機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

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準(なぞら)えられた強奪

―――CE73年10月3日。

 

 L4コロニー[アーモリーワン]。宇宙港が多くの人で賑わっている中、“ザフトレッド”と呼ばれるエリートを指し示す赤の制服に身を包んだ少年が先程到着したシャトルを見つめている。そして、そこから姿を見せた金髪を持つ簡素な紫の服を着た人物が目に入り、歩を進めて敬礼する。

 

「オーブ連合首長国、カガリ・ユラ・アスハ代表ですね」

「ああ。君が出迎えなのか?」

「はい。ザフト軍ジュール隊所属、ナイル・ドーキンスであります。此度は軍の命令で代表の案内役と護衛を担わせて頂きますので、ご承知おきください。それと……そちらは護衛の方ですか?」

「……護衛のアレックス・ディノであります」

 

 ナイルはカガリと挨拶しつつも、“アレックス・ディノ”と名乗ったアスランをすぐに見抜いていた。アスランの方もナイルがザフト軍に入隊した事実に加えて、配属先がかつての同期となれば表情が曇ってしまう。

 あまり追及するのも宜しくないと考え、ナイルはカガリとアスランを誘導しつつ、今の[アーモリーワン]の状況を説明した。

 

「進水式に伴い、明日は軍事式典を予定しております。そして急なお話ではありますが、アスハ代表の来訪に伴ってデュランダル議長が会談を行いたいと申し出ておりますが、如何いたしますか?」

「有難く受けさせていただく。国賓とはいえお忍びの身なのに、そうまでしていただけるのは感謝に堪えない」

「では、そのままご案内させて頂きます……あまり仏頂面になるなよ、()()()()

「っ!? 大きなお世話だ」

 

 ナイルがカガリとやり取りをしている中で、いかにも不機嫌そうなアスランに対して呟くナイル。まるで元婚約者の如く見透かされたような発言が飛んできたことに、アスランはぶっきらぼうに吐き捨てた。

 これにはカガリが流石に訝しんで問いかける。

 

「不躾な質問だが、ドーキンス殿は私の護衛と面識があるのか? こういう時ぐらいは丁寧な言葉を止めて欲しい」

「自分のことは名前でいいですよ。では……友人関係というのが一番正しいかな。おそらく貴方が知っているであろう“キラ”や“ラクス”とも面識がある」

 

 ナイルは彼女が前大戦において最前線で戦っていた事実を把握している。無論、表沙汰には出来ない情報なのでラクス・クライン伝手のものではあるが。それを聞いたカガリは驚きつつもナイルのことをそれとなく聞かされていたようで、緊張した表情を崩していた。

 

「成程、以前彼女が言っていたのは君のことだったか……なら、私のことも公的な場以外では名前で呼んでくれ。そうしてもらった方がありがたい」

「分かったよ、カガリ。自分からすれば年上なので“さん”付けした方がいいかな?」

「そこまで細かい注文はしないさ」

 

 気が付けば、緊張が解れたかのように和んでいる雰囲気。ナイルとカガリが会話に華を咲かせている光景を面白くないと睨んでいるアスラン。すると、二人の表情はアスランに向けられていた。

 

「えっと、どうかしたか?」

「アスラン。言っとくが俺はカガリに対して恋愛感情はないからな?」

「そうだぞ、アスラン。こういう友人は大事にするんだぞ?」

「……」

 

 アスランは何故だか、この二人が単なる知り合いで済まない様な連携を見せていたことに、色々複雑な感情を抱え込んでしまった。そして、その感情に対する答えが遠くない未来に出ることも、この時はまだ知らなかったのだった。

 “砂時計”とも言われるプラントの支点に存在する宇宙港から底部の居住区へは高速エレベーターが設置されており、三人のうちカガリがエレベーター内に設置されたソファーに座る。その間にナイルは持っていた端末で連絡を取り、確認が取れたようにカガリへ話しかける。

 

「アスハ代表。デュランダル議長側との確認が取れましたので、このままご案内します。その後は工廠をご案内したいとのことですが」

「そうだな。ご厚意に甘えさせてもらおう。アレックスもそれで構わないか?」

「ええ。代表がそう仰るのであれば、私はただ従うだけです」

 

 このエレベーターには三人しか乗っていないが、今はあくまでも事務的な連絡として互いに敬語で話す。だが、次に発せられた言葉は対等に話しかける言葉遣いであった。

 

