機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

12 / 25
物騒な出撃

 [ミネルバ]が強奪機体を回収した敵戦艦を追っていた頃、ジュール隊の母艦である[ボルテール]では[アーモリーワン]に関する情報収集で忙殺されていた。

 

 偶然にも襲撃された宇宙港とは反対側の宇宙港を防衛していたため、敵の奇襲から逃れることが出来た。しかし、[ミネルバ]はおろかデュランダル議長まで不在となるだけでなく、被害を受けた宇宙港が戦艦の残骸で使用不能となる始末。

 加えて宇宙港の管制塔にいた上官が軒並み音信不通となったため、過去に軍の統率経験や文官を纏め上げられる実績を有しているという理由でイザークが現場の指揮統制に駆り出される始末となった。

 [アーモリーワン]内に発生したガスの発生は初期段階で鎮静化したものの、残留ガスの排出や一部破損した自己修復ガラスの応急処置により、工廠も含めて[アーモリーワン]は暫く使用不能状態と判断され、完全に復旧するまで数か月を要する。

 

 そうして全ての事後処理と引継ぎに片が付いたのは、事件発生後から約6時間後のことだった。イザークは事態の経緯をディアッカとシホに話すため、二人を指揮官室に呼んだ。

 

「ここまでが[アーモリーワン]での顛末だ。映像データを見る限りでは、ナイルは任務を遂行するために[ミネルバ]へ移動したらしい」

「ま、アイツの同期が結構乗っているって話だから、問題はないだろうけど……」

「その、彼の隊への復帰は?」

 

 ディアッカは心配と安心が入り混じった表情を滲ませ、シホは真剣な表情でナイルのジュール隊への復帰時期を尋ねたが、イザークは「何も言えない」と言いたげに瞼を瞑って首を横に振り、再び瞼を開ける。

 仮に[ミネルバ]が強奪された新型機を追撃するとなれば、最悪長期間の不在となる。流石に最新鋭艦とはいえ、新兵が比較的多い戦艦に無茶を強いるのは酷な気がする、とイザークは正直に思ったが、こうなってしまった以上は今の自分に出来ることなどない。

 

「それと、先程から[メテオブレイカー]の搬入が始まった。近日中に[メンデル]を解体するべく使用するとのことだ」

 

 [メテオブレイカー]―――小惑星や大型構造物の内部に撃ち込んで爆破することで、強制的に分割する大型兵器。本来はプラント本国へ飛来の可能性がある小惑星などに取り付けて撃ち込んで、物体を小型化させる目的として使用される。

 この状況での搬入にはディアッカやシホも首を傾げているが、一番首を傾げたいのは他ならぬイザークであった。

 

「俺にだって納得できないことはある。だが、軍の命令である以上は仕方がない。今の俺たちに出来るのは、アイツが無事に帰ってきてくれることだけだ」

「そう言っちゃって、本当は心配で堪らなかったくせに」

「何か言ったか?」

「いいえ、何でもありません。隊長殿」

 

 ナイルがジュール隊に入ってからというものの、イザークがなんだかんだ言いつつもナイルと接している時が一番気兼ねなくやれている時間だった。言うなればジュール隊の緩衝材としての機能を果たしており、雰囲気も『以前より柔らかくなった』と他の隊員から思われるほどだった。

 ただ、それが原因でイザークの母親から要らぬ疑惑を掛けられているのも事実であるが、当人は真っ当な恋愛の価値観であることを主張したい気持ちと、母親に対する細やかな反抗心の板挟みで黙るという選択肢を取っていたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ナイルはアスランとカガリのいる士官室に入り、デュランダル議長がこの艦に同乗していることと会談の要望を伝えた。無論、カガリはそれを承諾した。彼女としても最前線に巻き込まれる経験があったにせよ、モビルスーツのパイロットでもない状況で巻き込まれるのは不本意としか言いようがない。

 

「会談を受ける。それで、いつになるんだ?」

「多分だが、この後の戦闘のことを考えると直ぐだろうな」

 

 すると、士官室のモニターに連絡が入る。ナイルが応答すると、画面にはタリアの顔が表示された。

 

