機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

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縁の輪廻

 CE73年4月。ジュール隊に配属されて初の任務が与えられた。

 普通ならば喜び勇んで張り切るところなのだろうが、その行き先が大問題であった。

 

「―――これが今回の任務の概要だ。何か質問はあるか?」

「疑問は尽きませんが、任務だと思って諦めます」

「安心しろ、ナイル。今回ばかりは俺も疑問に思うところがある」

 

 軍総司令部発令の命令内容はL4コロニー[メンデル]の再調査。侵入などの痕跡調査や未だに放棄された実験機器や資料などの回収がメインとなる。主だった調査はプラント本国の遺伝子研究所が回収を行い、ジュール隊は研究所がチャーターした民間船の護衛任務。

 ジュール隊が選ばれた理由は、イザークとディアッカが訪れたことのある場所だからという至極単純なものだった、とイザークは吐き捨てていた。

 

「だが、俺たちは軍人だ。メインの調査は研究者たちが勝手にやってくれるし、近辺の護衛はディアッカに任せる。ナイルは他の奴らとモビルスーツでバックアップをしてくれ。[ザク]の習熟訓練にもなるだろうからな」

「了解いたしました」

 

 今更廃棄されたコロニーに一体何の用があるのか……と訝しむものの、ナイル当人には何も出来ないと諦めて護衛の任に就いた。特に道中や調査中でトラブルとなる様なことも無く、実験機器や資料は粗方運び出されたと報告を受けた。

 だが、ナイルにとってこれが無関係でなかったことを知るのは……自宅に帰って来た時、ナイルが父の書斎に足を踏み入れた際、真新しい資料が山積みになっていたことで発覚した。それを見てメンデルの資料だと理解して溜息を吐いたところで、エプロン姿のレイチェルがひょっこりと姿を見せた。

 

「ナイルちゃん、ご飯が……あら、見つかっちゃったかあ」

「見つかっちゃったじゃねえよ! 何やってんだよ、これメンデルの資料だろう!?」

「にゃああっ!?」

 

 いくら母親が遺伝子研究所の主任研究員をしていても、公私混同は御法度すぎる。ともあれ、まずはご飯を頂いてから話を聞くことにした。

 

「それで? 何でメンデル関連の資料がちゃっかりここにあるんだよ」

「あれは流石にデュランダルの手には渡せない代物だから……実はね、貴方の父親はメンデルの研究者だったの」

「まあ、そんな感じはしたけどさ。あの資料の量を見たら逆に納得するわ」

 

 レイチェルは父親の職業をここで初めて口にした。当時の遺伝子研究は人道・倫理・道徳などと言った要素を全てかなぐり捨てた研究がされていたらしい。レイチェルは自分の愛した夫の痕跡を少しでも確保したいと思っての行動だろうが、『デュランダルに渡せない』という意味について尋ねた。

 

「で、今の議長に渡せないものって何だよ? デュランダル議長の専門分野からして、大方遺伝子研究に関するものなんだろうけれど」

「……コーディネイターの神経構造がナチュラルと違うのは理解してるよね? 私の専門が神経伝達に関する遺伝子工学研究ということも」

「まあ、それは分かるが……コーディネイター専用のモビルスーツ開発とか?」

「それよりももっと酷いと思う。私が袂を分かった友人の研究者は、それを精神感応能力に応用した人種を生み出してしまったから。尤も、今の行方は分からないけれど」

 

 レイチェルの遺伝子研究者としての側面で、取り返しのつかないことをしたと言いたげな悲しい表情を見せていた。流石に深入りしていい領域ではないと判断して、ナイルは話題を変えた。

 

「それで、俺の父親の名前は……資料にも書かれていたが、ユーレンという名前で間違いないのか?」

「ええ。ユーレン・ヒビキ―――優秀な遺伝子研究者で周りの人望も厚かったわ。尤も、貴方を産む前に生死不明となってしまったけれど」

 

 書斎の資料の中には、ユーレンの名前が所々にサインされていた。なので、ナイルの父親の名前だけは把握していた。レイチェルからの言葉でその人物がナイルの父親ということも納得できた。

