キヴォトスに迷い込んだ怪獣王(記憶喪失) 作:ゲヘナ箱推し
これから本編に入ります。
再襲撃
「とまぁ、こんな所だ。後は帰還する前にカタメット団に接触、脅して此処へ連れて来た」
”な、なんというか……壮絶というか……”
”私、アニメでも見せられてる?”
アビドス高等学校に保護されてから立ち去り、また戻ってくるまでの流れを聞かされた先生の抱いた感想は「アニメみたい」以外に浮かばなかった。
倒れていた頃を保護されたが記憶を失っている
感情が揺れ動くことで記憶と能力を取り戻す
口から
拠点に押し寄せた敵を迎撃する
強敵との死闘と覚醒
アニメのキャラクターみたいな活躍を一気に聞かされ、寝付けないからと親に頼んで英雄譚を読み聞かせてもらった幼い頃の感動を思い出した気がした。
ミキの低い声による語りは適度な眠気も呼び、途中途中で眠くなってはミキの気遣いで仮眠を挟んだ。
君の事を知りたいなどと口説き文句じみたことを言いながら情けないと先生は恥ずかしくなったが、ミキは咎めも不快がりもしなかった。
「ふぅ……長々語るのは些か疲れるな。喉が渇く」
保健室に置かれている冷蔵庫を開け、2リットルペットボトルを取り出すとキャップ部分を引き千切った。
断面がぐしゃぐしゃになり軽くなぞっただけでも痛そうなのに躊躇いもなく口を付け、中の水を豪快に飲み干していく。
(”動物的、というのも間違いじゃなかった”)
人間的でありながら動物的でもある、その感想はミキの話を聞いていて間違いではなかったと再認識した。
ミキの感性というか視点というか、考え方は常人のソレとはズレている。
言うならば人の考え方を解する獣。人間的な考え方を理解しつつも身の安全、周囲の安全を第一とする動物的な考え方が主体となっている。
そしてその2つを混在させ、それ等を上手く使い分けて両立させている。
信頼を得るのは同じくアビドス高等学校の関係者に発見・保護された者同士、同じ体験をした身でなければ困難だっただろう。
そこに発見・保護された立場のミキが発見・保護する側になったという偶然も重ならなければ尚更だ。
「そら、愚か者も飲め。水だ」
”うわっ、とと……”
いきなり投げ付けられた500mlペットボトルをなんとか受け取った先生に対し、ミキは「よく受け止めた。褒めてやる」と何故か上機嫌そうに笑って見せた。
続けて「取り損ねようモノなら、殴り付けて居た所だ」と冗談めかして言いつつクツクツと笑って見せたが、先生にはそれがとても冗談には思えなかった。
取り損ねたら殴る、その言葉に嘘偽りを感じられなかった。
口元は笑っていても、目が笑っていなかった。
「水は命の源だ。体の内外を清め、活力を与える。摂取は怠るな。腹を下すから、等という巫山戯た理由は論外も論外だ。死にたく無くば飲め。特に今の愚か者は脱水で死にかけた身、文句は言わせんし受け付けんぞ」
”水、好きなんだね”
「ああ。水は良い、海水だと尚良い。あの程良い塩味が体を清めると共に締めてくれる……不思議なものだな、海なんて此処に来てから訪れて居ないのに」
いとも容易く飲み干した2リットルペットボトルを握り潰し、保健室の窓の外に視線を向けた。
先生もつられて視線を窓に向ける。
アビドス高等学校にカタカタヘルメット団が襲撃してきた話をしている辺りでアヤネが離席したことで2人きりになった保健室が、午前と午後の切り替わりに差し掛かっているアビドス自治区と2人の間に挟まるガラスにうっすらと写り込む。
「きっと、記憶を喪失する前の私は海が好きだったのだろう。或いは海辺で産まれたか。何れにせよ、何時かは拝みたいモノだ。白波が立ち、海風が水面を揺らす、あの海を」
”ミキちゃんは、記憶を取り戻したいんだよね?”
千切って散りばめたように雲がポツポツと点在する青空を見つめるミキに投げ掛けられた質問に、彼女は無言で頷いた。
「無論だ。私が何者か分からないのは受け入れても尚気持ちが悪い。人なのか、否なのか、それすらも分からないのは流石に我慢ならない」
”聞いていたと思うけど”
”アヤネちゃんからなんだけど…”
そこまで言葉にして、先生は押し黙る。
知っている、と言いたげな視線を向けられてしまいそれ以上の発言ができなかった。
「まだ、此処を立ち去る訳にはいかない。このゴタゴタを片付け、真に私不要の安寧秩序を取り戻す迄は立ち去れんよ」
”私不要って?”
