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総耶に殺人鬼出現!? 服だけが残った血溜まりは猟奇的殺人鬼の証拠か!
最近のご時世というのは中々に物騒だ。こんな平和な時代であるというのに、都会の街には何やらとんでもない殺人鬼とやらが現れているらしい。ああ、恐ろしや恐ろしや。
殺人鬼。人を殺す鬼と書いて殺人鬼。より正確に言うならば、人を殺す人。常識という世界最大規模のレールから逸脱してしまった、異常極まる感性を持った人間―――要するに、単なる人でなしだ。
人でなし。人ではないが故に鬼。冷酷無情、残虐非道。そんな存在であるという事なのだろう。だが、その隣にはこんな記事も書かれてある。
枯れ果てた死体、吸血鬼の仕業か!
人を殺す鬼だけではなく、血を吸う鬼まで現れた様だ。世界はファンタジーに満ち溢れているらしい、まるで週刊連載だぜ。
吸血鬼が現れたなんてオカルト的なニュースに比べれば、この殺人鬼という存在は実に現実的で信憑性の高いものだと思えてしまう。まぁ、住民にしてみればどちらも堪ったものではないという共通点はあるが。
「最近の世の中は物騒だな」
「それ貴方が言いますー?」
さて、殺人鬼と吸血鬼が現れて大変だ大変だ面白い面白いと騒ぐ、平和な都会たる此処「総耶」にある小さなカフェにて。
その殺人鬼本人と吸血鬼本人は、優雅にお茶を嗜んでおられるのであった。
殺人鬼に至っては、自分が犯した罪をまるで他人事の様に口にしながら、雑誌を片手に芳ばしく甘い匂いを放つクッキーを頬張っていた。
吸血鬼のお姫様はと言うと、別に食べる飲む必要もありはしないが茶会という事もあってオススメのカフェオレを飲んでいた。美味しいわねーと言っているので、どうやらお気に召したらしい。
まぁそれはそれとして、自分の事件をまるで他人事の様にする殺人鬼には流石に呆れている様である。
「何の事だかさっぱりだ。しかし、死体を残さない殺人か。いったいどういう理屈なんだろうな?」
「さぁ? 警察にバレたくないから隠してるだけなんじゃないの?」
「なら服だけ残す理由は何だ。殺人鬼は殺人鬼でも変態殺人鬼だって?」
「それだったらどれ程良かったでしょうねー。ていうか、そういう人はもう居るんじゃないの? ほら、小さい女の子しか狙わないお兄さん」
「なんだ、知らんな。そんなロリコンも居るのか」
「……あのー、いつまで惚ける訳? というかなんで惚けてるの?」
「周りを気にしてるだけだ。こんな物騒な会話、物静かなカフェでする様なものじゃないだろ。カフェはこうやって、優雅にお茶する場所の筈だ」
「周りには誰も居ないじゃない」
「雰囲気だよ」
「ますます訳が分からないわ…」
深いため息が出る。柔和なBGMが流れるカフェの店内で、吐き出されたそれはすぐに消え去った。お姫様の幸福が蜘蛛の子散らして逃げ去ってしまった。
吸血鬼、或いは吸血姫。吸血鬼のお姫様、真祖と呼ばれる吸血種の最高位に位置する怪異の中でも姫という立場に立つ存在―――アルクェイド・ブリュンスタッドは、目の前の殺人鬼に頭を悩ませた。
隣に立った人間を殺してからどんな人間なのかを知ろうとする様な、理不尽極まる世界―――《暴力の世界》において殺人ギルド《殺し名》の序列第三位に名を連ねる殺人鬼の集団《零崎一賊》の一人。
その異名を《殺戮犯》。彼が零崎を開始する時、それは決して単体ではなく全体を巻き込んだ大量殺人が引き起こされる事からその名が付けられた。
アルクェイド・ブリュンスタッドは、そんな超絶危険な激やば殺人鬼と堂々と対面しているのだ。
「なぁ、吸血鬼」
「何よ、殺人鬼」
「何かを根本から変えるものは、何だと思う?」
「はい? 何よ、いきなり」
「倫理の授業だよ。もしくは道徳だ」
「殺人鬼が何言ってんだか。倫理も道徳も欠片だってないくせに」
「欠片ぐらいは残っているさ。だから極稀にしか零崎は始めない。こう見えて普段は積極的に人助けをしている活動家だ、この前は道に迷った学生を案内した」
「ふーん」
「随分とカレーが好きな子だったぞ。女であそこまでカレーが好きなのは相当なマニアだろうな」
「ちょっと待ってめちゃくちゃ心当たりあるんですけど。はー、なんでそういう時に零崎しないのよ! 貴方殺人鬼でしょ!?」
どうやら黒鍵使いの眼鏡シスターも知らず知らずの内に殺人鬼と関わっていたらしい。なんたる偶然だろうか、全く嫌な運命である。
「殺人鬼、私怨で動かない。私情で殺しまくるのが俺達」
「貴方達って死徒と同じくらい害悪よね」
「生き物はそういうものだ。誰にとっても知らず知らずの内に害悪は働く。人間が花と虫を踏み潰し、空を汚し、自然を壊すのと同じ様に、死徒が人を食らうのも、自然を支配するのも、全て変わらん。結局は皆同じなんだよ」
「自覚があるのか無いのかどっちなんだか」
「自覚はある。治せない事も含めてな。それで、どうなんだ? お前にとって、何かの根本を変えるものは何だ?」
「……出会いかしら」
少し悩んで、思い出して、振り返って、答えを出す。
かつて月の王を討った魔法使い、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは言った。『いつか気がつく。君の人生は、目が覚めているだけで楽しいのだ』と。
つい最近、彼女は出会いを果たした。自らを殺した少年、真祖の姫を殺害するに至った殺人貴と。
少年との出会いが、彼女を変えた。確かに、そして劇的に、アルクェイド・ブリュンスタッドという存在を変化させた。
「……なんというか、意外だな。随分と女みたいな顔をする」
「うるさいわ。というか、実際に乙女なんですけどー」
「乙女…? ハッ」
「鼻で嗤われた…!? あー頭きた! いいわ、ここでぶち殺してあげる!」
「そんなんだから鼻で嗤われるんだよ、お姫様。淑女ではなく魔猪にでも改めたらどうだ?」
「こ ろ す !」
誰も居ないカフェで、殺人鬼と吸血鬼が喧嘩をおっぱじめる。
そう―――
これが、殺人鬼とシスターが出会う前の話し。一つの小さな戦争である。