「こちら、ナイル・ドーキンス」

『貴方がいたのなら、丁度良かったわ。アスハ代表は何と?』

「会談を受け入れるとのことです。必要であれば自分が案内いたしますが」

『いえ、そちらには空いている人間を寄越すから安心して。万が一と言うこともあるから、貴方は休んでいて頂戴』

「了解しました」

 

 そのやり取りで通信が切れた数分後、案内役である一般兵士に連れられる形でアスランとカガリは士官室を出ていった。追撃している相手が用意周到となれば、奇策の一つや二つは用意しているだろうと思い、ナイルが考えた結論は自身の[ザクファントム]が置いてある格納庫に向かった。

 

 [ミネルバ]の格納庫には専用のカタパルトハンガーに戦闘機状態で置かれている[インパルス]、ハンガーに固定されている[ザク]が四機、そして[ゲイツR]が二機。[ゲイツR]は先の大戦終盤にロールアウトした機種[ゲイツ]のマイナーチェンジ版で、主力量産機が[ザク]に置き換わる中でも奮闘している。

 特徴的なアンカー型の武装を持っていた[ゲイツ]だが、取り回しの悪さの問題などでレールガンに置き換わった。その機体を横目で見ながら自身の[ザクファントム]に近付く。

 すると、そこに声を掛けてきたのは見覚えのある同期で、黒髪と真紅の瞳が特徴的なザフトレッドの少年―――[インパルス]の正式パイロットであるシン・アスカだった。

 

「ナイル? やっぱナイルじゃないか! どうして[ミネルバ]に乗ってるんだ!?」

「お疲れさまだな、シン。俺がここにいるのは、半分成り行きみたいなものだよ。任務でオーブのアスハ代表の護衛を任されて、今もこの艦に乗っている」

「オーブの、アスハ……」

 

 ナイルの説明を聞いてシンの表情が曇る。彼にとっては家族を喪った過去がある故郷なだけに尚更だった。すると、シンは話題を変えるようにして近くの[ザクファントム]に目線を移した。

 

「そっか。ところで、コイツがナイルの[ザク]なのか?」

「ああ。うちの母が工廠から態々引っ張って来たらしい。[アーモリーワン]では新型相手に少しだけやり合ったが、後はお前たちが来たから任せたんだ。本来の任務を放り出して国際問題へ発展するのは避けたかったしな」

 

 ほんの数合程度だが、彼らの動きを見ている限りではナチュラルとも一般的なコーディネイターとも言えない動き。戦闘用に調整されたコーディネイターか、或いは連合軍で作られている強化人間(エクステンデッド)か……どちらにしても、既に面倒な問題となっているのは明白だった。

 

「なあ、ナイル。このまま戦争になったりするのかな?」

 

 シンがそう零した理由は、少なくとも理解できる。それに対してナイルは当たり障りのない程度に答える。

 

「あんなことを平気でしでかす奴らは、連合にもプラントにも両方存在してしまっている。あの戦争で全ての負の要因が取り除かれたわけじゃない。今すぐにとは言えんが、再び争いは起きるだろう……とは思ってる」

 

 互いに滅ぼし合うという極限状態にまで発展した結果、双方の主戦派のトップが折れる形で決着した。つまり、上が無くなったとしても下は残ったままの状態。残された面子がそのまま沈静化して終息すればいいが、新たな神輿を担いで復活した場合が問題なのだ。

 そもそも、根本的な要因は遺伝子の是非から端を発した二つの人種の対立。これに対する明確な答えが出ない以上、戦いはこれからも続く。なので、ナイルは戦争の可能性を決して否定しなかった。

 

「結構酷な事を言うんだな」

「楽観視する方が却って危険だからな……ん?」

 

 すると、聞き覚えのある声が聞こえてナイルが視線を向ける。視線の先にはレイ・ザ・バレルに先導される形で姿を見せたデュランダル、そしてカガリとアスランだった。議長としては盟友としての気遣いなのだろうが、ある程度見られていることも想定した上でやっているとしか言いようがない。

 

