ディストーション・アーカイバー   作:3,2,1,BEATBOX!

1 / 1
リターン・ザ・トリニティ

 太陽の光がこれでもかとばかりふりそそぐある日。

 

「そこのお前! 止まれ! ここはトリニティの校舎、部外者の立ち入りは禁止されているが、トリニティの学生証は!」

 

 トリニティの学舎に向かう一人の女が、黒い服を着た生徒に呼び止められていた。生徒は、正義実現委員会……トリニティ総合学園における、治安維持を行う組織の一員であることを示す黒い服と章を見せてから、女に問う。

 

「んん? あぁ〜。今それを桐藤のところに取りに行くつもりだったんだが……ふむ。正実か」

「持っていないのなら、付いてきてもらうことになるが」

「そうだねぇ……あぁ、そうだ。今電話するか」

 

 女は目の前で片手を上に上げながら、もう片手でスマホを持ち、どこかに電話をかける。

 

「あぁ、もしもし? 悪ぃ、やっぱお前の予想通りだった。正実の若手は優秀だよ」

『悪ぃ、ではありません! 今どちらに!?』

「今? 今はスクエアの端で事情説明中。ってなわけで正実の若手ちゃんに自己紹介をお願いします」

 

 電話口、スピーカーにされたそれから、やけに聞き覚えのある声がしたと思った矢先、正義実現委員会の彼女に放たれたのは。

 

『聞こえていますね? ティーパーティーの桐藤です。申し訳ありませんが、そちらの方の身元は私が保証いたします』

「い、いえ。わ、かりました……? はい」

『理解が早くて助かります。では、そういうことで……』

 

 電話が切れた。正実所属の少女は、無言で彼女を見据えた。

 

「本当とは思いませんでしたよ」

「すまないね。ま、じゃあ問題なしってことでいいか?」

「はい。それと、私から正義実現委員会各位にお伝えしておきますのでご安心を」

「ありがとう。じゃ、頼むよ。剣先によろしくと言っといてくれ」

 

 女はそう言ってから、くるりと背を向けて去っていく。

 

「にしても、すごい人だったな……」

 

 反対方向に歩みながら、正義実現委員会のグループ業務モモトークに事例報告を入れ、そして少女は呟く。

 

「トリニティであんなパンクなスタイルって……」

 

 女の特徴、と記された自身の表記を見直す。

 

 逆さ向きにした帽子を被り、ダメージジーンズ、淡い水色を基調としたTシャツの上から派手な色のジャンパーを袖を通さずに羽織っている。

 

 とてもでは無いが、トリニティの生徒とは思えなかったのである。

 

 

 

 

 よぉ、調子はどうだ? 

 

 反応がしけてやがるなぁ、おい。調子はどうだ? なんて聞かれたら腕振り上げて飛び跳ねりゃいいだろーがよぉ、なあ? 

 

 まあいい。私は歌持(カジ)ロウ。トリニティ総合学園3年。19歳だ……あぁ、留年じゃねぇぞ。3年の初めから、休学したんだ。

 

 それで、今は復学の手続きのためにめんどくせぇ各所への手続きを終わらせ、最後に桐藤……今のティーパーティーのホストは百合園セイアだそうだが、体調が芳しくないようでな。代行として諸々やってる桐藤ナギサから再度学生証を貰いにいくってとこだ。

 

「ざわ……見なさい、なにあのファッション」

「トリニティらしくない、品性のない装いね」

「あんなのがいたら、誤解されてしまうわ」

 

 小鳥のさえずりは相も変わらず喧しいのだな、と苦笑する。コレが癪だったからトリニティを一旦休学した、というわけではないんだが、学園全体の性質としてさえずりの多いこと多いこと。

 

 はじめてこの学校を飛び出して世界旅行と洒落込んだあの日、最初の目的地に選んだゲヘナじゃあまあ直球な奴が多いもんで驚いたが、いざ帰ってくると悪い癖だな、トリニティの。

 

「素直に呼び止めて言ってくれりゃいいんだがなぁ」

 

