キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失)   作:ゲヘナ箱推し

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一時帰還

 アツィルトの光を押し返した熱線はビナーを飲み込み、ヤツが居た地面に直撃して大爆発を引き起こした。

 キノコのような形の黒煙が登り、照り付けていた太陽の光を遮り大きな影を作る。

 

 金属製の肉体は欠片も残っていなかった。私と殺し合いを始める寸前、黒服が姿を掻き消した様に存在した痕跡すら残らなかった。

 砂を掘り返せば熱線の直撃を避けた部位が残っているやも知れないが、残骸が残って居たとしてもそれをどうこうするつもりも無い。

 

「不愉快な真似事をした罰だ。屑鉄め」

 

 消し去ってやった不愉快極まりないガラクタはもう居ないのに、無意味な独り言を零す。

 

 ビナーは利口な思考回路をしていた。

 認めたくは無いがガラクタと化した尾を囮に使ったりミサイルを放ちそれの対処を強いつつ距離を詰めたり、利口でなければ使えない戦術を使ってきた事がその所在だ。

 

 だから、私の力を混ぜ込んだアツィルトの光も最初から最大火力で放って来るとは考えにくかった。

 いくら私を恨んでいようと、私に怒っていようと、コイツはデカグラマトンの協力者。私との交戦で得た新たな情報を共有しなければならないし、その為にも生還する必要が有る。

 

 その生還には、生還するだけに足る動力を残さなければならない。私の力を動力にしているコイツが、ソレをスッカラカンになるまで全て放出するとは考えられなかった。

 

 それに生還する事を度外視して私の力を総動員した一撃であったとしても、私の熱線には勝てなかっただろう。

 既に存在しないのだから試す術は無く、机上の空論に成ってしまうが確信している。

 

 初撃、私は手を抜いた。本気の一割も出さず、ビナーの好きにさせた。

 気に入らなかった。私の力でデカい面をしているアイツが気に入らなくて、敢えて一瞬の期待を抱かせてそれを粉砕してやりたかった。

 

 作戦が有ったとか、試したい事が有ったとか、そんな明確な理由では無い。

 ただ単に、私が気に食わなかったからアイツの鼻っ柱をへし折りたかっただけだ。

 

 案の定、拮抗出来ると分かった途端にアイツは本気を出した。アツィルトの光の勢いが増した。

 私を殺せると思って調子付いた。身の丈に合わない希望を抱いた。

 

 そうなる様に意図的に仕掛けてやり、粉砕した。熱線の威力を一割程度から三割程度に増してやり、私の力を宿していたアツィルトの光を真っ向からビナーの肉体諸共粉砕してやった。

 半円状に焼け溶けた砂漠にビナーの姿は無い。私の力を用いて尚、原点の私には遠く及ばずに押し負けて消滅した。

 

 保有していた私の力を空気中に撒き散らして。

 

「之が、記憶を失う以前の私の力……その一端か。我ながら凄まじいな」

 

 目に見えない私の力は、確かに私に戻って来た。

 大道の劫火を受ける前と後で肉体に漲る力がまるで違う。蟻と人間、それくらいの差があった。

 

 そして大道の劫火を受けた後の私とビナーを粉砕した後の私との間には雲泥の差、と言っても差し支え無い程の力の差を感じる。

 肉体が軽く、それでいて確かな力を感じる。

 アビドス高等学校の窓枠と壁を破壊した時の様な不必要な全力を上手く制御出来ている、そんな確信が有った。

 

 記憶も一部だが掘り起こす事が出来た。トリニティ総合学園とゲヘナ学園の場所、生徒の大体の身体的特徴、最後に居たのが何方なのか。

 肉体に関しても背鰭の再生により完全な制御を手に入れた。適切な力加減は日常生活で大いに役立つだろうし、熱線の精密性と速度を加速させるのに役立つ光輪は力の無駄遣いの抑制に一役買うだろう。

 

 不愉快な思いをしたのは事実だが、得る物も有った。

 不愉快の原因だったビナーも消し飛ばしたのだし、一先ずは之で良しとしよう。

 

「しかし参ったな。背鰭と来たか……」

 

 力を取り戻せたのは良いが、それとは別に困った事に成った。

 

 私の力でも千切る事はおろか解れさせる事すら出来なかったドレスを易々と突き破り、生えて来た5列の背鰭。

 違和感は無い。背中にずしりと来る重みには不快感も無く、むしろ心地良くすら感じる。存在すべき重みが存在している事に対する安堵感……みたいなものだろうか。

 

 背中に鰭が生じたとなると日常生活に些か不便が生じる。座ったり寝転んだり、背中が何かしらに接する行為全般に制限が生じる事に成った。

 昔の私はどう生活して居たのか、それが分からない事には当分の間の不便は受け入れなければならない。

 

 それに気の所為か、尾が伸びている気がする。

 いきなり2倍に成ったりはしないものの、心做しか長さが伸びている。

 

 まぁ、背鰭が生えたり尾が伸びた事で生じる不便も今は楽しむとしよう。直に、これ等を不便と思う事も無くなるのだろうから。

 折角取り戻した昔の私の一部なのだから、特別感を感じて居られる今の内に酸いも甘いも味わい尽くすのも悪く無かろう。

 

「さて、力の制御も覚えた所だ。トリニティ総合学園を目指す……か…」

 

 不必要に力む必要が無くなった。適度な肉体の運用を可能とした。

 進展を喜び、いざトリニティ総合学園を目指そうと口にした途端、不意に思い出した。

 

 私はアビドス高等学校の皆に拾われ、保護された。それなのに保健室の壁を破壊し尽くし、それに大して私がした事は謝罪と恩返しをしただけ。

 恩返し後に廃校対策委員会の面々といざこざとまでは行かずとも、少しばかり衝突したとはいえ私はその後何もせずに立ち去った。

 

 それは、ダメでは無いか?