 ナイルが視線を向けたことでシンも視線を向けたものの、デュランダルとカガリの会話は至って穏便であった。以前“彼女”から聞いたカガリの性格を考えれば噛みついてもおかしくはないが、カガリは至って冷静に会話を進めていた。

 そして、その様子を打ち破るように飛んでくる放送は所属不明艦捕捉の一報だった。

 

『敵艦捕捉、距離8000! コンディション・レッド発令! パイロットは搭乗機にて待機せよ!』

 

 シンも何か言いたそうな表情はしていたものの、何かを発言する前に[ボギーワン]接近によるコンディション・レッド発令。それで諦めたようにパイロットアラートへと飛んでいく。

 シンが手に持っていたドリンクのパックは宙に投げ出されたので、ナイルがキャッチした。彼はその上で[ザクファントム]を見やった。

 

「奇襲なんてやらかす相手が素直に撃墜させてくれるとは思えんが……準備だけはするか」

 

 確か追撃の予定進路上にはデブリベルトや小惑星群が存在する以上、敵が奇策を講じる可能性もある。視覚的に捉えられているならばともかく、そうでない場合の対応は[ミネルバ]単体でしなければならない。

 無論、[ゲイツR]に搭乗しているであろうパイロットも知っているが、彼らで強奪された三機相手が出来るのかと言われると難しい。せめて無事を祈りつつ、ナイルは一度宛がわれた部屋に戻ることとした。

 しばらく時間を置いた後でパイロットアラートに入り、ザフトレッド用の予備のパイロットスーツを身に着けた。ヘルメットを手に取って格納庫に入ると、整備長を務めるマッド・エイブスがナイルの姿に気付いて声を掛けた。

 

「お前! パイロットスーツを着てどうする気だ!?」

「グラディス艦長から話を聞いているでしょうが、ジュール隊所属のナイル・ドーキンスです。状況が見えない以上は自分が出る可能性もあると考え、待機するだけです」

「言い分は理解するが……」

 

 エイブスは流石に考え込んでしまった。パイロットスーツは勝手に借りた形だが、彼の言い分は筋が通っている為だ。どうしたものかと考え込んでいる所に割り込んだのは、白を基調としたパイロットスーツを身に纏っているレイ・ザ・バレルだった。

 

「整備長。彼は私の同期で実力も保障できますし、彼の言い分も尤もです。自分からもお願いします」

「……分かった。艦長には私から報告はしておくが、くれぐれも無茶はするなよ」

「ありがとうございます……まさか、レイが助け舟を出してくれるとは思わなかったよ」

 

 レイの真剣な眼差しと、彼が誰かを評価している所が余りにも真実味があったのか、エイブスは納得したようにしつつもナイルを叱咤激励した。彼が離れたところでナイルはレイに対して感謝の言葉を述べた。

 

「気にするな。シンとルナマリアが艦を離れている以上、俺たちが[ミネルバ]を守れる要だ。正直、一人であれこれできるほど器用でもないからな」

「……レイがそこまで正直に言いのけてしまったのは驚きだけれど」

「少し喋り過ぎたな。何もなければそれでいいのだから」

 

 レイはいつもより饒舌になっていたことを恥じるような素振りで自らの[ザクファントム]に乗り込む。それを見たナイルも自身の乗機である[ザクファントム]に乗り込んだ。ハッチが閉まり、モニターと計器類に光が灯る。ナイルは素早く機体を立ち上げて、発進準備を整えた。

 流石にコクピットの中では何もやることが無いし、せめてブリッジの状況が伝われば……と考えていると、通信の着信を知らせるアラームが鳴っている。ナイルが計器を操作すると、回線が開いてメイリンの顔が映る。

 

『久しぶりだね、ナイル。こうやって話せるのは何時ぶりかな?』

「戦闘中に暢気なことは言えんだろう。で、状況はヤバいと認識していいのか?」

『[ボギーワン]が本艦の背後についてるんだけど、きゃっ!?』

 

 話している最中に来る振動で、彼女の言葉が真実だと察する。そうして暫く振動が続いた後に、艦の動きが止まる様な衝撃を受けた。そして、繋いでいる通信からタリアの言葉が響き渡る。

 

―――エイブス! レイを出して! 歩いてでもいいから、早く!

