ぎないようにと厳重に注意されるくらいだからその扱いはわかるというものだろう。

 

「どうやら効かないようだ。流石は北欧の神か」

 

 けれど上級悪魔とて(相性もあるが)障壁ごと消滅されるだろうその攻撃は悪神ロキには通じない。視線の先には何事もなかったように空に浮く姿があった。

 グレモリー眷属では俺を除いて最強の攻撃力であるゼノヴィアのデュランダル砲がまるで効いていなかった。

 

「聖剣か。いい威力だが神を相手にはまだまだ。その程度ではそよ風に等しいぞ」

 

 馬車の外にて護衛にあたっていた、木場が聖魔剣を創り出し、転化天使であるイリナも光の剣をその手に発生させ、堕天使幹部バラキエルさんは雷光を漲らせていた。

 だが悪神ロキからすればそんな動きとて笑いを誘うものでしかない。

 

「ふはははっ!無駄だ!これでも神なんでね、たかが悪魔、天使、堕天使の攻撃など恐るるに足らんよ」

 

 舐めた態度で悪神は左手をゆっくりと突き出す。その手には得体のしれないプレッシャーが集まっているように感じた。

 なんらかの攻撃の予兆。

 放たれたら仲間達がマズイな。

 

「禁手化」

 

 天使の光力、聖剣の聖なる波動が悪魔にとっての弱点である。だが他神話の神のエネルギーはどうなるのがわからない。触れただけで焼かれる程度なのか、腐食するほどのものなのか、即死なのか不明なので、竜殺し以外には大抵のエネルギーに耐性のある赤龍帝のドラゴンの外装を身に纏う。

 狙うのは攻撃の阻止。

 そして情報収集だ。

 問答無用の抹殺はやろうと思えば可能だが、聖書勢力と北欧神話のこれからの関係を考慮すればやってよいのか現時点では判断できない。

 今の状況を考えれば、上役が抹殺と指示をだせば殺せる聖書の勢力とは違い、北欧神話では主神の意思がどこまで決定的かわからないのだ。

 赤龍帝の鎧の翼からブースターのように魔力を噴かせ加速。

 ゴゥンッ!!

 打ち込んだ拳はロキが右手から発生させた魔力障壁にて防がれた。

 赤龍帝の鎧ごしでも壁のような感触。触れても殴った衝撃以上の痛みはない。

 

「っと。そうだったそうだった。ここには赤龍帝がいたんだった。良い調子にパワーを身につけているじゃないか。だが」

 

 回避ではなく防御を選ばされたにも関わらず悪神の余裕は揺るがない。禁手程度の倍加率では障壁を砕けずその攻撃阻止すら足りないようだ。

 ロキの手に光り輝く粒子が集まる。圧倒的(この世界基準)な力を圧縮してこちらに撃ち込もうとしているようだ。

 

「直撃はマズイね」

 

『精霊魔法を見せる程ではないがな』

 

 神を相手にするのはまだ早い!と叫びながら撃たれたその技を、『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』赤龍帝の鎧の能力である時間経過を無視した倍加で強化した魔力弾にて迎撃する。

 ドッパァアアアアアンッ!!

 悪神と転生悪魔赤龍帝の波動が宙で派手にぶつかり勢いよく弾け飛ぶ。発生した爆風と衝撃がオーディン様を中心として囲う仲間達を襲う。

 

「この程度じゃ互角か」

 

『転生悪魔と赤龍帝の鎧、それだけのスペックでは神には到底及ばないようだ』

 

 合力異装は属性変換みたいなものだし、赤龍帝の戦鎚などは赤龍帝の篭手の変形。

 精霊魔法を使わずに撃退するとなると、悪魔の駒のプロモーションを使用して『女王』に昇格して強化するよりも、『覇龍』を発動した方が確実か。

 戦いながら未知の敵を分析する。

 これからは北欧に限らず神と相対する可能性がある。だから敵対相手を殺せない段階では情報収集に励むべきなのだ。

 

『とはいえ相殺だけではないようだな』

 

 ドライグの言葉にロキを見ればその手から赤い煙が立ち上っていた。倍加魔力弾はいくらかのダメージにはなったようだ。

 まだまだ強化は可能な一撃だが瞬間的に放てるのはあれが限度。それがあの程度のダメージにしかならないのならやはり禁手化では厳しいな。

 俺の判定とはうらはらにロキは嬉しそうに口の端を吊り上げる。

 

「特別手を抜いたわけではないのだがなぁ。これはまた面白い限りだ、嬉しくなるぞ。とりあえず笑っておこう、ふははははははっ!」

 

(なにコイツ変態?)

