高町なのはの恋模様   作:紅乃 晴@小説アカ

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訓練生から見た異邦人

 

 

 

「おはよーから、そのまま付いてきてみれば……」

 

翌日、口籠もるフェイトに怪訝な目を向けるなのはを宥め、フェイトに何故か謝り倒されると言う珍事があったものの、空いている部屋で一泊したサガミ。

 

朝ごはんを食べて、学校に行くヴィヴィオをなのはと一緒に見送った後、「時空管理局に行くなら送るよ」というご厚意に甘えて、そのままMCに同乗したのだが……それが運の尽きだった。

 

「サガミくんも本部に用があったんでしょ?ついでだから見て行ってよ〜」

 

「そんな気軽に見学なんてしていいのか……?」

 

なのはに連れてこられたのはミッドチルダ時空管理局地上本部……の、敷地内にある訓練施設である。今後の住居や、休暇中のアレコレを決めるために本部の業務部に用事はあったのだが、なのはが運転するMCは目的地を大きく外れて、この施設に到着した訳だ。

 

地上本部の施設は本当に広大で、施設内を移動するためのモノレールがあるくらいだ。もちろん、訓練施設のある建物と、業務部があるオフィスビルも相当離れていて、歩いて行くなら1時間近く掛かる距離があった。

 

気にせずにそのまま向かってもよかったのだが……とくに時間の約束もないことを知っているなのはにねだられるまま、彼女の職場と訓練風景を見学する流れに引っ張られてきてしまったわけだ。

 

ため息が出そうになるが、なのはの嬉しそうな顔を前にそんな真似はできず。サガミはそのまま案内する彼女に続いて、教導官の待機する部屋でもある教員室へとやってきた。

 

「げっ、サガミ・バルディオ……」

 

「そう言うお前は鉄槌の騎士、ヴィータ」

 

「渾名みたいに言うんじゃねぇよ!」

 

扉を開けた先にいたのは、サガミも知るなのはの同僚、はやての守護騎士であるヴィータであった。

 

ヴィータも彼と再会するのは久々で、最後に顔を合わせたのはサガミが長期任務に出る前にした送別模擬戦と食事会以来である。

 

「まぁ、なんだ。元気そうじゃねぇか」

 

5年の任務を終えて帰ってきても容姿の変わらないヴィータに、サガミも握手で返答する。ヴォルケンリッターの騎士であるヴィータが、サガミに

抱く感情は少し複雑だ。

 

彼もまた「騎士」であり、シグナムやザフィーラも同じく、ヴォルケンリッターの騎士が認める「勇者」でもある。同じ騎士として気にかける反面、勇者として剣を握り続けるサガミを認めている点もあった。

 

そう。あの時の戦いでもサガミは絶対に……。

 

「じゃあ、みんなも待ってるから訓練場に行こう!」

 

「ィースッ」

 

元気よくそういうなのは。思い返していた記憶からハッと現実に立ち戻ったヴィータも、まとめていた資料を切り上げて席を立ち準備をし始める。

 

その隙にサガミは空いている机に座って「俺はここで待ってるから」というオーラを出してみたものの、お構いなしになのははサガミを引っ張って訓練場へと向かう。

 

引きずられるサガミがヴィータに助けを求める目を向けたが、「諦めろ」というアイコンタクトと指で小さく作ったバッテンを見て、サガミは救いはないと小さく絶望したのだった。

 

 

 

 

 

 

訓練場に来てから、何かやるのかと思っていたら本当に見学であった。ファイルを持ってカリキュラムを見ているヴィータ。その隣に立っているサガミが見る先には、なのはのコーチングによって鍛えられる若手の魔導士の集団がいた。

 

「高町教導官!あの方はいったい?」

 

「外野は気にしない。訓練に集中して」

 

「は、はい!」

 

すっぱりと言われた返事に肩を揺らして返事をする訓練生たちは、グルグルとグラウンドをランニングさせられ、訓練場の脇に設置されたフィールドアスレチックで、壁を登ったり、お守りを抱えたままロープが渡された空間を進み、ワイヤーが張り巡らされた場所をほふく前身で進むなど……魔力に頼らない基礎体力訓練を終えたばかりであった。

 

たっぷり時間を使って行われた体力作りの後に待っているのは汎用のストレージデバイスを使った魔法訓練。魔力スフィアによる目標撃破、杖術を使った近接格闘、そしてそれぞれの魔力特性に合わせた訓練、訓練、訓練。

