機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

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戦いの先に見つめるもの

―――この世界には二つの人種がいる。

 

―――何の調整を受けることなく自然に出生した[ナチュラル]。

 

―――そして、遺伝子調整を受けることで優れた身体能力を獲得した[コーディネイター]。

 

 この世界で初めてコーディネイターであることを明かした人物の名はジョージ・グレン。彼は木星探査へ赴く際に自らの出生を明かすと共に、コーディネイト技術を世界に向けて発信した。

 彼は自らを『調整者』として呼称し、いずれ来るであろう地球外生命体との懸け橋……地球に住む人々が外へ目を向けてもらうための希望を持って、その技術を世に出した。 

 

 世の中に出された技術は人の意思によって善意にも悪意にもなり得てしまう。ジョージ・グレンはあくまで善意を以ての運用を期待していたが、実際の現実は善意のみならず悪意までも生み出した。

 更に立ちはだかるのは、遺伝子調整による倫理・道徳の価値観の相違や、コーディネイトされた子どもの能力による差別意識の増大。最初は小さな歪みだったが、それが次第に膨れ上がり……その果てに起きたのはナチュラルとコーディネイターの対立。

 

 それも、単なる競争原理からくるものに止まらず、ナチュラルはコーディネイターに対する劣等感を抱き、コーディネイターはナチュラルに対する優越感を抱くものまで現れてしまう。

 憎しみや妬み、怒りが臨界点を超えた双方が繰り広げたのは、殺害の応酬。一度引き金を引けば止まらない悪意の連鎖。そして、個人単位の殺害は次第にエスカレートしていった。

 

―――コズミック・イラ(C.E.)70年2月14日。

 

 後に『血のバレンタイン』と呼ばれる地球連合軍の核ミサイル攻撃によって、プラントの農業用コロニーの一つであったユニウステンが崩壊。この事件を皮切りとして、北アメリカ大陸を本拠地とする大西洋連邦とユーラシア北部・西部を有するユーラシア連邦を主軸とする地球連合軍とL5(ラグランジュポイント・ファイブ、エル・ファイブと呼称)のコロニー群を本拠地とするプラントが本格的な武力衝突へと発展。

 膨大な人口と物量で勝る地球軍に対し、プラントは『ザフト』を軍隊として組織。人型モビルスーツ[ジン]を主軸とした新兵器、核攻撃を封じるためのニュートロンジャマ―などといった兵器や装置は地球連合を確実に追い詰めた。

 

 地球連合軍は反攻の切り札となるモビルスーツ―――GAT(ジーエーティー)-Xシリーズを極秘開発。ザフトの主力武器である実弾兵器を無力化するフェイズシフト装甲を有した5機のモビルスーツは、地球の中立国であるオーブ連合首長国のコロニーで開発された。

 だが、それを嗅ぎ付けたザフトによって機体は奪取。辛うじて奪取を免れたGAT-X105(エックスイチマルゴ)[ストライク]。そして、新型の強襲機動特装艦[アークエンジェル]。僅かな戦力しか持たなかった彼らだが、厳しすぎる戦力差を埋めたのはヘリオポリスの学生としてコロニーにいたコーディネイター。

 

 コーディネイターを悪しき存在だと謳う勢力が強い地球連合軍上層部にとって、秘匿すべきストライクのパイロット―――彼の名前はキラ・ヤマト。

 後にZGMF(ゼットジーエムエフ)X10A(エックスワンオーエー)[フリーダム]を駆り、コズミック・イラにおいて伝説のパイロットとして名を馳せることになる少年の名。

 

「―――帰って来て早々話したいことがあると思えば、ラクスの惚気話を聞かされるとはな。アスランのことはいいのか?」

 

 プラントのクライン邸。見るからに豪邸と呼べる邸宅の庭先で、使用人の制服に身を包んだ金髪混じりの黒髪を持つ少年が、桃色の髪を持つ少女に話しかけつつも紅茶を注いだ。注がれた紅茶を受け取った後、少女はそれを一口啜った後、テーブルで静かに置いた。

 その少女―――プラント最高評議会議長であるシーゲル・クラインを父に持ち、プラントの歌姫として持て囃されるラクス・クラインの表情は、不満を形にしたものであった。

 より具体的に述べるならば、拗ねた表情を見せていた。それを見せられて愚痴を零される方は堪ったものではないのだが、何も今回が初めてのことではない。

 

「知りません。聞けば、私の事などあまり心配なさっていなかったそうですわ」

「……それだけを聞けば、確かにアスランの非でしょうね」

「もう、こういう時位タメ口で話してくださいな、ナイル」

「分かった、分かった」

 

 少女に窘められた使用人の少年―――ナイル・ドーキンスは肩を竦めつつも、空いている席に腰かけた。空いているカップに自分で紅茶を注ごうとしたところ、いつの間にかティーポットを奪っていたラクスが笑顔でナイルを見つめていた。

