UMA MUSUME He who rises again and again   作:ミエル

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天籟を帯びる

 

 

空は雲ひとつない澄んだ青空が広がるレース場。ウマ娘たちを祝福するように太陽は煌めき輝く。こんな日はきっと最高のレース日和になるだろう。

 

 

種目別競技大会当日

 

各々が選択した距離によって行われる一大レースイベント。距離は短距離、マイル、中距離、長距離。コースは芝とダートと、全てが用意されており、デビュー有無関わらずエントリーが可能なこの大会では学外からの観客も多く訪れる。選抜レース同様に担当を探すといった意味でも貴重な機会の場でもある。

 

そんなウマ娘の活躍する姿を一目見に集まり、活気に溢れた様子を見せる。時間が経つにつれ会場は瞬く間に埋め尽くされ、レース場にウマ娘が入場すると歓声が沸く。学園生徒の家族や一般参加の観客、そして記者などで賑わいを見せる。今回はある意味でお祭りと言っても過言ではなく、学園内には至る所に屋台のような催し物が多く出店されていた。

 

学園校内の一般立ち入りは禁止されているが、屋外は一日限りとはいえ大いに盛り上がっていた。飲食のスペースも配慮されたそれは過ごしやすい憩いの場としても提供されている。

 

「おいしーおいしー焼きそばだよー。なんと今なら星のように輝くスターラムネも付いてくる!」

 

子供連れの観客も多く安全に進められるように誘導するウマ娘も多く見受けられる。一大イベントという事もあり、この様子を撮影しようとテレビスタッフも来ており会場の様子を映していた。

 

「すいませんー、はちみー硬め濃いめ多めください」

 

「あいよ!ゴルシちゃん特製はちみー焼きそばだ。…食べてみな、飛ぶぞ」

 

 

集まったウマ娘たちも意気揚々に準備を始める。重賞レースを飾る現役選手と共に走る為。そして自身の走りを見せることでトレーナーにアピールする為。

 

アイネスフウジンはパドックへ入る。

 

他のウマ娘同様に準備運動を行い観客席へと視線を動かす。探しているのは彼女の家族であり手を振り応援している姿を彼女に見せる。続けて自身を指導してくれているトレーナーを探す。午前午後と行われる大会の為観客が多く、家族とは異なり見通しにくいと思われたがそれは直ぐに見つけることができた。

 

メジロマックイーンを傍らにパドックを見つめる一人の男性。これから出走するであろうウマ娘を観る為の立ち姿。そしてその周囲には少しだけ、違和感にも空間が空いていた。周りの空気感は見て取れる限り問題は無く、その眼差しはこれから走るウマ娘たちを見ている。ただ無意識に周りが彼から少しだけ距離を取っているだけなのだ。おそらくその周りに居るのが同じくトレーナー達なのもきっと気のせいなのだろう。

 

アイネスフウジンはその光景に自然と笑みをこぼし観客席に手を振る。それに応えるように声援が上がりメジロマックイーンは軽く手を振り返す。不炉夢トレーナーは動きこそ無かったがその表情は自然と微笑みかけているように思えた。

 

アイネスフウジンからは決して聞こえることは無いが、彼女の立ち姿から読み取れる筋肉の質やコンディションにトレーナー達は感嘆の声を漏らした。肉体は筋量・仕上がりともにデビュー済みのウマ娘だと勘違いする者。チェックが漏れていたのではと資料を見返す者。

 

そして3週間前の選抜レースで彼女の走りを実際に見たトレーナー達、その場にいた全員が同じことを思った。こんな短時間にここまで仕上げて来れるとは、と。まさかと思い、メジロマックイーンと共に並ぶ彼へ、距離は保ったまま一様に視線を動かした。

 

不炉夢 彼方。そしてメジロマックイーン。

改めてその姿を確認する。選抜レースよりも洗練された肉体。纏っている雰囲気で見て取れる、直ぐにでも走りたくて溜まらない気持ち。その身に宿す静かなる闘志。出走リストには名簿が無い、つまり彼女は今回の出走はない。だから推測ができる、彼女にとってのデビュー戦が間近に迫っていると。おそらくそのために控えているのだろうと。

 

一体どのように効率的なトレーニングを行えばこのような飛躍的な成長が可能なのか。意識しないようにと開いた空間が重く感じる。メジロマックイーンの成長を促したその手腕。そして記憶に新しい選抜レースでの違和感がこんなにも早く現れたことに。