 

「……ずいぶんとスパルタだな。だが、良い指導だ」

 

悲鳴が上がりそうな徹底した基礎訓練と応用。それに弱音を吐かずにしっかりとついてくる訓練生を眺めながらサガミは呟くと、ヴィータは「まだまだ」と首を横に振る。

 

「あれくらいしても足りないのが今の実情だからなぁ」

 

「そんなにか?」

 

「そんなにだってーの。ぶっちゃけると、ほんとはすぐにでも現場に欲しいって声もあるんだけどな」

 

ミッドチルダ……管理世界を離れて5年。長期探索に出ていたが、管理局の慢性的な人手不足は解消されていないらしい。地方では、こう言った訓練期間をグッと短縮して、即時に現場へ派遣されるのが常。魔導師に必要なのは実戦経験という考えがある以上、こうやって腰を据えてじっくりと訓練できる環境自体が珍しいと言えた。

 

「未熟なまま出たらわかっている結末、か」

 

ヴィータがさっきまとめていた資料が、今の管理局大勢の実情を表すものになっている。彼女は教導官であり、そしてヴォルケンリッターの騎士としての破格の経験、知見から管理局へ意見を出すアドバイザー的なポジションにも立っている。

 

訓練不足、即時現場配置から地方魔導士が負傷するケースが年々増加している。それは人手不足の管理局の首を余計に絞めることになっていた。ただ、抜本的な対策はない。やれることといえば、今の体制で負担を強いつつも、能力のある若手を丁寧に育て、少しずつでも有力な魔導士の母数を増やすことくらいだ。

 

……それとも、魔導師に変わる新たな治安維持システムを構築するかだが。

 

「過酷さならそっちがよっぽどだろ」

 

深みにハマりそうな思考を切り替えるようにヴィータはそうサガミに返す。治安維持や、魔法犯罪の取り締まりは大変であるが、新たな世界や文化圏を調査するサガミのいる場所も刺激の多い職場と言える。

 

同僚と一緒に危険性A級の原生生物の巣穴に落っこちた時や、星全体を覆う巨大な原生生物に襲われた時、言語翻訳機も役に立たない部族言語を使う現地民に襲われた時などなど……生きた心地がしなかったことは数え切れない。

 

ただ、ひとつだけはっきり言えることはある。

 

「……悪意が無い分、こっちはまだマシだな」

 

「……それもそうか」

 

その言葉の重みに、ヴィータもそっと話題を終わらせた。原生生物、未知の世界、未知の文化……そのどれもに驚異と危険はありながらも、人の悪意や憎悪に比べればマシだ。次元世界という圧倒されるフロンティアを手にしたところで、結局のところ、1番恐ろしいのは人というのが長年ヴォルケンリッターの騎士として戦い続けたヴィータにとって、最大の皮肉だと思えてならなかった。

 

「すいません」

 

訓練生たちが休憩に入り、なのはが教材をとりに一度教員室へと戻った頃。

 

ヴィータと並んで見学していたサガミの元へ、一人の女子訓練生がやってきた。表情を見て、ヴィータは少し視線が鋭くなり、サガミは彼が何の用でこちらに来たのか、何となく察することができた。

 

「失礼を承知で伺います。ここで私たちの訓練を見学していると言うことは……貴方もまた高名な魔導師なのでしょうか」

 

そう言い切った訓練生は待機状態のストレージデバイス「MZ03 ライズロッド」を差し出す。

 

ライズロッドは、かつてクロノ・ハラオウンが使っていた杖型のストレージデバイス「S2U」の発展量産型で、その基本システムの骨格は、マッハキャリーバーや、アンカーガンの基にもなっている。

攻撃、防御、サポートにも使える万能機でありながら、安価で強固。ただ人工知能はなく、学習CPUによる補助のみに留まっているが、その最低限の補助ゆえに術者の能力や実力が如実に現れるという……訓練生には打ってつけのデバイスである。

 

「よろしければ、一手御指南をお願い致します」

 

「おい!」

 

「いや、構わないぞ」

 

訓練生の勝手な暴挙。しかも今日初めて見学に来ていたサガミへの挑発にヴィータが怒りの表情になりかけるが、サガミが快諾したことで怒りの矛先が行き場を失ってしまった。どやされる前に素早く頭を下げて引き返した訓練生。

 

唖然とする仲間たちからは、突然の行動を咎める声も上がっていた。

 

