機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~ 作:那珂之川
攻撃してくる[ジン]に対して思うことはなく、完全に“敵”だと割り切って撃墜していくナイルの[ザク]。[メテオブレイカー]で作業している[ゲイツR]を守る形で敵の射線に入ると、シールドを構えながら急加速する。当然[ジン]は横に逸れようとするのだが、アンビデクストラス・ビームアックスを持った状態のままスラスターだけで横回転を繰り出し、回避しようとした[ジン]を上下に切断した。
そうしてモニターには見覚えのある指揮官―――イザーク・ジュールの姿が映っていた。
『どうやら無事なようだな、ナイル』
「隊長、事情は既に把握しております。あと、民間の協力員としてアスラン・ザラも出撃していますのでご承知おきを」
『はあっ!? ……まあ、いい』
[メテオブレイカー]を運ぶディアッカ機を守る形でイザーク機とナイル機、そしてアスラン機と並ぶ。この四人の関係が友人だという事実は素性を深く知る人間でないと知り得ない事実。
『相変わらずだな、イザーク。ナイルに迷惑を掛けてないか?』
『貴様と一緒にするなっ!』
『やれやれ……ナイルも大変だな』
「それはディアッカも一緒だろうに」
その四機に対して改造[ジン]が三機突撃してくる。
ナイル機が先行してビームブーメランとビームガトリングで三機の足並みを崩し、ディアッカ機がそのうちの一機を遠距離砲撃で撃ち落として爆散させる。残る二機に対してもアスラン機とイザーク機が対処することで、一機は爆散してもう一機は片腕を落とされた。
残った一機に対しては容赦なくナイル機が切迫し、爆散する寸前で[ジン]の腰に佩いた斬機刀を鞘ごと奪って瞬時に離脱する。その上で、接近してくる[アビス]と[カオス]にセンサーが反応する前から接近を感じ取っていた。
「―――[カオス]と[ガイア]が来ます!」
『イザーク!』
『貴様に言われんでも分かってる! 指図するな、民間人がっ!!』
ナイルの言葉を合図に三機が散開し、各々射線を掻い潜る。「アビス」の対処をイザークとアスランに任せて、ナイルは[カオス]に切迫する。宇宙空間では驚異の無線誘導兵装を有する[カオス]だが、先に誰かと交戦したせいでポッドを両方喪失していた。
そんな事情などお構いなしにビームトマホークを二本投げつけて突撃する。[カオス]は回避するが、その背後にあるデブリにビームトマホークが刺さる。そしてナイルは片方を投げつけつつ、ビームブーメランを明後日の方向へ投げつけ、ビームガトリングで[カオス]を牽制する。
ビームガトリングを躱し、追撃してくるビームトマホークもシールドで凌いだ[カオス]だったが、そこに容赦なく襲い掛かる戻り際のビームブーメランによって、両足を持っていかれた。スティングが『やられる……!!』と内心で思ったのも束の間、[ザク]はデブリに刺さったままのビームトマホークを回収して、気に留めることなく離脱する。
「……ちくしょうがっ!!」
ナイルからすれば、ユニウステンの破砕作業を進めるのが先。そんな事情であると露知らず、コンソールに拳を叩きつけて悔しさを滲ませたスティングだったが、[ガーティ・ルー]からの帰還信号で自身の怒りを堪えながら母艦へと本体のスラスターで離脱するのであった。
[ミネルバ]と[ボルテール]からの帰還信号で、限界高度が近付きつつあると認識したナイル。多少の邪魔こそ入ったが、破片のサイズは1キロを下回る程度にまで細分化出来た。信号が出ている以上は帰還せねばならないと思った時、ナイルの脳裏に嫌な予感が走った。
(何だ……ユニウステンにまだ何かいる?)
