機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~ 作:那珂之川
格納庫の扉を吹き飛ばし、その先にいた[ガイア]を突き飛ばした二機の[ザク]。更なる敵に[ガイア]がビームサーベルを抜いた。それを見たナイルはアスランとカガリに告げる。
「状況からして、この分だと宇宙港も危険だろう。お前たちはこのまま[ミネルバ]へ」
『いや……だが』
「お前にはカガリを守る役目があるんだろうが! 自分の本分を誤るな!!」
突撃してくる[ガイア]に対して、ナイルの[ザク]はビームトマホークを抜いて応戦する。互いのサーベルとシールドによってスパークが発生し、眩しい光が双方のコクピットを襲う。それを見ながらナイルは更に告げる。
「行け! 時間位は稼いでやる!」
『っ……すまない、頼む!』
アスランとカガリを乗せた[ザク]がスラスターを吹かして離脱する。あの[ザク]には緊急時の認識コードが積まれており、それを使用すれば[ミネルバ]への着艦も可能になる。この状況下で一番安全だと言えるのは、間違いなく[ミネルバ]になるだろう。
その一方、[ガイア]はナイルの[ザク]を敵だと認めたようで、強奪したばかりの機体を難なく使いこなしていた。
(少なくとも、可変機構を使いこなしている時点で三機のモビルスーツのデータが外に漏れたと考えられる。さて、連合関連か反デュランダル派閥の人間か……)
すると、ナイルの[ザク]の背後に[カオス]が降り立つ。[ガイア]の援護としてビームサーベルで立ち向かってくる。こうまで考えさせてくれる時間もないとなれば、やることは一つ。
「無事で捕獲するなんて甘っちょろい考えを捨てるべきだが、一応命令には従ってやるよ」
ナイルは振り返りざまに左肩のシールドを構え、シールドの上に乗せるように[カオス]を持ち上げる。機体の駆動音が唸りを上げているが、お構いなしにそのまま後ろへ放り投げる。当然、投げられた先にはサーベルを構えた[ガイア]がいるわけで、[ガイア]の前に[カオス]が飛んでくる格好となり、二機は吹き飛んだ。
そして、そこに更なる機体―――戦闘機群が姿を見せた。三機の戦闘機は合体して一機のモビルスーツ―――ZGMF-X56S[インパルス]となり、残る一機から分離した背部ユニットによって灰色から赤と白を基調としたカラーリングに変化する。
二本のビームソードと二本のビームブーメランを主だった武装とする近接戦闘に特化した[ソードインパルス]。ビームソードを連結させて構える[インパルス]に対し、[カオス]と[ガイア]は起き上がって構えていた。
問題はここにいない[アビス]が合流すると厄介だが……すると地面に振動が走ってコクピットが揺れる。この揺れからすると、恐らく外部からの攻撃。そうなると宇宙港は最悪の事態となっている、と考えていいのかもしれない。
すると、二機に合流する形で[アビス]まで合流したことで緊張が走ったが、三機は次々に離脱していく。そこにパーソナルカラーを纏った純白の[ザクファントム]と深紅の[ザクウォーリア]がビームライフルを構えて追撃してきた。
[インパルス]を含めた三機が強奪機体を追撃するとなれば、ここで無理をする必要もない。それに、元々はジュール隊の人間なので、本来ならば母艦に戻るのが筋。なので、外部との連絡を取る意味でも[ミネルバ]に行くのが一番妥当な判断になるだろう。
ナイルの[ザク]は武装を仕舞った上で、先行しているであろうアスランたちの[ザク]を追いかける形で[ミネルバ]へと向かったのであった。
◇ ◇ ◇
ナイルは機体を開いている左舷カタパルトハッチから着艦させた。格納庫には[ブレイズザクウォーリア]が片膝をついた状態で鎮座しており、アスランたちは無事に到着したようだ。ただ、保安要員からは疑問視するように銃を構えていたが、ナイルの[ザク]の登場で更に慌ただしくなっていた。
ナイルは二人と保安要員の間に立つような形で割込み、敬礼をした。
「認識番号:420126。ジュール隊所属ナイル・ドーキンスであります。此方にいる方々は紛れもなくオーブのカガリ・ユラ・アスハ代表と護衛のアレックス・ディノ氏です。大変お手数をお掛けしますが、部屋の手配をお願いできますか?」
