フェイト・テスタロッサ・ハラオウンから見て、高町なのはという親友は、どこか生き急いでいるような印象があった。
ただ、それは今は昔の話。
JS事件以前から落ち着きというか、誰かを頼るということをし始めるようになったし、事件の中でも、それを乗り越えた先でも、「1人でどうにかしなきゃならない」と気負っていた昔の姿はなく、誰かに気兼ねなく頼れる懐の広さを身につけているように感じられる。
誰かに頼るということができるようになってからというもの、なのはの印象は明るく、暖かなものに変わった。
この間も、珍しく朝寝坊したなのはだったが、その日サポート役で出勤していたヴィータに午前の教導をお願いして、開き直ってゆっくりと朝食を食べたりしていた。
ヴィヴィオとフェイトも丁度休みで、のんびりと三人で朝を過ごすことができたのだが、内心でフェイトはそうやって開き直れる親友の変化を喜んでいた。
丸ごと誰かに頼れる。
それはとても難しいことだ。
特にフェイトも仕事の関係で誰かに任せることがしにくい環境にいる。
最近は同じく執務官になったティアナや、シグナムといった友人に仕事を協力してもらったり、分配して負担を減らしたりとしているので、執務官なりたての頃のような駆けずり回る忙しさからは解放されつつあるが、ここまでくるにも様々な葛藤があった。
きっと、なのはもそうなのだろう。
自分の中で色々な考えがあって、悩んで、葛藤して、そして納得して。
そうやって誰かに頼るという術を自分の中に落とし込んでいったのだろう。
今日はティアナにデータ整理や報告書を任せて、帰路につくフェイトは自身の持つスポーツタイプのMCを運転しながら思い返す。
いつから、なのはは「誰かに頼る」という考えに目を向けるようになったのか。彼女が墜落したあの日から?それとも復帰してから?日々の積み重ねの結果、なのはの中で折り合いがついて、そうやって自然と考えを帰っていたのかもしれない。
ただ、その中でも大きな転機というタイミングに、フェイトは心当たりがあった。なぜならフェイト自身も考えさせられる出来事だったからだ。
そして今日。
自分たちにとっても印象深い転機を共に駆けた……その当事者が久々にミッドチルダに帰ってくる日だった。
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「はじめして!高町ヴィヴィオです!」
首都クラナガンから離れたベッドタウンにある高町家。立派な一軒家の中では、豪勢な食事を準備したなのはと、そんな彼女に見つめられながら元気に来訪者に挨拶をする愛娘がいた。
「はじめまして。高……あー、君のママの友達のサガミ・バルディオだ」
ビデオレターでは何度か顔を見ているが、こうやって会うのは初めてなことと、子供の元気の良さに慣れていないのか、サガミは少しぎこちない様子で挨拶をしてきたヴィヴィオにそう返した。
「話は聞いてます!すごくすごーく強いってママが言ってました!」
「強いかどうかは……どうなんだろうな?少なくとも砲撃魔法相手には手も足も出ないぞ?」
一体何を、ヴィヴィオに教えているのだろう。そんなことを考えながら、ヴィヴィオから矢継ぎ早に出てくる質問に答えるサガミ。ちゃんとご飯も食べなきゃだめだよ、となのはが注意するとヴィヴィオはご飯を頬張って質問、頬張って質問を繰り返していく。
「変わってないようで安心だね、なのは」
そんな様子をなのはとフェイトは2人で眺める。
ヴィヴィオがどんな反応をするのか少し不安だったが、それは杞憂だったようだ。グイグイと推していくヴィヴィオに引きずられるように会話を楽しむサガミを見ていると、昔の自分たちを思い出すようだった。
「うん。サガミくんも、あの頃もままだね。5年も会ってないとやっぱり色々感じちゃうなぁ」
「あっという間のようで、思ってみれば長いからね」
「濃厚な5年間だったとは思うかな」
うんうんと頷くなのはにフェイトも同意する。振り返ってみれば5年という長い日々だったが、それを駆け抜けた自分たちからすればギリギリの戦いや激務でとてもとても早く感じられてならない。
「サガミさんは外縁世界を調査してたんですよね!どんな世界があったんですか?」
ふと、ヴィヴィオはそんな質問を投げる。サガミは外縁部調査部隊の人間だ。出自が特殊なヴィヴィオにとって、そんな様々な世界を見つける仕事はとても興味があった。
「あ、それは私も聞きたい」
そう言って「聞かせて聞かせて」と目を輝かせるなのは。似たもの親子だな、と内心思いながらもサガミは思考を巡らせる。
「まぁ色々な世界があったなぁ。ただ、ミッドチルダや管理世界みたいな発展した文化を持つ世界は発見されなかったな」
まだ発表や報告もしてないだろうから、機密に触れるような詳しくは話せないが、と言いつつ可能な範囲でサガミは新たに見つけた様々な世界の話をしていく。
完全に手付かずな自然が豊かな世界もあるし、岩石に覆われた世界もあった。
