デイリー告白   作:ぱらのいあ扇風機

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「好きです! 付き合ってください!」

「……朝から何言ってんだ、咲間」

 

 昨日に引き続き、未だ雨がぱらついている。

 春。雨。そして散る桜。

 そんな散々な学園生活のはじまりだというのに、咲間優衣(さくまゆい)の笑顔は春満開だった。

 

「先輩を待ってました!」

「へぇ」

「興味なさそう!」

「興味ないっていうか、戸惑ってるんだよな」

 

 彼らが邂逅したのは、学校の校門前だった。

 好きです、なんて。

 そんな発言を見目麗しい新入生がしているものだから、登校中の学生たちがチラチラと横目で見てきていた。

 

「……振られた翌日に告白とか、よくできるな、お前」

「お前じゃないです、咲間です」

「咲間」

「なんなら優衣って呼んでくれてもいいですよ」

「断る」

 

 小雨とはいえ雨も降っているし、単純に通行の邪魔にもなる。

 (あまね)はとりあえず歩き出して、優衣も横に着いてきた。

 

「また来るとは言ってたけど、こう来るとは思わなかった」

「一説によると告白を繰り返すことで成功確率が上がるそうです」

「その説信じないほうがいいぞ、本当に」

「……ところで、今朝の結果は?」

「断る。……悪いな、ちょっとびっくりして返事してなかったわ」

「おお……そういう先輩のすぐ謝れるとこ好きですよ」

「うぜぇ」

 

 そうやって適当な会話をしつつ、彼らはごく普通に下駄箱で分かれた。

 1年生と3年生、当然ながら向かう先は別だった。

 

 

 

 

  ‪✿*:‬

 

 

 

 

 ホームルームを迎えて、授業を受けて、今は昼休み。

 周は現在、黒髪セミロングの美人と一緒に、物理準備室でお昼ご飯を食べていたところだった。

 

「──貴方ね、わたしを理由に断るのやめなさい」

「……いや、なんでわかるんだよ、こわ」

 

 ちょうど後輩の『お昼一緒にどうですか!』というLINEに『先約あるから無理』と返信したところだった。

 

「人の考えていることって、色んな情報から処理できるものなのよね。一番わかりやすいのは表情かしら。それ以外にも細かな所作に滲むものがあって……貴方は割と……そうね、わかりやすいほうよ」

「そういう問題か?」

「単純にわたしの察しが良いというのと、貴方がわかりやすいというのと、あとは適当に言ったら当たってビックリという3つのポイントを押さえれば、貴方の考えてることくらい誰でもわかるわよ」

「あんまりわかってなさそうだな」

 

 涼しい顔で発せられたとぼけた台詞に、周は簡素な突っ込みを入れる。

 

「あら、でも貴方のご家族だって、わたしほどは理解していないんじゃない?」

「さすがに過言だろ……とも言い切れないんだよなコイツ……」

 

 周の正面に座っている、薄い笑みを浮かべた黒髪美人、名前を鴻池(こうのいけ)みぞれと言う。

 周にとって彼女は、不思議な存在である。

 何故なら彼女は、決して昔馴染みというわけではないから。

 それでも彼女は、周にとって一番の理解者であるから。

 その上で別に、仲が良いとは言い難いから。

 なんとなく。

 そう、結局はなんとなく。

 そんな適当な理由で連れそうことの多い相手。こういった相手のことを、()()()とでも呼ぶのかもしれないが、彼女はそういう存在だった。

 

「まぁでも、逆に食べ物の好みとかは知らないよな」

「失礼ね、知ってるわよ。……そうね、牛」

「誰でも好きなやつ出すな」

「豚」

「素材なんだよそれも」

「……だし巻き卵、卵焼き、海老フライwithタルタルソース、グラタン、カルボナーラ……。傾向としてはクリーミーだったり、たまご料理だったり……そういうのが好きなのよね」

「絶対半分くらい予想だろ。みぞれの前で食べたことねえよ」

「当たってるでしょ?」

「まあ」

 

 くすくす、とみぞれは意地悪げに、それでいて楽しげに笑う。

 みぞれにはこういう、大人びたところと少女性が混ざったような笑い方が似合う。

 大人と子ども、その両方の良さを体現したような振る舞いは、やはり特異的で、目を惹くものがある。

 

「察しの良さ、俺のわかりやすさ、運……?」

「そう。その3点を押さえた上での予想」

「……」

「何?」

「いや、改めてヤバいなと」

「靴舐める?」

「…………実際にやったらどんなリアクションするのかには興味あるな」

「爆笑しながら動画撮影して流すけど」

「とりあえず飯食っていいか?」

「ダメよ」

 

