機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

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無責任の責任

 時は誰に対しても、何に対しても平等に進む。人として生きる中で、どのような経験をしたとしても、無慈悲に過ぎていく。その過程で憎しみや怒り、悲しみを抱いたとしても、返せる相手が居なければ何も出来やしない。

 

 それが行き過ぎた時、人は一部を含むすべてを恨むこともある。関係がない人間からすれば、余りにも身勝手で理不尽すぎる理由。だが、それを押し通そうとしてしまうのがいるのも人間の性なのかもしれない。

 

 ナスカ級高速戦艦[ボルテール]。ジュール隊の所属艦として活動しているわけだが、[アーモリーワン]の無事だった宇宙港で出港準備をしている中、イザークの許に最高評議会から緊急暗号メールが送付された。

 メールの内容を見たイザークは驚愕し、直ちにブリーフィングルームへ所属パイロットを集めた。いつになく真剣な表情を見せている指揮官の姿に、パイロットたちも表情を強張らせる。

 

「緊急事態の発生だ。本国の監視衛星の報告では[ユニウステン]の残骸が周回軌道コースを外れて、地球へ向かっているとのこと。本艦は[メンデル]に対する任務が取り止めとなり、搭載した[メテオブレイカー]を以て残骸破砕作業に当たる。我が隊が指揮を執り、同型艦の[ルソー]が随伴する。発進予定は3時間後だ。各員、直ちに準備に掛かれ」

『ハッ!!』

 

 イザークの説明は基本的な事務連絡に止められたが、自分たちが住むプラントの残骸が地球に落下すれば残酷な結果が待ち受けているのは誰しもが理解していた。パイロットたちが立ち上がって敬礼をした後、ブリーフィングルームを早足で出ていく者が多い中、イザークは目配せでディアッカとシホを見ていた。

 二人はイザークの意図を理解したのか、目礼で返した後、指揮官室に出向くと先に到着していたイザークが出迎えた。扉が閉まった後、イザークが深い溜息を吐いた。

 

「全く、[アーモリーワン]の件が収まっていないところでこれとはな。幸か不幸かと言うべきなのかはさて置くとしてもだ。二人とも、[ユニウステン]の落下が自然的な影響だと思うか?」

「……そう述べるということは、イザークは何かしらの作為を感じてるのか?」

「ああ、少なからずナイルがこの場にいれば、その可能性を示唆するだろうと思っている」

 

 これが自然的な要因ならば、多少なりともブレが生じる。だが、メールで送られてきた落下コースの軌道が余りにも人為的と思えるような推進力が働いている軌跡を描いているのだ。仮にナイルへ意見を求めた時、間違いなく人為的な要素を疑うだろうとイザークは結論付けた。

 それを聞いたシホはイザークに問いかける。

 

「では、[ユニウステン]を落とすことで利を得るとなりますと、まさか旧ザラ派のシンパの可能性も?」

「無論、ブルーコスモスの線も捨てきれないだろう。話を戻すが、万が一を考えて[ユニウステン]に敵がいる想定で動く。近隣の戦艦にも増援を頼むよう打診した。幸か不幸か、[ミネルバ]も近くにいるとのことだ」

 

 自然的な要素ならば破砕作業のみに集中できる。だが、これ幸いと妨害をして来る連中も出てくる可能性も捨てきれない。イザークは使える戦力ならばこの際文句など言っていられない思いで軍司令部へ打診した。

 そして、[ミネルバ]が破砕作業に協力してくれるならば、陽電子砲による破砕も期待できるし、あの艦には“彼”もいる。ジュール隊との連携でも彼は要として活躍してくれる、とイザークは睨んでいた。

 

「なので、最初から俺も出る。[ボルテール]の守りを固めつつ、[ルソー]や[ミネルバ]と連携を取る。どうにも不気味すぎて、何もなければ御の字と言いたいぐらいだ」

「イザーク……確かに、肩透かしで終われば丁度いい位か」

 

