零崎儀識の人間殺戮   作:全智一皆

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第一章「正義の反対は犠牲」

 

 

■  ■

 サイコパスという言葉をご存知だろうか?

 一般的には、良心を欠如した自己中心的な異常者として、所謂『人種』としての名称として世間では知られている。

 サイコパス、それはより正確に言えば人種への名称ではなく、反社会性パーソナリティ障害という一種の精神疾病に掛かってしまった者を指す言葉である。サイコパスという単語が、そもそも『精神病質者』という意味である。

 一般人と比べて著しく偏った考え方や行動を取り、対人コミュニケーションに支障をきたすパーソナリティ障害の一種である。

 パーソナリティ障害は、大きく分けて五つのものに分けられる。

 他人の行動全てを敵対的、或いは有害的に解釈する妄想性パーソナリティ障害。

 自らを過大評価し、他人の能力を見下す自己愛性パーソナリティ障害。

 他人からの批判と拒絶を恐れて関係を築く事を避ける回避性パーソナリティ障害。

 自らが他人とは全く異なると感じて孤独を好む統合失調型パーソナリティ障害。

 自らの愉悦の為だけに他人に害を為す反社会性パーソナリティ障害。

 サイコパスと呼ばれる者達は反社会性パーソナリティ障害というものに当てはまり、彼らは皆等しく他人への共感性が持てず、ひたすらに自己の利益を優先する。

 良心の欠如。共感性の欠落。一般人ならば殆どが必ずと言っていい程に有していて当たり前のものを持っていない病人――――――世間では、そういった者達をサイコパスと呼んで興味を持っている。

 

 誰もが考えるだろう。くだらない理由で大勢の人を殺す者―――つまり、殺人鬼はサイコパスなのだと。

 殺人鬼と呼ばれる者は等しく反社会性パーソナリティ障害を持った精神疾病者であり、己の欲を満たす為だけに大勢を様々な方法で殺害する逸脱者であるのだと。

 それが世間一般であるならば、決してその考えを否定する事はない。その考えが間違っているものではないのは確かだし、それで納得がいく人も居るのだ。

 だが―――裏の世界を生きる者たちからしてみれば、より正確に言うならば《零崎一賊》からしてみれば、その評価はあまりにも心外であり、筆舌に尽くし難い屈辱に他ならないのである。

 

「俺たちは決して、利益や快楽の為に人を殺す訳じゃない。サイコパスなどという程度の低い異常者と一緒くたにしてもらうのは心外だ」

「異常者に程度が低いも高いもあるものなのかしら? 私にしてみれば、どちらも大して変わりないと思うわ」

「天と地程に大きく広くかけ離れた差がある。俺たちは殺しに理由なんてものは用いない」

「あら、野蛮だこと」

 

 くすくすと、黒い姫―――アルトルージュ・ブリュンスタッドは笑う。愉快に、愉悦に、

 血の様に鮮やかな赤色の花の意匠が編み込まれたレディースの黒いワンピースを身に纏い、艶が放たれる長い黒髪を赤色のリボンで結ったポニーテール。透き通る様な月光に照らされる彼女の姿は、儚くも美しさ際立たせていた。それこそ、本当にお姫様だ。

 対して、零崎儀識はまるでそれが極普通な様に気にする素振りを見せなかった。実際、気にしていない。

 気にする必要がないから、気にしない。

 気にする価値がないから、気にしない。

 気にする意味がないから、気にしない。

 零崎儀識は、アルトルージュという存在を『常識』というフィルターを通して認識していないのだ。 

 

「そもそも、あれは異常者ではなく病人だろ。病人なら仕方ないで受け入れてやれよ、多様性の現代社会なんだから」

「それとはちょっと違う様な気もするけれど。あと、時代設定間違えてるわよ。まだ平成よ、平成」

「これは失礼。つい先を見据え過ぎてしまった」

「人間にはあるものよね、現実から目を背けたくなる事が」

「目を背けた現実は現在でも過去でもなく未来の現実だがな。未来から目を背けたんだ」

「あら、未来視でも使える様になったのかしら? 貴方の眼はそこまで便利なものではなかった筈だけれど」

「あぁ、戦闘以外じゃ不便もいいところだな。いや、不便というよりは無能だな。路傍の石より価値がない。どう考えようと、どう扱ってみせようと、生活の役には立たなかった」

「それを日常生活に使おうとする事がまずおかしいと思うわ」

 

 直死の魔眼。そう呼ばれてはいるが、厳密には魔眼ではなく超能力の類である死を視る力。

 いつか来る終わり、モノにいつか必ず訪れる終末。視覚として捉える死とは、つまりそういった『時間』としての最後である。

 死を視覚化する事が出来る眼球とそれを認識し理解出来る脳が揃う事で、初めて機能するその能力は―――戦闘にこそ用いれば無類の強さを誇り猛威を振るう刃になるが、それ以外では便利のべの字にも届かない無能である。

