機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

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決意の岐路

 [ボギーワン]と呼称された所属不明艦との戦闘は終わり、一旦平穏の時が訪れた。

 [ミネルバ]の受けた被害は甚大で、航行に支障が出るレベルとなってしまった。更には武装の攻撃による強制的な回頭を行ったせいでクルーにも怪我人が発生している。これでは追撃続行とはいかないという判断が下された。

 格納庫のハンガーに機体が固定されたところで、ナイルの[ザク]の回線が開く。相手は[ミネルバ]の艦長であるタリア・グラディスだった。

 

『ご苦労様。それと感謝しているわ』

「いえ、自分も命が掛かっている状況で出来ることをしたまでですので。こちらこそ勝手なことをして申し訳ありません」

『それについては議長から不問にしてくれるとのことで話は付けました。暫くは休んでちょうだい』

「はい」

 

 通信を終えてハッチを開き、機体の外に出る。そのままパイロットアラートで制服に着替えてから部屋を出ると、待っていたかのようにレイがその場にいた。

 

「ありがとう、ナイル。お前が敵機を墜としてくれたおかげで[ミネルバ]を守ることが出来た」

「それはお互い様だろう。あの[メビウス・ゼロ]を想起させるモビルアーマーには驚いたが、上手く凌げてよかったと思うよ」

 

 ナイルとレイのアカデミー時代におけるシミュレーター訓練の個人成績では、レイがやや分のあった。ただ、ナイルがシミュレーター訓練を免除になってから殆ど対戦したことが無いのだが、その時のナイルが使っていた[ザク]の戦闘データを再現したCPUシミュレート戦闘ではレイでも一度すら勝てなかった。

 互いに健闘を称えていると、同じように制服へ着替えたシンとルナマリアが続いて出てきた。

 

「お疲れ、シンとルナ。あの三機相手に生き残っただけでも十分すぎると思う」

「あ、ありがとうナイル」

「……ありがとな」

 

 ナイルの言葉にルナマリアはぎこちなく答え、シンは渋々ながらもちゃんと返した。彼らとしては目の前で[ゲイツR]に乗っていたショーンとデイルが戦死してしまったので、やりきれない思いを抱くのは無理もないだろう。

 出来れば[アーモリーワン]での雪辱を晴らしたいと思っていたのかもしれないが、デブリベルトでの戦闘は有視界だけでは凌げない。

 

「二人の戦死のことは戦闘中に聞いた。悲しいとは思うが、これで[ボギーワン]の連中がこちらに対する“敵”だとハッキリ分かっただけでも良しとしなきゃいけない」

「……割り切りが早いわね」

「『迷ったら死ぬ』と散々母親に叩きこまれたんでな」

 

 ナイルの母親―――レイチェル・ドーキンスはザフトアカデミーで体術やシミュレーター訓練の担当をしている。低身長の見た目に騙されて挑む輩が多く、その悉くを容赦なく叩き潰している。曰く『コーディネイターだからと努力を怠るような輩なんて、戦場に出るだけ人的資源の無駄遣い』とのことで、優しくも厳しい態度で生徒と接する彼女を慕う卒業生は多い。

 

 そして、そんな彼女を親に持つナイルも否応なく鍛え上げられた。その過程で彼女の破天荒さに頭を悩ませて体術をお見舞いすることも増えてしまったが。親子のスキンシップとして些か過激だが、それを平気で受け入れている母親も異常だと思う……ということをアマルフィ家の居候で学んだナイルだった。

 

 そうして四人が艦内を歩く中、話題は先日のデモンストレーションのことに変わった。 

 

「そういえばナイルってさ、先日のデモンストレーションで[セイバー]に乗ってたんでしょ? やっぱり[ザク]とは操縦の感覚も変わったりする?」

「何?」

「えっ!? レイが予想してた通り、あの[セイバー]にはナイルが乗ってたのか!?」

「―――ああ、ルナには先んじて話したが、あの時の[セイバー]を操縦してたのは俺だよ」

 

