ジュジュノマサイト   作:甲乙兵長

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明らかに意識されてる要素が多すぎるパラノマサイト…
組み合わせるしかなくない?

ただ死滅回游編はルールとか人物の動きとかわけワカメな部分が多すぎるので
本編に沿っている率は結構低い。
大ざっぱでも許せる人だけどうぞ。



FILE1 千年後の君へ(前編)

 

 

「やあ」

「…………誰?」

 

 四方全面が黒に塗りつぶされた場所に、パッと、天から一筋のライトが差す。

 照らし出されたひとりの若い僧侶。袈裟をまとい草履を履き長髪を撫でつけ後ろに流している。だが、その顔立ちも、額にくっきり刻まれた印象深い縫い目痕も、何一つ記憶にかすめるものがない。親しげに手を挙げられても、ごく普通な台詞しか口をつくことはないのだった。

 

「酷いな。千年ぶりの感動の再会なのに」

「それはワンチャン忘れてても仕方ないような……千年?」

「長い眠りで寝惚けているのかな? まあ君の参入はイレギュラーでもあるし、多少不具合があってもおかしくないか。では問いイチ、君の名前は(What's your name)?」

「なぜネイティブ調。……えー………」

 

 自分の名前など、本来は思い出す必要すらないほど即答できる類いのはずだ。けれど、何やら頭が靄ついていてすんなり出てこない。それでも霧の向こうを見透かすように、なんとかか細く不明瞭な海馬から“ソレ”を手繰り寄せる。

 

彰吾(しょうご)―――興家(おきいえ)、彰吾」

「ふむ。年齢(とし)は?」

「24」

「職業は? 勤めて何年?」

「シャンプーメーカー、株式会社ヒハク石鹸のごく普通な平社員。二年目」

「家族構成は―――」

 

 まるで事情聴取の前振りのような質疑応答がポツポツと繰り返される。それか医者の問診が適切か。名前が引っ張り出せてからの情報は、考えるよりも先にスラスラ口が動いてくれた。

 しかし、なぜだろう。なんの問題もないはずなのに、自分のパーソナリティを羅列するほど頭の隅で違和感のコブが大きく育っていく気配があった。

 

「なら――私の名前は?」

「■■。………うん?」

 

 ノータイムで発したはずの言葉に首を傾げた。自分で口にした名前が聞こえない。雑音で濁っている。それでも――何か――聞き捨てならない――無視できない――誤り、が………。

 くつくつと、いかにも生臭な風体の坊主が笑う。屈託なく。少し物寂しげに。

 

「覚えててくれて感無量だね。悪いけど、その名はもう棄ててるモノなんだ。その名を持つ誰かはもういないし、誰も知らない。此の世のどこにも。過去を遡ってさえ、痕跡は見つからない。そういう“縛り”だから。

 私でさえどうにもできない。

 私だからどうにもできない。

 羂索(けんじゃく)――それが私を成す新しい呼び名(カタチ)さ。今も昔も、それが一番通りがいい」

 

「けん、じゃく……? ぁ……おれは、いや、わたしは――――」

 

 ノイズ混じりの“誰か”を呼んだときに自覚した、致命的な、根源的なズレ。

 最初の誤解。自分は()()()()()()()()ということ。正確には肉体(そと)は興家彰吾だが(なか)は別人だ。何を言ってるのかと普通なら一笑に伏す戯れ言に聞こえるだろう。だがありえるのだ。呪術という怪異が、理があれば。

 思い出した……自分の本当の名は。

 

 

 

「“睛曼(せいまん)”――呪術師だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪い。悔恨、恥辱、憎悪……負の怨嗟。総じて人の心から漏出するマイナスのエネルギー。それを恣意的に制御し、世の理を歪め干渉する術を一括りにまじない――呪術といい。行使する者を呪術師と呼んだ。

 今、興家彰吾改め睛曼の前にいるのは、彼の記憶する術師の中でももっとも優秀でもっとも勤勉でもっとも底知れず……もっとも近付きたくない術師。能力的にも距離的にも。術師の枠にありながら、術師の域を越えようと足掻いていた可能性の探求者であり求道者。知的好奇心の化物。人間を賛美するからこそ節操も遠慮もない、ある意味余計に質が悪い男だ。

 

「改めておはよう。睛曼」

「………どういうことだ?」

「記憶の混線だろうね。表層にある馴染み深い器の情報が一時的に成り代わったはずの魂の情報を上書きしてしまっていたんだろう。私との会話で自己修正できたようだけど。ま、ほんの束の間寝惚けていたくらいのものさ。言ったように君の立場はイレギュラーだから、多少のバグはあり得ても仕方ない」