 

 

そんな二人に近づく足音。それはこのレースを見ることを誰よりも望んでいる女性であった。

 

「貴方が不炉夢トレーナーさんですね。アイネスからお話は伺っています」

 

その声に不炉夢トレーナーは振り返る。そしてその場を包む空気が穏やかなものに変わる。

 

「アイネスのお母さま、ですね。ご挨拶いただきありがとうございます。ご連絡が多くなり申し訳ない。不炉夢 彼方と申します」

 

「私はメジロマックイーンと申します。アイネスさんとはいつも仲良くさせて頂いております」

 

今日のアイネスフウジンの走りを家族全員で見に、レースが始まる前に話から聞いていたトレーナーに挨拶に来たのだという。

 

「ご丁寧にありがとうございます。今日は皆で、あの子の勇姿を見に……、ぐす…!」

 

そういって彼女の母は娘の姿を視界に入れる。その姿に溢れた感情がこみ上げ涙ぐむ。

 

「す。すみません、いきなり。……あの子が学園で、大好きなレースの為に全力で頑張れているんだと思うと……!」

「アイネスは昔から、朝から晩までグラウンドを駆け回るほど走ることが大好きな子だったんです。クラブチームにも入っていて……でも」

 

アイネスフウジンが小学校高学年の頃、彼女の母親の体調が悪くなりそのフォローの為、トレーニングの参加も自然と減っていった。その結果周りのウマ娘たちと徐々に実力差が付いてしまったのだという。走ることが大好きな彼女のもう一つの大好きな家族。そんなアイネスフウジンの存在が助けになっていたことが、大好きな走ることを諦めさせてしまっている。そのことが彼女にはとても歯がゆい気持ちと感じてしまっていた。

 

「いつも自分を後回しにしてしまうこの子がいつか、大好きなレースに没頭できる日がくれば……そう思っていたんです」

 

「大丈夫です、お母さま。重々承知している。…アイネスは強い。私が約束しましょう。今日の主役は彼女を置いて他にない」

 

 

視線を移す。観客席はゆっくりと静かになる。その視線はゲートへ注がれ、そして今レースが始まった。

 

 

 

 

 

クス…トレーナーの居場所は分かりやすいの。…さてと、みんな見ててね。あたし頑張るの。

 

 

……

 

 

2400m。

アイネスフウジンが出走するレースの距離。彼女の脚はごく自然とゲートに踏み入る。息を吐き、目を開きまっすぐと前を見る。緊張はない、ただ楽しむこと。いつも通りの走りを見せる。

 

出走する他のウマ娘も姿勢を整える。これから始まるレース、その様子に観客席も静かさを広げる。そしてスタートが切られる。合図とともに一斉に駆ける。18人全員が好調なスタートを決め、その中で特に良い滑り出しを見せたのは彼女。

 

「種目別競技大会、芝2400mスタートしました!アイネスフウジン、素晴らしいスタートでハナを奪います!」

 

アイネスフウジンを先頭に後続も続く。観客席では声援が飛び交いレースの行方を見守る。大勢の観客と18人のフルゲートということもあり実況にも熱が入る。

 

「先頭のアイネスフウジンがレースを引っ張る展開!注目のメジロライアンは後方の一団に位置し、脚を溜めています!」

 

「お姉ちゃーん!頑張れー!」

 

スタートダッシュを制し第一コーナーへ差し掛かる。身体のバランスを保つ為速度を緩めカーブを曲がる後続のウマ娘たち。それに対してアイネスフウジンの速度は下がらない。

 

「これはっ!落ちない、アイネスフウジン速度を保ったまま第一コーナー、第二コーナーを越えていく!」

 

軽快な動きで直線へ入る。直線に入っても速度は変わらず、脚を溜めるため速度を維持したまま先頭を走る。コーナーで少し速度を落とした後続は直線に入り距離を詰めるため速度を上げる。

 

「あの動き、前に選抜レースでメジロマックイーンが見せた走りに似ている!」

 

若いトレーナーが声を上げる。ベテラントレーナーはそれがクラシック後半、シニア級で前線を走るウマ娘が行える技術であると理解していた。やはりそうだった。アイネスフウジン、彼女も同じように通常ではあり得ない速度で成長を遂げている。推測が確信に変わる。

 

位置取りを調整しつつ徐々にレース全体の流れが増していく。後続はいつ先頭が仕掛けるのか、逆に仕掛けるタイミングを窺う。脚を残したままコーナーへ差し掛かる。

 

