高町なのはの恋模様   作:紅乃 晴@小説アカ

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開拓者とワガママと

 

 

高町なのは。独身。

 

J.S事件後、無理が祟り後遺症を抱えたことや、事件の中で出会ったヴィヴィオを養子に迎えたこともあり、現在は前線には赴かず比較的平穏な任務に従事しており、生活スタイルも基本的にヴィヴィオに合わせて送っている。

 

住居はミッドチルダの郊外にあるベッドタウンで、これまで特に使う用途がなく貯めに貯めていた貯蓄を豪勢に使い、庭付きの一戸建てを購入し、娘と二人で暮らしている。

 

親友であるフェイトもよく訪れてくれて、三人で生活する日々も多く、最近ヴィヴィオが打ち込んでいるストライクアーツの試合を一緒に観戦しに行ったり、トレーニングに付き合ったりと穏やかな日々を送っていた。

 

そんな順風満帆な人生を歩んできたなのはだが、欲を言えば足りないものがある。

 

それはパートナーだ。

 

フェイトも良き理解者であり、かけがえのない親友なのであるが、人生を共に生きるパートナーかと言われたら、答えはNOである。

 

フェイトもよくヴィヴィオのことを気にかけてくれるし、自分とは違うもう一人の母としてもしっかり接してくれてはいるが、彼女にもエリオやキャロがいるし、自分と同じくフェイトにはフェイトの人生がある。親友であるなのはにとっても、自分やヴィヴィオのことでフェイトの人生を縛りたくはなかった。

 

ただ、一言にパートナーと言っても難しい。昔からアリサやすずかという友人に囲まれ、学生時代の大半は魔導師としたの研鑽に費やしてきた。

 

仲のいい異性といえば、魔法を教えてくれたユーノや、フェイトの兄であるクロノだが、ユーノは研究者として一つのことに没頭するきらいがあるし、クロノは妻帯者だ。

 

管理局でも優秀な男性魔導師は何人もいるのだが、なのはにとって同僚や部下という枠から出るということがない。

 

そして年相応の女性雑誌やカルチャー雑誌なども読むこともある彼女がどうなったか?つまり、ぶっちゃけていうなら……恋愛に関してはかなり奥手の不器用になってしまっていたのだ。

 

(ど、どうしよう……今日は二人っきり……いや、ヴィヴィオもいるから!で、でも、もう寝ちゃってるし?ということは実質二人っきり……え?これってアレでは?お家デートというやつでは!?少女漫画でしか見たことないようなレアなシチュエーションでは!?)

 

現実逃避にも似た回顧録を終えたなのはは、一人自宅のリビングに備わるソファに座りながら、ぐるぐると思考を巡らせていた。

 

現在、夜の10時過ぎ。夕食を終え、お風呂も済ませたヴィヴィオは30分ほど前に寝室へと向かった。それを見送ったのち、サガミにお風呂へ入るよう話をしたなのはは、リビングで一人現状を再認識していた。

 

高町なのは。これまでピンとくる男性との出会いがなかった彼女にとって、サガミ・バルディオという男のあり方は……まさに劇薬だった。

 

自分と似通った本質を持ちながらも、はるかに先をいく成熟した精神、そして強さ。剣を携えた彼の背中に何度助けられたのだろうか。

 

守るために戦ってきたなのはを、真正面から守り、救ってくれた。

 

「誰も助けられないから私が助けるしかない」と心の奥底にあった想いを汲み取ってくれて、それでも手を差し伸ばしてくれた。

 

心が折れそうになるたびに前に立ち、進むべき道を示してくれた。

 

誰かに頼ること。誰かを信頼すること。手を伸ばして握り合うことの大切さを教えてくれた。

 

自分の生き様に大きな影響を与えてくれた相手に好意を抱かないはずがなく……そして、5年という月日を離れて暮らしていたことが、余計その思いに薪をくべた。

 

気がつけば、なのはでも制御しきれない思いへと昇華していたのだ。

 

「高町?」

 

「ひゃい!?」

 