 謝るだけ謝って、校舎を襲って来たカタメット団を追い払って、他の暴力組織への抑止力に成って、それで終いか?

 

 ホシノ達にとって有益と成る行為を行ったのは事実。だがそれはそれ、これはこれ。

 保健室の壁を破壊してしまったのは事実であり、アレを直すのは私で有るべきだ。破壊してしまった物は直せるのなら直さねばならない。

 

「トリニティ総合学園に向かうのは、アビドス高等学校の保健室を直してからだな」

 

 私は記憶を失う前、トリニティ総合学園に居た。それだけは思い出せたが、そこで何をしたのかまでは思い出せない。

 より詳しく思い出すのであれば、やはり直接訪れるしか無いだろう。

 

 しかし、先ずすべきなのはアビドス高等学校の保健室修理だ。力の制御も可能となった今、不用意な破壊を引き起こす事は無い。資材搬入等の手助けくらいは出来るだろう。

 

 記憶を取り戻したい割りには随分と悠長な考えだが、そんな性急に取り戻したいという訳では無い。トリニティ総合学園に戻れば記憶が戻る、という漠然とした確信が有る。

 

 

 それに、何となくだが気分が悪い。あの学園の事を考えると苛付くというか、虫唾が走る様な良くない気分に成る。

 

 人の醜い部分、それをありありと見せ付けられる気がしてならないのだ。

 力を取り戻したてで無自覚に気が立っているのかもしれない。そんな今の私がトリニティ総合学園に迎えば、絶対に何かをしでかす気がする。

 アビドス高等学校の校舎を破壊してしまった手前、それは避けたい。記憶を取り戻す云々の話では無くなる。

 

 

 それに、助けて貰った恩を返したからと破壊した事実から目を背けるのが気に食わんという気持ちが強い。

 立ち去って数日経過している以上、今更感は否めないが。

 

「一度、戻るとするか」

 

 散々目の前で暴れまくった私が戻って来たらホシノ達はどの様な顔をするだろう。

 保健室の修復を手伝いに来た、と言ったらどれだけ驚くのだろう。

 ビナーが居た場所に背を向け、寄り道せずに校舎を目指そうと思ったがそこでまた足が止まる。

 

「私一人でそこまで戦力に成るか?」

 

 冷静、というのは良いものだ。思い立ったが吉日とばかりにアビドス高等学校へ蜻蛉帰りをしようものなら見落として居ただろう。

 

 私は破壊する事に関しては最大戦力に成れると自負している。万に一つも有り得ない話だが、ホシノ達に『校舎を更地にして欲しい』と頼まれれば一時間とかからずに完遂出来よう。

 だが今回は保健室の再建であり破壊とは真逆の類だ。私一人戻った所で、頭数が増えるだけで戦力とは呼べないだろう。

 

 暴力組織の横暴を私という存在が抑圧しているとはいえ、日々の警邏を疎かにも出来まい。廃校対策委員会の5名から数名欠けている状態で、私一人戻っても約立たずの木偶の坊が関の山。

 必要なのは人数だ。それも好き勝手にウロウロ動き回るのでは無く、警邏に出て居ない廃校対策委員会の面々の指示に忠実に動いてくれる者達。

 

 そんな好都合な存在、私には心当たりが……

 

「居るな、そういえば」

 

 対策委員会の面々の指示に忠実に従う、これとは少しズレるものの近しい動きをしてくれる者達に私は心当たりが有る。

 

 居場所にも大体の検討は付いているし、彼女達の匂いも記憶している。怪しい場所で匂いを探れば探し出せるだろう。

 私が接触する事で大なり小なり揉め事も起こるだろうが、まぁ大丈夫だろう。たぶん、きっと、おそらく。

 

 さて、そうと決まれば次は行動だ。彼女達を探し出して接触し、その後アビドス高等学校へ一時帰還。

 折角だし何か土産でも持って行こうか。ブラック・マーケットで仕入れた物は非合法的な代物も多いし、そこで仕入れた物は受け取りずらかろう。

 少し離れるし寄り道的な位置だが、大型の商業施設で保健室を破壊してしまったお詫びも兼ねて良さげな食べ物でも買って行こう。

 

 校舎を守ろうと日々奮闘して生き、借金の返済に当てる金銭を稼いでいるのだ。少しお高い食べ物を食べるくらいの贅沢を味わった所でバチは当たるまいて。

 幸い、暴力組織を叩き潰す傍らで金は得た。元は潰した暴力組織の汚れた金だし、この際にパァーッと使い切ってしまおう。

 

「何なら喜ぶか…いや、そも何が店に有るか……」

 

 誰かに物を送る経験は無く、全く以て未知の悩みに首を傾げながら歩みを進める。

 ガラス化した砂を踏み締め、攻防を繰り広げたアビドス砂漠を立ち去る。このガラス化した砂も土産に成らないかと考えたが、人体に良い代物では無いから辞める事とした。

 

 嫌いな人類とまるで変わらない愚行を犯した鉄屑を粉砕出来て、私の力を取り戻す事が出来て嬉しかったのだろう。

 大型商業施設に向かう私の足取りは、少し自分でも気持ち悪いと思うくらいに軽かった。

 

 浮かれていた、と言われればその通りだ。

 

 ビナーがいた場所で小さな機械仕掛けの蛇ともミミズとも取れる物体がモゾモゾと蠢いていたのにも、ソイツが砂の中に姿を消したのにも、気付けなかったのだから。




ビナー戦(1)のネタ明かし
・カッターのような衝撃波→体内放射
・光輪→ゴジラウルティマ
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