術式?呪力?最終的に物言うのはフィジカルですが? 作:ありがとうはなまる
「炳」の連中を倒したあと、続けざまに「躯倶留隊」と「灯」が来たが全員ボコボコにしておいた
地面に寝ている「躯倶留隊」と「灯」を踏み越え、俺は今回の主役の所に向かった
禪院甚爾は人生に生き甲斐を見いだせなかった
禪院家に生まれ罵詈雑言は当たり前、無視や暴力、イジメなどに該当することは殆ど全て受けてきた甚爾は無気力に生きていた
そんな甚爾はある日、廊下を歩いていると屋敷内がやけに騒がしいことに気づき、天与呪縛で強化された自身の聴覚で女中たちの話を聞き理由を探ろうとした
なんでも禪院家の精鋭部隊「炳」の三人がいた訓練場からものすごい爆発音が聞こえ、爆発音の原因を探ろうと向かった「躯倶留隊」と「灯」がまだ帰ってこない事に女中たちは慌てているようだ
「炳」はこの禪院の中で精鋭。訓練場からの爆発音はあの三人がドンパチやっている音だろうと初めは思ったが、それでは「灯」たちは何故帰ってこないんだという謎が残り、一瞬思考を巡らすがすぐに自分には関係ないと切り捨てた
(俺には関係ない。どうでもいい……全部どうでもいい)
思考していた考えを頭から追い出し、廊下を歩き出そうとした瞬間、自身の進行方向に誰かがいることに気づいた
「…よっ!」
そこには服に埃や木屑などが髪や服についている汚れた黒髪の子供―禪院仁が立っていた
眼の前に立っていた子供に困惑した甚爾だが、すぐに切り替え、立っている仁を無視しようと歩を進めるが、仁は甚爾目掛け床板が割れるほどの脚力で飛び上がり、甚爾の顔面に殴りかかった
天与呪縛で強化された視力と身体能力で仁の攻撃を体を横にずらすことで回避した
「いきなり何しやがる!このガキ!!」
甚爾はいきなり殴りがかれたことに怒り、仁を怒鳴るが怒鳴られた仁は特に悪びれもせず、甚爾に向かい構えを取っていた
仁は再度飛び上がり甚爾に拳を突き出すが、甚爾はその拳を重心を下げることで回避し、仁の腹に重い拳を叩き込んだ*1
仁と甚爾の体格(リーチ)が違いすぎるため、仁の拳が届くよりも先に甚爾の拳が当たるほうが早い
扇たちのときは相手よりも呪力で身体能力を強化していたことと、相手の懐に潜り、小さい体格を活かした戦闘ができていたから優位に戦闘出来ていたが、今戦っているのは天与の暴君─禪院甚爾
天与呪縛で底上げされた身体能力は、現段階の仁の身体能力を上回っていた
ただ飛び上がり拳を突き出すなど甚爾からしてみればどうぞ殴ってくださいと言っているようなもの
腹に重いカウンターを食らった仁は、胃液と血が混じったものを口から吐き出し、廊下をバウンドしていくが呪力で強化した手で廊下の板部分を掴み、これ以上のバウンドを抑えることに成功
仁は、腹に反転術式をかけながら
「炳」達との戦いでは味わえなかった。自分よりも圧倒的な強者との命がかかった闘いに、仁の心はこれ以上ないほど歓喜し、燃え上がっていた
仁は廊下を手で砕き、先端が尖った木くずを掴みとり呪力を纏わせ、甚爾目掛け何本も投げつけた
その威力は銃弾よりも速く鋭いものだった
甚爾は飛んできた木くずを最小限の動きで避け、最短で仁との距離を詰め、サッカーボールを蹴る勢いで仁を蹴り上げたが、何度も攻撃を食らうほど仁も弱くはない
甚爾の蹴りを後ろに動くことで薄皮一枚ほどで躱し、フリーになっている足目掛け、呪力を集中させた拳を振るおうとしたが、仁の第六感が危険信号を鳴らし、攻撃を中断、全力で呪力を足に回しその場から急いで離脱
仁が離脱し外の庭に飛び込んだあと、後ろからバキ!!と言う音がして後ろを振り向くと、廊下の床板に甚爾の足が突き刺さっていた
甚爾は仁が攻撃を仕掛ける前に蹴り上げた足を持ち前の筋力で戻し、仁目掛けて振り降ろしていたのだ
もし、仁がそのまま足払いをしていれば床板同様、振り降ろした足が仁の体を貫通していただろう
仁は転生して初めて、冷や汗を流していた
甚爾は強いと分かっていたが、この少ない攻防ではっきり分かってしまった
"今の俺では甚爾には勝てない"と…
もし、体格が変わらないぐらいであれば勝敗は分からなかっただろう
負ける可能性が濃厚であるこの闘いにおいても、仁は目をギラつかせ、笑みを浮かべながらいまだ消えぬ闘志を燃やし甚爾に向かおうとした…………が、