 伸びをしながら一言聞こえるように漏らすと、ひそひそとしたさえずりの元らは離れていってしまった。勿体ねぇなあ。

 

 そうこうしていると、ティーパーティーの本拠に着いた。桐藤が待っているというので、ティーパーティーの別の生徒に案内を頼み、歩いて向かったのは庭園テラス。

 

「お客人をお連れしました!」

『通して構わないよ』

 

 扉が開かれると、そこに居たのは桐藤だけではなかった。

 

「さて、こうして貴女に会うのはずいぶん久々だと思う。お久しぶりだね、歌持先輩」

「お久しぶりだね、ロウ先輩☆覚えてるよね、さすがに?」

「お久しぶりです、歌持さん……またお会いできてなによりです」

「あぁ。覚えてるとも……それに久しぶり。百合園に関しちゃ、生きてて何よりだ」

 

 フィリウス、サンクトゥス、パテル……3分派の首長勢揃いとはね。驚いたぜ、全く。

 

「その言いようはなんだ、私がまるですぐ死ぬような……」

「事実だろうが。真夏の夜のウォーキングで熱中症になったおバカさんはどいつだったかねぇ」

「「セイアちゃん(さん)!?」」

「違う、それは違う。誤解だ」

 

 わちゃわちゃし始めた3人を前にふふ、と笑みを漏らすと、3人は改めてこちらを見た。

 

「とりあえず、そちらの空き席にお座り下さい」

「積もる話もある。楽にしてくれて構わない」

「失礼するよ」

 

 そうならと、即座に着座して足を組む。右腕を胸の下に回しながら、左手を顎の方へ。

 

「なんだか、それを見るのも本当に久しぶりです。今まではどちらでなにを?」

「言ったろう、世界旅行さ。ゲヘナのヒノム火山、アビドスの砂漠……色んなところに行った。学園も回ったぜ? 例えば山海経とか、百鬼夜行とかな。土産物は定期的にトリニティ直通で郵便してたから分かってんだろ?」

 

 ケラケラと笑ってみせると、桐藤はやや顔を赤らめた。

 

「えぇまあ……そうですが、直接聞きたいでは無いですか」

「おや、珍しく可愛らしい。小鳥のさえずりを信じるなら腹黒とか言われてるみてぇじゃねぇか。あの頭の回りをさらに進化させてるみてぇなのにな」

「やめてください、誰が腹黒ですか、誰が」

 

 聖園が面白がって、私に追随する。

 

「ナギちゃんなんでもやるもんね、この間ももがっ」

「セイアさん、ありがとうございます」

 

 口を開こうとした聖園に、百合園が桐藤に手渡したソレがぶち込まれる。……ロールケーキだった。

 

「ふふ、はははは! 相変わらず菓子作りは趣味のままらしい! 私にも1口寄越せ、味を見てやる」

「もごごごごっ」

「全く……あ、こちらです。どうぞ」

 

 桐藤が聖園に突っ込んだロールケーキが小さくカットされて出てきて、それを一口。

 

「うん。腕を上げたな……これ、売り出したら金取れるぞ。しかも結構しっかり目に」

「そうですか? ありがとうございます」

「もぐもぐもっきゅもっきゅ」

「実際ナギサの菓子は日を追う事に美味しくなっていっている気がするよ」

 

 その後も、しょーもない話をして、また聖園がおかわりと称して口にロールケーキを叩き込まれ、どうにかそれを食い切ったところで。

 

「にしても……歌持先輩。噂によると、その格好で街中だけじゃなく普通にアイドルのライブとかでもパフォーマンスをしていたとか聞いているが本当かい?」

「パフォーマンス?」「ですか……?」

 

 あー、とそこでこうなる? と思いつつ頷く。

 

「うんまあ、そうだね」

「どのようなパフォーマンスを……歌持さんと言えば、やはりバイオリンですか?」

「んー、まあお嬢様たちには縁のないものさ。ヒューマンビートボックス、っていうんだけど」

 

 ビートボックスは私の特技だ。

 

 私の旅は時に同行者が増え、減り、ひとりになったり、何人もだったりした。その中に、最初に『面白そう』なる理由でついてくるようになった、スケバンの女の子が居たが、その子がやっていたのを聞いて、脳に刺激が走ったんだ。

 

 なんて面白いことを。人間の口から楽器の音を出すだって? 本当に面白い! それは……出来たら『楽しそう』じゃないか? 