「おい、リーゼル!ほ、本気か?高町教導官が戻ってきたら怒られるぞ!?」

 

「承知の上よ。だから、色々と覚悟は決めてる」

 

(あ、これは覚悟決めてるやつの目だ)

 

すでに事が済んだ後の叱責、指導は覚悟の上。ガンギマリした表情をしている訓練生は、待機状態のライズロッドを本来の姿へと復帰させつつ、高なっていた心臓を落ち着かせるやつに小さく、そして長く息を吐いた。

 

(尊敬する高町教導官が連れてきた人だ。只者じゃ無いはず……だが、もし……教導官に忍び寄る悪意があるのなら……)

 

高町なのは。

 

彼女は良くも悪くも注目を集める存在だ。

 

日夜訓練に励む彼もまた、他を寄せ付けない強さと、エースオブエースとして周囲から信頼されるなのはに憧れて魔導師の道を選んだ身だ。そんな彼女が連れてきた相手……何の力も持たない者が見学に来るはずがない。何かきっと意味があるはずだ。その意味が見学しに来た彼にとってのものなのか……それとも、見られている訓練生たちへ送るメッセージなのか。

 

「確かめる必要が、ある」

 

グルリと杖上のライズロッドを回して振り返る彼の目には、ある種の覚悟が宿っていた。その源泉が何なのか……相対するサガミには測りきれないものの、それ以上に食らいつくという意思を見せる若者の姿勢に感心する。

 

「なんだ、骨のあるやつがいるじゃないか」

 

「アイツ、妙になのはを神聖視している節があってな……」

 

「まぁ、なんとなく察しはつくよ。なのはには上手く誤魔化しておいてくれ」

 

「無茶言ってるのわかってんのか?」

 

「当然」

 

勘弁してくれよ、と額に手をやり溜息をつくヴィータは、嫌々ながらもサガミへ訓練用のアームドデバイスを手渡した。待機状態のそれを握りしめたまま、サガミは待っている訓練生の前に立つ。

 

「武器はどうするのですか」

 

「これでいい」

 

その言葉と同じくして、手のひらにあったアームドデバイスが、本来の姿へと回帰する。片刄の実体剣。ライズロッドと同じく、簡易量産型のアームドデバイスとして開発されたその剣の名は、「ストームクルーガー参式」だった。

 

そのデバイスを見て、訓練生は思考を巡らせる。

 

ライズロッドは魔力スフィアや収束魔法を扱える魔導師が持つミドルレンジが得意なデバイス。対するストームクルーガーは見た通り、ショートレンジに特化したデバイスだ。

 

訓練生も魔力特性から、ライズロッドとストームクルーガーに分かれるのだが、その運用法はミドルレンジのライズロットが陽動、撹乱、支援することで、ストームクルーガーで一気に相手を制圧する合わせ技となっている。そのため、訓練でも協力することが大半で、模擬戦になってもミドルレンジはミドルレンジ同士、ショートレンジはショートレンジ同士と分かれるのが常。

 

つまり、ミドルレンジを得意とするライズロッド相手に、ショートレンジのストームクルーガーは不利となるのだ。

 

それをわかって、相手は武器を選んでいるというなら……ずいぶんと、舐められたものだ。

 

「……では、参ります!」

 

その言葉と共に、彼女の周囲には複数の魔力スフィアが展開される。

 

リーゼル・ヴィッツ。彼女はなのはの指導する訓練生の中でも突出して優秀な魔導師だ。状況判断能力も高く、幅広い魔法を扱う事ができるし、杖術での近接戦も得意。なのは自身もそれをよく理解しているし、将来的には隊を率いる指揮官としての教導も考えるほど、彼女のポテンシャルは高く、伸びしろもあった。

 

(まずは数で撹乱して出方を見……)

 

小手調べ。そう言わんばかりの魔力スフィアの展開。数を使った包囲網とオールレンジの攻撃はミドルレンジを得意とするライズロッドを使う上で、基本中の基本の戦略だ。

 

ただ、それはあくまで訓練の中での話。

 

ザッと土を蹴るような音が目の前で起こった。視線をそちらに向けると、左から切り上げる形でストームクルーガーを構えた相手が……。

 

(早……!?)

 

思考よりも先に警鐘を鳴らした身体が自然と動いてくれた。斜め下から切り上げられた斬撃は、空気を切り裂く音共にリーゼルのすぐそこを通り抜け……そして返ってくる。

 

重い鉄が叩きつけられるような衝撃と轟音。守りを構えて杖で受けたというのに力を全く殺せない。突き抜けた衝撃が肩から体を貫通していくのが、痛みのせいでよくわかった。

 

(間合いを潰されたらダメだ!とにかく距離を取ら……!)