モニターを凝視すると、[ザクウォーリア]と[インパルス]が確認出来た。どうやらせめて未起動の[メテオブレイカー]を起動させようとしているのだろう。そして、そこに近付こうとしている三機の[ジン]も確認できた。
ナイルが少し逡巡していると、ディアッカの[ガナーザクウォーリア]が近付く。
『ナイル、もう限界だ。俺たちも離脱しないとマズい』
「……すまない、ディアッカ。あのバカどもを放っておいて野垂れ死にさせるのは性に合わんようだ。隊長には『命令を聞かない問題児ですまない』と言っておいてくれ」
『ナイル……死ぬなよ?』
「ああ」
ディアッカかモニターで何が起きているのかを察し、諦めたように離れていく。そして、ナイルは静かに瞳を閉じた。そうして脳裏で何かが弾けた瞬間、視界だけでなく思考も全て鮮明に見えてくる。まるで機体が自分の手足のように動くような感覚を感じながら、ナイルの[ザク]はスラスターを吹かして二機の許へと急行する。
そうして近付いていく[ザク]の通信には、[ジン]から発せられていると思しき通信が聞こえてくる。
『―――ここで無残に散った命の嘆き忘れ……! 撃った者らと、何故偽りの世界で笑うか、貴様らはっ!!』
彼らはユニウステンで家族や恋人を亡くした元ザフトのパイロット―――それが瞬時に理解できた。だからこそ、亡くなった人の思いを代弁するかのようにユニウステン落下を敢行した。言葉だけを聞けば、それは確かに正当性が伴うように聞こえるだろう。
『何故気付かぬか! 我らコーディネイターにとって、最後の最後で腑抜けてしまったパトリック・ザラが降伏の直前まで取っていた行動こそ唯一正しきものと!!』
だからと言って、彼らは”神”でもなければ、その代理人でもない。故に彼らの行動を正当化する理由があろうとも、その正気を保障する根拠はない。しゃにむにに撃ち込む[ジン]に対し、隙を見せてしまったアスランの[ザク]に斬機刀が振り下ろされようとしたとき、背後から[ジン]のコクピットを貫く斬機刀で[ジン]は完全に動きを止めた。
アスランが見た光景は、背後から[ジン]を貫いたナイルの[ザク]だった。
『ナイル……』
「ふざけるな。てめえらの身勝手で憎しみを増やして、またあんな凄惨を味わえというのか。だったら、せめて同じ場所で眠って、てめえらの家族に詫びて来い」
ナイルは斬機刀を手放した上で[ジン]を[メテオブレイカー]目掛けて蹴り飛ばした。[メテオブレイカー]は衝突・爆散した[ジン]によって起動し、地中に埋め込まれて起爆。更に細分化した破片を見届けつつも、ナイルはアスラン機と[インパルス]に通信を繋げた。
「二人とも、こうなった以上は艦に戻るのすら厳しい。丁度良く大きい破片があるから、コイツを盾にしつつ地球に降下する!」
『あ、ああ!』
『そうだな!』
[ミネルバ]の降下コースは助けに入る前の時点で想定済み。その想定外の動きによって[ミネルバ]の陽電子砲に巻き込まれるリスクはあるが、下手に動いて危険を晒す方がもっと怖い。ましてや、アスランの[ブレイズザクウォーリア]は大気圏内での飛行能力を有していないため、確実に[インパルス]と[エールザクファントム]で支える必要がある。
三機は[ミネルバ]の射線から外れる破片に着地し、その破片をシールド代わりとして大気圏内に突入する。流石にこんな危機的状況でもない限りは大気圏突入など考えたくもない。破片は大気圏の途中で燃え尽き、三機は各々シールドで防御しながら大気圏内に入る。大気圏内飛行能力を持つ[インパルス]と[エールザクファントム]で[ブレイズザクウォーリア]を支え、何とか落下速度は抑えることが出来た。
その十数秒後、空に光る信号弾。それが[ミネルバ]のものだと判断した三機は近付き、[ブレイズザクウォーリア]を甲板に降ろす形で[インパルス]と[エールザクファントム]は着地した。
すると、[インパルス]のシンから通信が入った。