ふと、甚爾の目を見た仁は甚爾に対して問いかけた
「……何でお前はそんな目をしてるんだ?」
「あ……?」
「強者特有の毎日が退屈で詰まらないっていう目じゃない。お前の目は…………あ~そうだな。なんか全てがどうでもいいとか諦めている目だな」
「……!」
甚爾は自身の心で思っている心情を言い当てられ、動揺した
「お前ほどの強者がなんて目してんだよ。なんかあったのか?相談にのるぞ?」
「………」
いきなり殴り掛かられたやつにいきなり心の中を言い当てられ、いきなり相談にのるぞなんて言われた甚爾の頭は困惑でいっぱいだった
だが、仁に対して甚爾が最も困惑したのは自身のことを
禪院家では呪力を持たない者は無能と呼ばれ、特に呪力を全く持たない俺は猿と呼ばれ、見下されてきた
禪院家で生まれ育てられたこのガキも、あいつらと同じく俺を見下して俺に喧嘩を吹っかけてきたのかと思った
だが改めてガキを見ると今まで感じていた違和感の正体に気づいた
こいつの目は俺を見下していなかった
俺のことを一人の人間として見ていた
「?どうした」
「………お前は」
「ん?」
「お前は、何で俺みたいな呪力を持たない猿を見下していない」
「………」
「何故俺に殴りかかってきた。テメーなら俺との実力差を分かっていたはずだ」
甚爾は聞いてみたくなった、何故俺のことを見下さないのか、何故俺に殴りかかってきたのかを…
「ん~そうだなぁ、まず俺は自分が認めた強者を見下すことは絶対にしない。たとえそれが、呪力のない猿と呼ばれるやつが相手だろうがな」
「……!!」
「それとお前に殴りかかったのは、たんに俺がしたいからしただけで特に深い理由はない」
「…………負けるとわかってもか?」
「負けるからしない、なんてもったいないだろう。絶対に負ける闘いなら俺はそれに勝つ方法を考えて闘いに挑む。それに、この世にある絶対なんて全部ぶち壊せるもんだ。運命……とかな」
「運命……」
「おう、昔の友人にも言ったがもっと自由に、我儘に生きたほうが人生楽しいぞ。人生は一度きりだからな、やりたいことをやる、やりたくないことはしない、それぐらい自分に正直なほうがちょうどいいんだよ」
「だから俺は自分に正直に禪院家の連中をボコして、闘いたかったお前と闘っている」
「禪院甚爾、お前が今やりたいことは何だ?」
「俺のやりたいこと…」
仁の話を一通り聞いた甚爾は改めておかしなガキだと思った
自分のやりたいこと、そう聞かれた甚爾はすぐには答えが出なかった
罵詈雑言が当たり前にひしめき合ってるこのクソみたいな環境から抜け出したい
暴力、監禁なんかをしたこの家に住んでるクソ野郎共を殺してやりたい
ギャンブルで大儲けしてみたい
肉をたらふく食ってみたい
言えば切りが無い
だが、そんな事を考えても一向に俺の心は満足しなかった
俺の…………本当にやりたいこと
甚爾は悩んだ
悩んで悩んで悩んで
そしてふと、子供の頃を思い出した
親に出来損ないと言われ、愛情の「あ」の字も注いでもらえず泣いていた子供の頃
あの時の俺はただ親に愛して欲しかった
だが、時間が立つに連れそんな事を思うことはなくなった
今更あんなクソ野郎共に愛情を送られたところで嗚咽が出るだけだが…
でも……
それでも、俺は
幸せが欲しい
幸せになりたい
「………答えは出たみたいだな」
甚爾の目が、すべてを諦めたような光のない目から、光が宿り生気に満ちている目になっていることに、仁は気づいた
「………一応礼は言っといてやるよ」
「いいよ別に、俺がやりたくてやったんだからな………さて、お互い迷いがなくなったことだし、さっきの続きをしようぜ」
「はっ…さっきまでボコボコにされてたってのに、まだ続けるのか?懲りないやつだな」
「何いってんだ?勝負はここからだろ!」
そこから仁と甚爾は禪院家の庭で壮絶な闘いを繰り広げた
仁は笑いながら甚爾に向かい、甚爾もまた憑き物が取れたように笑いながら闘っていた
そんな仁と甚爾の闘いは、向日葵が仁を気絶させ幕を下ろした
それから数日後、仁は直毘人に連れられ五条家に向かっていた
甚爾の家庭環境を考えてると気持ちが湿っぽくなるなと感じ報われてほしいなと書いてる内に思いました
この小説内で彼は幸せになれるのでしょうか