 

 どうやら[ミネルバ]は小惑星を盾にする形で回避していたが、小惑星を砕かれたことによる岩のシャワーで進路を塞がれてしまい、加えて右舷のスラスターが破損。すぐ背後には[ボギーワン]だけでなくモビルスーツとモビルアーマーまで迫っているという危機的状況。

 肝心のシンとルナマリアたちだが、同伴していた[ゲイツR]の二機は撃墜。シンの[インパルス]とルナマリアの[ザク]は生き残っているが、[カオス]と[アビス]、[ガイア]の三機による足止めを食らっているとのこと。

 

『―――という状況なの』

「分かった。こちらも準備は終わってるから出る。グラディス艦長にはメイリンから伝えてくれ」

『うん……ちゃんと帰ってきてね』

 

 その会話でメイリンとの通信を終えた後、ハンガーのロックを解除して歩き出す。先にレイの[ブレイズザクファントム]が出ていったのを確認してから、ナイルの[エールザクファントム]が静かに離脱した。

 宇宙空間に出たところで、ナイルは妙な気配を感じた。具体的には敵と思しきモビルアーマーの存在。そちらの相手はレイに任せつつ、向かってくる連合の量産型モビルスーツ[ダガーL]を迎え撃つ。

 レイは[メビウス・ゼロ]の発展型と思しきモビルアーマーを一人で相手取っており、その間に二機の[ダガー]は何も警戒することなく接近してくる。それを確認したナイルの[ザク]はスラスターを全開にして急加速し、二機のダガーに迫る。

 

「横一列に並んで来たら、殺してくださいって言ってるようなものだろうが」

 

 そう呟いてMA-MR2 ファルクスG9・アンビデクストラスビームアックスを展開し、たった一撃で二機の[ダガーL]のコクピット部分に相当する腹部を瞬時に両断した。素早く離脱した直後に、両断された二機は相次いで爆散。

 

「何だと!? 相手も隠し玉を持っていたのか!?」

 

 驚愕したネオ・ロアノークは自身の乗機である[エグザス]のガンバレルを展開する。だが、その瞬間の閃きで攻撃を把握したナイルはMMI-M826:ハイドラ・ガトリングビーム砲でガンバレルの機動を誘導して、ビームライフルでガンバレル本体を墜とす。負けじとレイもガンバレルを墜とした結果、本体だけとなったネオは舌打ちをした。

 奇妙な感覚を抱いた純白の[ザク]もそうだが、それ以上に似たような白色の[ザク]は初見のはずのガンバレルを撃ち落としていた。こうなっては艦本体を叩いたとしても痛み分けで終わってしまう。

 だが、そんなネオですら想定外のことが更に起きた。突如身動きの取れなくなった[ミネルバ]の右舷側で閃光が走り、大量の岩盤が飛来すると同時に[ミネルバ]が急速回頭して[ボギーワン]と相対する形を取る。

 ナイルは近くの岩石を盾代わりにすることで、機体へのダメージをゼロに抑える。

 

『[ミネルバ]!?』

「なんとまあ、無茶をする……」

 

 レイが驚きの声を上げるぐらいの奇策。こんな無謀な生還方法を取るとすれば“心当たり”はある。そして、[ミネルバ]は反撃と言わんばかりに最大火力を有する陽電子砲QZX-1:タンホイザーを[ボギーワン]に向けて放つ。

 [ボギーワン]は間一髪で回避したものの、陽電子砲の威力の影響で右舷スラスターを破損。これでは最早戦闘など続行できないと判断したのか、[エグザス]は[ボギーワン]宛と思しき帰還信号を放って離脱していく。

 その直後、[ボギーワン]からも帰還の信号弾が放たれた。

 

「……一先ず、生き残れたことは確かだな」

『やはり、お前の腕はあの女より上だったみたいだな』

「アイツの話題は勘弁してくれ……」

 

 こんな時に自分の嫌いな女の話題など出してほしくない……とレイに対して文句を言いつつも帰還信号を出した[ミネルバ]へ帰還するのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。