「わ、分かりました!」
こんな状況では落ち着くも何もあったものではないし、ましてや盟友とはいえ他国の国家元首が最新鋭艦に搭乗する。こんな状況を易々と認められるとは思えない。
だが、予想に反して部屋の手配は滞りなく済んだ。現在搭乗している乗組員は必要最低限の人員で、進水式を控えていたとはいえどもそこまで多くはなかった。なので、アスランとカガリの部屋、そしてナイルの部屋に通された。
ナイルはコクピット内に残してきたケースを取りに格納庫へ向かったところ、追撃に出たはずの三機の内の一機である深紅の[ザクウォーリア]がハンガーに固定されていた。そして、彼の姿を見た同じ赤服の少女―――ルナマリア・ホークが叫ぶように声を掛けてきた。
「ナイル!? ちょっと、ナイルよね!? 何であんたが[ミネルバ]にいるのよ!」
「大声を出さなくても聞こえるわ、ルナ。俺は痴呆の老人じゃないんだから」
「あ、ごめん。でも、何でここにいるのよ?」
「それはちゃんと話すよ。まずは機体の忘れ物を取りに行っていいか?」
ナイルはそう断って[エールザクファントム]からケースを取り出し、改めてルナマリアのところに戻ると、そのまま艦内へ入った。ルナマリアが追撃を諦めたのは、どうやら瓦礫の影響でルナマリアの[ザクウォーリア]のメインスラスターに影響が出たらしく、煙を噴いたそうだ。これでは追撃も無理と判断して[ミネルバ]へ着艦したらしい。
なお、強奪された新型機の追撃についてはシンの[インパルス]とレイの[ザクファントム]でやっているそうだ。ナイルはルナマリアの説明を聞きつつも自身の任務について触れる。
「―――それじゃ、ナイルはオーブのアスハ代表の護衛で来たってことなのね?」
「ああ、部隊の母艦はプラントの外だからな。無事だといいんだが、ここまでやる連中なら奇策なんて平気でやらかしてるってことだろうし」
先程保安要員から聞いた[アーモリーワン]の状況は、工廠内に毒ガスまで発生しているとのこと。シェルターを目指さなかったことが却って命を救う結果になったのは幸いとしか言いようがなかった。
「で、あの[ザクファントム]がナイルの専用機か……そういえば、一か月前のデモンストレーションでシンが[セイバー]と言っていた赤の機体だけど、ナイルが乗ってたの?」
「あー、それは合ってる。向こうから注文を付けられたから、うちの上司が怒ってしまってな。割と本気で四機を潰しに行ったよ」
「……シンの代わりに[インパルス]のパイロットでも出来たんじゃない?」
「嫌だよ。あの機体を乗り回したところで確実にガタがきかねない」
[セイバー]ですらあの一戦でも駆動系に色々問題が生じたのだ。これが分離・合体機構を持つ[インパルス]だとしたら、確実にどこかしらの不具合を連発するのが目に見えているし、整備班の忙しさが殺人級になりかねない。
ルナマリアの純粋な疑問に対して、ナイルは肩を竦めつつも答える。
「あれはシンだからまともに運用できる代物だと俺は思ってる。戦闘中の状況に応じてユニットを切り替えるぐらいなら、どちらかに特化させた機体に乗るほうがマシだよ」
ナイルがルナマリアに対してそう呟いた後、艦に振動が走る。この様子からして[ミネルバ]を発進させるつもりのようだ。そうなると、大方[インパルス]もといシンが正義感から真っすぐ突っ走っていったのだろう。
確かに、ここまでで三機も強奪された。[セイバー]はプラント本国の工廠に恐らくあるのだろうが、ここで[インパルス]を失うのは余りにも痛手だ。
そして少し間を置いた後、艦内に警報が鳴り響く。
<コンディションレッド発令! コンディション・レッド発令! パイロットは直ちにブリーフィングルームへ集合してください!>
その声は聞き馴染みのあるものだと直ぐに分かったが、そこで感傷に浸る意味はない。ここでナイルはルナマリアに問いかけた。
「ルナ、俺は正確に言えば[ミネルバ]所属のパイロットじゃない。ここら辺の指揮系統の確認も含めて、アスハ代表のことも艦長に伝えてくれるか?」
「ええっ!? って、確かにそうだったわね。代表は士官室で休まれているの?」
「ああ。それは俺も確認している」
この状況を鑑みるに、ナイルはジュール隊から離れて[ミネルバ]の部隊内にいることとなる。幸いにして、この艦に所属・乗艦しているパイロットの面子は強奪された機体を除けば大半はアカデミーの同期。