 周が食事をすることに、みぞれの許可を得る必要は当然ない。

 だらだら話していたのをやめて、周は、弁当箱を開けて、食事をはじめる。

 そしてみぞれも、口ではダメと言いつつ、特別咎めるような表情はしていない。

 ちょっとした言葉遊び、じゃれあい、いつもの風景。

 

「…………」

「…………」

「暇なんだけど」

「…………」

「ねえ」

「…………むぐ。何か喋れって?」

「そうだけど」

「でも食べながら喋ったらどうせ『行儀がなってない。躾のなってない犬はこれだから……』とか言うだろ」

「失礼ね。犬ほど貴方は可愛くないわ」

「『犬に失礼』って言いたいのか?」

「それ以外に何かある?」

「俺に失礼だろ」

「ふっ。……ごめんなさい、つい失笑してしまったわ」

「謝る気あるか?」

「そうね……わたしが謝らなければならない理由に思い至らないのだけど、教えてもらえる?」

「うぜぇ」

「ありがとう」

 

 彼らが食事を共にするとき、大抵みぞれは暇をしている。

 だから基本的に、何かを話し始めるのは彼女から。

 これは何故かといえば、周だけが食事をしていて、みぞれは食事をしていないからだった。

 

「相変わらず飯食わないのか」

「失礼ね、飲んでるわよ」

「飲ん……。そういうのは食事とは言わねえよ」

 

 みぞれの手の中にあるのは、いちごミルク200mL。学内の自動販売機でぴったり100円。

 

「122キロカロリーもあるのに」

「……」

 

 周はため息を吐いて、弁当の蓋に厚焼き卵を一切れ乗せる。

 そのまま出すと文句を言われること間違いないため、ミニトマトへ刺さっていたプラ楊枝を添えることも忘れない。

 そうして、目の前のみぞれへと差し出す。

 

「ほれ、これでも食ってろ」

「あら、ありがとう」

「飯食わないからほせぇんだよ」

 

 周がそう言うと、みぞれは自分の体を見下ろした。

 そして、ブレザーを着ていても主張の激しい胸部を見て、首を傾げる。

 

「言うほど細くもないけれど」

「うるせぇ。そこは健康に関係ないだろ」

「そうかしら……。痩せるときは胸から萎むと言うし、維持できてるということは問題ないんじゃない?」

「……」

「わたしの勝ちね」

「いいから黙って食え」

「はいはい」

 

 周は白飯を大きな口に頬張り、みぞれはちまちまと厚焼き卵を食べる。

 

「おいしいわね」

「……」

「貴方が卵焼き好きなのわかる気がするわ」

「まぁな」

 

 家庭の味というものが世の中にはあって、手作り弁当というものは、家庭の味を持ち出せる。

 そして他所の家庭の味というものは、何かと面白いものだ。それを感じて、みぞれは軽く目を細める。

 

「そういえば、一応聞いておきたいのだけど」

「……?」

「18歳になってお互い独り身だったら、付き合ってみようって話覚えてる?」

「何かと思ったらそれか。覚えてるよ」

「ならいいのよ」

 

 彼らは3年生。

 17歳から18歳に移り変わる年。

 そして現状、彼ら2人とも、恋人はいなくて。

 

「…………」

「…………」

「何だ、それだけか?」

「それだけだけど」

「そうか」

「…………」

「おい。どうすんだよこの空気。気まずいんだが」

「わたしは別に気まずくないけど」

「うぜぇ……」

 

 我関せずといった風に、みぞれはご馳走様、と手を合わせていた。

 彼はそれを見て、「話の振り方が雑なんだよ……!」と眉間に皺を寄せる。

 なんでこのタイミングでその約束の話が出てくるのか、と言われれば、原因には一つしか心当たりがない。

 きっと、彼が出会った後輩女子の影響だろう。

 

「もしかして嫉妬でもしてるのか?」

「そう見える? だとしたら随分おめでたい目をしているのね」

「もうちょっと言い方ってもんがあるだろ。配慮とか優しさってもんがないのか?」

 

 ふふ、とみぞれは笑う。

 楽しげに。そして意地悪げに。

 

 

「当たり前でしょ。わたし、貴方のこと嫌いだもの」

 

 

 その言葉とは裏腹に、みぞれの顔は笑みの形に彩られていた。

 

「はいはい知ってる知ってる」

「そうよね。毎日のように言ってるもの」

 

 友達とは違う。恋人とも違う。

 彼らはずっと、曖昧な関係をずっと続けていた。

 それはまるで雨まじりの雪のような、半端な存在。

 つまらなくて、くだらなくて、だから一緒にいて気安い。それが雨宮周と鴻池みぞれの関係性。

 

 

「あ、そうだ。くだんの後輩ちゃんわたしから会いに行ってみようかしら」

「いやそれはマジでやめろって」

 

 

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