 正直、[メンデル]に関する噂は調べるほど尽きない代物。どこまでが本当なのかすらも分からない。いや、もしかしたら全てが本当なのかもしれない。下手すると、メビウスの輪がまだ生易しいレベルの呪物すら出て来そうな印象が拭えないのだ。

 

「どんな人だったんだ?」

「そうねえ……良くも悪くも家族想いの研究バカだったわ。本当の奥さんとお子さんたちにも隔てなく愛情は注いでいたけど、表現が下手だったから奥さんはいつも泣いてたわ」

「……今、聞き捨てならない言葉を聞いたんだが」

「あ、やべっ」

 

 レイチェルの言葉でナイルはとんでもない事実を聞いてしまった。自分の父親にはちゃんとした家族がいるのに、その人の子どもを作った―――それがナイルということは、自分は不義の子となってしまう。

 慌てて逃げ出そうとしたレイチェルだったが、時すでに遅しであった。ナイルは珍しく怒りの感情を露わにしてレイチェルに詰め寄った。

 

「どこまでもフリーダムすぎるだろうが、アンタは! 愛情は感じてたし、真摯な態度も本当だろうから絶縁とまではいかないけど、せめて質問に答えろ。その奥さんと子どもたちは生きてるのか?」

「……奥さん―――ヴィアは分からない。でも、双子の子どもはヴィアの実妹が責任を持ってオーブへ連れて行って、最終的に引き取られたのよ。何故なら、私が護衛したんだもの」

「そっか……明日は早いから寝るな」

 

 ナイルは怒りの矛を収め、何処か納得したようにリビングを離れた。その様子を見届けたレイチェルはゆっくりとソファーに座った後、懐から一枚の写真を取り出した。

 写真には栗色の長い髪を持つ女性が男女の双子を抱きかかえている様子が映っていた。

 

「ナイル……貴方は一人じゃない。キラもカガリも、それに“あの子たち”も元気でやってるみたいだからね」

 

 レイチェルが呟いた言葉の意味―――それをナイルが知ることになるのは、そう遠くない未来であった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 オーブ連合首長国、アカツキ島。

 本島から離れたアスハ家個人所有の島には、表向き木造の家屋と古びた教会がある程度の場所。そして、その海岸に一人の男性が佇んでいた。

 彼の名はシーゲル・クライン。第一世代コーディネイターとして生を受け、プラントの自治権獲得に尽力した結果……取り返しのつかない溝をナチュラル・コーディネイター間に作り出してしまった人物。

 

 戦後、彼は元最高評議会議長として死罪も覚悟していた。だが、元同士でもあるアイリーン・カナーバら穏健派の尽力により、表向きは“永久追放”―――実際はオーブへの亡命という形で決着を見た。

 更に、シーゲルの後継として議長となったパトリック・ザラが『決して殺すな』と厳命した上で屋敷に監禁していたのも、彼が命を取り留めた要因となった。

 

「……酷なことだな。私のしたことで、娘や彼にまで苦難の道を強いてしまった」

 

 その罪を戒める意味でも、シーゲルは戦争で傷ついてしまった“彼”―――キラ・ヤマトに対して出来る範囲での配慮をした。尤も、娘の場合は義務というよりも異性への愛情を以て接している、というのが見て取れるほどだった。

 それを見たシーゲルは表情が曇っていた。何故ならば、シーゲルもまたキラ・ヤマトの出生を知っている一人なのだから。そして、それは自分の娘も決して無関係ではないということも。

 

(君がどう思っているのかは、今でも分からない。だが、ラクスは私の娘だ。娘ならばきっと)

「お父様、如何なさいましたか?」

 

 そうやって思慮している所に姿を見せたのはシーゲルの娘―――母親譲りの容姿を持つラクス・クラインが心配そうに声を掛けてきた。それを見たシーゲルは口元を緩めて笑みを零しつつ、視線を再び海に向けた。

 父親の表情を見たラクスは何か大事な話をしたいのだと感じ取り、シーゲルの隣に立った。

 

「……ラクス、ここでの生活は窮屈ではないか?」

「勿論です。今となっては、プラントでの生活が窮屈だったと思えてしまうほどに」

「そうか……それは良かった」

 