強奪された機体の奪還を行うにせよ、指揮系統の確立は大事。そうなると、艦の指揮を執る艦長に判断を委ねなければならないし、その連絡は[ミネルバ]のクルーを介する方が適切。ルナマリアに迷惑を掛けてしまうが、こればかりは仕方のないことなのだ。
それはルナマリアも理解できたようで、疲れたような表情を垣間見せた。
「分かったわ。でも、事態が落ち着いてから報告になるし、あんたには待機兼アスハ代表の監視をお願いするわね」
「まあ、それが今の俺の仕事みたいなものだからな。甘んじることにするよ」
そのままルナマリアと別れた後は、アスランとカガリが滞在する士官室に入った。そして、現時点で判明している事実だけを伝える。
「―――これが現時点で判明している状況だ。コンディション・レッドが発令しているから、俺もこれ以上は関与するのも難しい」
「お前もザフトにいるのにか?」
「俺は格納庫で触れたが、[ミネルバ]所属のパイロットではないからな。出向や戦力の派遣という訳でもないし、今の任務はお前たちの護衛である以上、下手な諍いは勘弁したいからな。ただ、艦を守る為に出撃することはあるかも知れんが」
少なくとも、三機の新型が奪取されたことに加えて、プラントの外でも戦闘が繰り広げられている。一介のテロリストにしては用意が周到すぎるし、かと言ってブルーコスモスのような過激派とは言い難い。
けれども、新型機を奪って一番利のある勢力が誰なのかと言えば、間違いなく地球連合。そして、何故か感じる奇妙な予感。恐らく敵も相当の手練れなのだろうと思われる。もしかすると、地球連合の中でも非正規じみた特殊部隊というほうが正しいのかもしれない。
何せ、コーディネイターでないと扱えないOSを搭載した機体であそこまで戦えている以上、非人道的な性質は持っていると考えていいのかもしれない。
「その辺は元の所属だったアスランが一番把握していると思うが」
「ああ、その通りだ。それこそ特務隊でもない限りは融通が利かないだろう……けれども、あれほど戦いを嫌っていたお前が軍人になるとはな」
ニコルと同い年なのにも関わらず、彼は戦う道を選ばなかった。ひたすら元婚約者の使用人に徹して、彼女が手配された後はアマルフィ家で過ごしていたこともアスランは手紙で知った。
戦いを嫌う思想は自身の親友と似通っているのに、何故戦いの道を選んだのか……その思いを込めたアスランに対し、それを汲み取ったナイルが答える。
「俺も先の大戦のときは戦うことを嫌った。けれども、母を通して交友を持ったりする中でお前やキラ、ラクスの想いを知った。あんな結末で終わった戦いの先には、また戦いが待っていると思った。だから、想いを叶えるための力を持つと決めたんだ」
ラクスを通して戦う事への虚しさを知った。
キラを通して“敵”と戦う意味を知らされた。
アマルフィ夫妻から大切な人を失うことの悲しみを感じ取った。
そして、母親からは意志を通すために力が必要となることを学んだ。
過酷な道になることは百も承知。ならば、自分が納得のいくまでやり通す。このやり方は奇しくもラクスやキラから学んだものでもある。
「そして、俺がこの道を決めた理由は他でもないキラの存在だ。彼は自身をあそこまで追い詰めながらも自分の戦いを自分の意思で決めた。それを見た俺も、自分に出来ることをやり通そうと決めたんだ」
幸い、モビルスーツの操縦経験はテストパイロットの件で十分にある。とはいえ、流石に機体を強奪するような真似は迷惑が掛かると判断して、正規の手段で軍人として働くことを決めた。
それを聞いたアスランとカガリは驚きを見せていた。まさか、彼の戦う理由に二人が良く知る人物の存在が関わっているとは夢にも思わなかったのだ。
だが、カガリが何かを問いかけようとしたときに艦内を衝撃が襲う。
それも、[アーモリーワン]の厳戒態勢を潜り抜けられるだけのステルス能力―――[ミラージュコロイド]を使用したステルスが一番可能性の高い方法だろう。
「俺が状況を確認してくる。二人は大人しくしていてくれ」
「そうだな、頼む」
ナイルが士官室を出ると、周囲の状況を確認する。現状ではまだ騒ぎになっていないものの、非常警報が出ていないので艦へのダメージはそこまでのものではない可能性が高い。すると、