 やはり伊達にザフトレッドではないのか、レイが見抜いていたという事実に納得しながらもナイルは正直に白状した。あの時のことは別に箝口令が敷かれているわけではないものの、ナイルでも話す相手は選ぶつもりだった。なのでルナマリアには正直に話した。

 興味津々と言った感じで話しかけるルナマリアに対し、レイは理解したように会話を聞く姿勢を見せ、シンに至っては[インパルス]を達磨にされたことで怒るどころか納得する素振りを見せていた。

 

「そういやシン。あの時は容赦なく[インパルス]を達磨にしてすまなかった。怪我は無かったか?」

「あ、うん。けど、多分初見で[セイバー]をあそこまで使いこなしてるのは凄いよ。お前なら[インパルス]もいけるんじゃないか?」

「いけなくはないが、十中八九駆動系がお釈迦になる可能性が高いぞ」

「ナイルがそう発言するということは、お前が乗っていた[セイバー]もそうなっていたということか」

 

 ザフトでも最新鋭機のセカンドステージシリーズを扱わせたら駆動系がお釈迦になる―――そんな事態なんて異常すぎるという他ない。流石に誇張表現が過ぎるようなナイルの発言だが、レイはそれを聞いて納得するような素振りを見せていた。

 

「じゃあ、あの[ザクファントム]はどうなの?」

「アレか……外面こそ[ザクファントム]だが、中身のフレームは全くの別物だよ。何せ、ウィザードを入れての総重量が[フォースインパルス]と大差ないからな。詳細は正直知りたくもない」

「ある意味ワンオフ機じゃないの、それ」

 

 ルナマリアの指摘は真っ当な反応だと思う。けれども、ナイルはあまり深く考えても仕方がないと諦めていた。折角まともに扱えるモビルスーツを受領した以上、それ以外の選択肢なんて考えたくもないのが本音だった。

 

「なんだ、不満でもあるのか?」

「不満と言うか、どちらかといえば不服って感じよ。そんだけ強いんなら、初めからやればよかったじゃない」

「それをやった結果がシミュレーター故障の末の訓練免除なんだがな」

 

 この訓練免除については母レイチェルは参考程度の意見しか述べなかったらしい。

 その辺の事情を聞いた話では、その時点でナイルの反射速度は参考資料として残っている戦闘映像と比較したところ、反射速度では第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦のX10A[フリーダム]やX09A[ジャスティス]に匹敵しており、空間認識能力に至ってはX13A[プロヴィデンス]のデータ以上という結果まで出ていたそうだ。

 流石にどこまで信憑性があるのか不明だったため、ナイルは話半分に聞いていたわけだが。

 

 ただ、総合成績に勘案するかどうかの段階でレイチェルはごねたらしく、最終的な総合成績がギリギリザフトレッドに残る程度の評価で決着した―――というのが、卒業式の日の夕食後に聞かされた話だった。

 

「それに、俺は軍医部門のカリキュラムも受けていたからな。そっちは首席卒業となったけど、当日は運悪く体調を崩したからな。だから卒業式には大事を取って出てないんだ」

「マジか……でも、軍医じゃなくてパイロット志望にしたのか」

「まあな。その理由は流石に話せないが」

 

 絶対に話せるわけがない。その転機がキラ・ヤマト―――[フリーダム]のパイロットと言う事実は。とりわけシンにとってオーブ防衛戦に参戦していた[フリーダム]は因縁のあるモビルスーツなのだ。

 ナイルの意味深な言葉にルナマリアが興味を持ちそうになったところで、一般兵士の制服を着た赤髪のツインテールの少女が駆け寄って来た。

 

「皆、お疲れ様。ナイルもありがとう! 活躍はモニター越しに見てたよ!」

 

 その少女―――ルナマリアの妹で[ミネルバ]のオペレーターを担っているメイリン・ホークがナイルの右手を両手で掴んだまま興奮気味に褒めていた。これにはナイルも笑みを零してメイリンを見やっていた。

 

「ありがとう、メイリン。でも、こればかりは俺だけの活躍じゃなく、強奪機体を食い止めてたシンとルナもそうだし、敵のモビルアーマーをレイが引き付けてくれたから出来たことだから」