黙っていたが、気になる発言が飛び出してくれば突っ込まずにはいられない。
先生の疑問に「黙って居られないのか、この愚か者」と呆れながらミキは言い放った。
”だって、ここは縄張りなんでしょ?”
「私から見れば縄張りだがこの地で真に息づくのはアヤネ達で、この先どう転ぶかを決めるのも彼女達であって私では無い」
縄張りと呼称するものの、ミキが目指しているのは自分による統治ではなくその縄張り内に住まう者達による統治。
行く末は内部に住まう者達が決めるべきで自分では無い、ミキはさも当然のように言い切った。
「守るのは私がこの校舎とこの地に住まい生きるアヤネ達を気に入って居るからであって、滞在したいからでは無いし長居するつもりも無いが…有事の際には、何がなんでも守って見せる。例え死のうとも」
暴力組織も自分達の影響が及ぶ範囲を縄張りとしていると聞いたが、暴力組織にとっての『縄張り』とミキにとっての『縄張り』は呼び名こそ同じであっても形質はまるで異なる。
自分にとって都合の良いように統治していくのではなく、その地に住んで生きている人達が自分達にとって都合の良いように舵取りをし、それを受け入れる。
人道的な接し方をしつつも、何かあれば死すら厭わず守り抜く姿は縄張りに強く執着する獣のよう。
人間的であり且つ動物的。先生のミキに対する評価は覆ることなく、むしろより強固となっていた。
「新興の暴力組織を叩き潰し、アビドス高等学校及び自治区に安寧秩序が戻ったのなら私が留まる理由も無くなる。そうなれば、晴れて私も心置き無くトリニティ総合学園を目指せる」
”なら、私と来ない?”
助けてあげたい。その気持ちを押し殺せはしなかった。
年齢不明で生徒かどうかも怪しい彼女に同行を提案したのはアヤネの頼みや助けて貰った恩を返したいという理由もあり、上記の気持ちが作用したのも大きかった。
「愚か者と? タチの悪い冗談か?」
”私はキヴォトス各地を歩き回ることがあるから”
”トリニティにも寄るし、他校も記憶を取り戻すのに役立つとは思わない?”
ミキもこれには驚かされたらしく、目を丸くしていた。
冗談かと思っていたようだが、先生の眼差しと語気が孕む真剣さを見抜けない彼女では無い。
睨むような真剣な目付きになり、睨み付けているのかと思わせる鋭い眼光で先生を見つめ返した。
「私は躊躇いを知らん身だ、人を殺す事も五月蝿い小蠅を叩き潰す程度にしか思わない。許せるのか? 先生という立場で、人すら殺して記憶を取り戻さんと進む私を」
人を殺す。アヤネが立ち去ってから聞かされた『黒の不審火』と呼ばれる事件の犯人が自分であることを、ミキは先生に伝えていた。
黒の不審火。廃ビルを拠点としていた総勢数千人にも登る人員の暴力組織が一夜にして10数名の生存者を残して壊滅した事件。
生存者たちの供述は揃いも揃って支離滅裂であり、よほど恐ろしい事件に巻き込まれて錯乱しているとされた。
廃ビルは鉄筋コンクリート造だったが鉄筋もコンクリートも溶けて崩れてしまっており、証拠と呼べるものは何一つとして見つかっていない。
事件現場周辺の防犯カメラの類は人口流出に伴う整備の不行き届きが原因で大半が破損。
機能していたものも強烈な電磁波でも浴びたのか、外見はそのままに中身だけが焼けこげたように破損していた。
強いて証拠や痕跡として挙げるなら、廃ビルを目指すようにして一直線に『何か』が建築物等を高温で溶かしながら突き進んだような痕跡くらいだ。
既に人口が流出し切って無人と化していた区画であり、アヤネ達の警邏ルートからも少し外れていた。
支離滅裂な供述の中で唯一揃った言葉が『黒』。そこから黒の不審火と名付けられ、未解決事件として現在も捜査が進められている。
”人を殺すとか、そういうのはどうでも良いんだよ”
”許す許さないの話じゃない。助けたいから助けるんだ”
数千人規模での殺害を行ったと話されて、それをはいそうですかと受け入れた訳では無い。殺人という禁忌を犯した事を許した訳でも無い。
