機動戦士ガンダムSEED DESTINY~自由の福音~   作:那珂之川

8 / 25
真紅の剣

 

―――CE73年9月2日。

 

 L4宙域は過去に大規模なバイオハザードで放棄されたコロニー群が残るものの、大戦後はナチュラル、コーディネイター双方のコロニーが建造される中立地帯となった。

 そこに建造されたプラント[アーモリーワン]の内部には大規模な工廠が備わっている。最新鋭艦[ミネルバ]の進水式を約1か月後に控えたこの日、新型モビルスーツのデモンストレーションが実施されることとなった。

 

 但し、デモンストレーション戦闘に参加するのはX56S[インパルス]、X24S[カオス]、X31S[アビス]、X88S[ガイア]のみとなっている。残る一機―――X23S[セイバー]に関してだが、それが何故か[ボルテール]に積み込まれていた。

 その理由は、ジュール隊が受けた任務に関わるものであった。

 

「デモンストレーション戦闘に参加せよ、ですか?」

「そうだ。向こうのテストパイロットとうちの部隊との模擬戦形式だ。向こうは[インパルス]、[カオス]、[アビス]、[ガイア]の四機。うちの隊からは俺とディアッカ、シホに……ナイル、お前も参加する。しかも、最新鋭機の[セイバー]をお前が操縦しろとの命令付きでな」

「……命令は理解しましたが、条件が対等とは思えません」

 

 ナイルは正直訝しんだ。数が対等でも、性能が必ずしも対等とは言えないからだ。

 

 セカンドステージシリーズがバッテリー機とはいえ、五機の基本性能は[フリーダム]を超えている。いくら量産型の最新鋭機でもある[ザク]とはいえ、精々[ストライク]レベルの三機では勝負になるのかも疑わしかった。それについては、隣で聞いているシホやディアッカも表情で答えているような有様だ。

 三人の言いたいことも分かる……と言いたげな苦い表情をしつつも、イザークは説明を続ける。

 

「ナイルの言葉も、お前たちの表情も分かる。が、命令である以上は受けねばならん」

「命令は理解しましたが、ナイル以外の私たちは乗機を使うんですか、隊長?」

「いや、向こうでご丁寧に[ザク]を用意してくれるそうだ。調整の時間も貰えるらしいからな」

 

 シホの問いかけに対してイザークが答える。確かに、任務で必要な機体をデモンストレーション戦闘で潰すのは割に合わないため、[ザク]とはいえ用意してもらえるだけでもありがたい。

 だが、一番気になるのは……進水式間近のこの時期にこんなことをして、地球連合を刺激することにならないかという不安要素だった。この疑問についても答えるかのようにイザークが説明を述べる。

 

「今回はデュランダル議長閣下が内密とはいえ視察に来るそうだ。それを睨んでのデモンストレーション戦闘なのだろう……ほかに何か質問は?」

「では、ジュール隊長。その任務を受けることは構いませんが、仮に相手四機を全部撃墜判定にしてしまっても責任問題にはなりませんよね?」

「……」

 

 イザークはナイルの質問に対して窮してしまった。何せ、イザークはナイルの実力を知っているし、[フリーダム]や[ジャスティス]のテストパイロットの件も聞いていた。なので、イザークは少しばかり考えた後、こう答えた。

 

「構わん。お前レベルのパイロットだと物足りんだろうが、お灸を据える意味でもアリだと思ってる」

「……イザーク、もしかして怒ってるのか?」

「当たり前だっ! 俺たちはテストパイロットたちの当て馬ではないのだからな!」

 

 上司を宥める意図も込めて心情を尋ねたディアッカだったが、これには流石のイザークもとうとうキレてしまった。

 いくら温厚に努めようと思っても、こればかりは頭に来るものがある。イザークのこの心情には、諫めようとしたディアッカも思うところがあったようで、苦虫を噛み潰したような表情を見せていた。

 

 何せ、イザークとディアッカは先の大戦で連合製のモビルスーツを用いていて、イザークはGAT-X102[デュエル]、ディアッカはGAT-X103[バスター]で戦い抜いた。