 

「今は友人としての語らいです。大人しく注がれなさい」

「……はいはい」

 

 ナイルがクライン邸の使用人―――正確にはラクス専属の使用人兼幼馴染―――となったのは、彼の母親が彼女の父親と親交が深かったから、と聞いている。人付き合いや何かと狙われやすいラクスの身辺護衛も兼ねているため、基本は住み込みで働いている。

 つい先日まで追悼記念式典のために民間船へ乗船したところ、襲撃を受けて脱出ポッドで漂流している所を地球連合の戦艦に拾われたと聞いた。ナイルがその場に居合わせなかったのは、ラクスが固辞したためだ。

 

 有力者の令嬢ということもあり、ラクスには婚約者がいる。その相手をナイルは知っているし、友人としての交友もある。名はアスラン・ザラといい、パトリック・ザラ国防委員長の子息にしてザフト軍のトップエリートの一角に名を連ねている。

 彼の同期とも仲が良いので話を聞くが、15歳で成人と認められているプラント社会の中でも大人顔負けの実力を発揮している。

 

 プラントから見れば『希望の星』とも揶揄される二人の組み合わせだが、この二人は性格的に全く噛み合わないという有様だった。

 具体的には、ラクスは女性として見て欲しい部分があるのに、アスランはそれを見ようともしない。婚約者ならば自ら愛そうとラクスが努力しても、アスランは無自覚で払い除けている。

 ラクスから注がれた紅茶を啜った後、ナイルはラクスに視線を向けた。

 

「それで、助けてくれた連合軍の戦艦にコーディネイターのパイロットか。まあ、已むに已まれぬ事情付きなんだろうが。しかも、あのアスランの幼馴染かあ……よく付き合ってられると思うのは俺だけか?」

「そのような言い方をされますと、ナイルもアスランを面倒だと思っていらっしゃるのですか?」

「面倒というよりは、仕方が無く付き合っている側面が強いよ。しかも、婚約者同士の席に同席させるなんて普通じゃないからな? 後者についてはラクスに対する文句だが」

 

 アスランの性格としては生真面目で、何をやらせても一流の実力を持つ。現に連合から奪取した4機の最新鋭モビルスーツのうちの1機を任されているのがその証左だろう。だが、能力の代わりに人とのコミュニケーション能力が悲惨なことになっている。それはアスランと出会った時のナイルも強く感じていたほどだ。

 単に友人付き合いならば割り切れるが、ラクスがアスランとの対話を不満に思って二人きりの場に何度も割り込ませるあたり、ラクスも本気で怒っていたのだろうと思う。

 

「でも、アスランが渡したペットロボットを大事にしているというのは、彼は優しい人のようだな……頬が赤くなっているぞ、ラクス」

「だって、あのような殿方に出会ったのは初めてですから」

 

 ラクスはすっかり入れ込んでいるようだが、それが今生の別れとなることだってある。キラ・ヤマトがその機体のパイロットをし続けられる保証などない。それをラクスも理解しているからこそ、更に入れ込むのだろう。

 尤も、ラクスの願いが意外な形で叶うことになったのは……その語らいから数か月後のことだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ナイルが瞼を開けると、そこはザフトアカデミーの学生寮の天井が映っていた。日付は入学式の次の日で、今日の予定はカリキュラムのオリエンテーションが行われる。

 

(夢か……)

  

 今にして思えば……キラ・ヤマトの存在がいなければ、この道を選ぼうなどとは思わなかった。

 アスランや二コル、イザークやディアッカ、そしてミゲルやラスティ……母を通して知り合った友人たちが軍人の道を選んでも、決して同じ道を歩もうとは思わなかった。クライン父子が国家反逆罪で問われた時はアマルフィ家に居候したが、彼らは『自分で決めた道ならば、私たちに文句など言えない』と返してくれた。

 けれども、彼らの表情からして『出来れば軍人以外の道を歩んでほしい』と願っているのは読み取れた。

 

 ラクスがキラに[フリーダム]を託すことを決めた時、ナイルは彼らが見てきた戦いの道を見つめたくなった。

 

 誰かに認めてもらいたいわけではないし、決して平坦な道でないことは理解している。それでもナイルが戦う道を選んだのは、戦いなど好むはずのないキラ・ヤマトという存在が何と戦うために再び立ち上がったのかを知りたくなった。

 自身を苦しめるであろう行き先であることを理解しても尚、彼が何を求めて戦場に身を置いたのか。友達を守るためにかつての友と戦うという過酷な道を、彼はどうして選択し続けたのだろうかと。

 