「しかし、普通ならばもう少し上の上官が出てくるとは思ったが、よもやアスランと同じザフトレッドを寄越すとは想定外だったよ」

「多分、自分がオーブの出身だったからというのもあると思う。誤解のない様に言っておくが、故郷を離れたのは8年も前の話。ただ、アカデミーの同期で戦火に巻き込まれてプラントへ移住した奴は知ってるし、そいつとは友人だ」

 

 オーブが地球連合によって一時占領下にあったことは知っているし、ユニウス条約によって独立を回復したことも把握している。そして、その間に起きていた事実も母親を通して聞かされることになった。

 

「そうだったのか……」

「カガリの父親であるウズミさんのことは、母からよく聞いていた。『人の話を聞かない頑固者だけど、誰よりも“家族”であるオーブを守りたいという意志を貫いた超が付くほどの頑固者』と語っていたよ」

 

 連合とオーブの物量差はどうあっても覆せない―――そう考えたウズミがモルゲンレーテとマスドライバー[カグヤ]を爆破して連合におけるオーブ侵攻の価値を無に帰した。それと同時にウズミがオーブに対する責を全て引き受ける形で殉死した。

 無論、その戦いで家族を失ったシンの怒りも理解はしている。だが、もしあの時点で連合に屈したと仮定した場合、今度は近隣に存在するザフトのカーペンタリア基地に対する危機感を煽り、ザフトの攻撃を受けてマスドライバーは徹底的に破壊されるだろう。

 

 そうなると、どちらにしてもビクトリア宇宙港のマスドライバーしか選択肢が無くなるという二度手間を踏むことになるわけで、その点で言えば『ムルタ・アズラエルの欲を掻いた失策』という烙印しか残らない、というわけだ。

 ただ、その辺の事情を知るなんて誰にだってできる訳でもないし、身近な人物を喪った悲しみや怒りが勝ってしまうのは仕方のないことなのだろう。

 

「そう言ってもらえるだけでも、これまでやってきたことに対する労いに思えて来るよ」

「ただ、カガリはこれからが大変だと思っている―――それはアスランも同じ気持ちじゃないのか?」

「そうだな。正直、何もなければいいとは思っているよ」

 

 最新鋭の戦艦の進水式に、最新鋭のモビルスーツ。明確な力の存在は、また新たな軋轢を生み……そして戦いを呼ぶ。これで騒ぎの一つでも起きた場合、ナイルはデュランダルに対してまた一つ疑惑を重ねる。

 

 そうして執務室に二人を案内したが、ナイルは『あとは政治家同士のする話だ』と割り切って、部屋の外で待機していた。保安要員も深紅の制服を身に纏っている人物がいれば、余程位の高い人間で無い限りは勝手に道を開けてくれる。

 そうして十分も経たない内にカガリとアスラン、そして護衛に守られたデュランダルが姿を見せたので、ナイルはザフトの軍人として姿勢を正して敬礼をする。その姿を見たデュランダルは柔和な笑みを見せていた。

 

「ご苦労だね、ナイル。本来ならば艦内での待機なのだが、こうして忙しくさせていることに謝罪させてもらうよ」

「いえ、自分はただ命令を遂行しているにすぎませんので」

 

 正直に言って、デュランダルの言葉は心地よく聞こえるだろう。だが、まるで値踏みをしているような雰囲気すら感じてしまう視線には怪訝そうな感情を覚えるものの、それを決して表に出すことなく真剣な表情で返した。

 

 アスランとカガリはデュランダル議長に伴われて司令部を出た。当然、カガリの護衛を担うナイルも随伴して工廠へ向かう。周囲には格納庫(ハンガー)が建ち並び、時折モビルスーツが地響きと共に横切る。

 明日の軍事式典ということもあって慌ただしい様子は感じ取れたが、そんな中でデュランダルはまるで喜びを表情に示しているようだった。これには流石のカガリも反応する。

 

「議長は随分お喜びのようだな」

「おや、姫はそう思われたのですかな?」

「その表情で何かに対して不満があるとは思えないので」

 

 ザフトからすれば、最新鋭の戦艦と機体が御披露目されるのだ。無論、連合にとっては脅威を抱く存在。そんな二大国の存在に脅かされ続けてきたオーブからすれば、とても他人事では済まない案件でもある。

 

「先代の代表首長である我が父は、先の連合侵攻に際して『剣を飾って置ける状況ではなくなった』と評し、連合軍に抵抗された。オーブの力は自らの理念を守る為のものだと私は考えている。無論、プラントがこの力を持つことも過去に対する危惧の一環だと認識している」

「無論です。我々としてもユニウステンやボアズのような悲劇は繰り返させないと強く心に誓っております」

 