「違う。これはどういう状況だ? ()()()()()()()()()?」

 

 辻褄が合わない。睛曼は()()()()()()。宿敵である呪詛師に破れ、道半ばに斃れた。意識が闇に溶け消える最期の景色を覚えている。なのになぜこうも意識が明瞭なのだ? 仮に死後の世界などがあったとしても、そこに羂索がいるのはおかしいだろう。逆説的に考えて、睛曼は生き延びたと結論するしかない。

 

「さっき“千年ぶり”とお前言ったな。答えろ羂索。私――おれに何をした。何をやらかしがった」

「まあまあ。全部を解き明かすには、少しこみいった長話になる。まずは座ったら?」

 

 革手のアンティーク調なクラブソファに腰かけつつ、羂索は対面の席を勧めた。

 何もないところから突然物が現れたり、妙な演出が入ったり……やはり今いるこの場は現実ではないのだろう。夢と現の狭間。なんらかの儀式めいた呪術的影響下に違いない。ホストが羂索な以上逆らっても無意味か。

 不承不承従うと、いつの間にか両者の間に箱型の置物――古びたテレビが置かれている。昭和後期に普及した、ダイヤルでチャンネルを変えるタイプのカラーテレビだ。第一印象で古臭いと感じた感性にうっすら推測を立てつつも、表面上の仏頂面を崩さず経緯を見守る。

 

「さて。それじゃあ始まりの疑問に答えようか。確かに君は死んだ。間違いなくね。だけど、魂の情報を私が肉体から抜き取り、手持ちの呪物に転写し保存した。この時点で人としての君は、つまり完全に滅んでいる」

「…………」

「じゃあその状態はなんなのかと言うと、保存されていた呪物を現代の人間に埋め込んだ受肉体だ。

 興家彰吾。生まれてこのかた呪術とはなんの関りもない、ただほんの少し呪いに対する免疫を持っていただけの一般人。さっきまで君が当人だと思い込んでいた、器の人物ってことだね」

「現代………」

「そう。あれから千年経った。君と私、他多くの呪術師が幅を利かせたかの時代は平安と呼ばれ、そして現在――西暦2018年の日本の有り様がこれだよ」

 

 ブン……独りでに電源が入るテレビ。促された画面に早送り気味に映る、人の雑踏。乗り物。文化。世情の数々。西洋化と自動機械化の台頭でオカルト扱いされた呪術が表舞台を退いた世界。それでも、人が他を呪う末路の呪霊、人が人を呪う結果の呪詛師は絶えることはなく、不足気味の術師がいまだ影で障りから人々を守っているようだ。

 

「と言ってもその辺りの現代知識は、現代人として生きてきた興家彰吾の脳にも刻まれているから、あえて言って聞かせることもないんだけどね」

「性根の腐った真似をしてくれる。過去の死人を再現するためだけに、今を生きる人間を押し潰したのか。呪術の世界となんの関係もなかった人間を」

「必要だったからね。悪いとは思う」

 

 あっけらかんと吐き捨てる。無邪気な邪気。目的のためならなんであれ利用し試み踏み越え使い潰す外道の精神性。この男の倫理観や良心はとっくの昔に異形へ変質したのだろう(あの魔境めいた都でそんなものがあったのかは別として)。……脳を移植する術式を使った時点で、人の皮を被った怪物になってしまったらしい。そうでもなければ、千年などという悠久に等しい流れの中を生きられなかったと考えれば、順当ではある。

 もしくは最初からおかしかった可能性も高いが、それこそ詮無い考察だ。

 

「千年ね……お前も器を転々として随分長生きしたみたいだな。面白きこともなき世を面白く、だったっけ? 違うか。なんにせよ、まだ夢見る子供のように人の可能性とやらを模索してるのか? 巻き添えを喰う側は御愁傷様だよ本当に。おれ含め」

「無論その通り。実は、あと一息のところまで来ていてね。君みたく魂を呪物化させた術師の契約者を募り、大小様々呪いをかき集めて、色んな勢力に根回しして……中でも一番の鬼門だった『六眼(りくがん)』の封印と無力化には相当の手間をかけた。これでも結構苦労してたんだよ? ちょっとは労われるくらいの褒美を望ませてくれ」