ただ、今それはミキに同行してもらう云々の話に割り込めるだけの力が無い。少なくとも、先生はそう思っている。
「……ハァ。アヤネ達といい愚か者といい、己に害を成す恐れが有る私に肩入れし過ぎだ。身の安全、周囲の安全を破壊し得るんだぞ。全く以て馬鹿馬鹿しい……罪人だぞ?」
”私は警察でも裁判官でも無いからね”
”証拠が無いのなら、疑いようもないよ”
正義感が強い人、罪人を裁く立場にある人であれば見過ごせない行為だが先生は違う。生徒を守り、教え、導く事を役割とする人だ。
それに話の要所要所で設けられた休憩時間中に軽く黒の不審火について調べ、証拠が残されておらず未解決事件として扱われているのは確認済みだ。
”ミキちゃんが悪い子ぶりたくて”
”未解決事件の犯人を名乗っている可能性もある”
「それは…まぁ、その可能性も証拠が無いと成れば有り得なくも無いが……私が、そんな事をする輩に見えるか? 悪餓鬼ぶる糞餓鬼に見えるか?」
”事情があって人を遠ざけたがっている、と仮定すれば”
”証拠も無いしねぇ……”
「妄想力が逞しいな、昨今の愚か者は……」
深い深い溜め息を吐いて、ミキは頭をガリガリと掻く。その音はかなり大きく、聞いている先生に『頭皮が裂けてしまうのでは』と不安がらせるほど。
今のやり取りで彼女も理解した。目の前にいる愚か者はどう足掻いてでも自分を同行させたがっている。
人を殺していることを伝えても、その牙を向けられる可能性があると力説しても、あれやこれやと屁理屈を並べ立てて忠告の威力を落として受け入れようとしてくる。
”それに、君に助けられた恩を返したい”
”校舎を守った時の君みたいに”
「うぐ……そこを持ち出すか」
ミキとのやり取りの中で、初めてミキが呻いた。
痛いところを突っつかれ、顔を顰めている。
彼女も拾われた恩を返す為に校舎を襲撃してきたカタカタヘルメット団を撃退した。
先生はミキに拾ってもらった恩を返す為にキヴォトス各地を回る際に同行してもらい、記憶を取り戻すのに役立てて貰いたい。
成すことは違っても動機は同じ。
何かをしてもらったから、その代わりになる何かをしてあげたい。
自分がやったことを先生もやろうとしている。それを理解しているミキは言葉に詰まり、黙り込んでしまう。
「ハァ……大人とは、狡いものだな。私が言葉に窮すると、断れんと知って今の物言いをしたな」
”大人だからね、必要ならずるくもなるよ”
”大切な生徒の頼みと願いだし”
恨みがましく睨み付けてくるミキに先生はあっけらかんと答えてみせる。
ミキには記憶を取り戻してもらいたい。本人が受け入れているとはいえ、記憶が無いというのは辛いものだろうから。
親の顔も知らず、友の顔も知らず、生まれた土地も知らず、育った学び舎も知らず……それはあまりにも可哀想だ。
記憶を取り戻してもらう為にも同行してもらいたいし、それをアヤネにも望まれている。
彼女もアビドス高等学校を取り巻くゴタゴタが片付けば立ち去るつもりでいるのだから、これを逃すという選択肢は有り得ない。
拾われたという立場が共通している事も、この場面においては極めて役立ってくれた。
「仕方無い。愚か者を一人にしたら、また無計画に彷徨して遭難しかねないからな」
”そんな真似は”
「アビドス自治区で遭難した奴が言って、説得力が生じるとお思いか?」
”ぐぅ…”
同行してくれるのは嬉しいが、遭難しかねないという発言は受け入れ難い。
発言を否定しようとした先生だったがミキの被せるような発言の内容に対しての反論が浮かばず、今度は先生が呻く番となった。
「まぁ、記憶を取り戻す迄は隣で支えてやるさ。移動の足が使い物にならなく成るのは私としても困る。拾われ者同士の好だ」
まぁまずは水を飲め。そう促したミキに従い先生は持っていたペットボトルの蓋を開ける。
中身は何の変哲もない普通の水。匂いも無く、透明な水。
口をつけ、飲む。冷たい水が口腔内を満たし、冷やしていく。
至って普通な、ただの美味しい水だ。
「どうだ」