 シホはビーム兵器実験機:YFX-200[シグー・ディープアームズ]のパイロットとして戦闘を潜り抜けた。

 そこにファーストステージの開発・設計に携わり、[フリーダム]と[ジャスティス]のテストパイロットのナイル。

 

 見事にエース格のパイロットが揃った訳だが、イザークとて意図してこうなったわけではない。そこに新型機のデモンストレーション戦闘の任務が来るとなれば、最早作為のようなものを感じずにはいられなかった。

 無論、相手のテストパイロットたちだって弱い訳ではない。いくら[セイバー]を貸与されたとはいえ、機体性能の差をつけた状態でデモンストレーション戦闘をやらせようとする方が正気の沙汰ではない。

 

 相手に対する誇示の意図もあるだろうが、それにしたって色々無茶ぶりが過ぎる。ナイルが[セイバー]に乗る以上、最早彼を止められる人間などいないに等しかった。それはイザークとディアッカが一番理解していた。

 

「責任だの最早知った事か! ナイル、[セイバー]であいつらを悉く戦闘不能にしてやれ。責任は全て俺が持つ!」

「ハッ! ……ということなんですけど、すみません」

「いや、ナイルのせいじゃないから」

「ええ、こればかりは私たちも同じ気持ちですから」

 

 ディアッカとはともかく、シホとは最初折り合いが悪かった。当初は嫌われているのかと思ったが、何でもイザークにアプローチを掛けようかと思ったところで運悪くナイルが姿を見せて失敗していたらしい。

 それをナイルが気付いてからはシホの背中を押す様になり、シホもそれを理解して先輩と後輩の良好な関係を築いている。なお、二人の様子を見たイザークが冷や汗を掻くようになったのは言うまでもない。

 

「いいか! 俺たちを怒らせればどうなるかを思い知らせてやれ!」

「……もしかしてですけど、エザリアさんからまた何か言われたとか? この戦闘で負けでもしたらお見合いをさせるとか」

「それはありえそうだな……負けたら説教が飛びそうだしな。勝たねえとな」

「ええ、同感です」

 

 こうして、ジュール隊が妙な結束力を発揮していたことに関して、[ボルテール]以外の人間が知る由もなかった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 そして、翌日―――9月3日。

 [アーモリーワン]にお忍びという形で訪れた黒髪が特徴的な男性―――プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルがお付きの護衛を数人連れてシャトルから降りてきた。降り立ったところには工廠の担当者が出迎えた。

 

「これは議長閣下、お早いお着きで」

「出迎えご苦労だった。聞いたところによると、私の来訪に合わせてデモンストレーション戦闘を実施すると聞いているが」

「お耳にするのが早いですね。では、こちらへ」

 

 まるで[アーモリーワン]側の動きを把握しているかのように話すデュランダルに対し、担当者は汗を掻きつつも先導する形で案内をしつつ、戦闘の概要を話す。

 

「今回の戦闘は四機の性能テストを兼ねています。ただし、X23S[セイバー]はOSの関係もあって、今回はモビルスーツ形態のみでの運用という形でジュール隊に任せました」

「ほう、そうか……」

 

 セカンドステージシリーズの中で、[セイバー]だけは他の四機と異なる開発ステップを踏んでいる為に開発が遅延していた。その中で深刻だったのは、モビルスーツ形態とモビルアーマー形態をスムーズに行うための切り替えに伴うOSシステムが未完成だったことだ。

 普通ならば、ジュール隊はその事実を知らされた状態でデモンストレーションを行うのだが、実は連絡の手違いがここで生じていた。工廠の担当はデュランダルにこう説明したが、ジュール隊への連絡を担当した者は[セイバー]の変形機構に関するOSの未完成を伝えなかった。

 だが、そんなトラブルすらも解決してしまったことを……彼らはまだ知らない。

 

「こちら側はシン・アスカ、コートニー・ヒエロニムス、リーカ・シェダー、マーレ・ストロードの四人となります。カオスとガイアの正式なパイロットは1週間後に着任の為、テストパイロットの彼らに依頼しました」