 プラント本国に対する核攻撃はカガリ自身も目撃している。最新鋭艦やモビルスーツはその悲劇を守る為の抑止のみに使われるべきである―――という意味も込めた言葉を言い放ち、デュランダルはそれに対して真摯に見える回答を述べた。

 

「議長がそう仰っているのならば、私からは何も追及しない。だが、ザフトが連合のように我が国へ力を向けた時は、相応の覚悟をしていただきたい」

「私共としても、そうならない未来を選択できるよう尽力するつもりです。しかし……確か、オーブは我が国に対して要請をしておりましたが、そのことに対して言及なさらないのは驚きでした」

 

 カガリの決意表明に近い言葉を聞きつつ、デュランダルは思い出したように問いかける。

 先の大戦で起きた連合のオーブ侵攻によって、オーブから脱出した難民がプラント本国に移住し、とりわけ技術者や人的資源の軍事利用は顕著だった。しかし、そのことを敢えて問わなかったことを持ち出すと、カガリは一息吐いてから答えを返す。

 

「そのことか……私はまだまだ未熟であり、オーブもまた立ち直っている道半ば。そんな状況で無茶な道理を周辺国家に押し通すだけでなく、国民に対して強制することは出来ない。彼らも明日を生きるための生活が懸かっているのならば、それを妨げることはオーブとしての理念に反する。これは父ウズミ・ナラ・アスハの言葉でもあるのでな」

 

―――『人としての精神の自由』

 

 これは連合の侵攻に際して開かれた臨時議会においてウズミが強調した言葉。カガリがここで強硬にプラントへごねても、生活が懸かっている彼らを救うことになるのかと言えば、それは別の問題になってしまう。

 ならば、オーブを出ていった民がもし故郷への想いを捨てきれずに戻ってくるとなった時、彼らに対して顔向けできるような状態の受け皿となれるよう尽力する。これが、カガリがプラントから亡命してきたシーゲル・クラインやパトリック・ザラといった元施政者たちの教えを受けて、その上で出したカガリなりの結論であった。

 

「成程、姫―――いえ、アスハ代表。今は亡き父親から良き薫陶を受けられたようですな」

「それは誉め言葉として受け取っておこう、デュランダル議長」

 

 特に言い争うことも無く、雰囲気は至って平穏だった。

 だが、それを容赦なく壊すかのように鳴り響く警報。その数秒後に6番格納庫(ハンガー)―――新型機の[カオス]、[アビス]、[ガイア]の置いてある格納庫の扉を貫くように発せられるビームを見た瞬間、ナイルは叫んだ。

 

「伏せろっ!」

 

 その言葉で周囲の人間は装甲車の陰に隠れる形で身を屈んで、爆発の衝撃波に耐えた。そして、三機の新型が悠然と歩いている時点で、ナイルは事態を察した。[カオス]、[アビス]、そして[ガイア]は何者かに奪取されたということを。

 

「ナイル、姫らをシェルターに」

「了解しました。お二人とも、こちらに」

「……カガリ!」

「あ、ああ!」

 

 ナイルの先導という形で走り出すカガリとアスラン。このままシェルターに逃げ込んでも面倒なことになると判断したナイルは、多少命令違反になっても構わないと思い、近くにあったジープに二人を乗せて猛スピードで走り出す。

 

「乗ってくれ。多少荒っぽい運転になるが、そこは勘弁してくれ!」

「この状況で贅沢も言えないのは百も承知だ!」

「頼む!」

 

 この状況だと敬語で話している余裕も無く、強大な力の前には肩書など無意味。それをカガリやアスランも理解しているようで、互いに対等な言葉遣いで話す。そうして走り出したジープが向かった先は、工廠の中で一番遠くにある格納庫。

 状況的には[ガイア]が向かってくる場所だが、四の五の言っていられないし、生真面目に走って逃げたところで瓦礫の下敷きになりかねない。幸い、アスランのパイロットとしての技量を誰よりも理解しているからこそ、ナイルはここを選んだ。

 

 カードキーを通してセキュリティーを突破すると、そこにはナイルの[エールザクファントム]と一般兵用の[ブレイズザクウォーリア]が用意してあった。実は明日の軍事式典で使用する為においてあり、[ザクウォーリア]のほうは式典後の模擬戦に使用する想定で準備していた。

 

「アスラン、元ザフトのお前なら[ザクウォーリア]ぐらいは扱えるだろう? 格納庫(ハンガー)から出た後は[ミネルバ]へ行け。あの艦には俺の同期が結構いるから、俺の名を出せば理解してくれるはずだ」