『全く、ジュール隊のお前も無茶し過ぎだよ』
「それはシンに最も言われたくない台詞なんだがな」
互いに軽口を叩きつつも、[ブレイズザクウォーリア]を引き込む形で開かれたハッチに入っていく。格納庫に機体が固定されてからタラップで降り立った後、やや乱暴にメットを脱いだナイルが見たのは、アスランの姿を見て安堵するカガリの姿だった。
そんな安堵も、艦を襲う衝撃―――破片落下による最初の衝撃波によって一同の表情が曇ったのは言うまでもない。
[ミネルバ]はこの間にも落下し、クルーはシートに座って着水の衝撃に耐える。まるで地面をえぐっているような硬い感覚で水面を滑っていく。そうして暫くした後、アーサーの声がスピーカーから流れる。
『着水完了、警報解除。現在、全区画浸水は認められないが、今後も警戒を要する。ダメージコントロール要員は下部区画へ』
そのアナウンスが終わった後、ナイルは他のクルーたちがいる場所とは別の甲板にいた。
ユニウステンは、ナイルにとっても因縁のある場所。自身の母親が必死に止めたお陰でユニウスセブンは核の炎を逃れた。だが、その代償を支払う形でユニウステンは核ミサイルの攻撃を受けて崩壊した。無論、当時はただの一般市民だったナイルにどうこう出来る資格などある筈もない。
もし、母親が核の炎に巻き込まれていたとしたら……自分は間違いなく戦いの道を選択していたかも知れない。けど、それは自分がこれまで会ってきた人にも会わない世界でもある。過ぎてしまった過去はどう足掻いても取り戻せないのだから。
けれども、悲劇は起きてしまった。当初の想定よりは遥かにマシとなったレベルだが、それでも被害は完全には防げなかった。自責の念に駆られたい想いはあるが、そうしても何かが出来る訳ではない。
向こうの方からシンが怒鳴っている声は聞こえるものの、何かを言いたい気分ではなかった。すると、突然視界が遮られた。こんなことをする人間の存在には気付いていたが、敢えて知らない振りをしていての行動に溜息をつきつつも、ナイルは呟く。
「それで、何か御用ですか? [ミネルバ]新進気鋭のオペレーター、メイリン・ホークさんや」
「それはこっちのセリフ! これでお別れかと思ったら、二機と一緒にいる白い[ザク]を見てビックリしたんだよ! 出撃前に流した私の涙を返してほしいんだけど!」
「その文句はシンとアスラン・ザラに言ってくれ。あいつらが無茶したせいでこっちがフォローする羽目になったんだから」
ナイルが振り返った先には不満げな表情を浮かべるメイリンがいた。確かに、ナイルの所属を考えればあの場で別れる予定だったのだ。アスランのことはメイリンに話したが、誰が聞いているのかも分からない状況で言葉を崩すわけにもいかず、年相応の対応に止めた。
「出来ることはした。だが、それでも被害は出てしまった。大変なのはこれからだと思うよ。それが地球にせよ、宇宙にせよ」
「それって、私たちも?」
「可能性は高いと思う」
もし[ミネルバ]が[アークエンジェル]と同じ数奇の運命を辿るならば、強奪された[カオス]、[アビス]、[ガイア]を含めた三機の部隊は必ず追いかけてくるだろう。明らかに非効率なやり方だが、かといって地球軍側も放置など出来ない。
何せ、ザフトの旗頭になりかねない最新鋭艦。しかも宇宙で仕留めきれなかったとなれば、地球でも同じことはしてくる可能性が高いだろう。それに、何故だか敵の指揮官がそうしそうな気がしたからだ。
「何にせよ、これでカーペンタリアまでは同行することになった訳だな。流石にこれ以上の暴挙を向こうが仕掛けるとは思いたくないが、俺が[ミネルバ]に関わるのはそこまでだ」
「そっかぁ……ナイルは寂しいと思わないの?」
「個人的にそう思っても、軍人的には命の危機が掛かっている状況で泣き言なんて言えねえよ」
だが、自身が関われるのは長くてもカーペンタリア基地まで。ジュール隊への復帰の為に宇宙へ上がる確率の方が高いだろう。それ以降はシンたちで何とか頑張ってほしいと切に願う。すると、メイリンが何かを思いついたようにおねだりをしてきた。