そして誰が何のために、いつ作られたのかもわからない謎の遺跡群。
独自の文化体系を持つ種族が住む世界などなど。
かなり詳細を端折ってざっくりした説明だというのに、サガミの語る外縁世界はとてもユニークで、脅威と、驚きに満ち満ちていた。
「サガミさんから見て、強烈な世界とかあった?」
「あー、あったあった」
「え、聞きたい聞きたい!」
「そうだな。まずは調査前に無人探査機を送るんだ。これが発見した新たな世界とのファーストコンタクトになる」
外縁世界は文字通り未開拓な次元世界が基本だ。そのため危険やリスクが多く存在している。対して調査部隊の人員や調査員も人数が限られている。そのことから最初のステップとして、無人の探査機をその世界に送り込むところからスタートするのだ。
「ただ、送った無人探査機からの信号が全然返ってこなかったんだよ」
「もしかして墜落したとか?」
その可能性も考えたなぁ、とサガミは答える。無人探査機は予備機があるとはいえ貴重品だ。できれば回収したかったのだが……それで自分たちが危険な目にあえばミイラ取りがミイラになる。墜落か、何らかの装置トラブルか。とにもかくにも調査部隊はその世界を危険な世界として判断するしかなかった。
「そして、ひとまずその世界から引き上げたんだが……二年後にその探査機から通信が飛んできたんだ。しかもデータがおかしい」
「おかしいって?」
「受信したのは二年後だったのに、そのデータの日付は探査機が到着して僅か数分後のものだったんだ」
「え……え……?」
「もしかしてそれって怖い話?」
恐る恐る聞くフェイトに、サガミは首を横に振った。
「いや、理由はデータを見たらすぐわかったよ。その星の重力が異常に重くてな。その世界での数分が、こっちの世界じゃ二年だったってことだ」
「重力が重くなると時間の進みが遅くなるってこと……?」
その通り、とサガミはヴィヴィオの見解を褒める。データを見る限り、その世界の重力系は凄まじく歪であり、不安定だった。探査機からすれば、地表調査とデータ採取をし始めたところで、まさか外では二年も経っているなんて想定外もいいところだろう。
「ちなみに今でも探査船からは二年ごとにデータが送信されているぞ」
「次元世界って不思議なんだね……」
「あとはそうだな。化け物みたいなサイズの原生生物が霧の荒野を闊歩してる世界とか」
「やっぱり怖い話じゃない!?」
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穏やかな食事会は終わりを迎え、サガミとフェイトはリビングで食器を洗っていた。
手作りのご飯から後片付けまで……頭から終わりまでやり切ろうとしていたなのはへ、後片付けを任せて欲しいと申し出たのはサガミであった。
最初は渋っていた彼女にだが、フェイトも手伝うと言い出し、さらにトレーニングと来客で少しお疲れ気味なヴィヴィオの事もあって、片付けを任せて今は2人でお風呂で疲れを癒している。
台所に立って食器を手際よく洗っていくサガミ。
ただ、片付ける場所などがわからないことから、水気の拭き取りと後片付けはフェイトが担当している。
「こうやってると、あの頃を思い出すよね」
「そうか?あの頃はここまで設備は充実してなかったぞ」
サガミとの出会いの場には、フェイトもはやてもいた。当時はまさに過酷の一言。
異世界サバイバル生活を強いられる任務であり、目的のものを探すために彷徨い歩いては、水場の近くでキャンプをする事も珍しくなった。現地で食料を調達し、四苦八苦しながら調理し、食事を終えた後はこうやって水場に出ては当番制の後片付けをしていた。
あの頃と比べれば雲泥の差だ。
キッチンがあるし、蛇口をひねれば新鮮な水が出てくる。それだけでも充分な変わりようだ。
滞りなく片付けを進めていくサガミの横顔を見て、フェイトの中にある考えが湧き上がってくる。
なのはにとって必要なのは、彼女を守ることができるパートナーだ。
周りの人がそれを聞けば驚くだろう。それに、その役目はフェイトが担っているように見えるのも事実。
ただフェイトにとって高町なのははあくまで親友。
共に苦楽を共にすることはできても、心から求め合うことはできない。いや、できるのかもしれないが……フェイトから見て、それはいい判断だとは思えなかった。
頭をよぎるのは自分とプレシアとの関係。
あんなことにはならないと心から思うことはできるのだけど……歪な愛と感情は、フェイトにとって トラウマを呼び起こすには充分だった。
一時は、その縁まで行きかけたが人はそれを依存ということをフェイト自身がよく理解できていた。それに、親友の重りになりたくないし、彼女の人生を縛りたくもなかった。
なので、フェイトからすればなのはにはしっかりとした相手と結婚して欲しいし、今以上に幸せになってほしい。ただ、生半可な相手をなのはが選んだ場合はとーっても厄介な親友身内枠になるのは間違いない。