「ナイルは……戦うのか?」

「いや、俺は戦わない。牽制程度はするが、俺の役目はカガリの護衛だからな。そこをはき違えて身の危険など曝す気はない」

 

 ナイルが与えられた任は『カガリの護衛と案内』。ならば、その範囲で出来ることをすればいい。流石に[ザクウォーリア]ごとシェルターに向かわせるというのは酷なので、それならば[ミネルバ]に避難してもらえば御の字と思った。

 

 聞こえてくる地響きからして味方の機体も出ているだろうが、実体兵器ばかりが多いザフト機に対してビーム兵器を持つ三機の新型。[ザク]クラスでなければ有効打を与えられないわけで、しかも近くのコンソールのモニターには『新型三機を捕獲せよ』との命令が出ていた。

 だが、ナイルは新型を抑える気など無かった。

 

(既に戦況は混乱中で、人命どころかプラント本体の崩壊の危機があるかもしれない状況で『新型機を捕獲せよ』? 寝言は寝てから言って欲しいわ)

 

 強いて理由を述べると、どうにも今回の一件が予め仕組まれていたとしか思えない、という疑念が拭えなかった。

 新型機の強奪を警戒するならば、それこそ[ミネルバ]へ秘密裏に運搬してダミーでも仕込んでおけば済む話だった。だが、実際に三機は他のザフト機と同じ形で格納庫に保管されていた。つまりはセキュリティーレベルが他の量産機と同列に()()()()()と言えてしまう。

 

 [インパルス]だけが無事で、残る三機が奪われるという意味の分からない構図。しかも、聞いている話では所属パイロットであるレイとルナマリアの[ザク]も工廠の格納庫にあるという。これでは、先の大戦における連合の[ストライク]と[アークエンジェル]の逸話に準えているとしか思えない。

 まるで、盤上の駒を綺麗に並べているような感覚をしてしまうほど、誰かがこの筋書きを描いたとしか思えない。そして、それが実行可能な人間が誰なのかということも。

 

 結局のところ、ナイルの心中は最初に与えられたカガリの護衛と案内役を果たすことで決着。いくら地球の島国とはいえVIPの護衛は大役だし、これを建前にすれば大抵のことは目を瞑ってもらえるだろう、と結論を出した。

 

「とにかく急げ! 瓦礫に埋まってお陀仏なんて嫌だろう!?」

「そうだな。カガリ、行くぞ!」

「ああ!」

 

 そうして各々二機の[ザク]に乗り込む。ナイルが[エールザクファントム]に乗り込み、アスランとカガリが[ブレイズザクウォーリア]に乗り込んだ。機体のモノアイが灯り、ハンガーのロックが解除される。

 そして熱センサーのアラート音で[ガイア]の接近に気付いた二機。ナイルの[ザク]はビームガトリングで扉に向かって乱射した。扉の向こうにいるであろう新型を傷つけていいのかという疑問は出てくるだろうが、こうなったら明日の軍事式典なんて延期確定。最悪[ガイア]を含めた三機を達磨状態にしてでも構わないという思いで容赦なく攻撃し、扉が爆発した。

 そして、二機の[ザク]は並び立って肩部のシールドを前面に押し出す形で爆風の中へと飛び込む格好を取り、スラスターを噴かした。

 

「どけや、こらあっ!!」

「うおおおっ!!」

 

 爆風を抜け出した先にはシールドを構えていた[ガイア]がいたのだが、流石の[ガイア]でも[ザク]二機分の衝撃を緩和できる能力などなく、容赦なく吹き飛ばされたのだった。

 




 第1話のアーモリーワンでのやり取りみたいな感じ。
 原作だとカガリは結構噛みついていますが、ラクスの父親とアスランの両親という政治に強い教師を得たことで割と落ち着いて話せている感じです。イメージ的には種自由のレベルに近付きつつあるぐらいの感じです。パトリックはザフトだと軍事色強い印象ですが、元々は教育系のエキスパートなんですよね、この人。
 新型に対して容赦なく攻撃していいのとか、機体を貸与していいのかと言われそうですが、自分と他国の国家元首の命(+アスラン)が掛かっている状況で贅沢なんて言える立場じゃないんですよ。マジで。
 正直、あんな騒ぎになった時点で進水式とか軍事式典とか言ってる状況ではないですからね。議長の面子? 知らんな。

 種自由特典で小説再配布だと……月ワルしか持ってないので、これは行くしかない(3回目)
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