「だったら、射撃訓練に付き合ってよ。お姉ちゃんから聞いてるんだからね、射撃の腕の精度で言えばナイルが同期の中で一番上だって」
「ルナの奴……」
アカデミー時代はそれなりにしつつも手を抜くところは手を抜いていた。射撃訓練については色々言われるのが面倒だったため、ターゲットの基準ラインから1センチ前後に狙いを定めて得点が加算されないようにしていた。
最初は担当教官に叱られたこともあったが、数回ほどで完全に鳴りを潜めていた。母親のレイチェルから聞いた話だが、担当教官がナイルの射撃のどこに問題があるのかをビデオでチェックした際、ナイルがやっていたことの異常性を感じ取ってしまったそうだ。
しかも、担当教官はナイルのことについて他のパイロット候補生から聞き取りを実施していた。更には、ナイルが秘かに練習していたところをルナマリアがこっそり見たことがあったようで、その話がメイリンに伝わったようだった。
「まあ、いいよ。訓練規定をこなすのも大事だからな」
「やったっ。じゃあ、お姉ちゃんたちにも声を掛けて来るね!」
嬉しそうに言いながら、その場を離れていくメイリン。ナイルはふと、艦の外に広がる海を見つめた。心なしか感じてしまう“悪意”のようなものに対して眉を顰めた。まるで、この先に待つものが何なのかを肌で感じ取れてしまうぐらいに。
その感覚が現実にならないことを祈りつつ、ナイルも甲板を後にしたのだった。
メイリンの声掛けによって射撃訓練をすることになったのはナイル、シン、ルナマリア、レイ、そしてメイリンのアカデミー同期メンバー五人。制式拳銃で標的を狙い撃つのだが、ここでもナイルは奇抜な狙い方を披露していた。
狙った箇所はターゲットの肩のライン。しかも左右ランダムのライン上を狙う形にしていた。普通ならそういうやり方をしている方が異質なのだが、これもナイルなりのトレーニングだった。
敵を倒すだけ―――それこそ敵機の爆発とかを考えずにしていいのならば、ターゲットの中心を狙うだけで片が付く。だが、実際は動力炉などを考慮して自機への被害を抑える方法を採用することもあるし、バッテリー機ともなれば、エネルギーの節約を考慮して敵機を戦闘不能状態に止める必要だってある。
そして、こんな訓練方法を採用しているナイル自身、[フリーダム]で必要以上の殺傷を避けたキラに対するリスペクトの意味合いも含まれている。
対人戦の場合、相手が人質を取っているパターンだって当然発生する。中心ばかり狙っては人質を殺す可能性も出てくるだろう。敢えて掠めることで人質の動きを鈍らせ、敵の動向や判断を鈍らせる―――虚を突くやり方も軍人としては必要になる。
勿論、こんなやり方をしてると同じく訓練しているルナマリアから非難が飛んでいた。
「ちょっと! まるで曲芸みたいなことをしてるんじゃないわよ! レイも思わず見入っちゃってるじゃない!!」
「俺のことは気にするな、ルナマリア。ナイルの射撃は別の意味で感心に値するからな」
「レイ、そんな言い方だと怒っているあたしが悪者みたいじゃない! いいから、次は真面目に……あら」
レイの言葉で話の腰を折られかけたルナマリアだったが、そこで彼女の興味はナイルから別の人物に移っていた。それは、訓練の様子を壁に寄りかかりながら見ているアスランの姿がそこにあったからだ。
「訓練規定か」
「ええ、そうですよ。でも、調子が悪いというか、狂うわ。それもこれもナイルのせいよ!」
「アイツみたく俺のせいにするんじゃない。ここでバスバス中心を連発したらしたで、お前は絶対文句を言うだろうが。そんな意地の悪いことなんて出来ねえよ」
「ははは……(二コルも、こんな感じで俺やイザークを良く諫めていたな)」
彼らの風景を見ていると、アカデミー時代の時に自分らを諫めていた亡き友人の姿が脳裏に浮かび、苦笑を漏らしたアスランだった。