”美味しい……”
どうだ、と聞かれても美味しい以外に何も感想が浮かばない。
思った通りのことをそのままに伝えた先生に、ミキは初めて満面の笑みを見せた。
「そう。美味い。それが私がこの地を気に入った理由の一つでも有る。上質な水が流れるこの地を、気に食わん下賤の輩共に好き勝手荒らされるのは看過出来ない」
笑っているのに、声には明確な怒りが含まれている。
笑っていない口元から、青白い炎が漏れ出ていた。
「私と共に歩むつもりなら、私の機嫌を損ねてくれるなよ。気に食わんと思ったのなら、私は誰であろうと牙を剥く。それさえ踏まえ、理解し、受け入れると言うのならば力を貸すし力を借る」
”努力するよ、よろしくね”
「もっと悩め愚か者」
今の発言は、決して嘘ではない。黒の不審火も証拠がないせいで物証に基づく発言が出来ないが、先生は確信していた。
彼女は人を殺す事を躊躇わない。必要性があると判断すれば殺す。
それを理解した上で受け入れているのだから、先生も大概どこか狂っているのだろう。
生徒の為なら脆弱な肉体を張ることすら厭わない。そんな存在が狂っていない訳ないのだが。
握手を求めて先生が伸ばした手を、ミキは呆れ顔で叩き退けた。
手と手が触れたほんの一瞬だけ軽く握り、確かな握手を交わした後に。
「では、そろそろ
一瞬ながらも確かに交わされた握手の余韻を味わう暇は、先生には無かった。
ミキの発言が気になり彼女を見て、彼女の真似をするように視線を保健室の入口へと向ける。
先生の双眸がしっかりと入口を捉えるのを待っていたかのようなタイミングで扉が開き、髪の毛の一部が凍結しているピンク髪の少女が疲れた顔をして飛び込んで来た。
アビドス自治区はとてもでは無いが髪の毛が凍結するような極寒の地では無い。砂漠が近い分、むしろどちらかと言えば熱い側だ。
季節外れの寒さを観測しているわけでもなく、飛び込んで来た少女の髪の毛が凍結している理由の説明が付かない。
困惑している先生の目の前で少女はミキの目の前に立ち、抱っこをねだる子供のように腕を大きく広げた。
「また庇って受けたな?」
「おじさんを温めてぇえぇ〜……」
「やれやれ……距離は」
「正門から100m離れたあたりだよ〜」
少女と何か情報を交換する最中、ミキの胸元や首筋の発赤箇所を赤々と煌めかせる。
煌めきが強まるに比例し、少女の髪の毛の凍結が解けていく。
体温を上昇させ、その熱で少女を解凍しつつ温めていた。
これも、先生が知る大勢の生徒一人一人が持つ特技とはまた毛色が違う。明らかに身体構造が異質だと感じさせられ、言葉が出なかった。
「いやぁ、参った参ったぁ…寒いのは苦手だよぉ」
「私対策の冷凍兵器をホシノ達に使うとは。奴等、余程頭に血が上って居ると見える」
解凍を終えたミキは少女に保健室のベッドに迎えと指を指し、足早に出ていってしまった。
例え異質であっても、彼女とは手を取り合うと決めた。そこを違えるつもりは無い。
慌てて追おうとしたが、点滴はまだ終わっていない。なら針を引き抜いてやろうかと手を掛けたが、ベッドの布団に潜り込んで眠そうに目を細める少女に止められた。
「そこのテレビ、点けてみてよ。周辺の監視カメラと連動してるからミキさんの姿を追えるよ〜」
枕元にはテレビのリモコンが置かれている。動けない間の暇つぶし用かと思っていたが、先生の予想は外れていた。
電源ボタンを押し込むと真っ暗な液晶が明るくなり、校舎内を歩いているミキの後ろ姿が映し出された。
彼女を追うように監視カメラが切り替わって行き、正門を出て行く。
「ミキさんが戦うのを見るの初めてでしょ? なら凄いびっくりすると思うよぉ…」
びっくり。それはどういう意味か。
そう問う必要はなかった。
手を取り合うと決めた相手が異常な戦闘能力を有していることを、直ぐに見せつけられることになるのだから。
ビナー戦二話目 ネタ明かし
・Gエナジー→ゲーム ゴジラ-GODZILLA-及びゴジラ-GODZILLA-VSに登場する物質