術式?呪力?最終的に物言うのはフィジカルですが? 作:ありがとうはなまる
自分ならそのうち目が死んでいくんだろうな
俺の名は佐藤仁。
平安の世にどこにでもいた普通の農民だった男だ
俺の生まれた村は農作で食っていくごくごく普通の村で、親と俺は起きては畑を耕し、起きては畑を耕す作業をずっと続けていた
8歳ぐらいになった頃、畑仕事に飽きた俺は、山に潜り鹿や猪などの動物を狩って村に持って帰ってきていた
そのことに親や村の人達には大層感謝されていた
その頃には呪力をある程度扱えていたため、特に苦労することなく動物を狩ることができていた
ただ2年後には狩りにも飽きて、俺は自分よりも強いやつを求めて旅に出た
旅に出ることを伝えた両親には最初反対されたがなんとか説得
だが、当時いた俺の妹はイヤだイヤだと俺に泣きながらしがみついてきて離してくれず、頭を撫でなでしてなんとか説得に成功した
親よりも説得に時間がかかってしまい、かなり苦労した
村を出て旅に出た俺は色んな事を、色んな奴らと出会った
友人達と出会い、共に戦い、共に呪いを払ったり、ときに喧嘩したりと、なんだかんだ笑い合いながら馬鹿なことをしていた
俺にとって楽しく、充実した毎日だった
だが俺は友人達との楽しい毎日を捨て、好奇心と闘争心だけで呪いの王と呼ばれ畏怖されていた存在、両面宿儺に闘いを挑み、敗れ殺された
敗れたことには悔いはない
俺の力不足が原因だからだ……だが、死ぬ間際に親や友人達の顔が脳裏によぎり、初めて闘いに対して後悔が残ってしまった
そんな呪いの王両面宿儺に殺され、未練タラタラでこの世を去ったはずの俺は、何故か目を覚ますと赤ん坊になっていた
初めは死ぬ前に見る夢か幻の類だと思い適当に過ごていたが、一週間もしたらここが現実だということを理解させられた
毎日毎日、誰かも分からん女の乳を吸う行為は言葉では言い表せない地獄だった
この現象が現実だということは俺は赤子として生まれ変わったということになる
まるで奇跡だな
神か仏かは知らんがこの奇跡、使わせてもらおう
この第二の人生存分に謳歌させてもらおう
「だ〜!」
俺は揺り籠に揺られながら拳を突き出した
あれから5年、俺は5歳になった
まだ幼さが目立つが、子供ながら中々に整った顔立ちに成長した
赤子の体は中々退屈だった
出来ることが少なく、暇な時間は外を見ながら呪力操作をすることしかなかった
お陰で呪力操作が前世よりも上がったが…
そして赤子の間に俺がいる家の内情は少し掴めた
まず、この家はかの呪術界御三家の一つ禪院家であることが分かった
初めは禪院家に生まれたことに嬉しく思った
平安時代の俺の友人も禪院家であり、よく遊びに行き、禪院家の強者たちと御前試合をしていた
そのつど友人に頬を引っ張られていたのだが、懐かしい……
……おっと話が脱線したな。禪院家に生まれたということは、あれほどの強者たちと毎日戦えると思い、心躍らせていた
2歳になり、自分で自由に行動できるようになった俺は、早速禪院家を周ってみたが、正直期待していたほどではなかった
唯一まともだったのは現当主と禪院甚爾の二人だけだった
特にあの男、禪院甚爾はかなり強い
立ち姿に全く隙が見えず、呪力を全く持っていないにも関わらずあの貫禄
平安時代にいた数多の強者たちと引けをとらん威圧
宿儺ほどではないが口角が上がり、武者震いが止まらなかった
見つけた時はそのまま殴りかかろうとしたが、当時はまだ2歳、万全ではなかったため寸前で止め、渋々踵を返した
やつのような強者がいることに歓喜していた
だが、この禪院家の現状を知った時には強者に出会えた歓喜は消えていた
この禪院家には「禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず」という理由のわからん文言があり、その文言通り呪力が少ないものは無能と罵られ、女は召使いのようにこき使われている
呪力のない甚爾も、その対象で毎日罵られ罵倒されていた
俺はそのことにいや、この禪院家の現状に不快感を覚えた
今の禪院家には、自分より強い者には陰口を叩き、自分より弱いものには暴力を振るい怒鳴り散らかす腑抜けどもしかいなかった
平安時代の禪院家はそのような腑抜けどもではなかった
自身より強いものに闘いを挑む勇敢なものたちだった
自身より弱いもののために闘うことのできた真の武人たちだった
当時はかなり本気で怒っていたが、今では熱も冷めて冷静になっている
熱が消えているわけではないが
そんな事を考えながら俺は和室で現当主を待っていた
「待たせたな」
と、丁度良く障子を開いてやってきたちょび髭が似合う老人、
「ずいぶんお待ちしましたよ」
「すまんな。丁度酒瓶の酒がなくなってしまってな、取りに行っていたのよ」
そのまま来いよ
直毘人は和室にある座布団に座り、胡座をかきこちらを見る
「で、呼び出した理由はいったいなんだ。儂もそれほど隙ではないのでな、手短に話せ」
「…はい、現当主禪院直毘人様にお願い、というより忠告をしておきたく呼びした次第です」
「儂に忠告?」
「はい、私が今日することに
「?何をするつもりだ」
「禪院家にいる精鋭部隊「炳」を全員を殴りに行くつもりです」
俺ももう5歳となった。体も十分に動かせる時期になっている。なら、やることは一つ、今いる腑抜けどもに喝を入れることだ
俺が告げた内容に目を白黒にした直毘人は、数秒動かなくなり、動いたと思ったらいきなり大声で大爆笑し始めた
何だこのおっさん
直毘人は笑い終わると、いやまだ顔をニヤニヤしながらこちらを見てきた
「お前は正気か?「炳」にいる者たちは強者揃い。それをお前のような術式を持たない子供一人で殴りに行くなど、自殺行為にほかならん」
「そんなことはやってみないとわかりませんよ。で、お願い事は聞いてくださるのですか?」
「お主が良いならいいだろう。好きにしろ。ただし、お主が殺されそうになっても儂は介入しないが…それでも良いか?」
「はい大丈夫です。聞いてくださりありがとうございます」
直毘人の説得に成功したので、俺はさっさと和室を退出し、禪院家の精鋭部隊の「炳」がいる場所に向かう
今の時間なら、訓練場で「炳」同士がマウント戦を行っている。次期当主に相応しい実力者が誰か、というマウント合戦というなの戦闘を行っているはずだ
「……ふふふ」
思わず笑むが零れてしまう
さて、訓練場に向かうか
俺はスキップをしながら訓練場に向かって行った