そして、男性の声のアナウンスで響き渡る所属不明艦追撃の事実。それが終わると同時に姿を見せたのはルナマリアだった。
「あ、ナイル! 丁度良かったわ」
「その様子だと、俺を呼びに来たのか?」
「そうね。一応言っておくけど、デュランダル議長もいらっしゃるみたいだから失礼のないようにね」
「……まあ、肝に銘じておくよ」
どうして一国のトップがこの最新鋭艦に乗艦しているのかという疑問は尽きないが、それはともかく呼び出された以上は従うしかない。彼女の後を付いていく形で艦長室に入ると、この[ミネルバ]の指揮を執る女性艦長ことタリア・グラディスがナイルに視線を向けた。
艦長室にはナイルとタリア以外に黒の制服を着た[ミネルバ]の副長ことアーサー・トラインも同席していた。自分より年下の赤服ということもあって、どこか驚きが混じっていたのは言うまでもない。
更には、ギルバート・デュランダル議長もいた。だが、彼は『私のことは気にせず、話を進めてくれたまえ』と言い、奥の部屋に引っ込んでいった。これにはタリアが溜息を零した後、表情を引き締めてナイルに向き直った。
「報告はルナマリアから聞いているわ。貴方がアスハ代表の護衛をしていたと」
「ハッ。ジュール隊所属、ナイル・ドーキンスであります」
「今の詳細な状況は話すけれど、まずは貴方がここに至るまでの経緯を聞かせてほしいの。よろしいかしら?」
「はい。では―――」
タリアに促される形でナイルが説明を始める。
カガリとデュランダルが工廠内を見学していたところで新型強奪に遭遇。デュランダルの命令はシェルターへの避難だったが、状況的に走って逃げたところで瓦礫の下敷きになると考え、格納庫へ避難。
彼女の護衛がモビルスーツの操縦に長けていることを“親絡みで知って”いて、彼に[ブレイズザクウォーリア]を操縦させて[ミネルバ]に避難させたことと説明した。その上で自身も専用の[ザクファントム]でこの艦に避難した、と述べた。
肝心のナイルとアスランの関係は話していないし、母親絡みでアスランと知り合ったことも事実。なので、この場においての報告で嘘は述べていない。一部の真実を隠した上で話せる範囲の真実を説明したに過ぎない。
「以上が報告であります。色々処分を受けることは覚悟しております」
「……あんな状況で、真っ当な対応を取れる方が難しいわね。確かに軍規の面で問題となりそうな行動だけれども、あの騒ぎでオーブの国家元首が亡くなったとなれば、間違いなくプラントの責任問題へと発展するでしょう。議長への報告は私からしておくわ」
確かに軍規からすれば違反行為だが、危うく[インパルス]まで失うところだったことを考えると、必ずしも法に照らし合わせての処分は難しい。ましてや、それがオーブの代表首長を助ける為ならば、寧ろあの状況でよく生き残れたということになるだろう。
タリアもあの状況で即座にあの判断を下せたことは正しいと思ったし、彼が無闇に強奪された新型を追わなかったのも合点がいくと納得した。
「それと、今後のことだけれど……本来であれば、貴方を直ぐにでもジュール隊へ戻すべきなのでしょうけど、本艦はこれより強奪された三機の奪還任務として[ボギーワン]と呼称した所属不明艦を追います。幸い、貴方以外のパイロットは揃っているから、貴方はアスハ代表の護衛に専念してほしいの」
「言い方を変えてしまえば、自分は彼らの身元保証の為の監視役―――そう捉えても構わないでしょうか?」
「そうね、その言い分は否定できないわ。この後、議長がアスハ代表と会談したいそうだから、貴方から伝えてもらえるかしら?」
「分かりました。機体共々ご迷惑をお掛け致します」
ナイルとタリアの会話に時折アーサーが慌てふためくが、それを一切気にすることなく会話は終了し、ナイルは一時的に[ミネルバ]のクルーとして扱われることで艦内に通達されるのであった。
原作だと無茶していたアスランですが、ナイルという抑止力によってカガリに怪我をさせることなく無事ミネルバへ送ることが出来ました。流石にモビルスーツのままシェルターに入るなんて出来ませんので。
ちなみに、ナイルの認識番号にはネタを仕込んでいます。ヒントはSEED FREEDOM。