 最初はシーゲルの我儘にラクスを巻き込んでしまったのでは、と罪の意識を覚えることがあった。だが、それをラクスは否定したので、シーゲルは安堵に近い表情をした。その上で、シーゲルはラクスに視線を向けた。

 

「ラクス。ここから先は少なくともお前にとって無関係とはいかない道が待っている。お前はきっと驚くだろうし、私を責めてくれても構わない。だが、私はお前のことを本当の娘だと思っていることは信じて欲しい」

「お父様……はい、聞かせてください」

 

 シーゲルがそう決意した理由は、プラントの現最高評議会議長であるギルバート・デュランダルの存在に他ならない。プラントにおける遺伝子研究者というだけではなく、[メンデル]の関係者という事実も踏まえて……自身が狙われる危険性も考慮した上で、ラクスに自分の知る情報を伝えた。

 そしてそれは、ラクス自身の出生にも大きく関わることとなる。

 

「まず、私はお前と血が繋がっていない。いわば連れ子のような形でお前の母親と結婚したのだ。幸い、婚姻統制実施前の結婚だから何も言われなかったよ」

「……その、私の父親は何方なのですか?」

「私にも分からないのだ。だが、[メンデル]の関係者という可能性しかない」

 

 シーゲルは『分からない』と濁したが、実際はその父親のことを知っている。けれども、その事実に気付かれる前に、シーゲルは更なる爆弾発言を投下した。それにはラクスが強く反応する。

 

「!? それって、キラの本当のご両親がいたあの?」

「そうだ。そして、私は彼とアスハ代表がヒビキ夫妻の実子ということも知っていた。彼の素性を知るのは、私と妻、マルキオ導師、ヤマト夫妻、そして……ウズミ・ナラ・アスハ前オーブ代表」

「そこまで……」

「ここまで言えなかったことは謝ろう。だが、それもお前たちの安全を考慮してのことなのだ」

 

 ラクスはシーゲルの言葉に対して変に詰め寄ったりはせず、彼の言葉を受け入れるように聞いている。ブルーコスモスの凄惨さは聞いていたし、ましてやラクスは先の大戦時にその盟主と相対していた。彼の言葉で『相容れない』ということは肌で感じ取ってしまっていたほどに。

 

「お父様。もしかしてなのですが、私はキラと同じ存在なのですか?」

「いや、それは違うと断言できる……幸い、お前にも遠い親戚だがきょうだいはいる。お前の母親とレイチェル・ドーキンスは従姉妹―――つまり、その血を引くお前とナイルは遠戚だが、間違いなく血縁関係を持つ」

「ナイルが、私の縁戚にあたる人」

 

 そう呟いたラクスだが、シーゲルは正直全てを話すことに抵抗があった。

 何せ、ラクス自身の出生をぼかすためにラクスとナイルの関係を話したに過ぎない。そして、ナイル自身に関する出生を知りながらも隠している。

 

(ラクス……キラ・ヤマト、カガリ・ユラ・アスハ……そして、ナイル・ドーキンス。どうか、これからの時代を生き抜いてほしい。それを見届ける権利など、今の私には既にないのだから)

 

 そうして話を終えて戻るシーゲル……だが、ラクスの心中は複雑だった。

 彼女は暫く打ち寄せる波の音を聞きながら、青い空と海を見つめていたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 更にところ変わってオーブ連合首長国:首都オロファト。

 首長官邸の執務室に座るのは現代表首長のカガリ・ユラ・アスハ。“オーブの獅子”と謳われた父ウズミ・ナラ・アスハを継ぐ形でアスハ家の当主となり、国民の圧倒的な支持を受けて代表首長に任命された。

 17歳という若さで国家元首となったこともあり、当然他の氏族からも疑問の声は出た。だが、前大戦時は軍の指揮統制も経験していたこともあるだけでなく、何よりアスハ家の恩恵を受けてオーブに住むことを決めた人間はナチュラルやコーディネイターの垣根を超えていた。

 そんな彼女が現在頭を抱えている問題は、プラントから送付されてきた一通の招待状にあった。

 