 

残り1000m地点、第三コーナー。ここがこのレース最大の動きとなる。

 

 

「おいマジかよ……!」

 

誰かが声を漏らす。その声は歓声とともに消え去り、先頭を走るアイネスフウジンが加速した。

 

 

「はぁ、はぁ、ッ……?!」

 

後続に続く全員が動揺する。直線ではなく第三コーナーから続く第四コーナーにかけてスパートをかけたことに。そして思った、あの加速で曲がり切れるわけがない、だからまだ問題ないと。

しかしそれは誤りだ。

 

 

「トレーナーさん、今のは……」

 

「あぁ。通常一つのレースで用いる走り方は最終局面での仕掛け以外は殆ど変わらない。理由としては簡単だ。単純に体力の消耗が激しくリズムも一時的に崩れる」

 

彼女の走りは直線では歩幅を大きく、腕も同じく大きく振る。最も力が発揮しやすい走りを使い、それをコーナーに入る直前に切り替える。メジロマックイーンも同様に行っているそれは、速度を維持したままコーナーを越えることができる。

 

彼女はこの短期間のトレーニングの経験を元にその技術を上げていた。そして今回の最後の第四コーナー。そこで彼女は仕掛けた。逃げの得意とするところは前方に遮るものが無いこと。つまりそれは、位置取りを気にせず仕掛けるタイミングはいつでも可能であること。メジロマックイーンとは異なる速度を落とさない維持する姿勢ではなく加速する走りを。

 

コーナーで腕振りが大きくなればなるほど遠心力も比例して増加する。レースにおいて遠心力で体力を消耗しないことが一番のポイントと言える。コーナーラインの内側を攻め内傾(ないけい)させ過ぎると遠心力に逆らうことになり余計に消耗が激しくなる。ならどうするか、逆に身体を外に向け遠心力のエネルギーを外側に逃がす。歩幅を狭くし脚の回転を速く、ピッチを維持する必要がある。

 

「理想とするところは全ての箇所でその対応ができるようにすること。しかし現状ではそれを行うには経験と技術が足りない。そして何より身体的負荷が高い。だから今回のレース……最後のコーナーでのみ、それを絞った」

 

だとしてもそれを行うにはリスクが高い。それもトレセン学園に来てからの最長である2400mレース。現役を走るウマ娘ならともかくデビュー前のウマ娘なら尚更のこと。それを可能としているあれはマックイーンにはない彼女の強みだ。

観客は大いに盛り上がり、彼以外のトレーナー達は驚きを隠せず開けた口を閉じれずに彼女の走りを目撃した。撮影陣もこの瞬間を逃さないようにカメラを近づける。

 

「コーナーとしての走り方を変えたまま直線に入る。それでは最後は……」

 

レースに参加するウマ娘たちはまだ気づいていない。トレーナー達ですら驚いているのだから仕方がない。

 

「…そう。一陣の風となり全てが解放される」

 

 

彼女のラストスパートはこれからだと。

 

 

第四コーナーが終わるのと同時に加速を直線に繋げる接続方式。更に上げる、そこにはもう遠心力は存在しない、あとはまっすぐ前を目指すだけ。速度を上げた身体が風を切る。後続からの圧力をものともせず、そのトップスピードが逆に重圧を放つ。

 

「レースは縦長の展開で最終コーナーから向こう正面へ!先頭は依然変わらずアイネスフウジン!後続も仕掛けるが距離が短い!余裕の走りだ!うしろをグングン突き放してこれはセーフティーリード!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!アイネスッ……!」

 

踏み込む脚に力が入りゴールに近づくにつれその足音はさらに響き渡る。まるで会場全体を揺るがすような力の入った走りに息をのむ。

 

身体に触れる風が気持ちいい。思うように走れたことが、何よりも楽しい。

 

 

だぁああああああああーーっ!

