機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

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能動的な自由の翼

 アスランの着任と共に、ナイルの[ミネルバ]転属という一大イベント。

 彼の実力はオーブ沖海戦にてシンの[インパルス]に次ぐ敵艦4隻を落とし、ミネルバの最高火力を誇る陽電子砲すら防ぎ切ったモビルアーマーを[インパルス]と協力する形で撃墜した。ユニウステンでの実績も[ミネルバ]のパイロット経由で把握されており、それをいち早く聞いた整備班のメンバーからすれば、腕利きのパイロットが増えることには歓迎ムードと言えた。

 オーブ沖海戦に伴う叙勲の申請もシンと同時にされており、ナイルへの新型機配備はその一環とも言える。とはいえ、新型機といっても肝心の内容はアスランがデュランダルより渡された命令書にも記載されていなかった。

 そんな事情はともかく、ナイルはレクリエーションルームにいた同期の整備担当をしているヴィーノ・デュプレとヨウラン・ケント、そしてオペレーターのメイリンに声を掛けた。三人はナイルがとっくに艦を降りたのかと思ったため、彼の姿に驚いていた。

 

「ヴィーノにヨウラン、それにメイリン」

「ナイル? まだミネルバにいたの?」

「もしかして、態々俺たちに別れの挨拶でもしに来てくれたのか?」

 

 この時点ではまだ連絡が回り切っていなかった。まあ、タリアからミネルバ転属を伝えられて十数分しか経過していないので、まだ伝わっていないのは無理もない。というか、アスランの『FAITH』に関する話は聞こえたものの、自身の転属の話が出ていないことにちょっと傷ついたのはここだけの話。

 ヴィーノとヨウランの疑問に対してナイルは敬礼をしながら伝えた。

 

「いや、その逆だよ。後から艦長か副長経由で話を聞くことになるだろうけれど、今後は俺も[ミネルバ]配属のパイロットとなった。機体もそれを機に最新鋭の機体を寄越してくれることになったからな」

「へ、えっ!? ナイルがミネルバに!?」

「副長、そんな話はしてなかったんだけれど」

「まあ、アスラン・ザラとグラディス艦長の『FAITH』の件で一杯だったと思うけど」

 

 『FAITH』とは言え、ザフトに復隊したばかりの人間を寄越した上で艦長まで『FAITH』入りになる。[アーモリーワン]からの連戦続きを鑑みたものかもしれないが、そもそも新人ばかりと言ってもいい人員のままで酷な事をする、と皮肉りたくもなる。

 自分も書面上はその新人兵士となるので、アスハ代表に噛みつきまくった誰かのように表立って嫌な顔をするつもりはないし、アスランからも人付き合いの観点でナイルに協力を求めている為、双方のやり取りが出来るという意味で納得した。

 

「そっかあ。じゃあ、今後はオペレーターとしてナイルのサポートをすることになるんだね。遠慮なく要請してよね」

「うーん……それをやる割合が多いのは専らシンの[インパルス]で次点がルナマリアやレイの[ザク]なのは変わらんと思うが。まあ、よろしく頼む」

 

 メイリンとはアカデミーの時に仲が良く、その卒業後に部隊配属が決まってからのやり取りを重ねていくうちに、彼女を異性として認識するようになった。ただ、告白するにしてもこの状況で現を抜かす様なことは避けたい。とりわけパイロットは生死のやり取りをするのが常だ。

 母からも『いい? 絶対に「この戦いが終わったら、あの子に告白するんだ」とか思っちゃだめよ』とか言われたが、それには現を抜かした挙句に命が散るパターンだと直ぐに察した。

 そんなことを考えていると、ナイルの言葉を聞いたヨウランが尋ねてきた。

 

「そういえばナイル。先程最新鋭の機体と口にしていたが、お前の乗っていた[ザク]はどうなるんだ?」

「[ザク」はカーペンタリア基地で引き取るらしい。ウィザードの運用データは次の新型に生かされるとか言われたが……ただ、その最新鋭の機体の詳細を全く知らないんだ」

 