「ふむ。それで、ジュール隊のパイロットは?」

「イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、シホ・ハーネンフース、そして[セイバー]にはナイル・ドーキンスを指名しております」

「ほう……確か、[蒼穹の魔女]の子息だったかな」

 

 デュランダルはパイロットの名を聞いてシン以外にあまり興味を示さなかったが、最後のナイルの名を聞いてデュランダルの表情が変わった。まるで、興味深いものを見つけたかのような好奇心を表情に示しているような印象だった。

 そんな様子を一々問いかけるまでも無く、担当者は説明を続ける。

 

「ええ。アカデミーでは総合第10位で、[インパルス]の正式パイロットとなったシン・アスカには見劣りしますが」

「そうか……何にせよ、楽しみだな」

 

 デュランダルは担当者の話半分に聞きつつ、モニターに視線を向けた。モニターには各機の様子が映し出されているのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 [インパルス]、[カオス]、[アビス]、[ガイア]に対して、[セイバー]と[ザク]三機。

 

 状況に応じて背部のユニットを換装する[シルエットシステム]を持つ[インパルス]は高機動型の[フォースシルエット]を装着している。

 対する[ザク]は各々が得意とするウィザードが装着されていた。イザークは近接戦闘に特化した[スラッシュウィザード]、ディアッカは遠距離戦に特化した[ガナーウィザード]、シホは高機動戦闘に対応できる[ブレイズウィザード]を装着している。

 

 ルールは戦闘不能状態―――武装が破壊されて戦闘続行が不可能となった時点―――で撃墜判定とすること。その際に武装・機体が破損してもパイロット個人の責任は問わない。万が一、パイロットが負傷して今後に支障が出る場合は、軍としての補償範囲でこれを認める。

 

 模擬弾を使わず、ビーム兵器を用いた実戦形式の模擬戦。下手をすれば死人すら出かねないものだが、命令とはいえジュール隊が引き受けた。各機のコンソールに模擬戦開始までのリミットが表示される。それを見たイザークが各機に呼びかける。

 

「各機、作戦通りにフォーメーションを仕掛ける。俺とナイルが前衛、遊撃はシホ、後衛はディアッカに預ける」

『了解!』

 

 そうしてカウントがゼロになった瞬間、八機のモニターに『MISSION START』の文字が表示される。動きが早かったのはジュール隊の方で、[セイバー]と[ザク]二機が背中合わせに回転しながら直進する。

 一体何なのだと困惑する四機だが、シホの[ザク]が誘導ミサイルを発射して、各機は距離を取って迎撃を開始しようとする。その動きを見た瞬間に三機が散開したとほぼ同時のタイミングで襲い掛かるプラズマビーム―――ディアッカの駆る[ガナーザクウォーリア]のオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲が襲い掛かり、ミサイルが誘爆して爆風が四機の視界を覆う。

 

「―――推定ポイント捕捉。各機とデータリンクします」

 

 ナイルがそう呟いた後、[セイバー]は高機動巡行を可能としたモビルアーマー形態へ変形し、一気に[アビス]へ切迫する。相手は爆風から脱出しようと武装を構えるが、その眼前には目前でモビルスーツ形態へ変形した[セイバー]がビームサーベルを構え、振り翳した。

 ランス諸共右腕部を斬り落とし、加えて左肩部の武装接続部分を切断。更には[アビス]を足場にする形で蹴り飛ばすと同時にモビルアーマー形態へ変形して急速離脱した。この時点で[アビス]は戦闘不能状態として判断された。

 

 次に向かう先は[カオス]。当然、向こうもこちらの意図に気付いたようで、機動兵装ポッドを分離させて襲い掛かる。[カオス]の機動兵装ポッドは無線誘導式兵器で、前大戦時にZGMF-X13A[プロヴィデンス]に使用された[ドラグーンシステム]を簡素化した仕様。

 ナイル自身も[ドラグーンシステム]のような無線誘導兵器は初見だが、自身の脳裏に走った閃きによって、位置やビームの軌道を瞬時に把握しながら変形の緩急で躱していく。だが、忘れてはいけないのが、相手をしているのは何も[セイバー]一機ではないという事実。