 

ないと……そんな思考の猶予も与えてくれない。鍔迫り合う剣と杖の均衡は、相手の押し込みによって崩される。ふわりと浮き上がったリーゼルの体は、そのまま切り払う力と共に射出されるに至った。

 

(なんて馬鹿力……!?)

 

「良い判断だ。見極めも早い」

 

そのまま距離を取ろうとするも相手は逃してくれない。サガミは剣を構えたまま、後ろへ飛んでいくリーゼルに追いつくと、追撃と言わんばかりに唐竹に構えた一刀を振り下ろした。

 

「うぅぐっ!?」

 

その一撃の重さは空中だからこそ。踏ん張れなかった彼女はそのま地面に叩きつけられ、数回バウンドする。だが、その痛みでは、彼女は折れなかった。

 

「まだ……まだぁっ!」

 

吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたとはいえ、距離が取れたのは事実だ。何度か転がりつつも体勢を立て直したリーゼルは、頭上から迫るサガミへ収束魔法を放つ。

 

すぐさま回避するサガミだが、収束魔法の裏側からは同時に準備された魔力スフィアが飛び出してきた。

 

(ちゃんと教え慣れたことを飲み込んでる。良い使い手だ)

 

訓練用とはいえ、魔力スフィアが痛くないわけじゃない。ストームクルーガーを巧みに振るい、飛んでくる魔力スフィアを明後日の方向に弾き返すサガミ。

 

そのトンチキな防御をしているだけでも、周りの訓練生が唖然としているのだが、相手にするリーゼルにとっては冗談ではなかった。

 

「ミドルレンジならこっちが!」

 

序盤で詰められたことから、リーゼルはこの間合いを絶対死守する。もう近づかさせはしない。だが、魔力スフィアをあんな真似で防ぐ相手だ。生半可な戦略じゃ倒すのは困難。

 

(手数がダメ……ならば、力で圧倒させる!)

 

準備するのは渾身の力を込めた収束魔法である。バチバチと音を立ててエネルギーを溜め込んでいくライズロッド。

 

時間としては一瞬。

 

収束し、臨界に達し、一閃と化した魔力は、スフィアの対処に翻弄されていたサガミのいた場所を簡単に飲み込んだ。やりすぎだあ!なんて訓練生仲間から声が上がるが、それほどまでにリーゼルは追い詰められていたと言えよう。

 

打ち尽くした一閃を一振りして息を吐く。そこで思い出した。彼が敬愛する高町なのはの呼んだ見学者であることを。ゾッと背中に冷たい汗がながれ、自分のやらかしを理解したリーゼル。駆け寄りたくなる衝動のまま足が動き出そうとしたとき。

 

違う冷たさが、彼女の警鐘を鳴らした。

 

「良い攻撃だった。……なら、こっちも応えないとな」

 

視線を向ける。収束魔法が着弾した場所とは違う立ち位置にいた相手は、最後の魔力スフィアを切り払うのではなく避け、そしてそのまま収束魔法も躱したのだ。

 

そのまま弓を引くように己の剣を構えるサガミ。

 

彼が持つのはストームクルーガー参式。S2Uをモデルとしたライズロッドと同じく、シグナムのレヴァンティンをモデルとしたこのアームドデバイスには、壱、弍式では搭載されなかった「可変機構」が初めて搭載されていた。

 

《ボーゲン・スタイル》

 

「弓はあまり慣れてないが……」

 

弓引きのように構えたサガミの手に収まるのは二又に分離し、レヴァンティンと同じく弓の形状へと可変したストームクルーガーである。

 

魔力によって生み出された矢を引き絞り、サガミは狙いを定め、打ち放った。

 

(早い!躱しきれない……!?)

