デイリー告白 作:ぱらのいあ扇風機
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「それでどうしたん?」
「どうしたもこうしたも、断ったに決まってんだろ……」
「……可愛くなかったんか?」
「そういう問題じゃないだろ」
高校のお昼休み。お昼ごはんの時間。教室の中で周は、友人と弁当を広げている。
そして話題の一つとして、今朝の出来事がのぼっていた。
「……女の子が勇気を出して告白してくれたのをお前……無下に断ったんか……? 信じられへんな」
「勇気って言われても初対面だったし、勇気とかそういうんじゃなくないか……?」
「いやそれはお前ほんまに失礼やからな。初対面とか関係ないから」
「……まぁでもびっくりしたな。初対面の後輩にいきなり告白された時くらいびっくりした」
「まんまやん」
「ていうか
「……? なにに悩んでんの?」
「……そりゃお前……色々あるだろ……」
好きです、なんて。
あんな眩しい笑顔で言われたら、嫌でも脳裏にこびりつく。
周は、邪念を振り払うように米をかっ喰らう。
そんな彼を見て、辰美は揶揄うように笑う。
「やっぱりOKしとけば良かったなぁ〜、とか?」
「ちげーよ」
「逃した魚はデカかった……! とか?」
「さっきと意味変わってねーだろ!」
「可愛い子やったなぁ〜、とか?」
「もうちょっとバリエーションないのか?」
はぁ……と、周は大きなため息を吐く。
「でも冗談抜きで、とりあえず付き合っとくみたいなんは全然有りやと思うんやけどなぁ」
「そんな気楽に付き合えるか。一緒にすんな」
例えば教室の入り口で、「あのかっこいい人呼んでください」と教室で誰かが言われたとして、迷わず辰美が連れて行かれる程度には顔が整っている。
関西なまりの声色も甘くて、耳心地が良い。
だから彼女がいない時期というものがほとんどないことを、1年のときからの付き合いである
「まぁシュウは僕と
「その子がどうっていうか……恋愛自体が面倒だろ絶対。同性のお前ですらめんどくさいのに」
「ひどいなぁ」
人間関係というのは大なり小なり面倒なもので、その中でも恋愛関係は最たるものだろう。
もちろん彼に、別に他人の恋路に口出しする気はない。
ただ、周自身は、自分が恋愛できないタイプだと、そう認識しているというだけな話だった。
「ところでさぁ、さっきから話聞いてると『初対面』ってのが断った理由の大半なんかなってなるねんけど」
「この話まだ続けんの?」
「マジで嫌やったらやめるけど、そうでもないやろ?」
「……まぁ‟マジで嫌”っていうライン越えるほどではないけど……」
「じゃあ、例えばアーシャとかならどうなん? また話違うん?」
「それはマジでやめろよ」
眉間の皺を深くしながら、パッと教室を見渡す。
今教室にいてほしくなかった人物はどうやらいなかったようで、周はほっと胸をなでおろす。
「あいつの名前出すのはやめろよ。真剣にめんどくさくなる」
「シュウの仲良し女子ランキング1位はアーシャで確定やとは思うねんけどな」
「別に仲良くはないだろ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
あぐ、と大きな口を開けて、厚焼きの卵焼きを一口で頬張る。
少し甘めの味付けが舌に優しい。
周は、わかりやすく甘い卵焼きが好きだった。
「でももったいないなぁ……。ちな、実際んところどうやったん? 可愛い子やった?」
「お前……」
「見た目は大事やで」
「まぁ否定はしないが……。でもそうだな。なんかこう、制服はきちっと着てた。の割に、髪染めて……地毛なのかもしれないけど、茶髪だったな」
「ほー。茶髪」
「結構明るめの……栗色って言うんが一番近いか?」
「へーええやんええやん」
「でも優等生っぽいというか真面目っぽいというか。そんな気がしなくもなかった」
「なんや意外とよう見てるな」
「結構派手な見た目してたし、なんかギャップみたいなのもあったし。それに──」
話を続けながら、今朝の出来事を思い出す。
雨、桜。
そして告白。
何故、という感情が再び湧き上がる。
「初対面で告白っての俺には良くわかんないんだよな……」
「一目惚れってやつよな」
「まぁそういうことになるよな」
何はともあれ、心労は溜まった。
軽い気持ちでの告白とまで言う気はないが、相手がショックを受けていなければいいなと思う。
自分が気にしているのだから、向こうもそうだろう。
「……話戻すけど、やっぱ、なんで断ったのかって言われたら一目惚れがよくわかんないのと、普通に知らない子だからって感じだよな。……これお前からすると理由になんないのか」
「別にええんちゃう? シュウ彼女おらんし、どうせなら付き合ってみたらオモロいなぁって思っただけで、全然普通の感覚やとは思うわ」
「じゃあ言うなよ!」
「でもなぁ……」
もったいないやんなー? と小首を傾げる辰美を見て、周はピキリと青筋を立てる。
「他人事だからって面白がりやがって……!」
「いやー、でもおると楽しいでー?」
「黙れイケメン。爆発しろ」
繰り返しになるが、緒川辰美という男は顔が良い。性格も柔和で、運動もできる。よってモテる。