 実はオーブ沖海戦後に搭乗した[エールザクファントム]を調べてくれた[ミネルバ]の整備長であるマッド・エイブスがナイルに対して難しい顔をしていた。その理由は[ザク]の駆動系にあった。

 

『オーブへ寄港時に調整はしておいたが、こんな状態で良く戦ってこれたな、と評価しか出来ないよ』

 

 ナイルは前大戦時にX10A[フリーダム]、X09A[ジャスティス]をはじめとしたファーストステージシリーズの開発・設計と名を挙げた二機のテストパイロットをしていた。

 [ザク]のチューンはその二機の操縦経験を基にナイルが独自でOSを弄り、ギリギリの状態で稼働させ続けた。その結果としての評価である以上、ナイルとしては文句も無かった。

 代わりとして受領する新型機の詳細は知らないが、[ザク]同様の悲惨なことになりはしないかと不安もあったわけだ。

 

「どの道、整備班にはいろいろ苦労を掛けることになると思うが……変な整備をしたら、本気で締めるから覚悟しろよ」

「そ、そんなことはしないよ! アカデミーの体術で1位を取ってた奴の締め技なんて、命がいくつあっても足りないよ!」

「ヨウラン」

「俺が許可する」

「そんなぁー……」

 

 ヴィーノの女癖の悪さは折り紙付きで、散々痛い目に遭ってきた。一番最悪だったのは、彼の我儘で同期の中でも『俺が人生の中で最も付き合いたくない女性』の代表格と連絡先を交換する羽目になったことだ。

 彼女の名前を出さないのは、名前を出しただけで嫌悪感が迸るほどに嫌っている。メイリンとの件でもちょっかいを出したことでキレたことがあった。結局冷静さを欠いたナイルが負けたものの、それ以降の個人戦はナイルが文句なしの勝利を維持し続けた。

 しかし、当初は[アーモリーワン]絡みとはいえ、回りまわって[ミネルバ]へ配属になるとは想定の範疇に無かった話だ。

 すると、ナイルに対して格納庫へ呼び出しがかかる。どうやら件の新型機が搬入されるらしい。

 

「それじゃ、俺は格納庫に行くよ」

「なら、俺たちも行こうぜ!」

「いや、物見遊山じゃないんだからな?」

 

 先行していくヴィーノとヨウラン。それを呆れながら見ていたナイルの傍にメイリンが近寄って来た。

 

「ナイル、私たちもいこっか」

「……だな」

 

 メイリンと一緒に格納庫へ向かうと、丁度格納庫にハンガーへ吊るされた状態で移動してくる機体。特徴的な頭部のデザインとバックパックのウイングバインダー、両肩部にはザクファントムを想起させるかのようなシールドが装着されている。

 全体的には[ジャスティス]、[インパルス]、そして[フリーダム]を思い起こさせる装備。すると、ナイルの姿を見たマッドが近付いてきた。

 

「ナイル、こいつがどうやらお前さんの新型だ。工廠から送られてきたもので、X55(ダブルファイブ)S[リバティ]がコイツの名前だそうだ」

「リバティ、ですか……」

 

 見た目と言い、名付け方と言い、どうにも[フリーダム]に肖(あやか)ろうという魂胆が見えてしまう。ともあれ、早速調整に入るということで機体にケーブル類が繋がれ、ナイルはリフトを使ってコクピットへ入る。

 そのコクピット内部は、[ザク]でもセカンドステージシリーズのものではなく、ファーストステージのマルチロックオンシステム対応型のコンソールだった。[フリーダム]や[ジャスティス]に携わった人間であるため、計器類の操作は慣れ親しんでいるので問題はない。

 

(なんだ、これ……武装類が余りにもバッテリー機のそれじゃないだろうに)

 

 だが、調整を進めていく中でナイルは難しい表情を浮かべた。この機体の装備類を見て、明らかに従来のバッテリー形式ではものの数分でフェイズシフトダウンしかねない。ヴァリアブルフェイズシフト装甲へ進化したとはいえ、バッテリーを装甲と装備で食い合う状態は好ましくない。