 残骸とはいえ、巨大な質量を持つプラント本体が落下すれば、地球は壊滅的なダメージを免れない。そんなものが動いている時点で、最早ただ事でないのは事実。単純な作業に終わってくれさえすれば、落下被害の逓減にも繋がる。

 イザークの言葉に、ディアッカもいつものような軽い口調ではなく真剣さが伝わる言葉を口にしたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 [ユニウステン]の落下については[ミネルバ]のクルーにも伝わっていた。この艦においては部外者であるナイルにも事情が知らされていた。異変に気付いたのは当直のバートだったが、それと前後してプラント最高評議会からデュランダル宛の通信で事の次第が判明した。

 

「―――けど、何であれが!?」

「隕石でも当たったか、何かの影響で軌道がずれたか……」

 

 ヴィーノが驚き、ヨウランも推測を述べるほどにレクリエーションルームでは[ユニウステン]の話題で持ちきりだった。これにはシンも驚きを口にしていた。

 

「地球への衝突コースって……本当なのか?」

「うん、バートさんがそうだって。ナイルはどう思う?」

「原因はどうあれ、地球に迫っているのならば方法は一つ―――あの残骸を大気圏で燃え尽きるレベルにまで砕くしかない」

 

 正直、自然的な要因で軌道が大幅にずれたとは思えない。何らかの衝撃で戻せる状態に無いとなれば、何らかの推進力を与えて残骸を地球に落下させるよう仕向けているのだろう。プラントの地下には発電所が備わっているのだが、それを何らかの形で復旧させたとなれば、筋は通る。

 

「砕くって……残骸とはいえ、最長8キロもあるんだぜ?」

「でも、やるしか他に道がない。あんなものが丸々地球に落ちたら、その被害は計り知れないものになる」

「そうだな。生きとし生けるもの全てが残らなくなるだろうな」

 

 ヴィーノの叫びに対し、ナイルとレイが淡々と事実を突きつける。これには軽口を叩いていた者ですら噤んでしまっていた。

 直径1キロ程度の小惑星が衝突した場合でも核爆弾二千個分のエネルギーが生じる。無論、単純な倍数計算ではないにせよ、核爆弾五桁分のエネルギーが生じる可能性は極めて高い。それが地球に対して働けば、人類滅亡という最悪のシナリオも現実味を帯びることとなる。

 

「んー、でも、それはそれでしょうがないっちゃしょうがないんじゃねえのってえっ!?」

 

 ヨウランが場の雰囲気を変えようとして言い放ったところで、鈍い音が響き渡る。周囲の人間がヨウランに対して目線を向けると、いつの間にか彼の背後には拳を握ったナイルがいた。この光景でナイルがヨウランに対して拳骨を落としたことが見て取れた。

 

「仕方がないですむか馬鹿。仮に地球に甚大な影響が出れば、プラント本国にだって影響が出るのは自明の理だろうが」

「でも、被害を受けるのは地球であって、宇宙にあるプラントからしたら、変なごたごたも」

「無くなるって本気で思ってるのか? 下手すりゃまた戦争になりかねん事態なんだぞ」

 

 戦争という言葉に一同は騒然とする。だが、ナイルは身近な人間を通す形で先の大戦を見続けてきた。仮に[ユニウステン]の破砕が成功したとしても、地球に住む“彼ら”は糾弾するだろう。

 

『宇宙の化物たちが遺した残骸が、我々の生命を脅かした! 故に、我々はコーディネイターを排除する! 青き清浄なる世界の為に!』

 

 自然的な要因であったとしても、プラントの残骸が宇宙から地球に接近しているという事実だけでプラントの責任を問うのは酷かもしれない。だが、それを平気でやってのけてしまう輩が存在する以上、プラントも無関係とは言えなくなる。

 それに、地球へ被害を及ぼすというのは単純な問題ではない。ザフトにとっても危機的状況と言えてしまうからだ。

 

