キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失) 作:ゲヘナ箱推し
ミサイルが直撃する。
着弾したミサイルの爆風に巻き込まれる。
そんな経験をして生き延びる人がいるわけが無い。直撃も爆風も、普通の人間であれば普通に死ぬ。
ヘイローを保有し、異質なまでの頑丈さを保有するキヴォトスに住む人々であっても容易に死にかねないそんな経験をして、感情が揺れ動かないはずがない。
「いやはや、中々面白い経験だった。前回の落とし穴といい今回の大道の劫火といい、予想外とは面白いモノだなビナー」
忘れていたビナーの名を口にしながら、ミキが歩を進める。
ガラス化した砂の海面を踏み締め、前方に展開している光の輪の構成物質であるガスを口から漏らしながら。
目覚めてから最もインパクトがある経験。
高速で飛翔する金属の塊と激突し、爆炎に飲まれ、爆風に晒された。
僅かながらに感じた痛み。
爆風に晒された衝撃。
気道を焼き払われる感覚。
そのどれもが刺激となり、ミキの感情を揺れ動かし、記憶を掘り起こさせた。
肉体を構成する細胞の一つ一つに刻まれている、本人すらも忘れてしまっている無数の戦いの記憶。
それを、ビナーの放ったミサイルは極少数ではあるが思い出させてしまった。
「之は、その礼だ。受け取れ」
尾鰭が稲妻を纏う。チャージを終えた合図だ。
回避プログラムが作動したビナーの体躯が駆動を開始する。ミキの正面、幾重にも存在する光の輪と彼女の間から空間電位の異常を感知した。
蛇のような見た目に相応しくグネグネとした、人間には到底真似ることの出来ない動きを見せて『いくらでも避けてやる』という意志を示す。
それに対して、ミキが選ぶ手段はたった一つ。
熱線を放ち、ブチ抜く。
ー回hー
即座に回避行動へ移れるように動きを続けていたビナーの頭部側面を、熱線が掠めた。
予想外の出来事にエラーが発生し、困惑したように固まってしまう。
空間電位の変動を感知し、回避プログラムが射線等を割り出して回避行動を開始する。
ほぼ一瞬で行われる演算、それが完了するよりも先に熱線は放たれた。
「次。更に早いぞ」
楽しそうな口調でそう告げたミキの尾鰭は、蓄えた稲妻を鼻先へ送り続けながらも煌めきを失わない。
宣告通りに一発目よりも二発目、二発目よりも三発目と加速していく熱線に対してビナーは回避を強いられる。
即席で組み上げた回避プログラムも何とか対応しようと努力してはいるものの、到底追い付かない。
尾部を撃ち抜いた一撃よりも威力は軽度だが発射間隔がミサイル迎撃時よりも短くなり、射出速度もより高速化している。
それに威力が低下しているといっても真正面から受けられる代物ではなく、掠めるだけで装甲は溶解し内部機器へダメージも蓄積していく。
攻め方が変わった。威力重視から手数重視、素早さ重視に切り替えて来た。
こんなデータは存在しない。過去にビナー自身が交戦した際も、他の予言者がミキと交戦した際も、威力重視で攻め切られていた。
ー回避ー
全身の各所に損害を受け始め、データに無い戦闘スタイルへの切り替えにエラーが出続けているがビナーもまだ止まる気配が無い。
乱発される熱線という貴重なデータを元手にして熱線回避プログラムを再構築し、少しずつではあるがミキとの距離を詰めていく。
ミサイルを受けてもなお生きているのは想定外だが、既に想定外を何度も押し付けられてビナーの持つ機械仕掛けの思考回路も理解していた。
大怪我を負わせられると踏んでいたミサイルも耐えるのであれば、超至近距離でアツィルトの光を叩き込むしか勝算が無いことを。
ーかiー
見えている勝算を実現する為に、アツィルトの光を放つ余力を残しつつ距離を詰めねばならない。
その為にも再構築された回避プログラムだったが、それでも満足に回避し切れない。熱線の射出速度が増し、ビナーの頭部右側に並ぶ目を一直線に撃ち抜いた。
思考回路にエラーが生じる。動力系統に指示が送れなくなり、全身から火花を散らしつつビナーの動きが停止する。
砂の上に力無く倒れ込み、それでもなお未だに残されている左側の目でミキを睨み付けていた。
「ミサイルの直撃を許したのは、私の肉体の扱いが下手糞だったからだ。アビドス高等学校の保健室を破壊した時から、私は常に全力だったんだ。不必要な時ですら」
加減をせずに熱線を撃ち続けたことでエネルギー切れを引き起こした。
加減しても問題無く撃ち落とせたのに、不必要なまでに全力を出していた。
それで攻め手を緩めることを強いられた。あまりに阿呆らしい。
威力を落とし、その分速度と間隔を早めれば良い。
無意味に乱発するのではなく、命中性を安定させて的確に撃ち抜けば良い。
この思考に思い至り、熱線一発に使用するエネルギー量を減らした。