ふと、後ろから声をかけられ、声が裏返った。振り返るとお風呂を出て肩にタオルをかけたサガミがリビングの入り口に立っていた。彼はバツが悪そうに「……飲み物をもらってもいいか?」と言う。

 

どうぞどうぞ!遠慮なく!そう言いかねない勢いで立ち上がったなのはは、コップに飲料水を入れてサガミに渡す。受け取ったサガミからほのかに香りが漂ってくる。その匂いは自分と同じシャンプーのはずなのに……どこか甘く感じた。

 

首口が広いシャツから見える鎖骨、筋肉質な肌を見て、思わず息を呑む。

 

(あっ……いい……)

 

そんな下心満載な視線に気付く様子もなく、飲み物を受け取ったサガミは熱った体をソファへとおろした。しばらく、残香の余韻を堪能していたなのはもハッと意識を引き戻して、サガミへと顔を向けた。

 

「サ、サガミくん!?隣に座ってもいい!?」

 

「いや、高町の家なんだから気にせずに座ればいいのでは?」

 

「じゃ、じゃあ!お言葉に甘えて!?」

 

逆にこちらがソファに座るのが申しわけないのだが……というサガミの心の声は届かず、対するなのはもギクシャクする心が伝わらず。

 

(な、なにか話題を振らないと……)

 

スッと横に座ったが、そこから先をなのはは一切考えてなかった。フェイトや気の知った相手ならスラスラ言葉が出てくるのに、その時は何も話題の土台となるものが思い浮かばなかった。

 

「悪いな、昨日に続いて今日も」

 

話題を探すために視線を泳がせていると、コップを両手で包むように持つサガミがそう言葉を切り出した。

 

彼からすれば、独身寮に入居できるまでホテル住まいを余儀なくされていた身だ。移動やホテルの手配の手間が無くなったのだから、なのはの提案には感謝しかない。

 

ただ……サガミからすると、なのはとフェイトの関係を思うと内心穏やかではないのだが。

 

「ううん。私は全然平気だよ?ヴィヴィオも喜んでくれてるし……フェイトちゃんも」

 

そう言ってくれるなのはに、サガミは「そりゃよかった」と言って再び飲料水を飲む。ソファに身体を預けて、ゆったりと過ごす。それだけでもありがたい限りだ。

 

「……こうやって地に足をつけてゆっくりしてると実感するよ。あぁ、帰ってきたんだなって」

 

「え?」

 

「5年間も船で暮らしてるとな、こうやって地に足をつけて過ごすってだけでも贅沢なんだよな」

 

今飲んでいるものもそうだ、とサガミは可愛らしい花柄のデザインをしたコップに注がれた飲み物を見る。

 

アウターエッジ計画……いや、次元世界の外縁部を調査する任務に従事している以上、贅沢なことはできない。

 

基本的に外縁調査船内の資源は循環し、再利用されていて、もちろん水も専用の処理装置で濾過、滅菌したものになる。水分を取る上では問題ないのだが、これが不味いのなんの……。

 

それに加えて任務は過酷。初めて調査に降り立つ世界には危険がいっぱいだ。呼吸できる気体があるかすら、しっかりと調査しなければならない。長く呼吸していると不純物も取り込んで中毒になることも珍しくない。

 

そんな背景があることから、外縁世界で得られる水や食料も、飲むにも食べるにもある程度勇気が必要になる。

 

「過酷な場所で生きてきた自負はあるけど……やっぱりこういうのって大切だなと実感するよ」

 

外縁調査部隊に入って、より実感する。

 

自分たちが生きている世界は、本当にわずかな奇跡で成り立つ世界であるということを、思い知らされる。

 

「迷惑……だった?」

 

隣に目を向けると、不安そうな顔をしているなのはがいた。両膝の上に小さく握る手が微かに震えていた。

 

「サガミくんが帰ってくるって聞いて、私……すごく嬉しくて、舞い上がってて、迎えにいくなんて言っちゃったりして……」

 

5年という長い間、ビデオレターやメールでサガミとの連絡を続けていたなのはにとって、それは待ちに待った日でもあった。

 

けれど、反対の立場ならどうだろう。

 

5年という過酷な任務を終え、本当ならゆっくり休みたかったのではないのか?もっと落ち着ける場所を探していたのではないか?帰ってきた彼の思いに水を差しているのではないか?