 

 なので、肝心の動力源はどうなっているのかとOSを確認したところ、明らかに見慣れない単語を目にした。それは『ハイパーデュートリオンシステム』と呼ばれる項目の設定が含まれていた。

 

 OS構造を確認していくと、ナイルは頭を抱えた。この機体にはバッテリーだけでなく核エンジン、ニュートロンジャマーキャンセラー(NJC)が搭載されている。つまり、[リバティ]はNJCの軍事運用を禁じたユニウス条約に違反した機体。その事実を隠すため、本来形式番号に含まれるはずの『A:Atomic』を意図的に排除して、デュートリオンシステムの延長上の動力システムという形で誤魔化した、ということになる。

 

(さしずめ、アナザーフリーダムって訳か……皮肉にも程があるでしょうに)

 

 事情はどうあれ、この機体を表に出してよいというのならば存分に使うだけだ、とナイルは直ぐに割り切って調整を始めるのであった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 調整自体はそこまで時間のかかるものでもなく、[エールザクファントム]で用いていたデータを基に調整したのだが、どうやらあの[ザク]は[リバティ]への変更を見越して寄越された可能性が出てきた。

 その可能性をとやかく言う前にコクピットから降りてハンガーのリフト経由で床に降りると、そこに丁度アスランが通りかかった。

 

「ナイル、機体の調整は終わったのか?」

「まあな。ただ、コイツ―――X55S[リバティ]が[フリーダム]を意識して設計されているのは確かなようだ」

 

 装備までならばまだしも、動力源に核エンジン―――ユニウス条約違反となるニュートロンジャマーキャンセラーを平気で搭載しているのだ。確かに[フリーダム]レベルの制圧力を出すとなれば、既存のバッテリーでは到底賄いきれない。

 ナイルの言葉を聞き、アスランは複雑そうな表情を見せていた。

 

「そういえば、さっきまでルナに絡まれていたようだな。まあ、お前からすれば傍迷惑ものかもしれないが。だからといって、積極的にフォローする気はないぞ?」

「……全く、そうやって割り切れれば俺も楽なのかもしれないが」

 

 そうやって話しながら二人で歩いていると、ふとシミュレーターが目に入った。アスランがマッドに話しかけて確認をした後、アスランが先にシミュレーターへ座った。何かしら考え事をしながらではあるが、余裕でハイスコアを叩き出していた。その証拠として、既に登録されているハイスコアランキングのネーム『A.S』ですらも出していないような高得点を叩き出していた。

 

「ナイルもやってみたらどうだ?」

「……まあ、壊さない程度にやってはみるよ」

「シミュレーターを壊さない程度って……」

 

 呆れ気味にぼやいたアスランと入れ替わる形でナイルがシミュレーターに座り、操縦桿を握る。次々と表示される敵に対して視力とモニターのレーダーを頼りに敵機を撃墜し、最後の敵が撃墜されたところで終了を指し示す文字が表示された。

 結果は―――アスランが2回目に挑戦したスコアを一発かつ全くの同点という形にしてしまった。これにはアスランも驚きを隠せなかった。

 

「凄いな、ナイル。これだと、俺たちと同じ時期に入ってこなかったのが悔やまれるよ」

「あの時は戦いに対しての忌避感があったからな。何はともあれ、よろしく『ザラ隊長』」

「……もしそうなったら、お前を副隊長にするからな」

 

 ちなみに、アスランと仲良く話すナイルのことを羨ましく思ったシンがシミュレーターのハイスコアランキングを見て驚愕した後、二人に勝とうとシミュレーターに籠ってしまったのは……ここだけの話。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ナイルが間借りしていた部屋はそのまま自室として宛がわれた。それはそれでいいとして、ナイルは自分が使っていないベッドに腰かけている少女を見て溜息を吐いた。

 

「で、この関係は継続されるという訳ですか」

「むー、ナイルは嬉しくないの? こんな美少女が目の前にいるというのに」

「客観的事実は合ってるが、自分で言うなよメイリン」

 