「それは分かるけど、やっぱりナイルがちゃんと約束を守ったことが嬉しいの」

「約束?」

「ちゃんと生きて帰ってって言われただけだよ」

 

 ナイルとメイリンの親密そうな雰囲気の中で気になる単語が出て、ルナマリアは姉として気に掛かった質問をナイルは直ぐに答えた。とはいえ、[ミネルバ]所属のパイロットを二人も喪ったのは痛手と言える。被害の状況を見ても、ほぼ痛み分けの恰好で終わったというのが関の山だろう。

 メイリンが少し名残惜しそうにナイルの手を離すと、彼女は思い出したように話し始める。

 

「そういえば、[ミネルバ]が何とか無事に生き残れたのは、ブリッジにいたアスハ代表の護衛の人―――“アスラン・ザラ”が提案した方法だったの」

「アスランって……」

「アスラン・ザラ!? あいつが!?」

 

 メイリンの発言でルナマリアが思い返す様に首を傾げ、シンは驚きを露わにしていた。この状況で驚いていないのはレイとナイルの二人だけだった。

 小惑星に対して生き残ったスラスターと武装による岩盤破砕の衝撃波で緊急回頭を行う―――下手をすれば戦艦が撃沈しかねない危険な方法だが、身動きが取れなくなった[ミネルバ]の姿をレイとナイルは外側から確認しているし、その方法を実践したことで無事に危機を脱した。

 

「だって、議長が言ったのよ、『アスラン・ザラ君』って。それで彼、否定しなかったんだもの。勿論、それだけじゃなかったんだよ!」

 

 アスランの場合、“戦犯”と言える父親の存在に対して、自身は“英雄”と称される行動が大きく知られている。戦後の軍事法廷においてはアスランの存在も議題に挙げられたが、当時の臨時議長であったアイリーン・カナーバの判断によってオーブへの亡命を黙認した。

 犯罪者の息子という一面と、それを払拭するかのような英雄的な一面。相反する面を持つが故に、自身を信じてくれる存在を頼ってオーブへ流れ着いた。

 メイリンが女の子っぽい声で話している中、シンの表情が穏やかでないことにナイルはおろかレイも気付いていたものの、変に会話を遮るのも変だと思ってしばらく様子を見ることとした。

 すると、メイリンの口からこんな言葉が飛び出した。

 

「でもぉ、本当に名前まで変えなきゃいけないものなの?」

 

 彼女の言葉を素朴な疑問と捉えるか、あるいは彼に対する失礼な質問と捉えるべきかはアスラン・ザラの事情をどこまで把握しているかに依ってしまう。

 この四人の中でアスランの事情に精通しているのは間違いなくナイルに他ならない。かと言って会話を割り込ませるのは変な拗れ方を生みかねない。シンの苛立ちも勘案した結果、好きに喋らせておくこととした。

 

「だってあの人、以前(まえ)は……」

「何言ってんのよ、あんたは。いくら昔……」

 

 レクリエーションルームに差し掛かったところで、ホーク姉妹の会話が突如として切れた。

 その理由は至って単純で、そのルームには先客がいたからだ。これにはメイリンがナイルの後ろに隠れてしまった先客の正体は、ベンチに一人腰掛けていた藍色の髪を持つ青年―――アスラン・ザラがナイルたちに視線を向けていたからだ。

 彼らの中で一番先に歩み出たのはルナマリアで、先程の言葉を呑み込んだ上で挑戦的な笑みを向けていた。

 

「へえ……丁度貴方の話をしていたところだったんです、“アスラン・ザラ”」

(いや、なんでそこで喧嘩を売る常套句なんだよ……)

 

 ルナマリアの言葉に対してナイルは冷や汗を流した。

 確かにアカデミー出身者であれば、否応にも歴代優秀成績者兼首席卒業であるアスラン・ザラの名は聞くことになってしまうので、その当人がいるとなれば興味が湧かないはずがない。

 しかも、先の大戦では[イージス]で連合の[ストライク]を討ち、当時最新鋭機だった[ジャスティス]を駆ってラクス・クラインやカガリ・ユラ・アスハらと共に戦争終結へ導いた功績を有する人間。