「それに、地球にはザフトの基地もあるし、地球に住むコーディネイターだっている。彼らを見捨ててもいいだなんて話にはならんだろう……俺の言っていることは間違ってるか?」

「いや、そうだったな……ありがとう、ナイル。お陰で頭が冷えたよ」

 

 ヨウランとしては鬱屈とした状況を変えたいと思ったのだろうが、心許ない発言をしようとしたところでナイルが窘めた。彼の言い分には理屈が通っていたため、ヨウランは謝罪と感謝を込めての言葉を口にして頭を下げた。

 ナイルはレクルームの外にいる存在に気付きつつも話を続ける。

 

「幸か不幸か、[ミネルバ]は[ユニウステン]の軌道ルートに近い。最悪陽電子砲で破片を砕く方法も取る必要があるかも知れない」

「つまり、あたしらで破砕作業の支援をするってこと? [アーモリーワン]の件も片付いていないのに、次から次へとトラブルって聞いてないわよー!」

 

 ルナマリアがぼやきたくなる気持ちも分かるが、徒に命を奪うよりは遥かにマシだろう。ただ、それは[ユニウステン]が自然的な要因で落下している場合の話。もしそうでなかった場合を想定した時、もしかすると取り逃がした[ボギーワン]が乱入してくる可能性も捨てきれない。

 ナイルが考え込んでいると、メイリンが心配そうにナイルの顔を覗き込んでいた。

 

「ナイル? 何だか難しい顔をしてるけど、何か懸念でもあるの?」

「ん? ああ、[ユニウステン]のことでちょっとな。さて、俺は[ザク]の調整でもして来るよ」

 

 ナイルはそう断ってレクルームを出た所、部屋に戻っていくカガリとアスランの姿が目に入った。それを少し見届けた後で、ナイルが向かったのは格納庫(ハンガー)だった。

 

「……あの場では流石に言えんわな」

 

 ナイルは、[ユニウステン]の落下要因が十中八九人為的な要因であると睨んでいた。

 [ユニウステン]は今後百年単位で安定周期にあった。それは科学的なデータから証明されていたのだ。ラグランジュポイントに存在するコロニーが隕石で簡単に変わるようならば、それこそ宇宙に浮かぶデブリや残骸でいくつものコロニーが地球に落ちかねない。だが、実際にはそういった現象が起きていないため、人為的な軌道変更の線が最も強いと考えている。

 そして、被疑者が[ユニウステン]を落とせるだけの装備や装置を保有している可能性も極めて高い、ということにも繋がってくる。

 

「惨劇の墓標を地球に落とすとか、正気の沙汰じゃないが」

 

 しかし、現実に起きてしまっている以上は阻止しなければならないし、今回の事件の実行犯は恐らく[ユニウステン]に留まり続けているだろう。あれだけ大規模の構造物を落とす輩がいる以上、命知らずのテロリストと大差ないと思っていいのかもしれない。

 

 こうして[ミネルバ]にいる自分だが、[ボルテール]が来ればジュール隊に復帰してそのままさよならとなるだろう。軍の指揮系統を考えれば仕方のないことだと割り切るしかない。

 寂しいという気持ちはあるが、個人的な心情に慮ってもらえるほど軍は容易に出来ていない。ましてや、シンたちは本当の意味で戦争を知らない。軍人である以上は知ることになるかも知れないが、果たして耐えられるのだろうか、と思う。

 

 ナイルは先んじてパイロットスーツに着替え、[ザクファントム]のコクピットに乗り込む。[ユニウステン]との距離はまだあるが、ナイルの想定する最悪の事態を鑑みた場合、手持ちの武装で何とかしなければならない。

 そう思いながらナイルは瞼を閉じてシートに身を預けていた。彼が再び意識を取り戻したのは、メイリンのアナウンスが聞こえたときだった。

 

『モビルスーツ発進三分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す。発進三分前、各パイロットは―――』

 