思い出した重力レンズを早速使用して命中性を安定させ、圧縮して放つようにして速度を速めた。
無駄撃ちが減り、無駄なエネルギーの浪費が減り、余りを次の熱線の分に回せるようになった。
ビナーとの戦いでミキは己を試し、見つめ直して改善していた。
「お陰で目が覚めたよ。私も、私の肉体も」
右腕を背後に回す。
ミサイルを受けるまで存在しなかった、ドレスを突き破って生え揃っていた
「アビドス高等学校には獣の耳を生やす少女が居た。トリニティ総合学園には翼を、ゲヘナ学園には角を生やす者も居た。ならば、私が背鰭を生やしたとしても可笑しくはあるまい?」
布切れで髪の毛をかなり長めのポニーテールに結わう事で、隠れていた背中がアビドス砂漠を照り付ける日光に晒される。
ゴツゴツした多数の隆起物、それは尾に生えている鰭よりも更に大きい5列の背鰭だった。
彼女の力をもってしても引き千切れなかったドレスを容易く突き破り、出現した事を喜ぶように青白い光を灯らせる。
「これで漸く、形だけだが私は私の形を取り戻した。不必要な力みも、無駄な浪費も無くなった」
これでビナーが機械ではなく生物であれば、自分の行いを後悔していた事だろう。
大道の劫火を使用したばかりに、ミキを弱らせる所か逆に強化してしまった。
無駄な全力によって消耗する事が無くなり、それにより活動時間が大幅に伸びた。
熱線に使用するエネルギー量は変わらずとも消費量が減り、適切な威力で大量に放てるようになってしまった。
そして、ミキがビナーを破壊しようとする理由が『襲って来たから迎え撃つ』以外に生まれてしまった。
「貴様を一目見た時からずっと考えて居たんだが、貴様は
目付きが変わる。呆れていたような人間性を感じさせる目付きから、獲物を殺すと決めた肉食獣のような獰猛な目付きに。
飛来するミサイルを迎撃しながら、ミキはずっと考えていた。
ビナーは相当巨大であり、あれだけのものを動かすとなればかなりの動力が必要になるハズ。
それを
その答えは、彼女に直撃したミサイルにあった。
爆発に呑まれた際、何かが
目に見えないながらも確かに存在を感じる何かがミサイルの中に含まれていて、それがミサイルの爆発によって中から解き放たれて流れ込んでくる感覚。
ソレが流れ込んで来た時、僅かにだが全身に力が漲る感覚があった。
「貴様を動かしているのは私の力だ。この背鰭を失った件も踏まえれば、貴様や他の予言者が私の背鰭を切り落としたか落ちていた物を回収・利用しているのだろう」
この考察には穴がある。
何も、ミサイルだけにミキの言う『力』とやらが使われていただけかもしれない。ビナーは電力や核動力等の別の動力を元として動いているのかもしれない。
ビナーが『はい、私の動力は貴女の力です』と述べた訳でも無く、動けなくした所を解剖して調べた訳でも無い。
だがそれでも、ミキは確信している。何せ彼女の心身が覚えている。
武力でも、財力でも、権力でも、エネルギーでも。
強大な何かしらを得た時、『欲望』を持つモノはほぼ間違いなくそれ等に溺れて暴走する。
身の丈に合わない力に対して盲目的になり、際限なく利用しようとし、周囲に甚大な被害をまき散らす。
ビナーも、その他の予言者も例外では無い。機械仕掛けでありながら、彼等には明確な『水波瀬ミキを殺したい』という欲望が存在しているのだから。
「返せ、と言っても返してくれる訳は無いだろう。故に、力づくで奪い返す」
尾鰭と背鰭が青白く明滅する。稲妻を纏わない、ビナーの側面を焼き払ったものと同様の熱線を放つ予兆だ。
回避行動を試みたが徒労に終わる。駆動系統の機能も頭部右側を撃ち抜かれた際に破損しており、口の開閉以外に行える動作が無い。
熱線を回避する術がない。身動ぎ一つ出来ない状態で、未だに死んでいない頭部左側の目が熱線をチャージするミキの姿を不必要なまでに鮮明に捉えている。
距離にして、約100m。そこまで詰める事は出来たが、そこから先へ進めない。
身体は熱線が掠めて行った際のダメージと、頭部右側を撃ち抜かれた際に体内にばら撒かれた電磁パルスの影響でろくに動かない。
回避は不可能。防御も不可能。
他の予言者に協力は求められない。予言者は各々、担当するエリアが定められておりそこを越えて出てくる事は基本無い。
仮に担当エリアを越えて協力に来てくれるとしても、助けは求められない。
予言者のエネルギー源であり、ミキから得たサンプルから作り出された『Gエナジー』の存在を見抜かれてしまった。
協力に来てくれた他の予言者を破壊、もしくは攻撃を耐える事でGエナジーを回収され、自己強化を図られてしまう恐れがあるからだ。
端的に言って、ビナーは詰みかけていた。
動く事も出来ず、助けも求められない。