 

そんな思考が頭をよぎった途端、なのはは不安でたまらなくなった。今も彼を無理に引き留めて、迷惑をかけているのかもしれない。

 

「けど、サガミくんは実際ありがた迷惑だったのかなって思ったり……あはは、ダメだね」

 

「嬉しかったよ。高町が迎えにきてくれて」

 

弱きになるなんて、と言葉を続けようとしたなのはの声を遮って、サガミは真剣な眼差しのまま、そう言葉を出した。なのははグッと喉の奥が詰まったような気がした。

 

「これほどまでに自分の帰りを待ってくれてる相手がいてくれる。出迎えてくれて、無条件に受け止めてくれる相手がいる」

 

それがどんなに恵まれていることか、今ならよくわかる。すそう言ってサガミは微笑んだ。

 

彼に家族はいない。いたけど……あまりにも複雑すぎて、もうどうしようもなかった。

 

だから、そんな天涯孤独なサガミを迎えにきてくれて、受け入れてくれるなのはという存在は、サガミにとっては尊く、かけがえのないものだった。

 

「サガミくん……」

 

「だから、迷惑だなんてとんでもない。逆に俺が迷惑か心配まであるぞ……いや、本気で」

 

「迷惑なんて!そんなことないよ!」

 

大袈裟に手を振って、大丈夫!一国一城の主人だから!と力こぶポーズをするなのはに、サガミは少しおかしくなって思わず笑ってしまった。なのはも気恥ずかしくなったのか、それとも不安から解放されたのか、恥ずかしげに顔を赤らめる。

 

「しかし……あーあ、勿体無いことしたなぁ」

 

「え?勿体無いこと?」

 

唐突にそう言い出したサガミに、なのはは不思議そうな顔をする。

 

5年間にも及ぶ前人未到の長期任務。得ることも知ったことも沢山あった。あの任務に行くことを選んだことに後悔はない。

 

ただ……。

 

「あれだけ背負い込んでいた高町が、ここまで自然に笑って、誰かに頼れる…。変わっていく様子を見れなかったことだけは……あー勿体無いことをしたなって思うよ」

 

あの生き急いでいた……どこか、「助けを求める〝誰か〟を助けなきゃならない」という衝動に追い回されていたような雰囲気を持った彼女が、今では誰かに頼って笑い、誰かに甘えて笑える。

 

それだけで、この5年間に何があったのか。彼女を大きく変えるようなことがあったことくらい推測できる。

 

欲を言うなら、その変わるきっかけとなった場に自分もいたかったな、とサガミは笑いながらワガママを言ったのだった。

 

「……どうした?高町」

 

そう言って、しばらく反応がなかったことを不思議に思ったサガミが、なのはの方へ顔をつけようとしたと同時。ガバッと音を立ててなのはは立ち上がった。

 

「な、なんでもないっ!さ、先に寝るね!?お、おやすみ!」

 

「あ、うん、おやすみ」と返すサガミを見ず、そのまま90度綺麗なお辞儀をし、逃げるように寝室へ繋がる廊下へと出ていってしまうなのは。

 

一人残されたサガミは、コップをローテーブルに置き、「あー」と声をあげて頭を抱えた。

 

「……なんか不味いこと言ったか?」

 

特段。サガミとなのはの会話に間違いまずい事はなかった。ひとつ、はっきりと言えるのは。

 

「んー……ママぁ?どうしたの?……え、ママ?ママ!?電気消しててもわかるくらいお顔真っ赤だよ!?大丈夫!?病気!?バルディオさん呼ぶ!?」

 

「な、なんでもないー!!そっとしておいてヴィヴィオー!!」

 

寝ているヴィヴィオに構わずベッドに飛び込み、布団を頭から被さってしまうほど、なのはに痛烈なクリティカルヒットを出してしまったことくらいだろう。

 

 

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