 

『(見下してる存在が予想以上に強くて楽しいんだろ。北欧神話は戦い上等みたいな神話だし)』

 

 戦乙女とかある文化圏だしなあ。

 戦いを愉しむ手合いは付け入る隙が出来やすいので殺りやすくはある。

 しかし手を合わせた感覚から疑問が浮かぶ。確かに悪神ロキの実力は堕天使幹部であるコカビエルやバラキエルさんや、血統良い上級悪魔である旧魔王派のカテレア様より強いが、先日のレーティングゲームで見た北欧の主神にして魔導極めた槍神であるオーディン様には遠く及ばない。

 いくら抗議の為とはいえ襲撃をかけても返り討ちにあうのは目に見えてるだろう。

 そんな思考に俺がおちいっていると、ロキはオーディン様の周りの魔力漲らせるリアス部長をその目に捉えた。

 

「紅い髪。グレモリー家だったか?現魔王の血筋だったな。堕天使総督、堕天使幹部、天使が一匹、悪魔が沢山、赤龍帝も付属。オーディン、ただの護衛にしては厳重だ」

 

「お主のような大馬鹿が来たんじゃ。結果的に正解だったわい」

 

 アザゼル先生なんかにいたっては一勢力のトップで護衛なんてする立場じゃないんだけどなあ。

 

『オーディンの接待できる社交性と知識のある唯一の存在だからだろ』

 

 オーディン様の言葉にロキはウンウンと頷き、不敵な笑みをいっそう深めた。

 

「よろしい、ならばその備えに敬意を称しこちらも呼ぼう」

 

 言うとマントを広げ、高らかに叫ぶ。

 

「出てこいッ!我が愛しき息子よッ!」

 

 ロキの叫びに一拍空けて空間に歪みが生じる。

 なるほど、これが主神に実力で及ばない悪神の勝算というわけか。

 ヌゥゥゥッ。と空間の歪みから姿を現したのは、灰色の犬、いや狼か。

 十メートルはありそうな巨獣が悪神ロキの呼びかけにより出てきたのだ。

 

「強いね」

 

 発するプレッシャー、圧倒的存在が生きてるだけで放つ威圧。

 グランバハマルでは馴染ある、この世界では、ミルたん、サーゼクス様、グレートレッド、オーフィスからしか感じたことのないレベルの気配だ。

 

『この錚々たる面々に並ぶミルたんの存在感よ』

 

 心臓を鷲掴みになるような重圧に、若手悪魔内で最も実戦経験のあるとされるグレモリー一派が畏れ慄いていた。

 あの巨狼はいったい。

 本狼は威嚇すら動作も見せずにこちらを視線だけで射抜いていた。が、俺を見た瞬間ギョッと耳を突き立てた反応をして主(親?)らしきロキに「え、アレとやるんスか?」と狼であるにも関わらず器用に表情を変えて顔を向けた。

 なにその反応。まるで初めて会った時のタンニーン様みたいなんだけど。

 

「マズイ。お前ら、あのデカい狼には手を出すなッ!イッセー、距離を置け!いやお前ならなんとかなるのか?」

 

 味方からもこの扱いよ。

 ただアザゼル先生も今まで見たことのないくらいに緊張した表情になっている。旧魔王を相手にしてもふてぶてしい態度だった勇猛な堕天使総督がだ。

 

「あの狼は何なんですか?」

 

 悪神ロキの生みだした怪物だというのはわかる。そして気配からして北欧の主神たるオーディン様に匹敵、凌駕する存在だということも。

 

「神喰狼だ」

 

「フェンリル」

 

 先生の言葉に全員驚愕し、同時に納得したかのようだった。他神話にすら知れ渡る存在というだけでも強者の証明なのに、ここまで恐れられるとなると尋常ではないだろう。

 その存在を正しく把握し、全員がより警戒態勢を強めたところアザゼル先生が説明を続ける。

 

「神を確実に殺せる牙を持つ伝説の巨狼。いかに神滅具、赤龍帝の鱗と同等の防御力を誇る禁手の鎧であろうとも容易く貫くぞ!」

 

 鎧が鎧として意味を成さない攻撃力か。

 なるほど厄介だ。

 さらに神殺しの属性。悪神ロキが主神オーディンに勝てると確信するわけだ。

 ロキがフェンリルを撫でながら言う。

 

「そう気をつけ給え。コイツは我が開発した魔物の中でトップクラスに最悪の部類だ。北欧内にて神を殺せると太鼓判された牙を持つのだからね。試したことはないが、他の神話体系の神仏にも有効だろう。上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる」

 

 するとロキはその指先をリアス部長へと向けた。

 

「本来、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないが、まあこの子に他神話の血を覚えさせるのも良い経験となるかもしれない」

 

 なるほどヤツの狙いは、

 

「魔王の血筋。その血を舐めるのもフェンリルの良い糧となるだろう。やれ」

 

 リアス部長かっ!!