 別に嬉しくないとは言わないが、もう少し女性としての恥じらいは持ってほしいと思う。ちなみにだが、メイリンがこんなことをしている事実はミネルバクルーの中で黙認しているらしく、更にはルナマリアもメイリンがナイルの部屋に入り浸っていることは把握している。

 尤も、ルナマリアからすれば『くっ付きそうにない二人』らしい。

 

「てか、メイリンはアスラン・ザラという大物が来たのに、そっちには見向きもしないんだな」

「私はそんなに軽くないですよーっだ。そんなのお姉ちゃんぐらい……とは言えないか」

「あれはどっちかと言えば、シンのことをダシに使って会話している感じだが」

 

 シンやレイ辺りは把握しており、特にレイからは『男として万が一の時は責任を取れよ』と笑みを浮かべて言われたほどだった。シンからも『その、もしもの時はお前に相談するから』とか言われたが。

 

「しっかし、俺には新型機でアスランは[セイバー]……一つの艦に『FAITH』二人とか、普通ならやらない人事だぞ」

「そういうものなの?」

「指揮系統の件で絶対に軋轢が出るからな」

 

 階級が存在しないザフトは服の色で一定の区別を設けている。タリアを『FAITH』としたのは、アスランが来ることで生じる指揮系統の混乱を収めたようにも見える。だが、これでアスランがミネルバのパイロットたちを統率する立場に立ったとしたら、下手するとミネルバの主戦力をアスランに握られかねないリスクを背負うことに繋がる。

 

「でも、現実はそうなってないと思うけれど」

「こんな運用自体が異例だからな」

 

 先の大戦後に手紙だけでなくボイスチャットという形でキラやラクスと連絡を取っていたし、ザフトの友人たちや母親にも聞いていた。

 

「そういえばさ、オーブのあの噂って本当なのかな?」

「俺に聞かれても事実は出てこないぞ?」

「いや、そこまで聞きたいって訳じゃないけど……ナイルはどう思う?」

「噂が出ている以上、嘘だと論じる根拠にならない。半信半疑のレベルではあるが」

 

 何せ、現在のオーブを実質的に取り仕切っているであろう連中からすれば、神輿としての役割をカガリに押し付けようとしたところで逃げられたようなものだ。いずれにせよ、ナイルがカガリに伝えた内容が履行されるのは『これから』のことになるだろう。

 それに、元連合艦の[アークエンジェル]と元ザフト機の[フリーダム]なんて、存在だけでも両陣営にとってはアキレス腱に等しい。そして、あの艦に乗っているであろう人物たちを鑑みれば、下手に無視も出来ない。

 

「ただ、今後の情勢次第では彼らと戦うことも想定しなければならん。今の時点でアスランに伝える気など皆無だが」

「どうして?」

「アスハ代表の結婚未遂でかなり動揺したんだ。それだけでもかなり取り乱したのを目撃しただけに、こんな予測なんて聞かされた日にはミネルバを飛び出しかねん」

 

 そもそも、なぜ彼らがオーブを追われる形で飛び出したのかが問題なのだ。独自の通信網で探りを入れているが、どうやらコーディネイターの特殊部隊に襲撃を受けたという暗号メールを受け取った。

 そしてこれは偶然目撃した話だが、ナイルが偶々夜の散歩をしていたところで水陸両用モビルスーツの[アッシュ]が出撃していくところを見てしまった。この状況で連合艦への急襲を実施するのかと思えば、その後は何事も無かったかのように……機体すら存在しなかったことにされていた。

 

 この二つの事象が繋がった場合、デュランダルがラクスの暗殺を指示したという可能性まで浮上することになってしまう。それを指し示すかのようにプラント本国で精力的にライブ活動をしている『ラクス・クライン』が出てきたことも、ナイルの嫌疑を強めてしまった。

 だが、この事実を広めれば確実に処罰されかねないため、ナイルは口を噤んだのだった。

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