 

 だが、その一方で父パトリック・ザラの一件によって苦悩するという側面を持ち合わせており、残念なことにその部分や彼が先の大戦で味わった苦しみは表に出されなかった。寧ろ出せるはずがないのだ。連合の[ストライク]を動かしていたのがオーブ出身のコーディネイターであり、それがアスランにとって兄弟同然の間柄だった幼馴染ならば尚更。

 

「まさかというか、やっぱりというか。伝説のエースにこうしてお会いできるなんて、光栄です」

 

 白々しくもそう言ってのけたルナマリアを見ながら、ナイルは昔を思い返していた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 フリーダム強奪が明るみとなった後、ナイルはアスランと会う機会があった。ニコル・アマルフィの父親であるユーリ・アマルフィの気遣いという形で、プラントのとある高級ホテル上階にあるレストランで、ナイルはアスランと久しぶりに会った。

 

「アスラン、無事……とは言い難い表情だな。その様子だと、彼女にも会ったみたいだな」

「……」

「安心してくれ。このホテルはクライン派の息が掛かってる。無論、表向きはうちの母が所有しているホテルだが」

 

 母が色んな仕事をしていたとしても、ナイルは特に驚かなかった。物心ついた当初は驚きまくったが、今となっては母親の愛情をきちんと感じられるので特に何も言わなかった。驚き疲れたという表現が妥当なのかもしれないが。

 そんな事情はともかくとして、ウェイターにお願いをして料理を運んでもらうように頼んだ。次々と料理が運ばれて食していく中、アスランが重い口を開いた。

 

「お前の言う通り、彼女に会った。ハッキリと『貴方は一体何を望んで戦っていらっしゃるのですか、ザフトのアスラン・ザラ』と言われたよ。それで、ナイル。キラのことは……その……」

「生きてるよ。マルキオ導師がクライン邸に彼を連れて来たんだ。かなりの怪我だったが、元気になってプラントを離れた。ラクスが託した[フリーダム]を駆って」

 

 盗聴などと言った対策はきちんと講じられており、ナイルはアスランの問いかけに対して隠すことなくハッキリと告げた。その上で、ナイルはアスランに問いかけた。

 

「アスラン。この際だから確認しておきたいことだが、彼―――キラ・ヤマトが連合の[ストライク]のパイロットだった。そして、お前はそれを認識した上で戦い続けてた……どうだ?」

「……ああ、それは事実だ。全く、ラクスのように見透かされてしまうな」

 

 アスランは何かを迷いつつ、それでも何か答えを見つけようと足掻いているのが見て取れた。だからこそ、ナイルはアスランに対してこう告げる。

 

「アスラン。彼は戦う道を決めたし、ラクスも自らの覚悟を固めた。きっと、ラクスならお前に対してそのことはとうに告げているだろうと思う」

 

―――貴方が信じるものは何ですか? 頂いた勲章ですか? お父様の命令ですか? もしそうであるのならば、キラは再び貴方の敵となるでしょう。そして、私も……敵だというのなら、私を討ちますか? ()()()()()()()()()()()

 

 ナイルの言葉でアスランの脳裏に過るラクスの強い決意。そのことでアスランが表情を曇らせたところで、ナイルはゆっくりと立ち上がった。

 

「俺はこの戦争が終わった後、自分なりの道を歩く。だから、お前も悩んで答えを見つける必要があるんだ。何とどう戦わなきゃいけないのかを」

「何とどう戦うのか……」

「お前が手に取る“正義”の剣。誰の為のものなのか、それで何を成すべきなのか。他の誰でもないアスラン・ザラ個人としての選択をしろ」

 

 アスランを残してナイルはその場を去る。

 ナイルの表情は決意に満ちていた。この戦争を見届けた後、これから自分がなすべきことの為に、自らの選択をする決意を。

 アスランは[ジャスティス]を駆り、再び戦場に舞い戻る。問いかけられたものに納得出来る自分なりの答えを探すために。

 

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