そして、今日改めて見てはっきりとわかった。
なのはがサガミに向ける特別な感情を。
サガミ・バルディオ。彼はフェイトから見てもオール満点を叩き出す男であった。はやても指摘していたが、彼の本質はなのはに似通っている点がある。それを自分で把握している上に、誰かに頼るという懐の深さもある。
なにより、強い。
本人は謙遜しているが、近接戦に関して言えば右に出る者はいないと言える。実際に持っている武器が「聖剣」なのだから、現代版勇者というなら?というクイズがあるなら真っ先にサガミと答えるほど、彼の本質はそれに近いものとなっている。
そんな高潔な本質を持っていながら、サガミの人間性はとても良い。面倒見もいいし、なにより懐が深い。一度仲間と認めたら絶対に助けに来てくれる。外縁調査部隊でもその力を存分に発揮しているらしく、護衛職でありながらも調査部隊の実質的なリーダーやっていると、フェイトも噂で耳にしていた。
そして稼ぎも申し分ない。外縁部調査という任務を担う調査部隊は総じて賃金いいのが。さしずめ、時空管理局公認のベーリング海のカニ漁と言っても過言ではない。その分、危険が常態化しているのだが……そこはサガミの実力があればどうにでも出来るだろう。
そして、フェイトが1番評価している部分が、サガミの一途さである。過去の出来事のせいもあってか、サガミの性格はとてもさっぱりしていて綺麗だ。失礼だが、色恋にも疎いし、そう言ったことにうつつを抜かすような人物でもない。
人柄もよく、稼ぎも良く、そして一途。これほどの優良物件があるだろうか?そんな彼になのはは淡い恋心を抱いている。なら、それを後押しするのが親友としての役目なのである。
(サガミさん……なのはとお付き合いするなら、優良物件だし……なのはもまんざらでもなそうだし……よし!)
「あの、サガミさん。サガミさんはなのはのこと、どう思ってるの?」
食器のかたづけをしながら、フェイトは自然を装いつつ、そんな話題をサガミに振った。彼は泡のついた大皿を洗いながら、うーんと唸る。
「高町か?そうだな……優秀な戦士だが、ときどき自分を顧みない危なっかしさはあるな」
「そ、そうじゃなくて!女の人としてどうかなって!」
「……え」
意外な反応。だが、ここで怯んで仕舞えば話題が終わってしまう。フェイトは畳み掛けるように援護射撃となる言葉を連打した。
「料理も美味しいし、気立もいいし!なにより私もなのはのことは可愛いと思うし!それに管理局のエースだから釣り合いもいいと思うから」
「あー……ハラオウン?」
勢いに任せて後半何を言ってるか自分でもわからなくなりつつあって、お目目がグルグルと渦を撒き始めたフェイトに、サガミは声をかける。ハッとして彼を見ると、その表情は困惑に溢れていた。
「あ、ご、ごめんね?うるさかった?」
「いや、そうじゃなくて……俺、略奪愛は趣味じゃないぞ?」
……はい?
思わずフェイトはフリーズする。略奪愛?愛を略奪するの?なのはから?いや、それはおかしい。じゃあ誰?誰からなのはの愛を略奪するというのか。
「え、だって……結婚してるんだろ?ハラオウンと高町って」
「え゛」
思わず変な声が出た。いや…。あ確かに自分で思っていたではないか。
〝周りの人がそれを聞けば驚くだろう。それに、その役目はフェイトが担っているように見えるのも事実〟……と。
「いや普通に、あの子の件もあるし、一軒家買って三人で暮らしてるって聞いたから俺はてっきりそうだと思ってたんだが……まぁ同性婚はヘンリー・ヴァンダーじゃ普通だったしなぁ。長距離通信の時も、高町はずっと褒めてたしな。ハラオウンがすごい頑張ってくれてるって」
「あ、あっ、あっあっあっ。あの、えっと」
待って待って待って。フェイトの思いとは裏腹に、サガミの納得する考えから出る見解は止まらない。
「ん?こっちじゃあまりポピュラーじゃないのか?もしかして内縁とか?大変だろ?こっちにきて式場も紹介できるぞ?」
「……」
(やッッッッばーい!!そりゃそうだよ!側から見たら……そりゃそうなるよ!?なのはってば、好きな人相手になんでそう言うのかなぁ!?いや、言うか!え、私ってなのはと結婚してた?いつのまに!?なのはのことは好きだけど、私だっていつか……いつか……)
「どうしたんだ?ハラオウン」
「私もちゃんと、男の人を好きになりたいのにぃぃいぃいーーー!!」
「えええ!?」
うわーんと拭いた皿を持って騒ぐフェイト。どうすればいいのかわからず困惑しまくるサガミと、フェイトの聞いた事もない大声に驚いてあられも無い姿で洗面所から飛び出してきたなのは。
そんなドタバタな有様に少し冷静になったフェイトは思った。
(これ、私が1番の恋の障害になるのでは……?)
自覚はしていても、その周知の事実を突きつけられて、そんな認識とは裏腹に親友を応援したいフェイトは、どうしようもない現状に膝から崩れ落ちるのだった。