 まだ閉じていなかったハッチを操作しようと思ったところで、見覚えのある横顔が赤のパイロットスーツを着て目の前を通り過ぎていった。ナイルはそれがアスランなのだと分かった時は、流石に微妙な表情を浮かべていた。

 カガリの私設護衛ならば、何時でも迎えの艦に乗り換えられるよう努めるべきではないのだろうか、と思う。流石にモビルスーツの操縦など論外すぎるが、発進準備が掛かっている以上は仕方がないと諦めた。

 大方、アスランへの機体貸与を認めた人間の正体は解っている。というか、その当該人物しかありえない。そもそもカガリに説明をしたのかすらも怪しいわけで、それでよく私設護衛なんてやってるのだと呆れ気味だった。

 

(だがまあ、アスランが出てくれるならば対処はしやすくなる)

『―――発進停止! 状況変化! [ユニウステン]にてジュール隊が不明機(アンノウン)と交戦中! 各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を換装してください!』

『更に[ボギーワン]確認! グリーン25デルタ!』

 

 ナイルがそう考えていたところに、メイリンのアナウンスとブリッジからの報告で一気に緊迫する。味方と不明機が交戦しているところに強奪機体まで出てくる―――アスランがメイリンに対して状況の説明を求めていたが、ここにいてもよく分からないのは確かだった。

 なので、ナイルはアスランに対して通信を繋げると、こう告げた。

 

「―――アスラン。カガリを置き去り同然にした件は“あいつら”に伝えるからな」

『……許してくれ』

 

 アスランからは諦めにも似た声が漏れたものの、責められるのが嫌ならば職務を全うしろ、と釘を刺してアスランとの通信を切った。すると、今度はブリッジにいるメイリンが通信を繋いできた。

 

『ナイル……その、今回の任務が終わったら、暫く会えなくなっちゃうね』

「……寂しかったらメールでも送れよ。話し相手になってやるから」

『うん。気を付けてね』

 

 アスランの乗る機体とは反対側のカタパルトに移動する[エールザクファントム]。他のザクとは異なり、ウィザードを付けた状態のままリニアカタパルトに固定される。発進シークエンスを示したモニターが“発進許可(LAUNCH)”を表示し、ナイルはモニター越しに見える宇宙を見据える。

 

「ナイル・ドーキンス。ザク、いくぞ!」

 

 リニアカタパルトで加速した[エールザクファントム]は一気に加速して、落下しつつあるユニウステンへ急行する。戦闘しているのは[ゲイツR]と独自のカラーリングを持つ[ザク]、そして黒を基調とした[ジン]。

 更には[カオス]、[アビス]、[ガイア]の三機までいる。この状況で相手を殺さずに放置して破砕作業を邪魔されるのは困る。そう結論付けたナイルはペダルを踏みこみ、一気に加速する。

 

 急な加速で切迫する[ザク]に[ジン]はライフルを構えるが、[ザク]は最低限の動きで放たれたビームを躱す。そして、切迫した瞬間に腰の重斬刀を奪いながらコクピットをビームガトリングで容赦なく銃撃する。

 更に、その爆風を隠れ蓑としてビームブーメランを投擲し、他の[ジン]を容赦なく落としていく。これには[ジン]を駆るパイロットが激昂する。

 

「貴様ぁっ!! 我らの想いを邪魔するか!!」

「―――知るか馬鹿。同朋の墓を持ち出して、大勢の人間に迷惑を掛ける方が異常だわ」

 

 別に通信を双方で繋いでいるわけではなく、互いの独り言が会話として成り立っているような状態であるという事実を知る暇もなく、ナイルの[ザク]は変則機動で[ジン]に切迫し、奪った斬機刀を容赦なく[ジン]のコクピットに突き刺した。そこに追い打ちを掛ける形で戻ってくるビームブーメランが動力部を斬り裂き、[ジン]は爆散した。

 ナイルはそれに対して感傷に浸る暇もなく、ビームブーメランを回収して[ユニウステン]へと翻したのだった。

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