ビナーに、今まさに放たれようとしている熱線に対抗する術は一つしか無い。
それも万全の体制である際と比較すれば悪足掻きにしかならない術だが、何もしないよりかは遥かにマシだった。
ー……アツィルト・ハダッシュ、充填開始ー
口が開かれ、口腔奥に装備されているレーザー発生器にGエナジーが供給される。
ミキが多用する技であり切り札でもある熱線。
それをビナーが独自に解析し、自分でも扱えるように手を加えて再現したのがアツィルトの光の派生系、アツィルト・ハダッシュだ。
岩をも溶かすアツィルトの光は強力な武器だが、熱量もチャージ速度もミキの熱線には遠く及ばないし彼女の肉体に損傷を与えることは出来ない。
そこに解決の糸口を与えたのがビナー達予言者の動力問題にも影響を与えた物質、Gエナジーである。
アツィルトの光を生み出すレーザー発生器にGエナジーを供給し、今までのものに混ぜ込むことで火力を大幅に向上させる事が可能となった。
テスト段階では超至近距離からの照射で、Gエナジーの発見に貢献し抽出まで行わせてくれたミキの背鰭を炭化させるだけの威力が証明されている。
100mも離れている現状では大幅な威力減衰が推定されるが、今のビナーに出来ることはこれしか無い。
殺し損ねた時には無かった新兵器で抵抗するしか、一矢報いる道も生き延びる道も無かった。
「私の真似事か」
ミキもGエナジーが混在しているアツィルトの光の新たな姿を感じ取っており、自分の真似をするなと言いたげに苛立ちを感じさせる表情をする。
自分を殺したい。殺害欲求とでも呼ぶべき欲望を持つと分かっていながら、少しばかり期待していた。
機械仕掛けの
人間のように次から次へと身の丈に合わない欲の湧き出る存在とは異なるコイツなら、愚直で自分のありのままで戦ってくれるのでは無いか、と。
しかし違った。ミキを殺す為に機械なりに努力するのでは無く、ミキの力を利用するという愚行に出た。
それを彼女は許さない。安楽で短絡的な選択肢を選んだ目の前の鉄屑を破壊しなければ、気が済まなかった。
期待を裏切られた。そんな経験は誰であれ一度や二度経験するものであり、その時の気持ちは理解出来よう。
だが、ミキは心身が人間という生物の持つ弱さであり醜さである点を知っている。最も怒りの琴線に触れるモノを知っている。
身の丈に合わぬ力や富に溺れ、縋り、傲る。
真に納得出来る選択だと語った身の安全と環境の安全。それ等を侵害される事と同等に、彼女は嫌悪する。
「貴様は私の力に縋って居ながら、恰もソレを己の力の様に使う。私を殺せると傲って居る。不愉快だ、断じて不愉快だ。機械の身で有りながら、貴様は私の嫌いな人類と何も変わらない」
背鰭と尾鰭の明滅が終わる。
綺麗でありながら恐ろしさを感じさせる青白い光を宿した背鰭と尾鰭は、アビドス砂漠を熱く照り付ける陽射しに負けずに煌めいていた。
ミキの口から青白い光が、ビナーの口から赤黒い光が漏れ出る。
「返して貰うぞビナー。私と貴様の違いを痛感しろ……物言わぬ瓦礫となって、力を取り戻した私の姿を静観しながらな!」
声量では咆哮に劣るものの、纏う威圧感は負けていない。
握り締めた拳を振り抜き、苛立ちを全身で表しながらミキは螺旋を描きながら青白く輝く熱線を放った。
ーアツィルト・ハダッシュ、照射ー
ビナーも負けじと、ミキの力を混ぜた必殺の赤黒い光線を放つ。
苛立っているのはミキだけでは無い。
自分が組み立てた対策を尽く踏み潰し、そんなものかとせせら笑うようなミキの姿をビナーも憎んでいた。
ミキの力を用いなければ勝ち目を見い出せない自分の弱さに苛立ち、その弱さを露呈させたミキの存在そのものに対して怒り、苛立っていた。
片や生物、片や機械
自分で考えて動く。これしか共通点が見い出せない両者だが、お互いに『目の前にいるアイツを殺したい』という明確な殺意を抱いているという共通点が生まれた。
和解には到底使えない、ドス黒くて重々しい共通点が。
ー拮抗を確認、Gエナジー供給量20%増加ー
双方の殺意を乗せた最後の一撃が空中で激突。拮抗する様子を見せ、ビナーは僅かにGエナジーの供給量を増やした。
少しだけ、熱線を押し返した。全力を出さずにこれなら、押し勝てる。
拠点へ生還する分のGエナジーを残して、ミキを倒す事が出来る。
ミキを倒した後も、デカグラマトンの協力者でいられる。
そんな希望を抱いたビナーは、嬉しさのあまり失念した。
全力を出す場面、出さない場面をミキは選べるようになってしまった事を。
熱線の出力が急激に跳ね上がり、アツィルト・ハダッシュを押し返す。
実にあっさりと、押し切られてしまった。
邂逅 ネタ明かし
生きて、抗え→ゴジラ-1.0のキャッチコピー
砕け散るまで戦え→ゴジラ×メカゴジラのキャッチコピー