 

 

「アイネスフウジン!大差で今ゴールイン!圧倒的な実力差を見せつけ、レースを制した!」

「一着は、アイネスフウジンーーッ!」

 

 

 

歓声が雨のように降り注ぎ会場全体が沸く。彼女の走りを祝福するように。

 

 

 

「は……ぜ、はぁっ!……ふぅ…。……うん、やっぱり……気持ちいいの、ふふ」

 

皆、あたし頑張ったよ。……トレーナー、ありがとうなの。

 

「お姉ちゃーん!」

 

走り終えたアイネスフウジンに幼いウマ娘たちが駆け寄る。

 

「みんな!……ふぅ、見ててくれた?お姉ちゃん、結構やるでしょ!」

 

「うんうん、すごいすごい!かっこよかった!前より何倍も強くなってた!」

「ねっ、ねっ!お姉ちゃんのレースもっと見たい!」

 

妹たちの喜びに満ちた表情に自然と笑顔になる。そして気持ちの良い走りができ心安らかな気持ちになる。

 

「アイネス。いいトレーナーさんに出会ったのね。すっかり強くなっちゃって……!」

 

その後ろから彼女の母親も現れる。瞳に涙を溜めてしかし表情は喜びに満ちていた。その光景に過去の記憶が蘇る。家族が駆け寄り泣いて笑いかけるこの光景。クラブチームに所属していた時、レースで一着を飾ったあの時。

 

「……ね、みんな。あたし、これからもまだ、走るからね!」

 

アイネスフウジンのレースに輝きを感じ、背中を押すように語りかける記憶を。

 

「……!ええ、もちろんよ。ありがとう、アイネス。」

 

 

 

……

 

 

 

今回のレース、自分を指導してくれたトレーナーの元に母を連れ急ぐ。

 

あ、トレーナーよかったの。同じ場所にいるの。相変わらずトレーナーの周りだけ人がいないの、何だか面白いの。

 

 

「素晴らしい走りだったよアイネス。とても良い風が吹いた」

 

 

「ありがとうなの!トレーナー、マックイーンちゃん、あたし勝ったの!それでね、お母さんがちょっとお礼?言いたいって」

 

レースの勝利を飾ったアイネスフウジンは不炉夢トレーナーにVサインを送る。そしてレースが始まり子供たちの場所に戻った彼女の母親を連れて戻って来た。

 

「あなたのご指導のたまものだと。ありがとうございます。どうかこれからも、よろしくお願いしますね、トレーナーさん」

 

「……!あ、お母さん。……トレーナーは…あたしの担当じゃ…」

 

あくまで種目別競技大会までの関係、無理を言ってトレーニング指導を受けていただけ、少し悲しげな表情を浮かべそう口にしようとした瞬間、彼が口を開く。

 

「アイネスは素晴らしい巫女です。私には似つかわしくない程に輝いている。出来ることならば、その成長を間近で見たいとも思っています」

 

その返答に呆気にとられたように彼を見つめる。

 

「……トレーナー……!それって……!本当に、いいの?!」

 

「途中で投げ出すつもりなど毛頭ない。アイネスにトレーニングを付けたあの日より考えていたことだ。ただ、既に別の担当に見当が付いているのであれば話は別……」

 

「い、いないの。()()担当なんていないのっ!!」

 

食い気味に彼の言葉を遮り両手を振って否定する。その様子に不炉夢トレーナーは少し目を見開き、彼女の母親はまぁ、と口に手を当て声を漏らす。

 

「そうか…それならば、私ももっと頑張らなくてはいけないな」

 

「……ッ!トレーナー!ありがとう!これからもよろしくお願いしますなの!」

 

「私からも、アイネスさん。これからもよろしくお願いしますね」

 

 

不炉夢トレーナーとメジロマックイーンからの言葉を受け幸福に包まれる。進むべき方向へ、この追い風は決して弱まることのない道を示す。

 

 

 

 

 

 

 

「泰然自若。なるほど、彼がうわさに聞く不炉夢トレーナーか。一度会って話をしたいものだ」

 

 

 

 

「よろしければご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「それ良いの!あたしも付いて行くの!」

 

それは先日の種目別競技大会が終わったあとのトレーナー室。資料をまとめ終わりお菓子作りの材料を確認した際に、材料が切れかかっているのに気付き買い出しが必要だなと声を漏らした時のこと。

 

「明日は休みだからしっかりと休んでくれ」

 

疲労の回復、そして休日の日まで付き合う必要はないと考え一度は断った。しかし彼女たちは諦めず何としてでも共に行くと聞かず渋々了承することとなった。

 

 

二人とも、休みの日くらいゆっくり過ごせばいいのに。それか友達と一緒にショッピングとかなら分かるけど、あくまで今回はただの買い出し。一緒に行っても特に楽しいものでもないと思うけどなー。

 

 

 

……

 

 

 