 一応、治療にも使えない事はなかったが、あまりにも限定的過ぎる為、使えたものではない。殆ど出番はないと断言出来るだろう。

 

 アルトルージュにしてみれば、死を視る力を日常生活に使おうと考えた儀識ははっき言って馬鹿げている。豪胆にも程がある。

 

「馬鹿と鋏は使いよう、だ」

「可哀想ね、私すら殺し切れる力なのに馬鹿扱いだなんて」

「切れ味が良すぎるから問題なんだよ」

 

 天体を成すもの。アルクェイド・ブリュンスタッドに並ぶ真祖の姫の後継者、その候補。彼女にとっての姉に当たる存在。

 そんなアルトルージュを殺し切れる力。生きているのならば神をも殺害する事が出来る死の力。だからこそ、その扱い方はあまりにも局所的であり、それ故に警戒すべきなのだ。

 人が持つにはあまりにも大きく、重たく、そして尖り過ぎている。死を視界に捉え続けるそれは、常に爆弾を抱えているのと何ら大差はない。

 にも関わらず平然としているのは―――彼が、零崎儀識が、零崎一賊であるが故に。

 殺しを生活の一部としている生粋の殺人鬼である―――零崎一賊だからこそ。

 

「それで、話は戻るのだけれど。貴方は零崎一賊をサイコパスではないと言ったわよね?」

「そうだ」

「貴方達は、殺しに何の理由を求めるの? 殺しにどんな理由を持っているの?」

 

 人は必ず理由を以て行動するという。

 感情という外す事の出来ない枷を背負う人間は、その行動には必ず何らかの理由が追随するのだと。

 

「どんな理由ね。よくされるよな、そういう質問。人も怪異も皆揃いと揃ってそんなに理由が大事か?」

「だって気になるじゃない? 殺人が生活の一部みたいな人間が、どんな理由で殺人を犯しているのか」

 

 頼まれたから殺す者。

 主君の為に殺す者。

 正義の為に殺す者。

 人々の為に殺す者。

 綺麗にする為に殺す者。

 運命に背く者を殺す者。

 

 殺し名には、それぞれ必ず動機がある。やっている事は同じ人殺しだけれども、しかしその動機は殺し名七名全てが異なっている。

 その中で、零崎一賊という暴力の世界でも一際異常であり異質であり異色である者共の殺人動機は――――――

 

「そうか。だが残念だったな。生憎と、答えは既にお前が出した」

「…? どういうこと?」

「さっき言っただろ。殺人が生活の一部みたいな人間だと―――まさしくそれだ。俺たちにとって、殺人なんてものは生活の一部でしかない。それ以上でも以下でもないんだよ。俺たちにとってそういう質問は、なんで呼吸してるんですか? なんて馬鹿げた質問と同じだ」

 

 殺人動機は、ない。

 理由なんてない。

 誰の頼みでなく、ただ殺す。理由はない。

 主君の為でなく、ただ殺す。理由はない。

 正義な為でなく、ただ殺す。理由はない。

 人々の為でなく、ただ殺す。理由はない。

 綺麗の為でなく、ただ殺す。理由はない。

 運命の為でなく、ただ殺す。理由はない。

 

 気が付けば殺していた。その程度の認識でしかないのだ。

 アルトルージュは、少し引いていた。もしくは、呆れていた。

 人間でありながら、人間とはあまりにも逸脱した生き方に。 

 

「死徒みたいね。考え無しに、そして無差別になんでも食べようとする」

「殺しに理由を見出さないというだけだよ。それに、菜食主義者(ベジタリアン)だって居る。俺だって、頻度は抑えてる。一年に一度やれば十分だ」

「それは貴方が一度に殺す数が多いからでしょう? どちらにせよ、貴方は多くを殺している。どれだけ優しく振る舞っても、それは変わらない。なら、それは無駄な努力じゃない?」

「かもな。だが無意味じゃない。そして無理でもない。やれる事をやっているだけだ」

「ベストを尽くせば結果は出せるって?」

「ベストを尽くさずとも結果は出る。問題はそれが良いか悪いか、結局はそのどちらかにしかならない」

「貴方の結果は?」

「可もなく不可もなく、だな」

「なにそれ」

 

 呆れた溜め息が、溢れた。




アルクだよー
ルージュよ

なんとなんと、私達が次回予告に抜擢されました!
抜擢されてしまったわ

上手く出来ないのに無理するわよね、作者
それは言わないお約束よ

次回、第二章「(略)」
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