そしてあまり恋人とは長続きしないことが多く、彼女が頻繁に変わるのだ。
それはそれでどうなんだ、と非難の声を向ける。
「別に浮気してへんねんからええやろー」
「そりゃそうなんだけどな」
……と、そんな話をしていると、3人のもとにクラスメイトの男子がやってきた。
「緒川にお客さん。教室の入り口んとこ」
彼は少し辟易としたような表情で、周たちに声をかける。
「ほんま? 誰?」
「さぁ? まぁ可愛い子だったぜ」
「ほーん」
がた、と辰美は席を立って、廊下のほうに歩いていく。
クラスメイトの男子は、そんな後ろ姿を見て、ケッと悪態をついている。
「イケメンはいいよな……モテて……」
「もしかして女子のお呼び出しな感じか?」
「廊下でうろちょろしてたから声かけたんだよ。『誰かになんか用?』ってさ。したら顔真っ赤にしててさ……。もう察したよな。あそこの奴呼んだらいいかって聞いたら頷いててさ。……正直めちゃくちゃ可愛かった……」
「へー」
ぶつくさ言いながら去って行く非モテ系男子のクラスメイトを眺めつつ、まぁ気持ちはわからなくもないな、と周は思った。
モテたらモテたで色々悩みはあるのだろうが、多方面から好意を寄せられること自体は、やはり人間的魅力があるということだろう。
(でも頻繁に告白されるのはゴメンだな……。あれはあれで一種の才能だわ……)
1人になってしまったので食べることに集中して、弁当を食べ進める。
他人との会話がなければ完食まではあっという間だった。
食後のお茶を飲みつつ、ソシャゲを起動していると、辰美が戻ってきた。
「やー、だいぶ心が潤ったわ〜」
「あ? 何、可愛い子だったのか?」
「やばかったなぁ。久々にときめいた」
「へー」
辰美は、非常に愉快そうだった。
けれど、その言動が少し気にかかった。
目の前のイケメンは、あまり女の子同士を比べてどっちがどうとか言うタイプではないはずだった。
「というわけで、シュウ呼ばれてんで」
「は?」
「僕ちゃうかったわ、呼ばれてんの。ほら行ってき、待ってんで」
「……は?」
「ぼく呼ばれたんなんでやろな。勘違いかなんかかなぁ」
「そんな勘違いあるか……?」
「まぁええから行ったりな」
周は顔を顰めながら、ガタ、と立ち上がる。
まさかな、と思いつつ。
しかし廊下まで出ると、その“まさか”の通りで。
「あ、雨宮先輩……」
所在なさげに立っている、
綺麗な栗色の髪や見目麗しい容貌も相まって、注目を集めている。
優衣は、顔見知りの周を視認すると、安堵したように表情を和らげる。
「なんか用か?」
「いえ、その……ごめんなさいなんですけど、用事は特になくて……」
「……?」
「先輩のクラスってどこかなー、と思ってですね。3年生のクラスを覗いてたら、たぶん先輩のクラスメイトさんだと思うんですけど声かけてもらって……」
「あぁ、流れでなんとなくって感じか」
「です」
そういえば、と周は思い返す。
特に名指しはされていなかった気もする、と。
──あそこの奴呼んだらいいかって聞いたら頷いててさ。
そう、確かそんな感じだった。
だからつまり、周と辰美がまとまっていたから、そこで話がすれ違ったのだろう、と納得する。
「悪いな。お節介だったみたいで」
「あぁいえ。私はこうして先輩とお話できてラッキーだったと言いますか……」
「そう? そうか? ならいいけど」
正直、周としてはだいぶ複雑な気分だった。
今朝振った相手がクラスまで押しかけてきて、それはそれでどうなんだとは思うものの、怒るほどのことでもない。とはいえ喜ぶことがあるわけでもなく、ただ困ってしまう。
「まぁ、とりあえず用がないならもういいか?」
「あ……はい……」
優衣はわずかに、すん、と表情を曇らせる。
それがわかってしまうから、周はまた、心中で呻かざるを得ない。
素直に、可愛らしい女の子だと思う。
だからこそなんで俺なんかに、と周は思ってしまう。
(……こういうときの正解ってよくわかんねえな)
曲がりなりにも、告白した人間とされた人間。そして振られた人間と振った人間。
周と優衣は、そういう関係で、それ以上でもそれ以下でもない。友達でもない。仲が良いとも言えないだろう。
だから困る。
告白なんてものを何度も経験しているような男なら、どう対応を取るかで悩むことはないだろう。けれど周は、そういうことに慣れているわけではなかった。
慣れていないから、とても、なんだか。周には、目の前の少女の振る舞いが、不思議で仕方なかった。
だから、気にしてしまうのだろう。
「……お前さあ」
「?」
「いや、すまん。なんでもない」
「え、気になるじゃないですか。なんですかなんですか」
「つい口からこぼれただけだ! ほんとになんでもない!」
「絶対なにかあるやつじゃないですか!」
「いやだから──」
そこまで口にして、ふと周は我に返る。
ここは教室の真ん前で、そして少女はなかなか快活で明瞭な声をしていることを。
友人たちにやり取りを聞かれるのは、さすがに嫌だな、と。
「……まぁ、いいや。とりあえず場所変えるか」
「え? どこ行くんですか?」
「……秘密基地?」
ぽかん、としている後輩を置いて、彼は歩き出した。