 父の命令に神喰狼は高らかに吠える。聞く者全ての全身を震え上がらせながら、聞き惚れてしまいそうになる美しい声だった。

 同時に一迅の風になったかのように姿が掻き消える速度でリアス部長に襲いかかるも、

 その程度の速度に反応できない俺ではない。

 

「触るな犬ころ」

 

 対応するには精霊魔法の発動が必要だった。だが神速とも言えるフェンリルに追いついた俺は、魔力を集中した右拳でリアス部長を噛み殺さんとした巨狼を殴り飛ばした。

 

『倒すには足らんか』

 

 殴り飛ばされたフェンリルは体勢を整えつつもロクなダメージもなくこちらを(やや怯えつつ)睨みつけていた。

 

「禁手では精霊魔法を駆使してもパワーが足りない」

 

『となれば覇龍だな』

 

 やるか。

 ロキ単体ならば、全員でかかれば勝てる。

 なら俺の役目はロキの最強の手駒であるフェンリルを全力で撃退することだ。

 

「む、出遅れたか」

 

 高まる戦意の中に闖入者の声が響いた。

 それは聞き覚えのある、

 

「ヴァーリッ!!」

 

 白銀の鎧を纏いし魔王の血をひく半悪魔。

 元二天龍、白龍皇ヴァーリだ。

 養父であるアザゼル先生が声を上げる中、切り裂かれた空間から仲間達と共に彼は現れた。

 

「ほう、白龍皇か」

 

 ロキはヴァーリの登場に嬉々として笑う。

 

「初めまして、北欧の悪神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。貴殿を屠りに来た」

 

 ヴァーリの宣戦布告を聞き、ロキはさらに愉快そうに口の端を吊り上げるが。

 

「二天龍が見られて満足した。今日は一旦引き下がろう!」

 

『白いのは元二天龍だけどな(笑)』

 

 言ってやるなドライグ。

 ロキは白龍皇とその仲間達の参戦に分が悪いと判断したのか撤退するようだ。マントを翻したロキは空間を歪ませ自身とフェンリルを包みこませた。

 

「だが、この国の神々との会談の日!またお邪魔させてもらう!オーディン!次こそ我が子フェンリルが、主神の喉笛を噛み切ってみせよう!」

 

 主神殺害を宣言し高笑いしながら去っていく悪神と、嫌だなーめんどいなーという態度がうっすら漂う神喰狼は消えていった。

 

「逃げられたか」

 

『相棒にフェンリルを抑えられてしまえば目的が果たせないからな』

 

 となれば次の襲撃には追加戦力があるとみるべきだろうな。北欧の他の神々の参戦も有りうるのか?

 まあそれよりも先に、

 

「なんのつもりだヴァーリ?」

 

 現れた白龍皇をなんとかしないとね。

 

「ふ、神を屠りたくてな」

 

 養父であるアザゼルに問い詰められる白龍皇ヴァーリと、その後ろに控える孫悟空の血を引く美猴、聖王剣の使い手アーサー、小猫ちゃんの姉である妖猫の黒歌さん。彼らを確認した俺は、

 

「縛動拘鎖」

 

「「「「え?」」」」

 

 とりあえず全員精霊魔法で拘束した。

 タイミングが良すぎる参戦。

 養父のピンチに颯爽と駆けつけたなら美談だけど、本人が違うって言ってるし。

 

『ロキと共謀してるか、あるいは漁夫の利狙いってとこだろう』

 

 なにはともあれ尋問して目的をはかせないとね。

 

「この赤龍帝、マジで容赦ないぜぃ」

 

 光り輝く精霊魔法の鎖に縛り上げられた美猴の声が戦いの終わった夜に響くのであった。





 異世界イッセー。
 勝とうと思えばロキとフェンリルに勝てる赤龍帝。ただ従者意識高めなので上司からの指示待ち人間だったりする。
 実力の見立てとして、
 ロキ→覇龍使用で勝てる。
 フェンリル→覇龍+精霊魔法でなんとかなる。
 そもそも覇龍をノーリスクで使用できる世界初のとんでもない赤龍帝なのだが本人にその自覚が無かったりする(覇龍初使用時点で歴代亡霊が昇天してるのでリスクそのものを知らない)。

 ロキ。
 アニメ版との姿形が違うから困る。読み返すとマント?みたいになるけど小説版だと付けているので。
 実力としては、アザゼルと同格が目安。人工神器の禁手を加えたらアザゼルが上。最も光力が特攻ではないから苦戦はする。
 いかに神とはいえ、武神や破壊神の類でないのに1勢力のトップ以上の実力だったら聖書の勢力がここまで広まる筈がないので。
 種馬としては世界最高峰。

 フェンリル。
 世界最強格の魔狼。
 異世界イッセーから見て、ミルたん等に次ぐ実力と判断されたのだからとんでもない存在。
 ただ本人(狼)は弟であるミドガルズオルムと同じくらい怠け者でやる気無し。
 また強者かつ獣である為か異世界イッセーの実力を正確に見抜きかなり怖気ついている。
 親であること、魔力で支配、思考を縛られているせいでロキに逆らえないが、コイツ(ロキ)を噛み殺して腹を出して降伏すれば許してくれないかなと実は思っている。
 生来の最強格であり、誕生してから大半の生涯を封印されて過ごしていた為か、戦闘意欲があまりない。
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