 

矢継ぎ早に放たれる攻撃は、細く、鋭く、そして計り知れない存在感を放っていた。最初の一、二発は躱せたが、三発目を脇腹にうけてしまい、リーゼルの顔は歪む。そして最後の四発目が直撃し、そのまま彼女は後ろへと吹き飛んで、起き上がれなくなった。

 

「勝負あり」

 

弓をおろし、残心するサガミの姿に訓練生の誰もが静まり返っていると、教員室から戻ってきたなのはが、この戦いの決着を言い渡した。

 

なのはの言葉と共に大盛り上がりする訓練生たちを他所に、ストームクルーガーを待機状態に戻すサガミの元へ一部始終を見ていたヴィータがやってくる。

 

「なぁ……お前、いつのまに弓なんて習得したんだ?」

 

「必要に迫られて……」

 

本来、サガミの戦闘スタイルは圧倒的な速さと剣技による物理攻撃。「騎士剣術」に裏打ちされた剣技は、魔力による一閃すらも逸らすほどに高められているのだが、それでもアウトレンジを得意とする相手には一歩届かず……そこで考案されたのが急拵えの中距離武器であった。

 

幸い、弓を得意とする相棒がいたことからノウハウは身につけることができたのだが……実戦レベルかと言われればまだまだ粗が目立つ、とサガミは口にする。

 

「威力も速さも足りないし、タイミングがバラバラだった。あれだったら抜けられて逆に距離を詰められる」

 

そう言って今後の課題を考えるサガミにヴィータは呆れた顔を向ける。なのはが目をかける魔導師が「避けられない」と思うほど仕上がっているのに……それ以上を目指すというか。

 

「……ほんと、そう言うところだよな。お前って」

 

どういう意味だ?と首を傾げるサガミだったが、その答えを言わずにヴィータは訓練生となのはの元へと歩いて行く。彼女には、サガミに挑んだ訓練生の弁明という大きなミッションがあったからだ。

 

 

 

 

「えぇ!?外縁調査部隊のお方だったのですか……!?」

 

危うく「少しお話ししようか」になりかけて震えるリーゼルを何とか弁護するという任務を達成したヴィータは、隣でサガミの経歴を聞いて驚く訓練生たちの声を聞き流しながら食堂で注文したハンバーグ定食を口に運んでいた。

 

「そんなに驚くことか?」

 

「と、当然ですよ!?」

 

恐れ慄くようにいう訓練生たちの反応に、サガミは不思議そうな顔をしていた。彼からすれば、管理局にスカウトされるまま簡単な研修を受け、そのまま外縁調査部に配属となった訳なので、訓練生たちが驚くほど自分の立ち位置が優れているとは考えていなかった。

 

そこに待ったをかけたのは、さっきまでなのはに絞られかけて震えていたリーゼルだった。

 

「私たち訓練生から見たら、外縁調査部の赴く先は未開の地。まさに真の実力がなければ太刀打ちできない世界の開拓者なんですよ」

 

そう答えつつ、彼女はサガミに挨拶するように手を差し出す。サガミも意図を理解してすぐにその手を握り、握手を交わした。

 

「リーゼル・ヴィッツです」

 

「改めて、サガミ・バルディオだ。君も良い使い手だ。基礎は完璧。なにより状況判断もいいし、損切りのタイミングが絶妙だ」

 

さきほどの一戦をそう評価したサガミにリーゼルは驚いた顔を見せた。傲慢にも勝負を挑み、まさに手も足も出ずに大敗した自分に自信をなくしつつあった彼女は、サガミがそう評価しているとは思っても見なかったからだ。ただ、とサガミは言葉を続ける。

 

「だが、安牌を踏むことだけじゃダメだな。応用が効かないと今日みたいに奇襲をかけられた時に詰むこともある。だから、死線を超えた先にあるチャンス、そこの見極めが今後の課題だな」

 

奇襲、想定外、意識の外から飛んでくる攻撃。訓練通り、戦略通りに行かないのが世の常だ。なので、実戦ではより柔軟性が求められる。

 

なのはが鍛えようとしているのはそこなのだろうな、と考えながら指摘していると、リーゼルはバッと立ち上がって、びっくりしているサガミに頭を下げた。

 

「今後とも、ご指導ご鞭撻のほど……よろしくお願い致します!」

 

「あ、いや。俺今日見学に来ただけなんだけど……」

 

そうキッパリと返したサガミに、「嘘」というような顔を向けるリーゼル。ほかの訓練生たちも曇りなき眼差しでサガミに教導してもらうことを望んでいるような……そんな気配を感じた。

 

おかしいな……俺、休暇中なんだけど。

 

そんなことを思いながら、頼んだカレーを口に運ぶサガミ。

 

「なんでお前が得意げなんだよ」

 

その横では、まるで自分ごとのように胸を張って得意げにしているなのはが座っていて、思わずヴィータはそう突っ込むのだった。

 

 

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