 その隙をイザークの駆る[スラッシュザクファントム]が逃すはずなどなかった。

 

「ナイルばかりに気を取られて、死にたいのか貴様らはっ!!」

「隊長、援護します!」

 

 そうして振り下ろしたビームアックスは[カオス]の左腕を対ビームコーティングされたシールドごと叩き斬った。更には援護する形でシホの[ブレイズザクウォーリア]が背後から急襲して、[カオス]の右脚を斬り飛ばした。

 

 僅か2分で最新鋭機二機が撃墜判定―――だが、戦闘終了の合図が出るまでデモンストレーションは続く。それを指し示すかのようにディアッカの[ガナーザクウォーリア]のオルトロスが再び火を噴き、今度は[ガイア]の右腕をライフルごと蒸発させてしまった。

 それによって生じた爆発の反動で近くのデブリに衝突して、[ガイア]は動かなくなったため、[ガイア]も撃墜判定となった。

 

「グゥレイトッ、俺もまだまだ捨てたもんじゃないぜ!」

『まだ戦闘は終わっていない。残り一機とはいえ、油断するな』

「了解、隊長」

 

 そう叫ぶディアッカに窘めるイザーク。確かに、数的有利とはいえ相手は高機動型のユニットを付けた最新鋭機。油断は出来ないとディアッカは短めの返事で答えて、[インパルス]に照準を付けた。

 放たれるオルトロスに対し、盾を構えて突撃する[インパルス]。オルトロスを防ぎ切って切迫しようとした次の瞬間、直上から[セイバー]が背部に装備された最大火力を誇るアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲で[インパルス]の両腕部を綺麗に吹き飛ばし、更には盾を捨てて両手に握ったヴァジュラビームサーベルで頭部と両脚部までを破壊。

 

 最早一方的な蹂躙劇となったデモンストレーション戦闘……それを指し示すかのように、『MISSION COMPLETE』の文字が各機のモニターに表示されたことで、幕を下ろしたのだった。

 

 そのまま[ボルテール]へ帰還し、コクピットから降りたナイルがロッカールームへ来たところで、イザークとディアッカ、シホがナイルを出迎えた。三人を前に、ナイルは敬礼をした。

 

「報告いたします。四機全てとはいきませんでしたが、[アビス]と[インパルス]の撃墜に成功いたしました」

「ああ、ご苦労だった。しかし、こうまで作戦に嵌るとは思わなかったがな」

「しかも、俺やイザークが使ったことのある作戦をオマージュするとは……お前、指揮官の才能もあるんじゃないか?」

「私からもそう評価できますよ。何なら、今から[セイバー]の正式パイロットに選ばれるかもしれませんね」

「勘弁してください……」

 

 あの四機を相手にする場合、[ブラストシルエット]を装備した[インパルス]を除くと最大火力を有する[アビス]、そして無線誘導兵装を持つ[カオス]が厄介だった。なので、フォーメーションで完全に虚を突き、[アビス]と[カオス]を優先して撃墜する方針とした。

 [ガイア]の変形機構は、正直宇宙戦闘でまともに運用できる代物ではないために後回しとした。そして、[インパルス]もとい“彼”の戦闘スタイルにおいてディアッカにヘイトを向けさせることで、完全に急襲して無力化することに成功。

 

 今回のデモンストレーションは、ナイルの情報に基づいたフォーメーション戦闘によってジュール隊が勝利する形となった。

 そして、ナイルを除いた彼らは後に知ることだが……X23S[セイバー]をここまで十全に扱えたパイロットが後にも先にもナイルただ一人となってしまったという事実が出来てしまったということを。

 




 原作展開にないものですが、[セイバー]だって決してスペックが低い訳ではないので活躍させたかった。そう思って突っ込んだ展開です。1か月あれば機体も修理できるかと。ただし整備班が過労で卒倒不可避。
 運命時のイザークは割と落ち着きましたが、自分のことならばともかくとして部下のメンツまで傷つけるようなことは許容できない感じだと思ってください。
 戦闘がハイライト気味になっているのは私のせいです。だが、後悔はしていない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。