 自己的な理由というよりは、興味本位の探求心。とても軍人となる様な理由ではない、と自覚はしている。けれども、『血のバレンタイン』の折に母がモビルスーツを駆って核ミサイルから[ユニウスセブン]を守ったことは、息子である彼からすれば誇りであった。

 戦争の有り様を見るために戦うことを決めたのは無論だが、母親のように守るべきものを守れる強さが欲しい、と。

 

(けど、その条件がなあ……)

 

 ナイルは母親にアカデミーの入学を直談判した。彼の母ことレイチェル・ドーキンスは現在ザフトアカデミーの教官を務めている。実年齢は50歳間近だが容姿は20歳代を保ち続けており、新入生の一部からラブレターを貰っては断るのが恒例行事みたいな光景となった。

 

 別に贔屓してもらおうとは思っていなかった。だが、アカデミーへの入学を聞いたレイチェルはナイルに条件をつきつけた。

 普通の思考ならば、『真っ当な実力で入学しろ』とか『成績がこの順位以下なら退学させる』などといったコーディネイターの“優位性”を示せ、などと言われるだろう。だが、レイチェルの突き付けた条件はナイルの想定からかけ離れたものだった。

 

―――成績は二の次。アカデミーで恋人の一人でも見つけなさい。

 

 後にも先にも、アカデミーへ入学する息子に対して『女目当て最優先』などという風紀を無視した条件など誰もやらないだろう。軽い性格の持ち主であるディアッカ・エルスマンやラスティ・マッケンジーですらもそんな条件など無しにアカデミーへ入学し、パイロットコースで上位10人に入る実績を挙げて卒業している。

 

 ナイルの友人ですら真っ当な成績を挙げて卒業しているというのに、その友人たちの名誉に泥を塗るような行為など出来ない。いや、確かにコーディネイターの出生率が世代を経るごとに減少傾向となっているのは事実だが、婚姻統制を敷いているプラントの制度に引っ掛かりかねない。

 

(子供のことを無視すれば行けなくはないだろうが……)

 

 それにしたって無茶苦茶だ、と内心で愚痴ってしまう。何かと多忙で家を空けることが多く、隣に住むコノエ家の人たちに良くしてもらっていた。そこの旦那さんは元教師だったが軍人となり、今では艦長へと登り詰めたそうだ。

 お隣さん事情はさておいて、一応気になる子は確かにいた。とはいえ、現状はこちらの第一印象でしかないため、これからの付き合いになるのは間違いないだろう。その意味であのお嬢様と何だかんだ主従関係として付き合っていた経験は大きいと思う。

 すると、この部屋のルームメイトが目を覚ました。

 

「おはよう、ナイル」

「おはよう、シン。凄い顔になってるから水でも被ってこい」

「ああ、そうするよ」

 

 黒髪と真紅の瞳を持つ彼の名はシン・アスカ。オーブ出身で先の大戦時に自分以外の両親と妹を一度に失った。そして、ナイルにとってはプラントへ移住する前に暮らしていたオーブで同級生として親交があった少年。

 6年以上も会っていなかったためか、シンを見た時は誰なのかと訝しんだ。だが、彼はふとした弾みで落とした携帯から流れた音と、それに伴って泣き崩れたことで全ての事情を察してしまった。

 

 真実の断片に触れることで真実への道を導き出してしまう……幼い頃から元々自覚していた能力。この力は人付き合いにも大きく影響してしまい、数多の人間の闇を垣間見てしまった。それを母は理解したのか、クライン邸での仕事を勧めてくれた。

 会う人間を限定することで、能力を抑える目論見があったのかもしれないが、そこに加えてモビルスーツの開発・設計に携わるようになったことで、自身の周囲に存在する物体の認識能力があることも判明した。

 事実、X10A[フリーダム]に搭載されたマルチロックオンシステムはナイルの空間認識能力前提とも言える設定が施されていた。それを特に変更もせず使いこなしたであろうキラ・ヤマトは、一般的なコーディネイターではないのだろう。

 

 話を戻すが、同郷出身ということでナイルとシンはルームメイトとなった。それまで軍人とは縁のない生活をしてきたシンなので、これからの生活は大変だろう。

 

 尤も、ナイルは別の意味で学校生活が大変なことになる未来しかないのは確定的に明らかだが。

 




 というわけで、第1話です。オリキャラもとナイル・ドーキンスの設定は話一覧説明文のスレより引用しておりますが、設定の整合性を取る為に追加・変更している部分が生じるのはご了承ください。

 前半部分は種無印のラクスが救助されて帰還した後なので、無印20話より前となります。
 後半部分は無印~運命の間の出来事となります。アカデミー関連は設定がぼんやりしている(自分も所持している媒体が限定されますので)ため、公式設定で拾える部分とは別にリアル軍事分野での学校の形態を踏まえて書いていきます。

 一応補足ですが、参照元スレ主=この小説の投稿主です。
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