 

 当時の私はなんでも貪欲に未知を欲していた。桐藤の言う通り、私は元はバイオリン奏者だった。その前はチェロ、その前はアコースティックギター……ピアノもやったっけ? 

 

 音楽に傾倒して、でもどれもこれも才能の壁の前に膝を折ったのだけれど、どうも楽器の才能がなくても私には人間楽器の才能があるようだった。

 

 3日で口からキックが出るようになった。5日で基本的な刻みをマスターした。2週間でレーザー音が出るようになった。3週間で刻みながらメロディを歌えるようになった。一月で彼女から全ての技術を伝えたと言われた。二月で街でやれば人が集まるようになった。

 

 自分で言うのもあれだけど、屈指の才能だと思った。自分の才能はここだ、とね。

 

「その……ビートボックス、とやらはどのような感じで行うのですか?」

「ちょっと気になるかもー☆」

「どうだい先輩。後輩のためにひとつ、やってくれないか」

「いいだろう……ただ、あんまり文句は言ってくれるなよ?」

 

 後ろ控えの生徒たちもあんまりこういうのに慣れていないだろう、というので、文句を言ってくれるなと事前に保険をかけてから。

 

「……LIS’N」

 

 口から、音を解き放つ。重低音響くキックを、最高の音を震わせるレーザーを、ブレることなく刻まれるビートを。最後の締めに轟くようなベースとキックの合わせ技。

 

「……っと。まあ、こんな感じな訳だが」

「……何から何まで分からないものだね。まずそのどぅん! みたいな音からしてどう出てるのか分からない」

「こう……すごいんですよ。すごいんですけど……人間から出てるとは信じたくないくらい硬い音鳴ってますね!?」

「さすがにミレニアムドームのライブ出たってだけあるね☆最近トリニティで活動してる軽音楽部のドラムよりドラムの音が太かった気がするかも……?」

 

 三者三様の感想に笑う。

 

「ま、そんなもんだよな。ほんのりすげー、って思って貰えたら私としちゃそれで満足なんだが」

「ナギちゃん、これさー」

「えぇ。……異存ありません、ミカさん」

「こちらもだ」

「ん?」

 

 何やら3人の間での共通の話題が纏まっているようで、首を傾げる。代表して、桐藤が述べるようで、2人の視線が桐藤に向く。

 

「今度、トリニティで学園祭を行います。もしよろしければ、メインステージの出し物のひとつに、あなたをお呼びしたいのですが」

「んー……チーム連れてきていい?」

「「これチームメイトとかあるの(ですか)!?」」

 

 聖園と桐藤の驚きに何も知らねぇんだなと笑いながら、単純に耳を塞いでいた百合園を見て二笑い目をカウント。

 

「まあでも、それがティーパーティーサマからのお願いってんだったらやらなきゃ角が立つしな。やるやる。詳細は後日」

「分かりました。続報をお待ちしております……帰り際に学生証はお渡ししますので」

「りょーかい……さて、聖園って……」

 

 たわいも無い話をする時間が1番好きになったのは、旅の影響だろう。本音を包み隠さなくなったのも、旅の影響だろう。

 

 意外と、トリニティから出て旅、いい影響を及ぼすんじゃねぇかな、なんてことを考えながら、目の前のお嬢様たちと積もる話を解決していくのだった。

 

 




ミカが色々終わったあとにここに居るんですが、ナギサもミカも上手いことやったのでティーパーティーにどうにか復帰した、とそのように解釈してください。ティーパーティーには、3人で笑ってて欲しいんですよ。

とまあそんなところで、みなさんこれからよろしくお願いします。評価とか感想とか、割と心の支えなので是非。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。