「! 六眼を……」

「そ。しかも『無下限呪術』との抱き合わせという超ウルトラレア(UR)。今の六眼保有者は現代最強を冠する術師と呼ばれている。実際その通りで、力じゃどう足掻いても勝てない。一応この身体のポテンシャルは同格なんだけど、あれはチートに近いから。徒党を組んでも同じ。

 前にも六眼には辛酸を嘗めさせられたから、次は生後間もないところを狙ったりもしたんだけど……補填するかのように突如厄介なタイミングで六眼の覚醒者に立ちはだかれ計画は頓挫。六眼と天元、そして星漿体を繋ぐ因果は私の想像よりもどうしようもなく堅固だった。よって、正面対決も早期排除も無意味と踏み、方針を封印にシフトしたんだよ。生きてさえいれば六眼持ちはこの世に二人と存在できないからね。結果策がハマって万々歳。残るは、天元を手中にすれば大詰めという段階さ。

 そこらのいきさつは、わざわざ口で説明するより見た方が早い」

 

 再びテレビに映し出される情報。羂索の記憶か。つらつら出てくるが、主に目立って現れるのはここ二十年ほどが多い。

 

 

 

 ――星漿体・天内理子。天元との同化。護衛に派遣された二人の学生。六眼持ちの無下限呪術師・五条悟と現在羂索の器にされている呪霊操術師・夏油傑。呪力ゼロの天与呪縛・伏黒甚爾の介入。敗北。同化の失敗。死の淵から蘇り最強になった五条。夏油の高専離反。

 

 ――去年の二大都市での百鬼夜行。特級被呪者・乙骨憂太。道真の系譜。特級過呪怨霊・折本里香の解呪。呪詛師・夏油の死。

 

 ――今年、両面宿灘の器・虎杖悠仁の登場。秘匿死刑。呪物である指の回収。呪霊・真人の動向。姉妹校交流会の襲撃。メカ丸こと与幸吉の裏切り。ハロウィン渋谷で起こった呪術テロ。五条獄門彊封印。高専VS呪霊呪詛師総力戦。五条解放ならず。死傷者、被害甚大。高専側の実質的敗北………。

 

 

 

「東京の都市機能は完全に停止。主従契約から解き放たれた呪霊が大量発生し今や人外の魔窟。そして『無為転変』の仕様変更(改造)を受け起動した人為的な術師千人によるデスゲーム、か………。

 言いたいことは色々あるがそれはそれとして羂索一言いいか?」

「うん?」

「宿灘の器を創るために自分が母体になるとか……発想も行動力も奇想天外過ぎてもはや適切な語彙を持たんわ」

「ありがとう。さすがに自分で産んだのは初めてだったからね。なかなか新鮮だった。やはり何事も試してみるもんだ。陣痛の痛みすら尊く感じた……得難い体験ができたよ」

誉めてねえよ魂の底から引いてんだ屑が(きっっっっっっっしょ)!!!!

「心の声が溢れてるよ」

 

 その面でうっとり腹を撫でるな感慨深そうな顔で遠くを見るなウキウキするな。

 睛曼も古き都の呪術師である。陰惨極まった生理的嫌悪感を誘う所業や仕儀などと直面するのは悲しいかなそこまで珍しくもなかった。だが、かつてこれほどまでおぞましさを感じたことはない。途中で登場した九相図の製造法もかなり滅入る部類だったが個人的にはそれを余裕で上回る。吐き気を催す邪悪とはこのことだろう。

 (きょう)しているのはわかっていた。が、認識がまだまだ浅かったのを痛感した。理知的な人面をかぶった物の怪だコレは。呪霊のほうが可愛く思えてくる。

 ……目の前の男の天元突破した気色の悪さは咳払いで吹き飛ばして忘れ、睛曼は気を取り直す。

 

「……このデスゲーム、死滅回游(しめつかいゆう)だったか? 覚醒・受肉した泳者(プレイヤー)を筆頭に各地の十の結界(コロニー)内で争わせ日本全体に呪力を蔓延。同化失敗によりシンギュラリティに到達してる半分以上呪霊の今の天元と日本国民全員との超重複同化の手慣らしとする、と。

 死後の呪物化にこの儀式……羂索、おれはこれらの(わざ)に大変強い既視感を覚えるんだが気のせいか?」

「そりゃ、当然あるだろうね。

 

 

 

 何せこれらの技術は、当時君が帝の勅命を受け考案した『蘇りの秘術』……霊夜祭(れいやさい)を用いた滓魂(さいこん)集めなどのシステムが原型だ」

 

 

 

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