「あっ、トレーナー!こっちなのー」

 

「トレーナーさん、おはようございます。」

 

こちらに気付いた二人が呼びかけの声を上げる。

 

まずい、遅刻したみたいだ。まさか今日に限って時計が電池切れとは、おとなしく携帯のアラーム掛けとけばよかったか。

 

 

「待たせてしまったようだ、すまないな」

 

時間通りなので遅刻ではないが彼女たちより先に来て待つという意味では確かに遅刻してしまっていた。

 

「いいえ、時間通りですよ。それでは行きましょうか」

 

せっかくの休日なのだから、と言って、先にショッピングモールで洋服店、スポーツ用品などを見ることになった。

 

「似合っているよ二人とも。綺麗だ」

 

店頭に並ぶお洒落な洋服やアクセサリー。何を着ても似合う二人。なんだかこれって……ははは……何を考えてるんだ俺は。

 

 

昼食をはさみ店を後に、次にやってきたのはゲームセンター。メダルゲームやリズムゲーム、様々な娯楽が存在しており、その中でメジロマックイーンが気になる物を見つけた。

 

「まぁ、とても可愛らしいですね。トレーナーさん、私こちらに挑戦したいです」

 

それは実在のウマ娘をモチーフにしたぱかプチと呼ばれるぬいぐるみ。お金を投入しレバーを操作していく。持ち上げられたぬいぐるみは無慈悲にも下に落ちていく。その様子を二人で見守る。残念なことに回数を減らし残す1回となった。

 

「うーん、なかなかに難しいものですね」

 

「失敗はまこと、成功の母である。恥じる必要はないよマックイーン」

 

そう言って一度メジロマックイーンと変わりレバーを操作する。位置を細かく調整してアームを落とす。クレーンで上に運ばれたぱかプチは悲しいかな、出口付近で落とされてしまう。

 

くっ!可愛い顔してこのぱかプチ、足掻くな運命を受け入れろ。

 

 

「…ほらこの通り、私も失敗してしまったようだ」

 

「ふふ、トレーナーさんったら」

 

メジロマックイーンからすると何度でもこなす不炉夢トレーナー、彼の失敗に思わず笑みが零れる。

 

「二人も~はーなの!あたしに任せて!こういうの得意なの」

 

 

二の腕に手を添え自信満々なアイネスフウジン。お金を1枚だけ入れレバーを操作する。そして落ちることなくしっかりと掴まれたぬいぐるみは吸い込まれるように出口に落とされた。物の見事に獲得したぬいぐるみをメジロマックイーンは喜び受け取った。

 

 

 

 

……

 

 

 

寮にある自室に戻って来た俺は買い物袋から材料を取り出す。買った量が多く、異例ではあるが二人を部屋に招いていた。と言うより付いていく言って聞かなかったというのが正しいが。どうやらお菓子作りの様子を見てみたいのだと言う。

そう言ってくれるのは嬉しいけどせっかくの休み、二人はそれでいいのか。

 

「ここがトレーナーさんのお部屋なのですね」

 

物珍しそうに部屋の中を見る。特別散らかっているわけではないが、そうまじまじと見られると少し気恥ずかしさを覚える。

 

まぁ男の部屋なんて恐らく見慣れてないだろうし、見るものすべてが新鮮に感じるんだろうな。変なにおいとかしてないよな。芳香剤とか買っておくべきだったな。

 

そういえば二人の前で作ったことなかったっけ。そっかそっか、それならいつも以上に気合を入れて作りますか。まずはこの大きなオレンジをカットして、残りは冷凍にしておくか。

 

通常よりも大きなそれは包丁の刃がその身に触れた瞬間、溢れんばかりのエキスが(ほとばし)った。確率というのは不思議なもので低いほど当たりやすい場合もある。その一滴が一直線に眼に飛び込み触れる。

 

 

あぁあああああっ!目が、染みるっーー!

 

(俺にやられて、どうするよ)

 

「くっ」

 

ありもしないオレンジの幻聴を耳にする。あまりの刺激に片目を閉じ反射的に包丁を持っていた手を動かす。

 

ぐさっ

 

って痛ったー!血が!血が出たじゃあないですか!

 

 

「と、トレーナーさん?大丈夫ですか?!」

 

「血!血が出てるの!!」

 

心配させないように表情を作り彼女たちに向き合う。

 

 

 

 

 

 

「……問題ない。騒がしくしてすまない」

 

 

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