「半年も先の事だというのに、デュランダル議長は丁寧な仕事をするな」

「代表。お気持ちは察しますが」

「分かっている」

 

 傍に控える秘書に窘められつつも、カガリは手紙の封を丁重に切って便箋に目を通す。内容は半年後に控えている最新鋭艦の進水式への招待状。そのデータは内密に国営企業のモルゲンレーテから回されたが、一目見た時はカガリですら目を剥くものであった。

 

「ザフトではこれまでになかった形状の戦艦。“アスラン”もこれを見た感想は『とてもザフトの人間が設計したとは思えない』と零していたぐらいだからな。ディノ秘書官の感想は?」

「はい。[エターナル]とも似ていませんし、やはりザフトの思想とは異なる気がします。そうなると可能性が高いのは」

「オーブの技術者が入り込んでいるのは間違いない、と思ってもいいか……」

 

 カガリが目の当たりにしてきた今までのザフトの戦艦と見比べても、どうにも似つかわしくないというより『違和感がある』という印象を拭えなかった。

 しかも、あの[ミネルバ]という最新鋭艦が何処かで既視感を拭えなかった。まるで、カガリも乗艦したことのある[アークエンジェル]を模したような出で立ちに。

 

「とはいえ、オーブが立ち直るまでにプラントの恩恵を受けたのも事実。仮に、議長と会談することが出来ても、技術者の返還交渉は無駄足になりそうだな」

「はい。夫もその意見をお持ちです」

「分かった。私は国賓として参加し、護衛にはアレックス・ディノを同伴させる。私が本国を不在にする間、ディノ秘書官には留守を預けたいと思う」

「畏まりました、アスハ代表」

 

 前大戦後、カガリはエレノア・ディノ―――レノア・ザラを秘書官に据え、パーシヴァル・ディノ―――パトリック・ザラをオーブ軍士官学校の教官に据えた。

 各々の得意分野を生かしてオーブの復興に一役買っており、彼らの息子でありX09A[ジャスティス]のパイロットをしていたアスラン・ザラは“アレックス・ディノ”の名でカガリの私設秘書・護衛をしていた。

 すると、タイミングよくアスランが姿を見せた。律儀な性格なため、ノックをして断りを入れてから入室してきた。

 

「失礼する。代表、お話があるとのことですが」 

「今は身内しかいないから、普通に喋ってくれ。デュランダル議長から招待状が来た。例の最新鋭艦の進水式についてのな」

「やはり来たのか」

 

 実は、ザフトの動向に関する情報をオーブは独自の情報網で入手していた。正確にはシーゲル・クラインが作り出した“クライン派”―――情報収集を担う組織[ターミナル]の伝手をカガリはラクス経由で手にしていた。

 

「技術者の返還要求はせず、あくまでも国賓として式に参加する。今の状態で突っぱねてもオーブの利益にならないからな」

「ああ、それは分かった。ただ、懸念は別にもある」

「新型機に関する情報のことか。全部で()()とか、私たちにとっては因縁を思い起こさせるよ」

「……確かにな」

 

 カガリからすれば、祖国が裏切って連合の最新鋭モビルスーツを自国のコロニーで開発していたという事実を目の当たりにし、キラと出会ったあの日。

 

 アスランからすれば、ザフト軍の命令によってオーブのコロニーで極秘開発されていたモビルスーツを奪おうとしたとき、そこに偶然居合わせたキラと再会してしまったあの日。

 

 [アークエンジェル]を想起させるような最新鋭艦と、五機の最新鋭モビルスーツ。半年後に何が起きても不思議ではないと思い起こさせる構図に、カガリとアスランは揃って表情を曇らせ、その光景をレノアは静かに見つめていたのだった。

 




 ナイルの実父の存在、ラクスの素性、原作キャラ生存による変化の一つの巻。元スレから参照しつつ、どこまで明かすかを結構ぼかして表現しました。
 [メンデル]関係者にまともな人間がいないって? うん、まあ、そうね(遠い目) ラクスとシーゲルの関係は監督発言から参照して話を膨らませました。今後異なる公式解釈が出た場合はオリジナル設定となりますのでご了承ください。
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